セブンスターズマジックバトル『パッション』11 最強の敵
おそらくは今大会最後の戦いが始まりを告げた。
ウルヴァンさんが魔法を構える。
俺は【神格】神風エルウィンを放り投げ、防御を始めた。
この一瞬の遅れが、不利を生む。
向けられた指先に集中する高い魔力。
「≪ライトバスター≫」
魔力が光となし、輝きを見せる。
あまりにも不吉で、死を予感する輝きに、のけ反った。
反らせた顔の真上を通るすぎる光の線。そして、熱。
信じられない。
「いまのを避けんのか。だが、まだいけるぜ?」
≪ライトバスター≫の連射。
弾速が速すぎる。
かわすので精一杯だ。
ウルヴァンさんは土属性の魔法士だったはず。
しかしいま使っているのは、光。
つまり、複数の属性を扱える【才能】ということだ。
彼が放つ魔法の威力は底知れない。光を極限まで束ねた光線だ。生半可なシールドでは貫かれる。
走りまくって的を絞らせない。それから障壁を発動した。
「≪魔障壁≫・五連!」
五枚に重ねた障壁へ≪ライトバスター≫がぶち当たる。
光線は四枚をぶち抜き、五枚目で止まった。
息をつくのも忘れるくらいの猛攻。
ウルヴァンさんは強い。ありえないほどに。
「フゥー……やるな」
「あなたこそ、複数の属性を使えるとは思いもしませんでした」
「あんたが言うことじゃないけどな」
お互い、息を整える。
≪ライトバスター≫は速く、すさまじいものだが、弱点はある。
光の特性なのか、真っすぐにしか飛んでこない。
緊張が最大限にまで高まる。
そして動いたのは、同時だった。
「≪アースブロック≫!」
「≪魔弾球≫!」
ウルヴァンさんは巨大な岩の塊を飛ばす。
対して俺は魔力球を展開。
「そいつはもう見た! ≪ライトバスター≫!」
「なに!?」
弾速の遅い≪アースブロック≫を避けようとした俺に、ではなく、自分の出した岩めがけての一撃。
太い光線が連射されて、岩を砕き、破片が乱れ飛ぶ。
急所を守るようにして、身を縮める。
腕や足に破片をくらい、下がらざるを得なかった。
≪魔弾球≫もまた炸裂に巻き込まれ、九つの内、八つが消失。
これはまいった。読まれていたようだ。
「これくらいじゃあ、倒れねえよなー」
いや、危なかった。当たり所がマシだから倒れなかっただけ。
「球はもう一つしかねえぜ? も一回出してみるか?」
彼は、≪魔弾球≫を使えばまた同じことをしてやると言外に表現している。
たしかに危険だ。
今の攻防は、攻撃ではなく≪魔弾球≫の発動を優先したおかげで、読み負けた。
でもまだ、一つ残っている。
魔力球に俺の周囲を旋回させ、術式を付与。
今度はこっちの番といこうか。
「≪魔弾≫!」
「≪ライトバスター≫!」
お互いの魔法が交差する。
床を蹴って踏み出すのは、前。
「≪アースピラー≫!」
「≪衝破≫!」
部屋を埋め尽くす勢いで突き出てくる何本もの土柱を衝撃波で破壊。
そして、≪魔弾球≫を蹴り飛ばす。
即座に左手と右手で別々の魔法を準備。
蹴り飛ばした魔力球はウルヴァンさんの作った土柱の一つに当たり、方向を変える。さらにまた別の柱にぶつかって跳ね返った。
彼の表情が変わる。
俺と球、どちらを先に潰すかを迷う一瞬の隙が生まれた。
「≪発破≫!」
「ちっ! ≪ライトバスター≫!」
俺の≪発破≫が先に発動し、魔力の炸裂を生み出す。
彼の放った≪ライトバスター≫がほんのわずかに狙いを外し、俺の肩をかすった。
「≪遮断障壁≫!!」
「なん……っだこりゃあ!」
ウルヴァンさんの背後に蹴り飛ばしておいた最後の≪魔弾球≫が障壁による檻が作り、彼を囲い込んだ。
そのまま飛びかかりつつ、準備しておいた右手の魔法を全力で打ち込む。
「≪衝破≫!!」
術式が耐えられる限界まで魔力を込めた発動。
衝撃波は障壁の檻を揺るがし、内部に深刻な破壊をもたらす。
「ぐがはっ!?」
地を吐き、片膝をつくウルヴァンさんに追撃を行う。
≪遮断障壁≫を解除。≪魔衝拳≫を発動。
このまま頭部を殴り、意識を刈り取る!
「≪アースナックル≫!」
「!!」
ウルヴァンさんは立ち上がりざま、魔法を発動した。
驚きに身を任せている余裕はない。
振り下ろした拳と、下からせり上がるような勢いの拳がぶつかる。
鉄を叩くような恐ろしい音がして、俺の体は弾かれた。
それはウルヴァンさんも同じだ。
思いがけず距離が空いてしまった。
「ってぇー……拳が砕けそうだ」
こっちも同じだ。右拳がびりびりと痺れ、感覚がない。
「あなたも魔法をまとえるのか」
「ああ、そうだ。おれはバカで育ちもわりーからよー、こういう必殺技に憧れんのよな」
彼は拳に土をまとい、当たると同時に発射。
俺と発想がよく似ている。
「あんた、ほんとうにクールだぜ。さっきから鳥肌が出てとまんねえ。あ、見る?」
「遠慮します」
というか毛を剃ったんじゃなかったか。朝にはそう言っていた気がする。
「あぶねえとこだったけど、しのいだ。この距離じゃおれが速い」
「ええ、ですが」
「ですが?」
「もう見破った」
「!?」
再び走る。
またしても左と右で別の術式を構築。
≪ライトバスター≫はたしかに脅威だ。当たったら致命傷になりうる。
しかし、いかに魔法であっても光という性質は変えられない。
そして属性の相性もだ。
「≪水之砲≫」
狙うのは彼じゃなく、真上。大量の水を天井めがけて放つ。
「≪ライトバスター≫! ≪アースブロック≫!」
光線は完璧にかわしきれない。腕をかすり服が破れ血が流れる。
土塊は見てから余裕。
天井から雨のごとく水が落ちる。
準備はこれでよし。
「≪極之炎≫!」
発生する黒炎が大量の水に反応し、熱気を帯びる。
ぶわっと流れ出る汗は、室内の湿度が急激に上がったせいだ。
もうもうと立ち込める水蒸気の中では、うっすらとしかウルヴァンさんが見えない。
きらりとした輝きが目に映った。
≪ライトバスター≫を発動したようだ。
俺はその場から動かない。
いや、動く意味がない。
彼の撃った光線は俺めがけて迫り、しかし突然方向を変えた。
「なっ……」
水蒸気の先から困惑する声がする。
さあ、お返しだ。
「≪魔弾≫」
弾速だってこっちも負けてない。
威力を高めた魔力弾が、ウルヴァンさんをとらえた。
「ぐお! ……≪ライトバスター≫!」
決死の反撃は、またしてもこちらに届かない。途中で曲がりどこかに飛んでいく。
これで詰みだ。なにもしなくとも、水蒸気が俺を守ってくれる。
≪魔弾≫を連射。
さきほどの被弾が尾を引いているのか、彼の動きは鈍い。
「終わりだ! ≪螺旋魔弾≫!」
腰を落とし、貫通する魔力弾を撃つ。
手応えありだ。
うっすらと見えるウルヴァンさんは、片膝をついた。
警戒を切らさず、近寄る。
彼は目を大きく開けて、俺を見上げていた。
「あんた、マジかよ」
「降参を」
「……≪ライトバスター≫が曲がったのは……アレか。水の中に光を通すと曲がるってヤツだな」
そうだ。
「屈折です」
「ここでんなもんできるかよ、普通……」
「さあ、わけを話してください」
ウルヴァンさんは返事をしない。
好戦的な笑みを浮かべ、今にも声に出して笑いを出しそうな表情だった。
「楽しいぜ。魔法ってのは……おもしれー」
なにもさせない。動けば、撃つ。
「まだだよ。まだ出し切ってないんだ、おれは」
「無駄だ。倒す」
「いいや、やらせてもらう。さっきの一撃を受けてすぐに、こっちは術式の構築にとりかかってんだ」
「なに?」
一瞬の出来事だ。
高められた魔力が一気に噴き出し、うかつにも態勢を崩してしまう。
「いくぜ! ≪ダーケストワールド≫!」
彼を中心として、巨大な闇があたりを覆った。
ウルヴァンさんが見えなくなる。
「領域型魔法。しかも、闇属性か」
「ああ、そうだ。果てしなき闇の世界……その絶望を味わってくれよ!」
なんということだ。
複数の属性を操る彼の【才能】は、思っていたよりもずっととんでもないものだったらしい。
土と光に加えて、闇か。
いいだろう。
準決勝の続きをとことんまで付き合ってやる。




