セブンスターズマジックバトル『フィナーレ』3 めんどうな大人たち
戦いは終わり、さまざまな人間が動き回る中、おじい様の指示により騎士たちによってアンドレアス・テラグリエンは気を失ったまま拘束され、どこかへ連れていかれた。
散っていたウチのメンバーも集まってきて、互いの無事を確かめ合う。
誰一人欠けることなく仕事を終えたことがなにより嬉しい。
「先々代さま!」
駆けつけてきたのは、ボニファティウスさんだった。
「ボニファティウス、そのような体でよくやった」
「いえ……遅くなってしまいました。申し訳ございません」
深々と頭を下げる。
悔しそうな顔だ。
ボニファティウスさんに続き、やってくる一団がいる。
先頭を走るのは、あの人だ。
「大公さま! ご無事で!」
「フリット」
フリット・アルラグナル卿だった。
彼らは今大会の警備をしていた人間たちだ。
「みすみすこのようなことに……いかなる処罰をも」
「処罰などせぬ。おまえも外で戦っていたのであろう」
フリットさんをはじめ、全員がボロボロだ。
「はい……外を包囲しようとした隊がおりましたゆえ、戦闘に」
アンドレアス・テラグリエンは会場から誰も逃がさぬよう、どこかに伏兵を置いていたはずなのだ。
そいつらはそのまま制圧部隊になりえた。あとから増員された警備の軍人たちはみんな侯爵の手の者だったと思う。
「フリットよ、もう一働き頼む。会場の後始末をな」
「は!」
彼は一度だけ俺に視線を寄こし、すぐさま仕事に取り掛かる。
打った手は功を奏したみたいで、よかった。
「ところでシント」
「シントよ」
「シント、あなた」
「アーニーズさん、その」
「シント君……」
何人もの人間がいっせいに口を開く。
集まった全員の目が俺に集中していた。
そういえば落ち着いたら腹が減ってきた。
帰って食事にしたいんだけど。
「わしが先だ。シントよ、おまえは――」
おじい様が強引にくる。
しかし、その前に立ちはだかったのは、ディジアさんとイリアさんだった。
「お話はあとに」
「うん、もう帰ろうよ。みんな疲れてるんだし」
なんとも言えない空気が流れる。
誰もなにも言えない。
たしかに全員がすさまじく疲れていて、倒れそうだ。
「一つだけ聞かせよ。おまえはなぜ、反魔法の領域で動けたのだ」
おじい様だけがぐいぐいくる。そんなに知りたいのか。
「答えますから、それ以外の話はあとにしてください」
「待て、シント。説明をせよ」
叔父上が乗っかってきた。めんどうすぎる。
「叔父上もあとにしてください。あなたはかなりのダメージを負っている。休んだほうがいい」
「その通りですぞ。無理をしすぎじゃ」
ノスケー元子爵がたしなめると、黙った。
「反魔法を編み出せたので」
「……」
「……?」
「……は?」
「……は、反魔法……を?」
魔法士たちは絶句するばかりだ。
「ではホテルへ。≪空間ノ移動≫」
ウチのメンバーたちとともにホテルへ帰還。
ロビーについたとたん、力が抜けた。
そこにいた従業員の方々は目を丸くしている。
きっと、大会の会場でなにが起きたのかはまだ知らないはずだ。
「今日はもう食事をして、寝よう。さすがに疲れたよ」
「まあ、シントはそうでしょうね。大会で連戦して……どこかに消されたあとはどうしてたの?」
「ミューズ、あたしも気になるけどさ、話は明日にしたほうがいいさ」
「……シント、もう半分寝てない?」
うーん、みんなの声が遠くに聞こえる。
いまにも眠りの谷に落ちそうだ。
どうにか俺たちの宿泊する階までたどり着き、共有スペースのソファーに深く腰を下ろす。
両脇にディジアさんとイリアさんが座った。
二人が寄りかかってくると、体温が伝わってくる。
ぬくもりが余計に眠気を加速させた。
「シント、お風呂に入って寝たら?」
「いえ、それはできません。食事をしませんと」
「起きてからでいいんじゃないかい?」
みんな苦笑してる。
「ふぅー……」
思いがけず、今回で一番でかいため息が出た。
とても濃密な十日間だったと、心から思う。
手がかりは乏しく、イレギュラーの連続だった。
大会で当たった相手もみんな一癖あって、強かったし。
アリステラとヴィクトリアは惜しくも準優勝。でも、得難い経験をしたと思う。
「ウルヴァンさん……ちゃんと出てこれてればいいんだけど」
「シント? なにか言ったかい?」」
「いや、独り言」
彼ならだいじょうぶだと信じる。
こっちも研究をして、迎えに行くつもりだ。
「みんなありがとう。みんなのおかげだ」
「シント? いまは休みましょう。その話は起きてからに」
「うん、いままでにないくらいやつれてるし。おなか空いてるでしょう」
ディジアさんとイリアさんの言葉で、さらに力が抜けた。
思えば、今日はほとんど食事をしていない。
「ルームサービスを頼むわ。わたしたちもほら、着替えて休みましょうよ」
さすがはミューズさん。
俺の代わりに言ってくれる。
★★★★★★
「あれ?」
なんだこれは。
急に目の前の光景が変わる。
ホテルにいるはずが、どこか……緑あふれる森の風景が現れた。
体が動かない。
だけど、見えている。
一瞬、強制的に空間を移動させられたかもと考えたが、そうではなさそうだ。
現実感がなく、どこか夢のような、ふわりとした感覚だ。
やがて、視界がゆっくりと前進し、大きな木の元へと向かう。
そこには、寄りかかるようにして座る黒髪の男性がいた。
「……これは」
男性は不思議な衣装を身につけていて、ぐったりしている。死んでいるのかもしれない。
また視界が勝手に動き、男性のすぐそばまで近づく。
細くて白い手が伸び、男性の頭を撫でた。
そうか。やはりこれは、俺じゃなくて、誰かの視点だ。
夢なのは間違いないんだけど、なんだろう?
とても奇妙だと思う。
男性は目を開けた。
寂しそうに微笑む。
頭の中に誰かの声が響く。
優しく美しい声だった。
なにを言っているかはよくわからない。
ただ、今日はもうお休みなさい、と言っているような気がした。
男性はうなずき、目を再びつむって静かに首を垂らした。
呼吸はしていない。亡くなったみたいだ。
俺の視点になっている誰かの、悲しみが伝わってくる。
胸が締めつけられるのは、なぜなんだ。
その誰かは、空を見上げた。
雲一つない青い空。
「……!」
身も凍る巨大な、恐ろしい感覚。
空をありえない物体が、横切っていった。
なんだアレ。
化け物?
モンスター……なのか?
★★★★★★
「……なんだ?」
ベッドから身を起こして、またしても見えるものが変わっていることに気づく。
ここは、俺が寝泊まりしているホテルの部屋だ。間違いない。
「俺、寝てた? いつだ?」
記憶が途切れ途切れになっていて、よくわからない。
「気分は……悪くないけど、妙にさびしい夢だった」
少しもやもやしたまま、部屋に備えられた風呂場へとおもむく。
ありがたいことに、湯が張られていた。
誰かが用意してくれていたらしい。
起き抜けに風呂を堪能して、さっぱりだ。
仕事は終わったし、あとは用を済ませて帰るだけ。もちろん、食事はおいしくいただきますが。
部屋から出ると、とたんににぎやかな声が聞こえてきた。
みんな集まっているみたいだ。
「おはよう」
「あ! シント!」
「もう! 心配したのですよ!」
ディジアさんとイリアさんが駆け寄ってくる。
「また三日間も眠っていたのです」
「え?」
嘘だろ?
マジか。
このところは無茶してもせいぜい一日かそこらのダウンだったのに、最悪だ。
「起こしてくれればよかったのに」
言うと、全員が微妙な笑いをする。
「ンーフ、マスターはわたしが声をかけても、激しく揺さぶっても、添い寝しても反応を見せなかったと証言しておきます」
なにしてんの!?
ディジアさんとイリアさんのみならず、アテナにも気をつけないといけない。
「アテナさん! そんなことしてたんですか!? ああ……剣神さま、どうか罪深きアテナさんをお許しください」
「セレーネもマスターを心配して部屋に入ろうとし、何度も引き返したと証言しておきます」
「ちょっ……!?」
慌てるシスター・セレーネを見て、みんなが笑い声を上げた。
「ふぉーふぉっふぉ! 青春じゃな!」
ん?
なんか見たことあるおじいちゃんが混じってる。
「アーニーズ・シントラー殿! お邪魔しておるぞい」
「はあ」
なんでマルセル・ノスケー元子爵がここへ?
つうか酒片手に普通に違和感なく馴染んでるんですけど。
「アンヘルちゃんから聞いてのう。シントラー殿に話をしていただきたく来た次第じゃ」
そういえばアンヘル嬢の知り合いだったな。
おそらくはウルヴァンさんのことを聞きたいんだろう。この人がどこまで知っているかはわからないけど、本当のことは言えない。
「ところでアンヘル嬢は?」
彼女の姿が見えない。
「そろそろ来るんじゃないかい?」
アンヘル嬢のおかげもあって、今回の件は進んだ。情報料を支払いたいのだった。
「シント、他にも来ていらっしゃるわよ」
と、ミューズさんが魔導式昇降機前に立つ人々を手で示した。
驚きだ。
そこには軍人を引き連れたフリット・アルラグナル卿が立っている。
「アルラグナル卿?」
「起きたようだね、シント君」
いったいどうした。
「なぜここに」
「大公さまから、ここにいる方々の護衛を頼まれた」
護衛なんて要らないけど。
「それに、君には礼を言わねばならない」
「礼とは?」
「準決勝の前に、君が言ったことだよ」
アルラグナル卿はアンドレアス・テラグリエンが会場を支配していた時、外で侯爵の手の者と戦っていた。
先に気をつけるよう言ったことをやってくれたのだ。
「反乱ではないかと、そんな疑問が頭をよぎって警戒に出たら、ほんとうにそうなった。君の言葉がなければ、私もどうなっていたことやら。だから、ありがとうと言いたい」
ありがとうと言っておきながら、にらんでくる。
「だが……大公家の出身者が大会に出たことや、もう少しわかりやすい教え方はなかったのか、という抗議はさせていただこう」
アルラグナル卿、お堅い。
とりあえず言葉を濁してごまかし、空いていたソファーに座った。
食事を頼んでくれているようだから、それを待つ。
みんなが食べているおつまみを口に入れ、一息入れると、また眠くなってきた。
こんなに眠いのなんて、いつぶりだろうか。
とにかく食事をする時に起きるとして、目をつむる。
で、起きると――
「うん?」
真正面の席に、めんどくさい大人三人が座っていた。
「ようやく起きたか」
「いつまで寝ているのである」
おじい様、叔父上、叔母上の三人がいる。
みんなして険しい顔だ。
このまま寝たふりをしたほうがいいような気がするのだった――




