ファミリアバース 50 最強のブロンズ級・Ⅳ 悪の根城
明かりによって照らされる要塞と化した工場。
そこにはたくさんの武装した男たちがいて、ピリピリとした空気を漂わせている。
門を守る男たちの数は十人以上。少し奥にも同じだけの戦士がいるし、警戒はあまりにも厳重だ。
ここからはどれだけ時間を稼げるかにかかっている。
中に捕らえられているという街の人は誰かも知らない。
しかし、だからといって人質にとられては、身動きができなくなる。
だから先手を打つ。
外に引きずり出してやろう。
「すみません」
門番に声をかけてみた。
「……なんだ、ガキ」
「死にてえのか」
この人たち、かなり緊張しているな。手紙の効果はばつぐんだったようだ。
「ワルダさんって方、います?」
「はあ? なに、おまえ」
彼らは武器を抜いた。
「こっちは丸腰だから、警戒しないでいいですよ」
「ざけんな、ボスに用だと?」
「ええ、交渉に来ました」
「なんだって?」
「昨夜、あなた方のアジトを潰したのは俺です。捕えた幹部の二人、話次第では返さないでもない」
門番が視線を交差させる。どう判断していいか、迷っていた。
「くそ! ボスに伝えろ! 冒険者のクソが交渉に来たってな!」
「てめえ……妙な動きすんじゃねえぞ」
しないさ。今はな。
数分たって、一人が戻ってくる。
ワルダとやらは俺と会う気になったようだった。
庭に通されて、何十人もの男たちに囲まれる。
すると、工場からかなりの数を引き連れた男がやってきた。
一人だけ金や銀のアクセサリと宝石をジャラジャラさせた男。間違いなく賞金首のワルダだ。
集まった悪党の数は百人近く。ほぼ全てといっていい。おびき出しは成功だろうと思う。
「……」
彼は俺のことを観察する。
「フレイムさんよ、こいつが動いたら斬れ」
出た。
超高額賞金首『フレイム』。顔に入れ墨のあるレプリカ持ちだ。
「命令すんなよ。斬るけど」
腰にぶら下げているのは炎を象った剣。形状から見て【神格】神剣フランベルジュのレプリカと思える。
「で、小僧。我と交渉したいのか?」
「そう。交渉を希望する」
自分を、我、と呼ぶ男はうさんくさそうに俺を見る。
猜疑心の強い目だ。
「条件によっては、あなたの部下、ユーテラとダンガズを返そう」
「……条件は?」
「新市街から出て行き、二度と戻らないでほしい」
言うと、ワルダだけでなくこの場にいる全員が笑い始める。
「バカかおまえは。それにだ、ユーテラとダンガズはどこにいる」
「ここに」
魔法≪次元ノ断裂≫を発動。
異次元の割れ目から、ユーテラとダンガズを出した。彼らは具合が悪そうにうめく。
「……今のはなんだ?」
「答える必要ある?」
ワルダににらまれるより早く、隣のフレイムが炎の剣を抜いた。
「魔法士か、ガキ」
返事はしない。
ワルダの言葉を待つ。
「ウチに喧嘩ふっかけておいて、しかも出て行けだと?」
「もともとあなたたちの家じゃないし、妥当な条件では?」
「は! 言うじゃねえか。おまえ、冒険者と言ったな? 有名で危ねえ奴はチェック済みだが……知らねえ顔だ。等級は?」
「ブロンズ級トリプル」
ワルダは呆れたような仕草で天を仰いだ。
「この我がクソみてえに舐められてるってことか。ブロンズ級だと? よっぽど死にてえらしい」
「返答は?」
「出て行くわけねえだろうが! けどよ、おまえのその度胸に免じて、殺さねえでやる。だが、腕と足は折らせてもらうぜ」
交渉は決裂かな。
もう少し食い下がろう。
「大事な部下でしょう。二人がどうなってもいいと?」
「大事? ははは! ブロンズ級の雑魚に捕まるような間抜けはいらねえんだよ。ここで返されても殺すだけのこと」
ひどい人だな。
部下のことなんて、なんとも思っていないということか。
それでどうやって一家をまとめているんだ。
聞いてみたいところだけど、やめた。
「これが最後だ。新市街から出て行け」
「調子に乗んなよ、小僧。のこのこ来た自分を恨み、後悔し、死ね」
骨を折るって話じゃなかったか?
「交渉は決裂?」
「こっちは初めから交渉する気がねえんだよ」
と、ワルダが手を挙げた。
男たちが一斉に武器を掲げる。
レプリカ持ちの男、フレイムだけは俺を注意深く見つめた。
そろそろあっちが終わるといいんだけど。
「てめえら! この小僧に世の中の厳しさってもんをわからせてやれ!」
男たちが地面を蹴ろうとした、その時――
爆音。
工場の屋根が吹き飛んで、凄まじい風が吹き荒れる。
大きな炎が飛び火して、男たちの何人かに引火した。
「なっ……!?」
「ボ、ボス!? これは!」
派手にやったな。
ラナが爆弾を使うって言ってたけど、すごい威力だ。
待てよ。ここに来る前、俺の家で爆弾を作っていたが……もし暴発したら。
うん、もう作らせないようにしよう。危なすぎる。
「て……てめえ! 囮だったってのか!?」
いまさら気がついても遅い。
慌てふためく男たちと、ワルダ。しかし――
「ジャアアアアア!」
奇妙な声を上げて、超高額賞金首フレイムが斬りかかってくる。
炎を纏う剣が空を裂いて、俺に迫ってきた。
「≪硬障壁・五連≫」
五枚重ねの障壁を展開し、遮断。
さすがに【神格】のレプリカだけあって、なかなかの威力。
「フ、フレイムさん! 頼む! 殺せ!」
「うるせえ! おれの楽しみに入ってくんな! 死にたくなかったらさっさととんずらしてろ、クソオヤジが!」
「ひいいいいいいい!」
ワルダは炎の剣で頬を斬られ、逃げる。
追いかけたいのだが、そうさせてはくれないだろう。
だが、今の俺には安心して任せられる仲間がいる。
工場の壁を破壊して出てきたのは、アリステラとカサンドラ。
混乱しまくる男たちを次々と打ち倒した。
彼女たちの登場が、逃げるワルダの行く手を遮る。
「なんだと! 増援!? て、てめえら、ぶっ殺せ!」
「ボス! そんなこと言ってる場合じゃ!」
「火の回りがはええ! 死んじまいますよ!」
多くの者が我先にと逃げる。ワルダを守ろうとする人間は驚くほどに少ない。
「槍の錆びになりな! 『撃槍・回天』!!」
カサンドラの槍が真横に一回転。周囲にいた男たちは肉を打たれ、骨を砕かれ、派手に飛んで行く。
「≪ウインドカッター≫≪アクアランス≫」
魔法を二連発したのはアリステラだ。風の刃と水の槍が、次々とならず者を戦闘不能にする。
そしてさらに工場が爆発。
窓からラナが出てきて、避難するのが見えた。
もう工場は使用不能だ。
逃げ散る男たちは無視して、ワルダをどうにかしよう。
「よそ見してんじゃあねえぜ! ガキ!」
フレイムが襲いかかってくる。
障壁を展開。≪軟障壁≫と≪魔障壁≫の重ねがけにより、受け止める。
「なん――!?」
「ちょっと待ってくれる?」
ワルダは逃がさない。
片手でフレイムの剣を防ぎつつ、もう一方の手で魔法の構えだ。
「くそ! なにがどうなってやがる!」
ワルダ一家のボスは置かれた状況を罵りながら、走っている。
そこを狙い撃とう。
「≪魔弾≫」
「ぬぐわああああああああああ!」
狙い澄ました魔力弾がワルダの背中にぶち当たり、彼は前のめりに回転しながらブッ飛んで、木に顔面を強打。
これでしばらくは動けないはず。
「あ、もういいよ。かかってきてくれ」
「て、てめえガキ!」
ん? 怒ってるな。
障壁を解除。
離れるフレイムは、複雑な顔で俺をにらむ。
「もうこれで終わり。あなたで最後だ」
工場から派手に吹き上がる炎が、夜の闇を照らしている。
「それ、【神格】神剣フランベルジュのレプリカ?」
「ブッ……殺す!」
フレイムが剣を振り上げた。
最終ラウンドの始まりだ。
読んでいただき、ありがとうございます!
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まだまだ先がありますので、引き続きおねがいします。




