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光を求めて 3 新たな出会いと例の光

 近くで見るゴエモンさんの印象は、やはり『強い』ということだった。

 最初に感じたものそのままに、露出する部分の筋肉は無駄がなく、背が高いこともあってか、なにをしでかすかわからない不気味さがある。


「あんたが捕まえたやつら、実はザルゲイゾ一家の下っ端だってこと、知ってたか?」

「いえ、初めて聞きました」


 事前に調べた話にはなかったことだ。


「まっ、巧妙に隠してたしな。うまいこと考えたもんだぜ。本隊が奪ったもんを下っ端に作らせた会社に売らせるってんだから」

「かなり悪質ですね」


 しまったな。調査不足だったか。


「ザルゲイゾ一家というのは、危険な組織なんですか?」

「ああ、危険かつ狡猾。ガラルの船は狙わず、諸国連合の船やホーライからの商人を襲う」


 思ったよりも頭の回るやつらのようだ。ガラルの船を襲えば、猛烈な報復に遭う。特にガラル公国御三家のエーギル侯爵家は世界最大の海軍を持つことで有名だ。勝ち目はないだろう。


「水の民アク―の出身がほとんどで、『ウンディーネ』のお偉方とも密かに繋がってるって話」


 ウンディーネ、というのは大陸の南方東沿岸部に国を持つ水の民の首都だ。

 美しい水上都市であり、有名な観光地でもある。

 十一年前の大戦では、戦場から遠かったこともあり、直接的な参加はなかった。

 早い段階で帝国への臣従を申し出ており、親帝国派としても知られる。


「公認の海賊ってところか」

「その通りだよ」

「なぜこんな話を?」

「あんたも無関係じゃねえ。なにせ、下っ端とはいえ隊を一つ潰したんだからな」


 言ってることはわかる。


「おれんところだけじゃなく、みんな迷惑してんだ。だからザルゲイゾ一家を潰したい。手を貸してくれねえか」


 それが本題か。

 依頼というなら別に構わないんだけど、請けるわけにはいかないな。

 ゴエモンさんはまだなにかを隠している。

 

「あなたは輸送業を生業としているのですよね? その割には物騒な話をしてくる。実は海賊なんじゃ?」

「……そいつもあてずっぽうか?」

「いえ、あなたは戦士だ。体つきや手を見ればそれがわかる」


 彼は楽しそうに両手を挙げた。降参のポーズだ。


「つくづくまいったね。けどよ、少し違う。おれぁ義賊だ。海賊じゃあねえ」

「義賊、ですか」

「おれらが狙うのは海賊や悪人だけ。輸送を請け負ってんのも本当さ。真っ当な会社だよ」


 そんな危険な輸送業者がいてたまるか。


「やつら、ここ最近になって妙な動きをしててな。おそらく財宝伝説を追ってるんだろう」

「財宝を? ほんとうにあるというのですか?」

「やつらはなにか掴んでやがる。ここいらの無人島やら入り江やらを熱心に調べてんのさ」


 財宝はあくまでも伝説だと聞いたが、なにかしらの証拠があるなら話は別だ。

 

「勢いに乗ってるやつらがさらに財宝なんて手に入れたらますます手がつけられなくなる。軍備を増強して東沿岸部を手中にしちまうだろう。そいつはまずい」


 割と差し迫った状況のようだ。

 正直、請けるかどうか迷う。

 ゴエモンさんの話におかしなところはないが、真実かどうかはまた別の話だ。

 

 そもそもザルゲイゾ一家とやらの話は、事前の調査では浮かんでこなかった。

 よほどの秘密主義か、町の人全員がグルか、あるいは――


「まっ、いますぐ決めてくれとは言わねえ。まだここいらにはいるんだろ?」

「ええ」

「ゆっくり考えてくれや」


 ゴエモンさんは手を振って、去っていった。

 

「海賊、義賊、財宝……発光体に、霧に包まれた町」


 どれも興味深い話ではあるが、全部追っていたのでは長く本部を留守にしてしまう。

 一度断りを入れて、スケジュールを確認し、その上で改めて依頼に来るようであれば請けようか。

 

「ディジアさん、イリアさん、戻りましょうか。そろそろ食事にしたい」


 砂遊びをしていた二人は砂だらけだった。

 うん、まずはお風呂だな、これは。



 ★★★★★★



 そして夜。

 俺たちは再び浜辺に来ていた。

 酒場のオーナーさんから話を聞き、発光体がよく現れると噂の場所に立っている。


 今回は椅子を持ってきているから、でこぼこした流木に座る必要はない。

 それと、食べ物も持って来た。

 ちょっとした夜のピクニックって感じだ。


 俺たち以外に人はいない。

 見物人がいると思ったが、そうではないようだ。


「とても静かです」

「うーん、なんか変な感じ」


 変な感じ?

 言われてみれば風がぬるいな。

 ていうか来てからまだ十分とたってない。


 ディジアさんとイリアさんが海上を見つめている。

 つられて俺も凝視した。

 いまのところ変化はない。


「いや、なにか――来る!?」


 深い闇のごとき海中に光が灯る。

 それは徐々に海面へと近づいた。

 信じられない。謎の発光体は、ほんとうにいた。


 水しぶきを上げることもなく海上へと姿を現した発光体は、月明かりもあってよく見える。

 びかびか光っているし、大きさはよくわからない。


「マジか」

「光っていますね」

「あれってなんなんだろうね」


 いやほんとあれってなんなの?

 目が離せない。どういうことだ。


 やがて発光体はこちらへ進んできた。

 遠目に周囲を旋回し、俺たちの様子をうかがっているようにも見える。


 こっちとしては、見られたらラッキーくらいの構えで来たのに、いきなり大当たりとは考えもしない。

 やたらと神々しい球体は速度を変え、ゆっくりと離れていく。


「あれ、止まったよ?」


 砂浜の上でピタリと止まる。


「呼んでいるのでしょうか」


 ディジアさんとイリアさんが追いかけていく。


「二人とも、待った」


 怪しい挙動に変な汗が止まらない。追いかけていくのは危険だ。


「危険は感じませんよ?」

「行ってみようよ」


 いや、危ない。それはだめだ。

 

「うおっ!」


 しかしここで発光体がまた動き出した。

 俺の顔面めがけて飛んでくる。

 首を曲げてぎりぎりかわした。

 いきなりなんだ。怒ったのか?


「これはいったい」


 生き物なのだろうか。

 魔力は感じるけど、生物には思えない。

 どちらかといえば、俺が使う≪魔弾球マダンキュウ≫に似ている気がする。


 発光体はまたもや止まり、誘っているようにも思う。

 敵ではないようだが、ついていっていいのかどうか。

 足を進めてみると、発光体もまた進む。

 やっぱり、ついてこいと言っているみたいだ。


「行ってみますか」

「ええ」

「でもどこに行く気なの?」

「どうやら空を行くようですね」


 発光体が宙に浮く。

 俺たちもまた飛翔の魔法を使用し、夜の空へと上がった。


「あ、はやーい」

「シント、置いていかれますよ」

「しかたないな」


 スピードを上げ、ついていく。

 発光体はどんどん速くなっていって、あっという間に町の南にある半島へたどり着いてしまった。


「どこまで行く気だ?」

「下がっていくー」


 光の球体は、降下を始めそのまま暗い海の中へ吸い込まれていく。

 

「さすがに海中までは行けない」

「魔法でどうにかなりませんか?」


 ディジアさんの問いには、すぐに答えられなかった。

 海の中を行ける魔法は、いまのところは思いつかない。


「うーん……」


 ここまで来て追いかけないというのも、気持ちがモヤるな。

 謎の光球は俺たちを導くようにここへ来て、潜った。

 なにか重要な意味があるんじゃないかとも思う。


「今日は宿に戻りましょう。夜ですし、しっかりと準備してから行ったほうがいい」


 夜の海中だなんて想像だにしない場所だ。

 入って進める方法を話し合い、いろいろと用意してから行くべきだろう。



 ★★★★★★



 謎の発光体と遭遇した夜が明け、俺たちは旅館で朝食をとりながら海に入る方策を練っているところだ。


「水中で呼吸する魔法は、俺は知りません。たぶん、ないんじゃないかと思います」

「息をしなくてはならないのですね」

「なんか、変」


 ディジアさんとイリアさんにはそこから説明しなければならない。

 それはまあ別にいいとして、南方とはいえ冬の海だし、濡れたくはない。

 

「シールドで包むのはどうでしょうか」

「すっぽりってこと?」


 ふむ。≪全方位障壁オールシールド≫を使えば、海中には入れるだろう。


「良い案ですが、息が続きませんね」

「空気がないとどうなるの?」

「最悪の場合は死ぬかも」


 それと、シールドで範囲を包み込んで入るのはアリなんだけど、どうやって前に進むかだ。

 おそらく、中に入っても落ちるだけ。


 空気の確保と推進力。この二つをクリアする必要があるわけだ。

 海はどこまで深いかわからないから、風魔法を使った空気の筒は無理がある。

 

「俺がシールドを張って……あーして、こーして」

「シント?」

「なにか思いついた?」


 一人じゃないから、いろいろとできそうな気がするんだ。

 ちょっと用意するものがあるけれど、なんとかなるかも。


「では海中探索と行きましょう」


 ちょっとした休暇のつもりだったけど、楽しくなってきた。

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