セブンスターズマジックバトル『フィナーレ』5 寝ても覚めても魔法
話終えて、水を飲む。
叔父上と叔母上は神妙な顔つきだ。
ここでふと思い出した。
アンドレアス・テラグリエンは気になることを言っていたんだ。
「そういえば叔母上、テラグリエン侯爵とは友人だったのですか?」
「いきなりなによ」
なんか表情が変だ。
「ああ、いえ、最後の場面で侯爵と話した時、叔母上は情の深い人だから本気で討つまいとかなんとか、言っていたので」
「……」
叔母上が酒を飲む。
……酒っ!?
まだ真っ昼間なんですけど。
「別に。昔に少しお付き合いしていただけですわ」
ん?
「今風に言うと、元カレね。わたしがまだ十代の、アカデミーにいた頃の話よ」
うおー……
今回の事件の中で一番驚いたかも。
つうかアンドレアス・テラグリエンってとんでもない男だ。
妻が妊娠中に浮気して子ども作るわ、結婚前は叔母上とも付き合っていただなんて。
「親密な関係ってわけじゃありませんわ。たまに一緒に食事をしたり、歌劇を見に行ったり……そのくらいだもの」
おじい様と叔父上はなにも言わない。
俺もなにも言えない。
「まあ、たくましくて頼りがいがありそうだったし? 家格も申し分なかったもの。お父さまもお母さまも特に反対はしませんでしたし……」
叔母上はまた酒をあおった。
「叔母上、ペースが早すぎませんか」
「飲まないとやってられませんわ。アンドレアス……あんな野望を持ってただなんて……ほんと、ラグナってロクな男がいませんわね」
なんかひどい。
なにも言えないでいると、誰かがバタバタと入って来た。
アンヘル嬢だ。
今日は髪を三つ編みにして、後ろに垂らしている。
服はフォールンの若い女性がよく着ているような、割と露出の多いものだ。
「すみませーん! 遅れちゃいましたー……って、ええっ!?」
おじい様、叔父上、叔母上を見て跳び上がる。
「せ、先々代さま!? 大公さまに、マリア様までっ!?」
へへー、と土下座でもする勢いで平伏する。
「アンヘル嬢よ、いまはよい。ここへは秘密裏にきたのだ。表を上げ、宴会に加わるといい」
「は、はあ……」
叔父上と知り合いなの?
どういうこっちゃ。
「シントよ、こたびの反乱を防いだ功は、大会をめちゃくちゃにした件と相殺である。礼は言わぬからな」
俺は仕事で来たので、礼を言われる筋合いはない。
大会をめちゃくちゃにしたのはおじい様、と言いたいところだけど、まあ、うん、否定できないのがつらい。
「次にまた同じようなことがあったら、わたしだけには先に言うのよ。いいですわね?」
叔母上には怒られてしまった。
それはいいけど酒瓶で人を差すのはやめてほしいものだ。
二人は席を立ち、ウチのメンバーの宴会に混ざる。
叔父上まで、と思ったけれど、アンヘル嬢に用があるっぽい。
二人と入れ替わるようにして、廊下から従業員の方々がやってくる。
待ってました。
特上の料理がご登場だ。
待ちに待った最高の瞬間だった。
腹からの爆音がお出迎えである。
音を聞いてびくっとした従業員の方たちだったが、おじい様の前だからか平静を装い、料理を並べてくれた。
「ディジアさん! おいしそうな果物がこんなに!」
「ええ、いただきましょう」
「イリアさんも見てください! 見た事のないお菓子だ!」
「すっごーい! 早く食べよ!」
はしゃぐ二人。
監視が解かれたことで、おじい様は小さく笑った。
「みんな! おじい様のおごりだから存分に! いっただきまーす!」
目の前にあるものを手あたり次第食べる。
ラグナは山や森に囲まれているから、野菜とか山菜が多いんだけど、肉もたくさんあった。
「おっ、これは鹿だな。こっちは猪で、あとは熊か」
「へー、いいわね。レシピが知りたいわ」
「だな」
ジビエ料理に詳しいテイラー夫妻の声が聞こえてくる。
「ミューズ、お酒を頼んでおいたわ。もうすぐ来ますわよ」
「さすがはマリア様!」
「マリア様万歳ニャ!」
別のところではいつものやり取りだ。
みんな楽しそうでなにより。
「おじい様は食べないのですか?」
「わしはあとでよい。それよりも食べながら聞けい」
なんだろう。
「アンドレアスの処遇についてだ」
食べる手が止まった。
「ほう? さすがに気になるか」
「いちおうは」
反乱というもっとも重い罪だ。
ウルヴァンさんの父親なわけだし、聞かないわけにはいかない。
「あやつはいま、拘束し、幽閉しておる。息子どもや娘たちも同様に、そして別々の場所にな」
とうぜんだろう。
「やはり、死刑ですか?」
「処断はやむを得まいが、他の六家から嘆願があってのう」
「嘆願?」
「アンドレアス本人はともかく、テラグリエンの貴重な血統を絶やすのはいかがなものか、という内容だ」
そこはラグナらしいと思った。
魔法の【才能】がなにより大事ってわけか。
「とはいえ、皇帝の裁可が必要であろうな」
さすがはおじい様。悪い意味でだけど。
だって、皇帝に『陛下』をつけないんだもの。
「裁可次第では許されると?」
「こたびの件、帝室への反乱ではないということだ」
そうか。
あくまでもラグナ本家への叛逆ということになれば、もっとも重い罪ではなくなる。
まさか、アンドレアス・テラグリエンはそこまで考えていた……?
「あやつはなにひとつ喋らぬ。拷問などしても無意味であろう」
「でしょうね」
侯爵が饗団の中でどんな位置にいた人間なのか、それくらいは知りたいのだが無駄だろう。
「息子や娘はどうです?」
「長子アルフレートはカールとの戦闘で瀕死。意識がまだ戻らぬ。他の子らは反乱を知って困惑するばかり。計画には関わっておらぬ」
「では……夫人は?」
「知らせを聞き、倒れたと聞いた」
かわいそう。心からそう思う。
「領地は没収し、本家預かりとする。あやつの計画に与していたと思しきストンデード、ロックフレイ、サンドレントの者どもは逃亡しおったからな。そやつらも同様に領地は召し上げである」
今回の件は多くの人間が関わっているはずだ。
そうとうなスキャンダルとなる。
「おまえはこれからどうするつもりだ?」
「また戻れという話なら、お断りです」
「そうではない。饗団のことについてよ」
「逆に聞きたい。おじい様はどうするおつもりですか?」
「ここまでされたのでは、戦争しかなかろう」
やっぱりかー。
「反乱をそそのかしたのは明らか。見過ごすことはできぬな」
「ほんとうにやる気ですか?」
そう聞くと、おじい様は黙った。
やっぱり、この人はたぶん、気づいている。
「アンドレアス・テラグリエンが反乱を起こせた理由の一つをもうわかっているんでしょう?」
「そうだ」
返事とともにすさまじい魔力が溢れ出る。
みんな異変に気づいて、こちらの席に視線を向けた。
「ジンク、また魔法戦を?」
「次はわたしたちが相手だから!」
ディジアさんとイリアさんが食べながら、こっちに来る。
行儀が悪い。
あとでちゃんと言おう。
「案ずるな。ちと興奮しただけのこと」
「ならばいいのですが」
「食べてるときは騒いじゃだめ」
おお、おじい様が言うことを聞いている。
とても気分がいいぞ、これは。
「おまえの娘どもは不思議なものよのう」
「え?」
まさか、おじい様は二人を気に入っている……?
いや、いまのつぶやきは聞かなかったことにしよう。
「話を戻しますけど、アンドレアス・テラグリエンはおそらく、帝室の誰かとつながっています」
「であろうな」
仮に反乱が成功したとして、その先は地獄だ。帝国やガラルが主権を認めるなずもない。攻められて終わりだろう。
だが、侯爵は行動を起こした。
それは、かなり位の高い人物が反乱のその後を保証したからだと思う。
「つまり、本国とやり合う?」
「相手はあくまでも饗団よ。これよりラグナは饗団の殲滅に動く。だからこそ、おまえはどうするのだと聞いておる」
「ウチは傭兵をやりませんので、参加はしません」
これは立ち上げ時に決めたことだ。曲げるつもりはない。
だが、と俺は言葉を続けた。
「相手がモンスターなら、やりますよ。冒険者の仕事だ」
「よかろう。いまはそれで納得しておいてやる」
なんて言い草だ。もっと普通の言い方ないの?
「おまえは仕事を完遂した。よくやった褒めてやろうかのう」
褒められてもまったく嬉しくないのはなぜだ。
「報酬はすでに用意した。今日にも運び入れる」
約束された報酬は一億五千万アーサル。またギルドが潤う。特にミューズさんが喜ぶだろう。
これにて仕事は終了。なんとか遂行できた。
「……」
話が終わったはずなのに、おじい様は去らない。
嫌な予感がする。
「まだなにか?」
「反魔法を編み出した、と言っていたな」
「その話でしたか」
「わしに術式を教えよ」
教えてもいいけど、おじい様には使えないと思う。
「報酬を上乗せしようではないか」
「いえ、別に――」
「一億アーサル」
「いやだから――」
「では二億アーサル出す」
めっちゃぐいぐい来る。
報酬はいらない。むしろ教えておくことで反魔法への対抗になりうるわけだし。
「落ち着いてください。報酬はいりませんよ」
「なに?」
「教えますから」
「ならば疾く」
ほんと魔法のことばかりだな、このジジ……おっと、口が悪くなりそうだ。
「術式を書きますので、それを見ながら説明を」
紙とペンを持ってきて、術式を書く。
俺たちの様子が気になったようで、メンバーたちが寄ってきた。
だが、紙に描いた術式を見てげんなりし、戻っていく。
結局、おじい様から質問攻めにあい、それは夜が更けるまで続くのであった。




