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セブンスターズマジックバトル『パッション』12 闇を払う

 俺の周囲はいま、闇に包まれている。

 なにも見えない暗がりだけが、どこまでも続いていそうな感覚だ。


「音は聞こえない。気配も感じない。俺がいま発している声だって、聞こえていないな」


 口を開けて喋っても、なにも聞こえない。

 初めて味わう感覚に、驚いてしまった。


「あんたは強い。想像のはるか上だった。でもな、こっちだって負けられんのよ」


 ウルヴァンさんの声だけが聞こえる。

 術者本人だからだいじょうぶってことか。


 少し考えてみる。

 多くの感覚が奪われてしまったことで、できることは限られているのだ。

 

 しかし、ウルヴァンさんは火力の高い≪ライトバスター≫を撃ってはこない。

 つまり、他の魔法との併用は不可能。

 攻撃手段は、なんだろう。


 闇属性は全属性の中でもっとも癖の強いもの。

 俺が使える闇魔法は、実戦レベルには程遠い。

 たとえば少しの間小さな闇を作って目くらましをするとか、それくらいだ。

 モンスターウォーズで使用した大魔法は、ここじゃ使えない。


「いまから攻撃をするぜ。どこまで耐えられるかな……≪ブラックペイント≫」

「ん……?」


 全身にかかる圧力。

 まずい。このままではやられる。


「≪全方位障壁オールシールド≫!」


 硬い障壁を張る……のだが、見えない。

 だが、魔法が正確に発動した感覚はある。

 事実、圧力を体に感じなくなった。


「よくもまあ、やるもんだ。けどさ、なんにもわからねえだろ」


 不安が押し寄せてくる。

 発動しているはずなのに、なにも見えない。音もしない。

 発狂しそうになるな、これ。


「降参しな。潰されっぞ」


 降参など、しない。

 目には見えず、耳にも聞こえずとも、魔法が撃てる。


 感覚を研ぎ澄ませ。

 だいじょうぶ。まだやれる。

 おそらくチャンスは一瞬。

 それを逃すな。


「フゥーーーーーーーー……」


 深呼吸をし、目を閉じる。

 障壁を使ったままでは、他の魔法を使うのは難しい。

 しかし障壁を解けば潰される。


 イメージしろ。

 ずっと使ってきた俺の魔法を、信じるんだ。


「拡張展開、≪大広域障壁エリアシールド≫!!!!」

「なにっ!」


 全方位を守るシールドが徐々に広がっていく感覚。


「綱引きでもはじめようってか! させねえよ!」


 おそらくは力を強めたのだろう。

 こっちはなにも見えないし聞こえないから、逆に集中できる。

 俺の身に圧力がかからないイコール障壁はちゃんとできているってことだ。


 魔力をめぐらせ、胸の前で手を合わせる。

 障壁を押し広げ、領域を潰してやろうじゃないか。


「ぐう……おらああああああああああああ!」


 さらに力を込めたであろうウルヴァンさんだったが、ふいに闇が揺らいだ。

 わずかに目と耳が戻る。


 位置を確認。

 好機だ。

 術式を構築し、魔力を充填。狙撃態勢に入る。


「いけ! ≪重破魔弾カサネマダン≫」


 障壁を解除と同時に、魔法を撃ち放つ。

 圧力がかかる一瞬の間。

 二つの魔力弾が時間差で飛び、彼のいる空間を衝撃で薙ぐ。


「≪アースシールド≫!」


 遅いし、読み切ってる。

 ≪重破魔弾カサネマダン≫を選択したのは、土属性に対抗するためだ。


「ぐうおあ!」


 悲痛な叫びとともに、闇が消えた。

 ようやく感覚が正常に戻り、息をつく。


 ウルヴァンさんはよつんばいの恰好で荒く息をしている。

 もう限界だろう。

 終わりだ。


「嘘だろ……どうなってんだ」

「今度こそ、終わりです」


 手をかざしたまま、ウルヴァンさんには近づかない。

 動けば今度は魔力弾じゃなく、衝撃波を撃ちこむ。


「あんたって、マジでクールだぜ。おれの闇は……五感のほとんどを奪うはずだ。正常に魔法を使えるはずがねえんだけど……」

「魔法は術者のイメージ力がものを言う。それに、何百回も使ってるから、経験は俺を裏切らない」

「はっ! マジで最高!」


 まだ負けを認めないつもりだろうか。


「でも……まだだ。まだ納得はしない!」


 ウルヴァンさんは四つん這いのままポケットに手を突っ込んだ。

 

「≪衝破ショウハ≫!」

「うがはっ!」


 彼は吹き飛んだ。

 だが、黒くて小さな球がばら撒かれ、鈍い光を放つ。


「まさかこれ」


 すさまじく嫌な予感。

 部屋の隅まで転がる黒球たちは、結界を作り出した。

 

「なんてことを!」

「へへ……発動したみてえだな」」


 力が抜けかける。

 全身が痺れ、魔力が練られない。


反魔法術アンチマジックマジックを使うなんて」


 恐ろしいのはそれだけじゃない。

 反魔法を受けているのは、俺だけではないのだ。


「うひー……これ、マジできついぜ。気ぃ抜いたら倒れそうだ」

「なんのつもりですか」


 ウルヴァンさんは震える足を叩き、立った。

 でも、どう見てもフラフラだ。


「なんのつもりって、そりゃあこれだろ」

「――っ!」


 走り、殴りかかってくる。

 腕を交差させてガードした。


「魔法じゃあんたに敵わなかった。だったら最後は拳だよな」


 んなバカな。


「俺たちは魔法士です」

「そうだけど、一匹の男でもあるぜ?」

「反魔法を使ってまで、【神格】を奪いたいのですか?」

「いいや、もうそんなのどうでもいいわ。おれはどうしてもあんたに勝ちたい。誰よりも強い、とびきりの男にさ」


 なんの話か、理解が及ばない。


「おれはいままで、自分より強いヤツに会ったことがなかった。親父だって、たぶんおれより弱い」


 親父って、誰だ。


「世界は広いよなー……ほんと、ラグナに来てよかった。最高だ!」


 再び襲いかかってくるウルヴァンさんをいなす。

 彼は転がった。


「いってーな、おい。けどここまで来たらやるしかねーだろ!」


 立ち上がり、拳を振りかぶる。

 うん、とことん付き合うって思ったけど、だめだ。

 反魔法がでてきた以上、すぐに終わらせる。


「≪硬障壁ハードシールド≫」

「ぶっ!?」


 展開した障壁に顔面をぶつけたウルヴァンさんは一瞬だけ白目をむいた。


「ど、どうなってる……? なんで使える!」

「反魔法は魔法を使えなくするわけではありません。一瞬だけなら可能だ」


 遠距離攻撃は無理だが、一瞬のシールドならいける。何度も反魔法と相対した経験が活きているのだった。


「俺の勝ちです。ウルヴァンさん」

「くっ……おおおおおおおおおおおおお!」


 あと、これまでの一年くらいで反魔法をくらい過ぎたせいか、前よりも動ける気がするんだよな。

 すごく不本意で嫌なのだが、耐性がついたってことだろうか。


 かかってくる彼を、カウンターで迎撃。

 重さの乗った拳が、ウルヴァンさんのボディに突き刺さった。


「おぶ……」


 その場に崩れ落ちたのを確認し、そこを離れる。

 光を放ち続ける黒球を踏んづけて壊した。全部だ。

 そして最後に、床へ放った【神格】神風エルウィンを回収。息をつく。


「やっと解放された」


 一時はどうなることかと思ったけど、ウルヴァンさんは倒した。

 彼は大の字になって倒れ、天井を見ている。

 意識はあるようだ。


「まだやりますか?」


 すぐそばまで行って、声をかける。


「完膚なきまでにやられた。おれの……負けだよ」

「約束通り、話してもらいますよ」

「……だな。そうするぜ」


 半身を起こしてあぐらをかく。意外に元気だ。

 魔法の発動体勢は解かない。次になにかしたら、マジでブッ飛ばしてやる。


「安心してくれよ。やる気はねえ」


 ふっと微笑む。

 俺は腕を下げた。


「話ってもな、どこから話したらいいか」

「全部です」

「え、マジで?」

「マジです」


 はー、と盛大にため息をする。

 約束は、守ってもらおう。


「あなたの目的は、ウルヴァン家が追放されたことへの復讐ですか?」

「おいおい、知ってんの?」

「今回の仕事では、選手のほとんどを調査しています」

「ラグナにも知ってるヤツがいたんか。はー……」


 観念したように、うつむく。


「おれは復讐なんざ、考えちゃいない」

「では別の目的が?」

「言ったろ? 大会の優勝だ」


 たしかに最初から言っていた。

 

「だったらなぜ、棄権をしたんだ」

「だって、親父に頭を下げられちまったからな」

「親父って?」

「……」


 彼は顔を上げた。

 そして語り始める。


「復讐したがったのは、おれのじいさんさ」


 ウルヴァンの瞳は、悲しみに満ちている。

 彼がなにを思い、どうしてラグナへ来たのか、それを知る時がきた――

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