セブンスターズマジックバトル『フィナーレ』6 帰還
一夜明け――
メンバーたちには今日一日を丸まる休みにし、観光をしてもらうことにした。
俺はというと、用事があるので別行動だ。
ディジアさんとイリアさんは本と剣に姿を変えて、俺にくっついている。
「そろそろ着きます」
(ずいぶんと長閑なところですね)
(街とかないよ?)
公都から飛翔の魔法を用いてやって来た。
ここはドゥンケル子爵領。
自然が溢れる、言ってみれば田舎だ。
実は、フォールンを出る前に手紙を送っていた。
以前に起きたバロンズ事件にて出会った父さんの元腹心であるドゥンケル元男爵へあいさつに行こうと考えたわけ。
平原に集落がいつくかあって、一番大きな村の奥に邸宅がある。
たぶん、あそこだ。
庭に降り立つと、花壇を手入れ中のおじさんがびっくりして跳び上がる。
ずいぶんと驚かせてしまった。
「突然すみません。シント・アーナズと言います。先代はおりますでしょうか」
「へ、へえ……お話はうかがっております」
おじさんの物珍しいそうな視線を受けつつ、案内に従って玄関へ。
中に通されると、すぐにドゥンケル元男爵がやってきた。
「公子さま! お会いしたかった!」
義足なのに急いでやってくる。
「公子ではありませんって」
「いやいや……わざわざお越しいただき、感涙ですぞ」
元気そうだ。前に会った時よりも若く見える。
「ささ、こちらへ」
奥へ通されて、夫人と挨拶をする。夫人も泣いていた。
うーん、居づらい。
立派なテーブルを挟み、改めてあいさつを交わす。
「お元気そうでなによりです」
「あなたさまのおかげでございます。本来なら息子夫婦とも会っていただきたかったのですが」
聞くと、現当主ドゥンケル子爵は公都モナークでの事件により、人手不足のせいで呼ばれたらしい。
ドゥンケル家は前大公だった父さんと関りが深かったせいで、本家とのつながりが強いとのことだった。
「なんでも、六家が動けないとのことで、申し訳ございません」
「しかたありませんよ。詳細は?」
「さほどは。ですが」
ドゥンケルさんが微笑む。
「あなたさまが関わっておるのは、すぐにわかりました。きっと、誰かを助けたのだろうと。私の時と同じように」
とても優しい目を向けられる。
それだけで、ここへ来てよかったと思うのだった。
それからお互いの近況を語り、また会う約束をして領地を去る。
ドゥンケルさんには穏やかな生活を送ってほしいと思う。
(シント、あのヒトは嬉しそうでした)
(ラグナにもいいヒトがいるんだね)
二人の言葉には返すことができない。
ラグナってほんとにもう、めんどうな人たちばかりだから、しかたない。
次に向かうのは公都モナークから少し離れた場所だ。
本家の敷地に割と近いそこは、墓所である。
ラグナ家の故人たちが眠るお墓にやってきた。
来たのは何年ぶりだろうか。
(ここにシントの両親が眠っているのですね……)
(……お墓参り、しよう?)
二人の声は、少しだけ暗かった。
ここは言葉を慎むべき厳粛な静寂に満ちている。
だからといって、やることは変わりない。
「あそこが父さんと母さんのお墓です」
ディジアさんとイリアさんが子ども姿に変化し、俺の両隣に立った。
会話をすることもなく、祈る。
父さん、母さん、俺、なんとかやってる。
二人が俺をどんな人間にしようとしていたかは、いまはもうわからないけど、生きてこられたよ。
まあ、何度も死にかけたし、戦う相手も強いものばかりで時には折れそうになるけど、それでも、俺には大切な仲間が……家族みたい人たちがたくさんいて、力をもらっているんだ。
ここへあまり来られなくて、ごめんなさい。
今度からはもう少し、来るようにする。
冬の冷たい風が頬をなでる。
さすがに寒くなってきた。
「さあ、帰りましょうか」
「もういいのですか?」
「まだここにいてもいいけど」
「いえ、長居してもしかたがありません。それに、来たくなったらまた来ればいいんです」
墓所は逃げたりしないし、いつだって来られる。
「ジーク、アンナ。シントのことはわたくしたちに任せてください」
「ずっと一緒にいて、守ってあげるし」
なんだその宣言。
でも、嬉しさが込み上げてくる。
ディジアさんとイリアさんが守ってくれるならば、なにがあっても平気だ。
お墓参りは終えた。ずっと来たかったから、ようやく目的を果たせたと思う。
ラグナはもう俺の故郷とは言えないけれど、来た意味はちゃんとあった。
★★★★★★
そして翌日。
我ら『Sword and Magic of Time』はラグナ公国を後にする。
予定以上に滞在してしまったが、今日でサヨナラだ。
【神格】神風エルウィンはおじい様に返したし、オーギュスト・ランフォーファーを始めとした、捕らえた者たちも引き渡してあるし、思い残しはない。
ホテルをチェックアウトし、全員で外へと出る。
みんな、両手に土産をいっぱいだった。
「あれ?」
玄関のすぐ外に、見覚えのある顔がある。
眼鏡の少年は、ベルノルトさんだ。
「アーニーズ」
「ベルノルトさん」
彼は恥ずかしそうにしている。
「すまない。もう少し早く来たかったんだが」
「いえ、俺の方でもあいさつに行こうかと考えていました」
「そうか。すれ違いならなくてよかったよ」
彼はエルラーグ卿から俺たちのことを聞いたそうだ。エルラーグ卿は叔父上から聞いたようで、それをベルノルトさんに教えたみたい。
「もう行くのか」
「ええ、仕事が溜まっているでしょうし」
ベルノルトさんは手を差しだした。
もちろん、固く握る。
「僕がダウンしている間にとんでもないことが起きていたみたいだ。それを君が解決したんだろう?」
「秘密にしておいてください。これ以上ブーイングをされるのはちょっと」
「多くの人を助けたのだし、さすがにそれはもうないと思うが」
おかしくなって、二人で笑った。
「僕が……実力以上のものを発揮できたのは、君のおかげだ。礼を言わせてほしい」
「俺はほんのちょっと背中を押しただけ。あなたの力ですよ」
開花するだけの土台も、素養もあった。
それを間近で見られた幸運に感謝したい。
「また会おう」
「ええ、また会いましょう。もし暇があったらフォールンに来てください。歓迎します」
「ああ、いつかそうするよ」
手を軽く挙げて、ベルノルトさんは去った。
大喧嘩の時はラグナの人間なのに、味方してくれた。この国で友達ができるとは思わなかったから、すごく嬉しい。
そして、彼と入れ違うタイミングでやってきたのは、アンヘル嬢だった。
やたらと顔色が悪く、目が赤い。
宴会で飲みすぎたんだろう。ウチのメンバーにもあとでちゃんと言っておかないと。
叔母上もべろんべろんだったし。次はさすがに怒る。
「アーニーズさん」
「アンヘル嬢、見送りだなんて、わざわざすみません」
「来るなって言われても、来ます」
今回の件を短い期間内に解決できたのは、間違いなく彼女のおかげだ。
なので、おじい様からの報酬の一部を多めに渡した。
「あの、ありがとうございました」
「お礼を言うのはこちらなのですが」
彼女は微笑みながら、首を横に振る。
「アーニーズさんは……よく知らないわたしを仲間に加えてくれましたし、守ってくれたし……それに」
「それに?」
「……ううん、それはあとで教えますね」
なんの話だろうか。
「そのうちまた会いましょう」
「はい!」
ほんとうに面白い人だ。ここで別れるのはやはり少し寂しい気もする。
「ミケイによろしく」
「ちゃんと言っておきますね」
あの生意気そうなネコにも、いちおう伝言をした。
同じミルクを飲んだ仲だし、そのくらいはさせてもらう。
「じゃあ帰るか。明日からまた仕事だ」
「あ~、そういえばそうよね……」
「……あたまいたい」
「飲みすぎたよー」
「ほどほどにする予定だったんだけどねえ……うう」
「姉さん、これ噛みなよ。二日酔いが楽になるって」
「アミール……それわたしにもちょうだい」
みんな、俺が寝たあとも宴会を続けていたようで、眠そうだ。
元気なのはディジアさんとイリアさんぐらい。
ヴィクトリアはまた立ったまま寝てた。
ラグナでの仕事がやっっっと終わったのだと、ここで実感する。
険しい道のりだったけど、みんな無事に帰還できるのだ。
唯一気がかりがあるとすれば、それはウルヴァンさんのこと。
とはいえあの人のことだから、異空間からもう出られたと思う。
「忘れ物はないよね?」
みんな力なくうなずいた。
こうして俺たちは≪空間ノ移動≫を用い、フォールンへと帰還するのであった。




