セブンスターズマジックバトル『フィナーレ』4 振り返る
ラグナの先々代大公、現大公、国を代表する女性が雁首揃えて座っている。
なんとか帰らせることはできないだろうか。
しかたないので、話しかけてみる。
「三人そろってどうしたのですか」
「用があって来る以外になにがある」
おじい様はいつも通り、泰然とした様子。しかし、どこか固い。
「話を聞かせてもらうぞ」
「そうよ。わたしたちは聞く権利があるはずですわ」
叔父上と叔母上はちょっと怒ってる。
「二人ともだいぶやられたでしょう。休んだほうがいいのでは?」
「ふん……あれくらいで寝込むようなことはないのである」
「わたしは平気ですわ」
身を乗り出しかねない勢いだった。
「話と言われても、テラグリエン侯爵が反乱をして、それを止めた、でしょうに」
「だめだ。全て話すのである」
「ええ、聞かせてもらいますわ」
うえー、めんどくせー。
「おじい様に聞けばいいのではないですか?」
「父上とは口をきかぬのである」
「わたしもよ。二人してコソコソしてたんだもの。許せないわ」
別にコソコソしていたわけではないんだけど、そう見えたとしてもしかたがない。
ここでディジアさんとイリアさんがやってきた。
おじい様のすぐそばに立ち、じっーと見る。
「ディジア、イリア、どうしたのだ」
「ジンクがまた変なことをしないように、監視します」
「かんしかんし! 変なことしたら撃っちゃう!」
「ふむ、しかたあるまいな。監視するがよい」
いいのかい。
「さあ! 話すのだ!」
「そうよ、最初からね!」
二人とも、声が大きい。
めんどうだけど、観念するしかなさそうだ。
「まずは落ち着いてください。それと、お二人は大きな勘違いをしています」
「なに?」
「どういうことですのよ」
「たしかに依頼を持ち込んだのはおじい様ですが、俺たちは今回、ラグナに来てからただの一度も連絡をとっていません」
「……一度も、だと?」
「おかしいですわ。だって」
事実だから、それ以上でも以下でもない。
「だから、コソコソしていたとしても、俺たちだけですね」
「……父上、それはまことですか?」
「カールよ、わしとは口をきかぬのではなかったのか?」
おじい様が面白がると、叔父上はめちゃくちゃ渋い顔をした。
「俺たちが請けたのは、公国に入り込んだ饗団の企みがなんなのか、と饗団と接触しているラグナ貴族が誰なのかを突き止めることの二つです。で、蓋を開けてみればこの二つは同義……つまりテラグリエン侯爵が饗団の一員であり、反乱を目論んでいた、ということになります」
「なっ……!?」
「冗談、じゃないんですの?」
教えると、二人はまた怒り出した。
「なぜもっと早く教えぬのだ!」
「信じられませんわ……ほんとに」
「ですから落ち着いてくださいと言っているでしょう。教えなかったのは、ちゃんと理由があるんです」
それは情報の漏洩を警戒してのことだ。
叔父上と叔母上が漏らすだなんてことはないけど、それでも、俺たちが二人と会えば、目撃者が出てもおかしくはない。どこに誰の目があるとも限らないんだし。
噂になれば、アンドレアス・テラグリエンに余計な警戒を抱かせる可能性だってあるわけだ。
「そうなると、侯爵は証拠を消し、計画を取りやめて別の機会を狙っていたでしょうね。それではだめだ。もっと危険なことになりかねない」
「……」
「……」
二人は落ち着いたようだ。
おじい様は、ときおりうなずいてはいたが、黙って聞いている。
「しかし、さすがにことは反乱。それとなく匂わすこともできたであろうが」
「いえ、叔父上。それができなかったんです」
「なぜである」
「侯爵の目的が反乱であるとわかったのが、最終日の直前だったから。でも、それでも証拠がなかった。確証は得られなかったんです」
叔父上はため息だ。
「俺もおじい様も、饗団の企みがいま一つわからなかった。おそらくは【神格】の奪取であろうと、そう思い込んでいました」
だけど、違った。
「反乱は長年に渡り、周到に計画されていたものだったはず。おじい様の目を盗んでやるだなんて、テラグリエン侯爵はよほどの策士ですね」
「アンドレアスめは公国の外へ頻繁に出ておった。表向きは帝国本国との共同公共事業。しかしてその実態は、反乱の準備といったところであろうな」
それについては同意だ。
おじい様は公国の外へ滅多に行かないと知られているから、それを利用された。
諜報機関マーリンを使いもしたんだろうけど、工作員が行方不明となったことで、俺のところに来たという経緯があるわけ。
「おまえはどうやって気づけたのだ。私や父上でさえ、わからなかったことである」
「ちょっと待ってください。さすがに話が長くなる。食事をしたいのですが」
ずっとなにも食べていない。もう限界。
「案ずるな。ここへ上がる途中、支配人に申し付けてある。食い意地の張った孫のために特上の料理を百人前用意しろとな」
うっそ! それは楽しみすぎる。
「シント? よだれが」
「もー、しょうがないんだから」
イリアさんがハンカチで拭いてくれた。
「まるで子どもみたいですわ」
「やれやれである」
だって、腹が超減っているんだもの。
「出来上がるまでまだ時はあろう。時間つぶしと思い、話せ」
おじい様に従うのは癪だけど、ここを動きたくないし、しかたない。
改めて、話す。
ラグナに着いてから、昼は大会、夜は調査と忙しかった。
アンヘル嬢の協力もあり、オーギュスト・ランフォーファーを捕縛。
しかしそのあとは進展がなかったのだ。
「料理勝負ですって? あなた、お料理もできるのね」
ふーん、といった様子の叔母上。
「簡単なものしかできませんよ」
「今度振舞いなさい」
まためんどうなことを。
で、続きを話す。
事態が大きく変わったのは、七日目のことだ。
各部門の決勝にて、テラグリエン家の選手たちが肉体に変化を起こす。これがオーギュスト・ランフォーファーとのつながりだった。
彼女たちはモンスター料理を食い、魔人と化していたのだ。
そしてもう一つは、不正。
審判団はテラグリエン家とグルで闇賭博に関わっていた。
さらに観客席からの妨害工作。これらがヒントになり、結論を導くための手がかりとなる。
「不正のことは聞いたが、よもやモンスター料理とはな。改めて聞くと怖気が走るのである」
「じゃあ優勝はアリステラとヴィクトリアになりますわね」
繰り上げ優勝ってこと?
それは本人たち次第だ。たぶん、二人は承知しないような気がする。
その後、ついにもう一人の重要人物、『狂い笑い』ランパートにたどり着く。
だが、逃げられてしまった。
あれは俺の完全なる落ち度だ。
「シントは水着を着た女のヒトがたくさんいる部屋に入りました」
「うん、なんかよくわかんない部屋だったもん」
ディジアさんとイリアさんが余計なことを言う。
「あなたもそういうところに行く歳だものねえ……時が経つのは早いですわ」
叔母上がどこか遠い目をして言う。
なんだその誤解。ランパートを追ったらたまたまそうだっただけだから!
「ま、まあ、それはともかく、この時点ではまだ反乱について確証を得ることができなかったんです。ただ、その施設にはアンドレアス・テラグリエンがちょうどいて、闇賭博に関わっていることが判明しました」
金を集める理由、警備と称して増員された軍人、饗団の暗躍、モンスター料理。
欠片は揃っていて、そこから導き出されたのが、『反乱』。
「しかし、ただでさえ博打のような反乱という行為だ。しかも相手は【神格】の所有者。成功するわけがない」
普通なら、そうなんだ。
「だけど、それを成そうというのであれば、三人を封じめる手段があるのではないかと疑念を持ちました。もしもそんなぶっとんだ手段があるなら、【神格】の奪取にとどまらず、公国を滅ぼすこともできるのでは、と考えたんです」
高い確率で用意されているであろう切り札の存在が、逆に反乱という結論へと至らせた。
おじい様をも封じ込められるなら、公国の魔法士に抗う術はない。
「おじい様は敵に行動を起こさせるため、大会を利用しました。俺も炙り出そうという意図に気づいたので、半ば乗っかる形で計画を立て、動いたというわけです」
「……」
「……あんなことを話し合いもせずにやったというわけ? 呆れたものね」
「下手に動けば、勘づかれていたと思いますし、お互いにアドリブでどうにかするしかなかったんですよ」
おじい様が動けば、アンドレアス・テラグリエンは即座に身を引いただろう。
証拠を隠滅し、何食わぬ顔で大会を観戦していたに違いない。
計画を途中で取りやめても、彼にとってマイナスにはならなかったはずだ。
自分の娘たちが大会の三部門を制覇。次男はベストフォー。
これは素晴らしい栄誉であり、テラグリエン家は一躍ラグナ六家のトップになったかもしれないわけで。
だけど、それがミステイク。
リスクを考慮するあまり、後の事に保険をかけておく行為が、俺たちを呼び込む結果となった。
「俺は反乱に気づいた時点で、かなりまずい事態だと思いました。たぶん、覆すのはかなり難しいだろうと。なので、最悪の展開を避けるためだけに動いた」
「……それはなんである」
「おじい様と叔父上と叔母上がやられて【神格】を奪われることです。それさえ起きなければ、なんとかなる」
実際、ぎりぎりとところではあったが、覆すことができた。
「話はこれで終わりです」
さすがに喉がかわいてしまった。
早く料理できないかな。




