セブンスターズマジックバトル『パッション』8 大げんかを止めようとしただけなのに
先頭をゆくヴィクトリアが魔法士たちの群れへと突っ込んでいく。
全身にぶ厚い魔力をまとい、≪ドラゴーンパンチ≫を放つ。
バトルコートが割れ、何十人もの男たちが吹っ飛んだ。
彼女に続いて、ウチのメンバーたちがしかける。
同時にシスター・セレーネが≪リジネ≫発動。素晴らしいサポートだ。
俺は俺で≪漆黒ノ翼≫を用い、上空から下を眺める。
両脇にいるのはディジアさんとイリアさん。
「二人とも、アレを使う時です」
「アレって?」
「ラグナへ来る前に練習していた合体魔法を」
やっとお披露目できる。
対部隊用制圧魔法を使おう。
「じゃあいくよ! わたしの剣たち! 行って!」
イリアさんの作り出す巨大な一本の光剣が、バトルコートへと突き刺さる。
「ディジアさん、一二の三で!」
「わかりました」
「一、二の――」
「≪闇発破≫」
「≪魔衝撃≫!」
光と闇と俺の放った魔力弾がぶつかる。
三つの魔法がぶつかり合い、弾け、衝撃を生んだ。
障壁を張る者もいたが、無意味。
シールドは破壊され、衝撃は空気を伝播し、数百人がバタバタと倒れていく。
俺たちの魔法は十分に効果を発揮している。
ラグナの人々は密集してしまったがために、対応できていない。
かろうじて反撃を試みようという者も、ウチのメンバーたちが殴り倒す。
この場所へ降りてきたのが運のツキだ。
先制され、身動きもとれず、ただただ倒れていく。
欲に駆られ、甘く見た結果がこれ。
「シント、観客席のヒトが撃ってきそうですよ」
「問題ありません。俺が防ぐ。二人は下の数を減らしてください。あ、手加減をおねがいします」
「嫌です」
「いや」
なんてこった。
俺が思う以上に怒っているらしい。
「心配せずとも、命を奪ったりはしません」
「やっつけるだけだもんね!」
二人の猛烈な魔法が炸裂する。
俺も負けていられないな。
だけどまずは守りを固めよう。
「≪大広域障壁≫!」
バトルコートをすっぽり包み込むようにシールドを出す。
卑劣にも観客席から撃たれた魔法は全て遮断。
ついでに増援もさせない。
それから十分くらいたった頃、千人規模でいた者たちは全て倒れ伏した。
≪大広域障壁≫を解除し、下に降りる。
しかし、これだけやってもなお、観客席から降りてくる者達がたくさんいた。
おかわりがまた千人単位。
いいさ。こっちはまだやれる。ぜんっぜん元気だ。
「さあ! 死にたいヤツからかかってきな!」
「ウチのギルドなめんじゃないわよ!」
「首が斬れないの残念ですぅ」
「アイリーン、さすがに、きっちゃ、だめ」
カサンドラとリーアが叫び、アイリーンとダイアナが続く。
それを追い越すようにラナが飛び出し、撹乱。
態勢が乱れた集団へとウチのメンバーたちが襲いかかる。
すぐ横では男性陣プラスアニャさんがめちゃくちゃやってた。
「アニャ! 後ろ!」
「ダグマ! かがんで!」
テイラー夫妻はすれ違うようにして位置を変え、それぞれの背後を狙っていた男たちを拳と蹴りでノックアウト。
「また殴り合いになるなんてね」
「魔法士相手に素手で戦う! 素晴らしい体験です!」
夫妻のすぐ近くでは、突撃を敢行するクロードさんに苦笑を浮かべるグレイメンさんがいる。
二人は放たれる魔法を巧みに避け、拳をうならせた。
ラグナの人間のほとんどは、いきなり素手で襲われるなんて想定していない。
「ちゃんと受け身とらないとー……ね!」
首をつかんで、投げる。男は背を床に叩きつけられ、気絶した。
ラナはかなり活き活きしていると思う。
とにかく速くて魔法士たちを困惑させているのだ。
感心するほどに強い。
「ディジアさん、イリアさん、サポートおねがいします」
二人に脇を固めてもらい、≪魔衝拳≫を発動。
試合では使えなかったから、思う存分振るわせてもらおう。
「なあっ!」
「な、なんだこいつ!」
「拳に……魔力!」
さすがはラグナの民だ。俺が使っているモノをすぐに見抜いた。
でもそこまで。防御まで頭が回っていない。
≪魔衝拳≫、そして≪魔衝脚≫。
一人を吹き飛ばすと、周囲を巻き込んで倒れる。
追いうちでディジアさんとイリアさんが魔法を撃ち放つ。
俺たちを止められる者はいない。
「ん?」
ここでふと、目の前に四人の男が目に入った。
「ああ、あなたたちは審判団の人でしたね」
「アーニーズ・シントラー……」
「貴様! 大会をめちゃくちゃに!」
なにを言う。
めちゃくちゃにしたのはおじい様だ。
「すでに不正の証拠は掴んでいます。ある人物とグルになって闇賭博に関わっていますね?」
テキトーに言っただけだが、審判団の顔色が変わった。
「し、審判長……」
「くそ! どさくさにまぎれてころ――」
そのくだらないセリフを最後まで言わせるつもりはない。
一瞬で距離を詰め、拳を振りかぶる。
「は――?」
間抜け面の審判長の顔面へ一撃。
頬骨が砕け、全ての歯が折れ、遠くへ吹っ飛んだ。
「選手全員に謝れ」
「審判長ーーーーーーーーー!」
「なんだこいつ……つ、強すぎる! おごわ!」
「死神……! あがが!」
一人の意識をハイキックで刈り取り、もう一人を横蹴りでぶっ飛ばす。最後の一人はディジアさんとイリアさんが片付けた。
こんなんじゃ生ぬるい。起きたあとは不正を行った罪で裁かれろ。
もっとも、一か月は起きれないと思うが。
「だいぶ減りましたね」
「うん、もうかかってこなくなってきた!」
「いいえ、まだです。手練れがいない」
ずる賢いやつらは俺たちが疲弊するのを待っている。
「お、あれは」
視界のはじっこに見覚えのある顔をとらえた。
官服を着こなした若い男が二人。
壁際で俺を見ている。
「二人はここを死守してください」
「シント?」
「どこ行くの?」
「ちょっと挨拶に」
男たちに向かって駆ける。
二人はぎょっとしていた。
「お久しぶりですね。従兄さんたち」
「……」
「あ、ああ」
そこにいたのは、ユリスとマール。叔父上の長男と次男だ。
以前にやり合ったんだけど、復帰したようだな。
「二人も俺を倒そうと?」
「ま、待てよ! 僕たちは別に!」
マールが後ずさる。しかし、背後の壁にぶつかって止まった。
「我らは今回、運営を取り仕切っている。この大乱闘を止めようとしているのだ」
ユリスは俺をにらみつけながら言った。
「もう無理ですよ。おじい様が焚きつけたんだ」
「シント、おまえはなぜ帰ってきた」
「仕事だから来ただけ。帰ってなんていない。あと俺はアーニーズ・シントラーだ。シントではない」
「いやいや……それ偽名の意味」
文句がありそうだ。
よし、聞こう。
「とにかく、ここにいる以上は敵だ」
「だから待てって! 戦うつもりなんてないんだよ! そ、そもそもだ! 僕たちはもう……償った!」
償うって、なんだ。
「おまえにやられて、イングヴァルのバカにもやられてさ! だから、その、僕は迷惑をかけた連中を探し出して、謝ったんだよ! 賠償もしたんだ!」
それはいいけど、なんのつもりだ。意味がわからない。
「私も……危うく帝国で処刑されるところだった。マールと同じく、全員を探し出して賠償した。おかげで溜めていた財を全て失い、それでも足りず父上に借金まで……おまえのおかげでな」
「自業自得だ。人のせいにするな」
「わかっている。私は言いたいのはそこではない」
ふむ。
ちょっとは変わったか?
まあ、ぶっ飛ばすのは変わらないんだけど。
「我らがなにかをすれば、きっとおまえが来るだろう」
「それは仕事であればそうするけど」
「だからもう悪さはしないって言ってるんだ!」
そんなの怖いのか?
しかしユリスの言う通りだ。またなにかしようとしたら、今度はもう手加減などしない。
「でも俺たちを止めようとしているんだよね?」
「だーかーら! 戦う気は――」
ユリス従兄さんが右手を挙げて制す。
「マール、腹をくくるしかあるまい。こいつは我らを逃がさないだろう」
「よくわかりましたね」
「ちょっ……兄上!?」
「≪ファイアボール≫!」
【炎の貴公子】と呼ばれる男の一撃。
なるほど、以前よりも速く、強い。修行はしていたようだ。
でもそれは俺も同じ。
≪ファイアボール≫を片手で払い、至近の距離まで近づく。
「ちいっ!」
「≪漆黒之迅雷≫」
「ぐがががががががが!」
ユリス従兄さんはその端正な顔を歪めて、気絶。
「ち、ちくしょー! またかよー!」
今度はマール従兄さんが四属性の魔法を連発する。
こちらも精度が上がっていた。でも、甘い。
「≪漆黒之迅雷≫!」
「ひええええええええええ!」
超レアな【才能】である『四属性魔導』の使い手は兄と同様の運命をたどり、意識を失った。
従兄さんたちはすごい【才能】を持っているけど、戦闘の経験がなさすぎる。
そんなんじゃ、俺は倒せない。
「反省しているようだけど、もっと反省するべきだ」
このせりふ、気絶する前に言ったほうがよかったかな。
まあ、どうでもいいか。




