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光を求めて 6 ゴエモンとの再会

 ディジアさんとイリアさん、俺の三人にプロメテウスさんが加わった陣容で町へ向かうこととなった。

 はたしてどんな道程になるか、警戒は常に切らさないようにしようと心に決めた。

 決めたのだが――


「ディジアさん、右から来ています!」

「ええ! ≪闇発破ダークプロード≫!」

「イリアさん、後ろを頼みますよ!」

「わかってる! ≪フラン≫! 行って!」


 四方から押し寄せる怪物たち。

 さきほど倒した魚型のモンスターが、今度は大挙して現れたのだった。

 これでは警戒を切らすどころの話じゃない。


「気味が悪すぎる!」


 触手をうねうねと広げながら走ってくる魚。

 この世の光景とは思えない。


「……!」


 突如として炎の壁が立ち上がる。

 これはプロメテウスさんが放ったものだ。

 巨大な炎は、怪物の数十体を巻き込み焼き殺す。


「なんとか落ち着いたか」


 触手魚――は言いづらいので、仮で『青獣せいじゅう』と呼ぶことにして、こいつらはどこから来ているんだろうか。

 いきなり集まってきて、問答無用で襲われた。問答をする気もないが。


『見事な魔法だった』


 と、プロメテウスさんが手帳を見せてくる。

 彼とのやり取りも慣れてきた。


『三人とも、かなり修練を積んでいると見える』

「ありがとうございます。プロメテウスさんもすごいですよ。詠唱をしていないようですが、どうやって魔法を?」

『魔導具の力を借りている。かつて流行していた『魔法陣』の仕組みを応用したものだ』


 非常に興味深い話だ。

 魔法陣はずっと昔に廃れた技術。

 術式を特定の地点に書き込み、条件が合うと発動する。


 威力は高いが、罠としてしか使用用途がなかったり、一発限りで持続性がない点、習熟にはかなりの時間がかかる、などの理由で誰も使わなくなってしまった。

 だが、技術の一部は魔導具に受け継がれ、今日に至る。


 おそらく彼の鎧に秘密があるのだろう。

 最先端の技術と見た。さすがは帝室の諜報員だな。うんうん。


 気を取り直し、町へ向かう。

 これだけモンスターがいるんだ。町だってどうなっているかわからない。

 最悪の場合、すでに滅んでしまっている可能性もある。


 気持ち足を速めて、町を探す。

 あいかわらず霧が深いから視認性が悪い。

 手探りのような状態で進み、海が見えるところまで来た。

 島の外縁部ということだ。


 ここからは岸を辿って行けば、町に着ける。

 ほどなくして、考えは正解となった。


 小さな港が見えてくる。

 船が泊まっていて、少ないながらも人がいた。

 

「ここら辺は霧がマシなようですね」


 なくなってはいないが、霧が薄くなっている。


「町は無事みたいだ」


 ほっとして、港に入った。

 作業中の男性に声をかけてみる。

 フードを深くかぶり、伸ばし放題と思われる髪が外に溢れていた。

 どことなく陰鬱な雰囲気だったが、気にしてはいられない。


「すみません、ちょっとお話を」

「……」

「俺はシント・アーナズといいます。ここはストーンロウルの町で合ってますよね?」

「……」


 返事がない。どういうことだ。


「シント、ここのヒトたちはなにも反応しません」


 ディジアさんとイリアさんも別の人に声をかけるが、返事はなかった。

 まさかの無視とは、思いもしない。

 作業中に声をかけるな、ということだろうか。


 しかたないから他を当たる。

 港から町に入って、辺りに様子をうかがった。


 町は中心に向かって高くなっており、大きな屋敷が奥に見えた。

 石造りのどこか冷たさを感じる町並み。歩いている人の姿は少なく、霧のせいもあってとにかく暗い。


 町人にもとうぜん声をかけてみる。

 しかしこれもとうぜんのように無視。

 フードを深くかぶっているから、顔すら見えない。


「これじゃ埒が明かない」


 町役場にでも行ったほうがいいか。

 みんなに意見を求めたが異論はないようだ。

 そうして町の中心部へと向かったわけだが――


「よう、また会ったな」


 突然声をかけられる。

 びっくりした。つい先日に出会ったゴエモンさんが、別の道へと通じる石階段に座っている。


「ゴエモンさん?」

「やっと話ができそうな人間に会えたぜ」


 彼の後ろには二人の男。腰には剣を差しており、髭面だ。


「どうしてここに?」

「まあ、いろいろあってな。ところでそっちの旦那は? この前はいなかったろ」


 鋭い目つきでプロメテウスさんを見る。


「この人はプロメテウスさんといって、成り行きでいっしょに。ストーンロウルの町に用があるみたいです」

「へぇ……」


 プロメテウスさんを怪しんでいるようだ。

 それについてはどうでもいい。

 聞きたいのは別の事だ。


「どうやってこの町にたどり着いたんですか? 海上も霧が出ているって聞きましたし、そうとう危険でしょう」

「はっ! 甘く見てもらっちゃあ困るぜ。おれぁ泣く子も黙る船乗りゴエモン! 多少の危険なんざわけねえさ!」

「……二隻座礁しましたけどね」

「ってか、やつらの船のケツについただけ……」


 後ろの二人が呆れた様子だった。


「うるせえ! 余計なこと言ってんじゃあねえぜ!」


 キレるゴエモンさんだったが、気になる話だ。

 『やつら』というのは、聞くまでもない。ザルゲイゾ一家とやらだろう。


「つまり、ここへ来る予定ではなかった?」

「……まあな。あんたらが半島近くでなにかしてたしよ」

「尾行をしたのか」

「だいたいそんな感じだが、正確じゃあねえ。おれらが張ってた場所にあんたらが来たんだよ。んで、ザルゲイゾ一家のやつらも霧の中に入りやがった。乗り遅れるわけにゃあいかねーってんで、追いかけたのさ」


 焦ったんだろう。

 となると、外に出られないことも知らないんじゃないかな。

 でもどうなんだ? 上空からは出られなかったけど、海ならば話は別なのかも。


「船に乗せてほしいんですけど」

「そいつは構わんが、条件があるな」


 そうきたか。

 おおかた、ザルゲイゾ一家の壊滅を手伝えと言うつもりだろう。


「いっしょに財宝を探してくれねえか」


 ん? 

 予想が外れたぞ。

 まるで、ほんとうに財宝があるかのような口ぶりだ。

 さあ、どうする。

 敵対する理由はないんだけど、どうにも腑に落ちない点が――


「ゴエモン、あなたはほんとうのことを言ってないのでは?」

「そーそー、なにか隠してる」


 ここでディジアさんとイリアさんが前へ出る。

 

「な、なんだよ」


 あからさまにぎくりとするゴエモンさん。

 すごい。彼女たちもまた違和感を覚えていたのか。


「別になにもねえけどな」


 子ども姿の二人に詰問されるとは思っていなかったとみえる。

 ともあれ、ここでゴエモンさんと会えたのは幸運だと思う。


「依頼ということでいいですね?」

「おう。報酬は七三。こっちが七で、そっちが三だ。船に乗せるし、メシも出す。それでどうだ」


 タダメシか。いいだろう。それで手を打つ。

 話が決まったところで、話を続ける。

 

 ゴエモンさんもこの町に来たのは初めてだという。

 ザルゲイゾ一家の船を尾行してここまで来た。船員は彼を含めて八名。速度の出る小型船で来たため、数は少ない。


 一方でザルゲイゾ一家は大型の帆船でストーンロウルの町に来ているそうだ。

 おそらくは百人規模の乗組員がいるとのこと。


「あんだけの人数で来ているってこたぁ、よほどの確信を持ってる。なんとしてもあのクソ野郎を捕まえてやらあ」


 ゴエモンさん自身もかなりの確信を持ってると思うんだよな。

 なにか隠しているとしたら、そこらへんだろうか。


「プロメテウスさんの方ではなにか?」 

 

 彼は俺が質問するのを見越していたようで、すでに手帳を広げている。


『この町の人口は約千人ほどだ。最後に人口調査が行われたのは大戦前だから、たいしてあてにはならない。が、町のおおよその広さを考えると、実情は異なるようだな』


 うなずく。

 立ち並ぶ家の数は多く、密集していた。

 ときおり窓から視線を感じるし、人は多そうだ。


『そもそも、あの化け物が町の近くで徘徊しているはずなのに、なんの対策もされていない。妙な話だ』

「ええ、俺もそう思います」


 霧と怪物。死人のような町人。全てが妙なのだ。


「おい待て。化け物ってのはなんの話だ?」

「町の外はかなり危険だ。見た事のないモンスターがうろついています」

「はあ?」


 ゴエモンさんたちが顔を見合わせる。

 まだ遭遇はしていないみたい。

 では俺たちが見た死体は、ザルゲイゾ一家の人間か。

 なんとなく嫌な予感。話がこじれなきゃいいけど。


「とりあえずまともに話ができそうな人を探しましょうか。何人かに話かけましたが、まるで返事がない」

「こっちもそうさ。途方に暮れてたとこにあんたらが来たんだ。マジでほっとしたぜ」


 それはこっちも同じだ。

 これから町の中心部に向かい、役場を探そうと思う。お店や食堂でもいい。とにかく人が集まる場所だ。


「それには及びません……」


 背後からの声。

 しわがれた聞き取りづらい音だった。


 振り向いた先にいるのは、フードを深くかぶり、ローブに身を包んだ人物。

 わずかに見える目は、怪しげな光を灯している。


「町長さまが……あなたがたをご招待したいと」

「町長さん、ですか」

「館でお待ちになっております……ご案内いたしますゆえ、ついてきていただきたい……」


 背の曲がった小柄な男性が、言うだけ言ってきびすを返す。

 

「ああ? 誰が行くかよ。てめえで来いってんだ」

「……と、頭領」

「なんかやべえっす」

「なに?」


 気が付けば、俺たちは囲まれていた。

 フードで顔が隠された者たち――町人が溢れかえっている。

 後ろも横も道をふさがれてしまった。


 なるほど。選択の余地はなさそうだ。


 

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