表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
560/576

セブンスターズマジックバトル ラグナサイド 5 大公の反撃

「はーっはっは! そんな水遊びの如き魔法! 僕に通じないぞ!」


 恐ろしい魔力が廊下に吹き荒れる。

 モンスター料理を食し、魔人と化したアルフレートはいまの三人にとって最悪の相手となるだろう。


 しかしそれでも、ラグナ大公カールは動じない。

 いつもの無表情で、老人とレディの前に立った。


「本家は今日で終わりだ!」


 アルフレートが浮かべる邪悪な笑み。


「ノスケー翁、レディ、障壁を張り、廊下をふさぐがよい」

「大公様、ご無理はいけませんぞ」

「無理ではないのである。青二才など撫でれば終わる」


 大公が出す迫力に押され、二人はすぐさま障壁を生み出した。

 廊下を分断する大きさの≪アクアシールド≫が展開される。


「はあ? なんのつもりだ?」

「よく見ておけ」


 カールは両手にそれぞれ違う魔法を準備し、順次発動の態勢に移った。


「しかたないな。殺す気でやるか……≪アースブロック・クリエイトスパイク≫!!」


 アルフレートは≪アースブロック≫を応用し、鋭く巨大な土の槍を生成。


「≪水柱撃≫である」


 対してカールが作り上げたのは、水の柱だ。でかすぎて水壁になり、アルフレートの背後を遮断する。


「二人とも、絶対に障壁を解いてはならぬのである」

「なにをする気か知らないけど……しねえ!」

「もう遅い」


 もう一方の手から生み出されたのは、水だ。

 しかし量が桁違いだった。数秒後には膝まで浸かる。


「なんだ!?」


 大技の準備をしていたアルフレートは、驚いて魔法を解いた。

 それが仇になる。

 水はみるみるうちにかさを増して、胸まで到達。

 振り向いても後ろは水の壁。逃げ場はない。


「ば、ばかな! なんでこんな!」

「いまさら後悔などしてくれるな」

「ちょっ……ぐぼあ!」


 水柱とシールドによってふさがれた空間は、水でいっぱいになった。

 大公ももちろんその中にいるのだが、問題はない。

 そう、彼は素潜りで誰にも負けたことがないのだ。


 そのまま数十秒がすぎ、アルフレートは動かなくなった。

 息ができなくなり、気を失ったわけだ。

 カールは魔法を解き、水を流した。


「ずぶ濡れである」

「いやはや……さすがは我が大公様ですぞ。相手になりませんでしたな」

「耐久力が高くとも、陸上の生物であれば溺れもするのである」


 この世界に住む生き物は、人間であろうが呼吸をしている。

 魔人と化したアルフレートであっても、そこからは逃れられなかった。


(シントであれば、即座に天井か壁を破壊し場所を移したであろう。それに比べ、コレがラグナ六家の長子とは……甘いのである)


 甥はすでに卓絶した魔法士だ。性格や行動はともかく、力は認めている大公であった。


「さて」


 カールは気絶する若者の元に歩み寄り、観察する。

 痙攣していることから、死んではいない。

 足で胸を踏みつけると、口から盛大に水を噴き出した。


「ぐおはっ! ぶへえっ!」

「目を覚ませ、小僧」

「……はっ……うっ……」


 踏みつけられたままの若者は、大公を化け物でも見るかのような目でうかがう。

 ぬぐいきれない恐怖がありありと映し出されていた。


「なにをしようとしているのか、話してもらうのである」

「……」


 足に体重をかけると、骨のきしむ音がした。


「ぐあっ……く……くくく……」

「なにを笑うのか」

「も、もう手遅れだ。もう――」

「そうであるか」


 大公は拳を握り、真下であえぐアルフレートの顔面めがけて、突きをお見舞いした。

 力を勘違いした哀れな若者は、顔面が陥没し、動かなくなる。

 振り向くと、老人とレディは呆気にとられていた。


「大公様は素手でもいける口でしたか」

「私はこれでも、素手での喧嘩に負けたことがないのである」


 幼少期は、天才と言われた兄と喧嘩をしても、負けたことがなかった。勝てもしなかったが。いや、むしろ手加減されていた気もする。


「こやつに用はない。会場に戻り、父上と決着を着けねば」

「先々代様と? 侯爵ではなく?」

「……侯爵とである」


 うっかり口が滑った。


「それにしても、こやつの変化はいったい」

「はてさて、魔力向上薬マジックアップの類かとも思いましたがな……あるいは別の新薬の可能性も」

「ふむ」


 魔力向上薬マジックアップは服用すると身体に悪影響があるとして、精製、所持、販売、服用を禁じられている。

 しかし貴族の間では密かに使われていることは知っていたし、いちいち検挙もしなかった。

 カールの次男であるマールはある時から父に黙って服用し、中毒者になっていたのだが、大公はそのことを知らない。


「これもアーニーズさんが不正って言ってました」


 またもや飛び出す新事実。

 カールは、甥がどれほどの隠し事をしているのかとめまいを覚えた。


「モンスター料理を食べた人と同じだと思います」

「は?」

「アンヘルちゃん?」

「わたし、拉致されたんですけど」

「それはすでに聞いたのである」

「その集団のボスがですね、脱獄した料理人でして」


 言い知れぬ不穏な空気がただよう。


「たしか……『悪食』って人です。モンスターを料理して食べさせる人だと」


 カールはその異名を耳にした時があった。

 五年以上も前に大都市フォールンを騒がせた人物ではなかったか。


「元冒険者で人を食べちゃう料理人だと言ってました」

「……」

「……」

「モンスター料理を食べ続けると、強くなるんだそうです」


 大公と老人は意味がわからなかった。

 モンスターの肉は猛毒であると知られている。


「テラグリエンの方々はみんな食べてるかもって、アーニーズさんが」

「……なんと」

「信じられぬな。だが」


 倒れたままのアルフレート・テラグリエンに目を向ける。

 先ほどの耐久力は異常だった。

 己が目で見たことは、否定できない。


(あやつめ)

 

 ますます甥に聞かねばならないことが増え、カールは頭が痛くなってきた。

 思っていたよりも、ずっと大それたことが起きている予感。

 そしてその予感は当たるだろう。


「先を急ぐのである」


 三人は警戒しつつ、廊下を進み、いくつもの部屋を通り過ぎる。

 途中、選手待機室の前に来た時、不穏な様子に気づいた。


 マルセルの話では、すでに大会自体が終わり、父ジンクが始めためちゃくちゃな無礼講が行われているはずだ。

 しかし不気味なくらいに静かで、それがかえって恐ろしさをかもし出す。


 彼らは観客席には向かわず、待機室にある大窓へ近づいた。

 バトルコートがよく見える。


「なんだと!?」


 バトルコートでは、想像だにしないことが起こっていた。

 父ジンク・ラグナが片膝をついている。

 それを守るようにして、見知った顔の人物たちが囲んでいた。


 シントのギルドのメンバーたちだ。

 巨大なシールドを張り、先々代を守っているように見える。


 そしてもう一組。

 金色に光る鎧を身に着けたアンドレアス・テラグリエンと、その面前にひざまづき、苦しげな顔をする妹――マリア・ラグナがいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ