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セブンスターズマジックバトル・ラグナサイド 2 ラグナ大公

 一方その頃――


「……」


 公国の長にして現ラグナ家当主カール・ラグナはその場を動けずにいた。

 両膝をついた姿勢で後ろ手に縛られ、真横にある謎の装置のおかげで、魔力が練れないのだ。


 なぜ、どうしてこのようになったのか。

 彼は己の不甲斐なさに沈みながら、思い返していた。



 ★★★★★★



 大会三日目のことだ。

 カールは偶然にも顔を隠した甥、シントを発見したことで、疑念を持つこととなった。


 さっそく父である先々代ジンク・ラグナを問い詰めようとしたのだが、知らぬ存ぜぬの一点張り。

 であれば夜を待ち本家で聞こうとしたが、どこに宿泊しているのか、一向に姿を掴めなかった。


 おそらくは聞いても無駄。

 そう考えた彼は()()()()()()()()()()()()()()


 向かったのは、運営本部だ。

 本会場内に設置された部屋に、息子たちがいるはずだった。


 大会四日目は休み。

 それを利用し、なにが起きようとしているのか調べようと思った。


「ユリス、マール」

「父上?」

「どうしたんだよ」


 このところ、息子たちは以前とは別人のように、国のために働いている。

 もちろん、彼らは父であるカールに多額の借金をしていることもあり、負い目があるのだった。


「資料を見せてもらうのである」

「資料? なんのですか?」

「全てだ」


 息子たちは顔を見合わせている。


「なにか……問題が?」

「いちおう順調だけど」

「そういうわけではない。ただの確認である」


 ますます意味がわからないという顔の息子たち。


「とにかく見せよ」

「はあ……では係の者を呼びますので」

「僕たちはもう帰るけど?」

「おまえたちも疲れておろう。今日は休むがよい」


 父らしいことを言って、息子たちを下がらせる。

 そうして待つこと十分あまり。

 息を切らせて大量の紙束を持つ男が現れた。


「これはこれは大公さま! お初にお目に――」

「挨拶はよいのである。資料を確認させてもらおうか」

「はは! まずは半分ほどです」

「半分……?」


 人の身長の半分ほどはある高さの紙束である。

 カールは思わずため息をつきそうになった。



 ★★★★★★



 大量の資料を本家に持ち帰ったカールは、日がな一日、紙束と格闘する羽目になった。

 一枚一枚をつぶさに確認し、決済、会議資料、スケジュール、人員リストと分類ごとに分ける。


 それは次の日にも及んだ。

 本戦が始まり、大会は盛り上がりを見せていたが、たいした感慨はない。

 ただ、二人ほど見知った顔があったので、それには驚いた。

 アリステラ・フィオーネ・シルフガルダとヴィクトリア・ドラグリアである。


 アリステラに対し、カールは一目置いていた。

 素晴らしい水属性魔法士であり、ホーライでは試合を見たし、モンスターウォーズではともに戦ったのだ。


 ヴィクトリア・ドラグリアはいま現在ともに事業を行っている竜人の里の長、ガランギールの義娘だ。知らないわけがない。


 かなりの使い手なのは知っていたが、まさか冒険者が本戦にまで勝ち上がってくるとは思いもしなかったのだ。

 シントのことはさておいて、なんとなく嬉しさを感じていた。


 そして夜――

 そろそろ資料を全て確認し終えるところまでたどりついた。

 ここまでで特に怪しいものはない。

 さすがの大公も疲労を感じ、目元を抑える。


 収穫はないのか、と一枚の決済資料を見た。

 そこでふと止まる。


(修繕費……であるか)


 本会場の修繕費についての予算だった。


(さっきも同じものがあったような)


 二枚あるのはおかしい。

 そう思い、自分で分類した書類をめくる。分けておいてよかったと心から思う。

 そう、カール大公は意外に細やかな男なのだ。


 己の仕事に自分で感謝しつつ、見た。

 やはり同じだ。

 なぜ、まったく金額の同じものが二枚あるのか。

 

(日付だけ違う……これはよもや、不正なのか)


 つまりは使い込み、あるいは使途不明金。

 急に雲行きが怪しくなってきた。


(担当はどちらもベルバルト・ストンデード。テラグリエン閥であるな)


 ラグナ六家のうち、テラグリエン侯爵家は公国の土木や建築関係のほとんどを取り仕切っている。会場の修繕を行うのは当然なのだが。


「これは偶然なのか? もちろんたまたまであるという可能性も……」


 思わず声に出してしまった。

 執務室には彼一人だから、返事をする者はいない。


「ふむ……話を聞くしかあるまいな」


 ようやく進んだ気がして、大公は一人満足するのであった。



 ★★★★★★


 

「ストンデードがいない?」


 翌日、さっそく話を聞きにいったカールは、運営部の男に問い返した。

 少しばかり荒い語調であったため、男は委縮する。


「責めようというのではない。なぜいないのか、聞かせよ」

「は、はあ……それが、大会が始まってすぐあたりに休暇届を出しておりまして」

「大会の観戦か?」

「旅行に行く、と言っておりましたが」


 旅行というのは、妙な話だ。今の公都モナークは各所から旅行に()()()()側なのだ。


「ユリス様やマール様も聞いておられなかったようで、大層お怒りに……」

「それはそうであろう」


 一番忙しくなりそうな時に抜けられたのだ。それは誰だって怒る。

 結局たいした話は聞けずじまいとなり、もやもやがつのるばかりの大公であった。

 それからの彼は、運営の人物に情報を求めたが、なにもわからない。

 しかし、諦めようとは思わなかった。


 シントの仲間を捕まえて聞けばいいのだが、それをしないのは元冒険者としての矜持か、意地か。彼自身もわからない情熱かもしれない。


 調査範囲は街の外にまで及び、丸一日かかって、ようやく本会場を工事したという建設会社に行き当たった。

 まさに執念である。隠れてこそこそする父やシントに対する怒りと言い換えてもいい。


「んだあ? あんたいきなり来てなによ?」

「こっちゃ忙しいんだ。邪魔すんじゃねえよ、おっさん」


 その建設会社は正直まともとは思えない。

 ただのちんぴら魔法士の集まりにしか見えなかった。

 小さくため息一つしたカールは魔力をみなぎらせる。


 そして三分後、立っているのはカールだけだった。

 かろうじて意識を残す一人は、大公によって襟首をつかまれ、気絶寸前だ。


「な……なんだ……てめえ……強すぎ……」

「おまえたちは本会場の修繕に参加していたな?」

「……?」

「……おまえたちはかいじょうのしゅうりをしていたな?」


 子どもでもわかる言葉で聞くと、男はうなずいた。


「どんな内容だ?」

「ど、どんなって……おれらぁ、ただ穴開けて布かぶせられたモンを入れただけだぜ……」

「穴? 布をかぶせられたもの……?」


 不穏な言葉が出てきた。


「他には?」

「なんにも……ねえよ。おれたちはなにも……」


 男はそこで気絶してしまう。

 カールは見られる前にその場を去った。


(ますますわからぬ……誰がなにをしようとしているのだ)


 やはり父を問いたださねばならない。

 あるいは、ストンデード子爵を捕まえるか、それともその上にいるアンドレアス・テラグリエンから話を聞く必要があった。


 そうして意を決し臨んだ七日目――

 カールはあまりにも突拍子にない出来事に、我を忘れた。

 『少年の部・ハイクラス』の優勝者はアーニーズ・シントラー、つまりシントとなった。

 しかしそれは予想していたことでもあり、どうでもいい。

 問題は、ジンク・ラグナが出した褒美である。


 シントに対し、『成人男子の部』への出場権を与えたのだ。

 もう大会はめちゃくちゃ。シントも断ろうとしない。

 蚊帳の外に置かれた気分のカールは、周囲の目も気にせず父にくってかかったのだ。


 だが、ジンクはなにも語らない。

 【神格】を外には出さぬと言うばかりだ。


 本家へ戻ったカールは、もはやどうでもよくなってしまった。

 突き止められそうな不正に関することも心のすみにおいやり、珍しく酒を口にする。


「……まったく酔えぬ!」


 【神格】の所有者は超人。代謝は常人の数倍はある。酒に酔うことなどできない。酔うためにはそれこそ樽一杯は飲まないとならないだろう。

 ラグナに戻ってからというもの、いつも酒をたしなんでいる妹のマリアの気持ちが少しだけわかってしまった。


 家人たちが仕事を終えて引き上げた後も、カールは飲みながら独り言をつぶやく。

 そして気が付けば、朝、であった。

 どうやら自分はいつの間にか寝てしまっていたらしいことに気づき、愕然とする。


 急ぎ支度をして本会場に向かい、なんとか初戦に間に合う。

 自慢のひげも乱れた姿を見て、父ジンクはただ一瞥するだけだった。

 それがますますカールのイライラを誘うのだが、口には出さない。

 話したくもない気分だった。


 大会の最終日は滞りなく進んではいるが、どこか妙な雰囲気がした彼は、ラグナ六家の人々が座る専用席を見る。

 アンドレアス・テラグリエンはそこにいて、静かにバトルコートを眺めているのだ。

 どうでもよくなったはずの熱が再び蘇ってきたカールは、直接問いただそうと思った。


 確たる証拠はない。ただ、どうしても気になる。

 表向きは修繕費とされた大金がどこに、なにに使われたのか、それを知りたい気持ちがせり上がってきた。


 全てが終わったあとで必ず問いただすと心に決め、時を待つ。

 大会はもはや佳境。すでに準決勝が終わり、残るは決勝のみだ。

 ラルス・ウルヴァンなる者が棄権というハプニングはあったものの、次で大会は終わる。


(だが……勝つのはあやつであろう)


 シントはまったく本気を出さないまま、決勝まで来た。

 ボニファティウス・リオンズは間違いなく公国の中でも五本の指に入る魔法士ではあるだろうが、【神格】の所有者ではないのだ。

 現代でもっとも偉大であり、最強の名をほしいままにするジンク・ラグナと引き分けた甥が、大会などで負けるはずもない。


(ひどく出来の悪い出来レースを見せられている気分であるな)


 どうせこれも父とシントが巡らせている陰謀であろうと、心の中で言いがかりをつけた。


 決勝まで少しの間、休憩がある。

 カールは用を足そうと思い、席を立つ。

 

 だが本会場内の廊下である人物を発見し、足を止めた。

 軍服を着た男たちを引き連れた早足の男は、見覚えのある人物だ。


(あれは……アンドレアスの息子である)


 横顔を見るかぎりでは、テラグリエン家の長男、アルフレート・テラグリエンだった。

 月に一度行われる、大公とラグナ六家の当主が集まる会議において父親とともに参加してきたのを幾度か見ている。


 観戦もせず、軍人と思わしき者どもを連れてなにをしているのか。

 どう考えても違和感しかない集団に、カールは疑念を持った。

 いまの彼は、父やシントのせいで疑心暗鬼に陥っているのだ。

 大公らしからぬうかつな行動をしたとして、なんの不思議があるだろう。


 見つからない距離で追いかける。

 彼らは時折止まってはあたりを見回すため、気が抜けなかった。

 そして――


(……? 壁に向かってなにを……!?)


 驚いたことに、男たちの集団は壁を崩して隠し部屋を出現させる。

 土魔法によるものであるとすぐにわかった。


 もはや看過できぬ。

 そう考え、大公は廊下に身を躍らせた。

 駆け寄り、隠し部屋に入り込んだ者達に追いつく。


「そこでなにをしているのか」

「――!?」


 振り向いたアルフレート・テラグリエンは驚き、飛び上がらんばかりの勢いだ。闖入者であるカールをしげしげとながめ、ぎこちない笑みを作る。


「これはこれは大公さま……このようなところでお会いするとは、恐悦至極」

「挨拶はよい。アルフレートよ、おまえの後ろの装置はなんだ?」


 アルフレート・テラグリエンの背後には、真っ黒な四角い箱があった。

 高さは大人ほどもあるなにかのからくりだ。

 

「……ちっ」


 小さい舌打ち。

 アルフレートは邪悪な笑いを浮かべた。


「おまえたち、壁となれ」

「はは!」

「仰せのままに」


 五人の軍人が、大公であるカールの前に立ちはだかる。

 信じられない思いだ。

 

「ここで倒れたとしても、おまえたちの家族は子々孫々に至るまで厚遇すると、このアルフレート・テラグリエンが約束しよう」

「待て! なにを言っているのである!」

「こういうことさ!」


 装置が動き出す。

 カールはとっさの判断で水魔法を撃ち放った。

 だが、肉の壁となった男たちのせいで、わずかに遅れる。


「ぐっ……!? な、なんなのだ! これは!」


 急激なめまいと、脱力。

 魔力が練られないことに気づく。


反魔法アンチマジック……だと! ばかな!)


 魔法士が魔法士の国に反魔法を持ち込むなど、誰が予想できたのか。

 カールは片膝をついた。

 己の中にある【神格】神水ダイダルが暴れ、嫌がっているようにも思える。


「ふぅ……危ない危ない」


 アルフレート・テラグリエンは汗をぬぐった。

 彼は笑みを浮かべたままの顔で、大公に歩み寄る。


「き、きさま、なぜ……」

「おとなしくしてくださいよ。しかしまあ……【神格】の所有者でさえ封じ込めるとはね。くっくっく……楽しいものだ」

反魔法アンチマジックとは……なんというものを持ち込んだのだ!」

「おや? 知っていらしたのですねえ。マジで危ないなあ」


 カールはおかしいと思った。

 自分を封じ込め、部下を気絶させるほどの反魔法アンチマジックの中で、アルフレートは普通に動いているのだ。


「あなた様はここで寝ていてください。父上に報告しないといけないしね」


 装置がずっと反魔法アンチマジックを放ち続けているため、カールは動けなかった。

 どこからか取り出されたロープで両腕を縛られてしまう。


「抵抗しても無駄です。こんな至近距離でくらい続ければ魔法は使えない。体も動かない。まあ、仮になんとかできたとしても……」


 アルフレートはその先を言わなかった。


「あー……部下が全員寝たから僕が直接報告しなきゃな。うっぜー」


 若者らしい言葉を吐きつつ、彼は部屋を後にする。

 カールは意識がもうろうとしつつある中で、とびきりの嫌な予感というヤツを味わい続けることとなった――

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