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セブンスターズマジックバトル『フィナーレ』 アンドレアス・テラグリエン

 何者も存在しない空間――いや、異次元? 異空間?

 あの部屋から出た俺は、どこかにまっすぐ進んでいた。


 入る時は一瞬だったのに、出る時は長い。

 あるいは、俺がそう感じているだけで、実は刹那の間なのかもしれなかった。


 やがて、目に前に穴が現れる。

 やっと出口……だよね?


 体が勝手に吸い込まれ、穴を通り過ぎた。

 見えるのは、本会場のバトルコート。

 

 出てこれた場所は、たぶん来る前と同じ箇所だろうと思う。

 すぐそばではおじい様が片膝をつき、魔力をふくれ上がらせていた。

 

 周囲を見回す。

 俺たちを包み込む大きな暖かいシールドは、アテナによるもの。

 

「みんな、いま戻った」

「シント……!」

「……やっと来た」


 どういう状況なのかを見る。

 ウチのメンバーは全員無事だ。

 おじい様も健在。

 

 だが、叔母上はバトルコートにいて、よつんばいの恰好をし、荒く呼吸を繰り返していた。

 その先にはアンドレアス・テラグリエンが立つ。そして、叔父上が倒れている。


 なるほどだ。

 なんとか()()()()()()()()()()()()()()


「シントよ、無事に戻りおったか」

「こっちはかなりぎりぎりですね」


 観客席の最前列に配置された黒い箱は、間違いなく反魔法の装置。

 それが八つもあり、バトルコートを囲んでいる。

 やっぱり切り札は一つじゃなかった。

 本気で全開の反乱。アンドレアス・テラグリエンはただものじゃないとわかる。


「シント! なにを呑気にしてるの! マリア様が!」

「ミューズさん、わかっています。仕事を終わらせに行きましょうか」


 最後の最後だ。

 預かっていた武器を全員に渡す。


「みんな、頼んだ。ダイアナもタイミングを見ておねがい」

「うん、まかせて」


 力強くうなずく。

 ダイアナは一年前と比べて、ほんとうに強くなった。


「アテナ、俺を外に」

「はい、マスター」

「待て、シント。なにをする気なのだ」

「おじい様、ここは俺に譲ってください。アンドレアス・テラグリエンと話したい」

「なに?」


 いよいよ大詰め。

 聞きたいことは全部聞く。そのあとは、好きにさせない。


「≪魔錬体マジックボディ≫……≪反魔法反魔法アンチドート≫!」


 新たな魔法を発動。

 さっき思いついたぶっつけ本番。

 アテナが一瞬だけ開けた穴をくぐり、反魔法の領域に出る。


 効果は上々。やはり考えは正しかった。

 しかし、魔力消費が激しすぎる。

 活動できる時間は、短いだろう。


 アンドレアス・テラグリエンの元へ、歩む。

 彼は険しすぎる顔で俺を迎えた。


「またおまえか、アーニーズ・シントラー」

「ええ、またお会いしましたね、侯爵」


 びりびりとした力を感じる。

 魔力じゃないな。もっと別の、それでいて既視感を覚えるものだ。


「おまえはなんだ? なぜ普通に動ける」

「あなたこそ、反魔法の領域で動けているじゃないですか。自分だけだと思いました?」

「……饗団の一員か?」


 なんてひどい最悪の言いがかりだ。それだけはあり得ない。絶対に。


「そんなはずないでしょう。あ、マリア様は下げますので」

「シ、シン……きゃあ!」


 叔母上の腰に手を回して持ち上げ、後方に投げる。

 アテナは器用に障壁を開けて吸い込み、ウチのメンバーが受け止めた。

 よし、問題はない。


「ではなんだ。先々代の隠し玉か?」

「先々代とは関わりなどありません」

「ふざけるな。おまえは……何者なのだ」

「冒険者。仕事で来た」


 正直に答えたのだが、鼻で笑われる。


「冒険者風情がここまで来れたことは褒めてやろう。で、ラルスはどうした? 殺したのか?」

「ご想像にお任せしますよ」


 ウルヴァンさんは生きている。

 だが、それを教える義理はない。


「けど、伝言を預かってます。『おれは負けた。もう手伝えない』だそうです」

「……」


 俺を探るような目つき。

 嘘は言っていない。


「……いまさらここへ割り込み、なんのつもりか。大儀も志も持たぬ野良犬……大会で優勝したからと、調子に乗ってくれるな」

「大儀だの志だのと、知ったことではありません。それはあなたの主観だ。勝手なことばかり言わないでほしい」

「ふん……どうやって立っているかは知らんが、しょせんは魔法士。ここでは戦えまい。私にはわかるぞ。粋がりのハッタリ。たいしたことなど、できはしない!」


 いや、反魔法についてはもうわかった。

 いま使用している≪魔錬体マジックボディ反魔法反魔法アンチドート≫は、その応用。


 ごく小さい範囲で火と氷をぶつけた『虚無力』を発生させ、領域型魔法とし、体を包み込んでいる。

 反魔法に反魔法をぶつけたらどうなる? という思いが生み出した、新たな対抗策だ。

 急造だから完成には程遠い。だけど、骨子は掴んだ。近いうちに必ず完成させてみせる。


 全てはウルヴァンさんとの出会いのおかげ。

 あの隔離された空間での出来事が、反魔法への理解をかなり深めることとなった。


「いまにうちに降れ。ここまでたどり着いたその【才能】……殺すには惜しい」


 俺にはなんの【才能】もないから、惜しまれるのは意味がない。

 

「降るわけがない」

「もはやラグナ家は終わりだ。おまえにもそれがわかるだろう」

「そんなことはありませんよ。今の状況は、最悪じゃない」

「なんだと?」

「下から三つ目くらいにはよくない状況ですけどね」


 もっとも最悪なのは、おじい様と叔父上と叔母上が倒され【神格】を奪われること。いまのところ、倒れているのは叔父上だけだし、【神格】は奪われていないのだ。


「なにを言っている……ハッタリにしか聞こえんな」

「ハッタリではありません。まだ間に合う」

「間に合う、だと?」

「ええそうです。あなたはたぶん、それこそ何年も前からこの計画を練っていたはずだ」


 返事はない。黙って俺を見つめている。


「先々代を封じ込める手段を隠し持ち、機会を狙っていた。そうでしょう?」

「そうだ」

「大公とマリア様を放置してでも、ですね?」

「カールはなんとでもなる」

「マリア様は?」

「……マリアは情の深い女だ。私を本気で討つことなどできぬ」


 うん?

 知り合いなのか?

 でもとうぜんかも。ラグナ六家と本家は特に近いわけだし。


「あなたは饗団の一員なのですよね?」


 もっとも聞きたかったことは、これだ。


「答えるまでもない」

「饗団は時空の門を開けて、なにをしようとしているのですか?」

「……貴様」


 ようやく侯爵の顔色が変わった。

 硬い岩のように崩れなかったものに、ひびが入った感覚。

 聞かれるとは思っていなかったんだろう。


「よほど重要なことに思える。ぜひ教えてほしい」

「聞いたところでなんになる。どうせおまえはここで死ぬのだ」

「それを言うのはまだ早い」

「早いものか。それとも……貴様がカールやマリアの言う最強の魔法士だとでも言うのか? 絶望的な、確実な死を目の前にしても、逆転できると?」


 最強ね。

 まったくもって興味がない。

 それと安易に確実だなんて言うのは、やめたほうがいい。


「絶望的でもないし、確実でもない。まだなにも終わってなどいない。先々代はまだ健在で、大公もマリア様も死んでいない。なにより【神格】を奪われていないんだ」

「くだらんことを」

「くだらないのは、おまえだ」

「なんだと?」


 アンドレアス・テラグリエンの感情が伝わってきた。

 否定されたことで、怒りがふつふつとわき起こる様が見てとれる。


「子どもたちにモンスターの力を取り込ませ……ウルヴァンさんを捨て駒にし、まるで物のように扱う。この反乱が成功したとしても、おまえに未来はない。たった一人で孤独。信じてくれる者は誰もいない」

「王者とは孤独なものだ。小僧にはわかるまい」

「ああ、そうですね。中身のないからっぽの玉座に座って、せいぜい愚かな王者を気取るといい。人は誰もおまえを王とは思わないだろう。哀れな道化師なのだから」

「――!」


 侯爵はぶるぶると震え、モンスターも逃げ出すような形相で俺を睨みつける。

 異様な力が溢れ出し、周囲を歪ませた。


「舐めた口を……おまえなどただの人間の魔法士! この領域ではなにもできん!」

「やってみなければわからないだろうが」

「戦いが終わったあとに同じセリフが言えるかどうか……見物だぞ!」


 これでほんとうに最後の最後。

 アンドレアス・テラグリエンとの戦いが始まる。

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