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セブンスターズマジックバトル『パッション』7 ぜんぜん決着じゃなかった

 しかたがないので、兜を脱ぐ。

 上空の魔法窓には俺の顔がでかでかと映し出された。


『おおおおおおおおおおおおおっと! これは中々に…… 眼鏡をかけた子犬系男子の登場だーーーーーーーーーーーーー!』


 子犬ってなによ。 

 初めて言われたんだけど。


 誰も俺がシント・ラグナだって、気づいてない。

 今の俺はアーニーズ・シントラー。

 髪の色はグレーで、眼鏡をかけている。

 さすがに瞳の色は変えられなかったけど、眼鏡のおかげでどんな色かわかりにくくなっているはずだ。黒髪で黒瞳であることを覚えている人はけっこういるはずだが、この姿だったら別人と言い張ることができるだろう。


 ラグナへと入る前から、俺は準備を整えていた。

 ビダルさんの美容院で髪を染め、髪型をいつもとは違うものにしている。

 ミュラーさんには伊達メガネをおねがいし、それも合わせて二重の変装をしていたのだ。

 

 おじい様は言葉を失い、びっくりしていた。

 隣の叔母上もだ。

 ああ、楽しい。おじい様の普段は見られない顔を目の当たりにすると、喜びが込み上げてくる。


『……それが、素顔であったか』


 どことなくしょんぼりしているような。

 それはさておき、どうする気かな。

 俺がかつてはシント・ラグナであったとばらすつもりか?

 

 おじい様の狙いは、おそらく『混乱』。

 さらに言うと、混乱をもたらした後の炙り出しだ。


 それは俺の計画と違う。

 だから、従ったりはしない。


『くくく……はーはっはっは!』


 おじい様は笑い始めた。


『アーニーズ・シントラーよ……おまえは確かに強い。が、しかし、おいそれと【神格】を外へ出すわけにはいかぬ』


 まあ、そうきますよね。


『おまえには爵位を与える。公国に尽くすがよい』


 そんなことだろうと思った。

 まったくもってお断りだ。


 おじい様と対峙したり、話したりしてその為人を知った。

 あの人は一つの事柄に多くの意味を見出し、様々なものを引き出そうとする。

 状況の混乱と、俺を【神格】とともに公国へ戻すことが狙いなんだろう。

 いくらなんでも欲張りすぎだ。


 反逆者をあぶり出し、饗団の企みを潰し、俺を戻し、【神格】もとどめる。

 しかし、相手はおそらく何年も前から今日のための準備をしているのだ。いくらおじい様でも、これは悪手だと思う。 


 俺は実況席の下に近づき、跳んでテーブルの上に乗った。

 少しばかり行儀が悪いけど、大目に見てほしいところだ。


「すみません、その拡声魔導具を貸してください」

「え? あ、ああ、はい。マイクをどうぞ」


 実況の方――名はドレダールさんだったか――から魔導具を受け取る。

 ていうかこれマイクって言うんだな。


『あーあー、聞こえていますか?』


 テストはオーケー。問題なく聞こえている。


『先々代、爵位とかどうでもいいので、【神格】をください』

『ほう? わしが爵位を授けると言っておるのに、断ると』


 空気が変わった。

 ブーイングなどという生易しいものではなく、憎悪が会場中からぶつけられる。


『であれば【神格】は諦めよ』

『優勝したのに賞品をもらえないとは。ラグナ公国の約束っていうのはどうやら反故にされる前提のようですね。それはいささか狭量なのでは?』


 あえて言ってみる。

 どう出るのか。


『では爵位に加え、将軍の地位と、十天魔の隊長に任命するが?』

『いりません』

『宰相の地位が望みか? それとも大公か?』


 それ言っていいのか。

 叔父上が席を外していてよかったと思う。


『まったく興味がない。すみませんが、そろそろ終わりでいいですかね。疲れてるんで』


 はっきりと告げる。

 会場がしーんとなった。


『聞いたか? 我が国の者どもよ。アーニーズ・シントラーは公国の位では不足らしいのう』


 おじい様が焚きつける。

 怒りがもたらす魔力は渦を巻き、会場を包み込んだ。


『ふむ。こたびの祭りは大盛況であった。それも全ては我が国の民たちの情熱があってこそよ。だが……このまま終わらせるのも忍びない』


 なにを言い出す気やら。


『これより最後の魔法戦を行おうぞ。誰でもよい。このアーニーズ・シントラーにとどめを刺した者へ、侯爵位を授けるものとする。とうぜん、【神格】もである。ラグナ六家へ新たに加え七家とし、子々孫々に至るまで厚遇しよう』


 マジかよ。

 いくらなんでも焚きつけすぎだ。


『貴族だろうが、そうでなかろうが、男だろうが、女だろうが、関係はない。我こそはと思わん者、アーニーズ・シントラーを倒せい』


 おじい様の炎が俺を襲う。

 避けざるを得ず、バトルコートへと舞い戻った。


 観客の全ての視線が俺に集まっている。

 静まり返った会場は、あまりに不気味だ。


『誰もおらぬか。であれば、全員でかかればよい』


 おい。


『とどめを刺した者への褒賞は思いのままだ。これよりは無礼講。わしがしっかりと見ておるゆえ、あとのことなど気にせず存分に戦え。猛き魔法士たちよ』


 最初の一歩を踏み出したのは、観客席にいた若い男性だった。

 観客席からバトルコートへ飛び降り、俺に近づいてくる。

 それから続々と降りてきた。

 俺を倒そうとする者の数はあっという間に百、二百と増えていく。


 観客席には数万人がつめかけているから、どんどん増える。

 それに、あとから参加しようという者もいるだろう。

 ひどい話だ。

 結局、最後の最後まで悪役ということか。


 完全に囲まれてしまった。

 バトルコートへ降り立った人間は数えきれないくらいとなってしまう。


 いまにも最悪の戦いが始まろうとした時、真上から降ってくる影が二つ。

 美少女姿となったディジアさんとイリアさんである。

 俺の両隣に立って、魔法を構えた。


「シント、さすがにもうわたくしは我慢の限界です」

「信じられないよ。なんでこうなるの?」


 めっちゃ怒ってる。

 いままでにないくらいすごい顔してる。


「わたくしたちは……あなたに謝らなければ」

「ほんとうに、ごめん」


 なぜ二人が謝る。


「シントは、実は故郷に帰りたいのではと、そう思っていました。でも……間違いだったとわかりました」

「ぶーいんぐとか、ひどすぎるし。いまだって、なんのつもりなの?」


 そうだよな。普通に考えたらおかしいんだよな。

 この奇怪な状況も仕事の過程なのだけれど、俺たちの予定にはないことだ。

 おじい様の企みは、俺を引きこもうとすることにまで及んでいたわけ。


「そうですね。俺もそろそろ……怒っていい時なのかも」

「怒髪冠を衝いていいと思います」

「どはつどはつ!」


 そんな言い回し、どこで覚えたんだ。


「やりましょうか。まあでも、俺たちだけじゃ、ね」

「シント?」

「せっかくの祭りだ。みんなも呼ぼう」


 今回の仕事とは別に、試合では不正をされてアリステラとヴィクトリアは逆転された。

 いつもの俺だったら、全ての可能性を想定すべきだと言っていただろうよ。

 でも、みんなぎりぎりの戦いだった。テラグリエン家の女性たちはモンスター料理を取り込み力を増していたにも関わらず、二人は渡り合っていたんだ。

 そんな状況に横やりを入れる?

 ふざけるな、と心から思う。


「ディジアさん、少しだけ予定変更です。≪闇空ノ跳躍(ジャンプ)≫をおねがいできますか?」

「もちろんですが、どこへ?」

「いえ、逆です。観客席にいるウチのメンバーを全員、ここへ」

「わかりました。いきます……≪闇空ノ跳躍(ジャンプ)≫」


 魔法の発動とともに黒い魔力が溢れ出し、ウチのメンバーたちが瞬時にバトルコートへ現れる。


『なっ……! これはどういうことだ! い、いま……突然出てきたーーーーーーーーーーーーーー! マルセル様! とんでもないことに……って、マルセル様どこに行ったのォォォォォォ! 戻ってきてぇぇぇぇぇ!』


 実況の人は最後まで声を届けるらしい。すごい根性だな。


「みんな、予定変更だ」

「シント、どういうことだい?」

「ああ、いや、みんなもストレスが溜まっているだろうと思って」


 俺の言いたいことをわかってくれたのか、ほとんどのメンバーが獰猛すぎる笑みを浮かべる。


「アテナ、戦闘員ではないメンバーを守護してくれ。メリアムさんもミリアちゃんをおねがいします」

「ええ、わかっています。まあ……ちょっと暴れたいのですけど」

「はは、わたしだいじょうぶ」


 ミリアちゃんもノリノリだな。まだ七歳でこれだから将来が楽しみすぎる。

 だが、いまはお預け。【神格】神馬ザンザスの所有者ではあるけれど、おとなしくしてもらおう。


「俺のミスでこんな状況になってしまった。みんながあのまま観客席にいたら、おじい様に人質とされるかもしれないしね」

「……シント、むしろ最高」


 アリステラが拳をバキバキ鳴らす。


「ハイマス、武器は?」

「ごめん、殺し合いじゃないし素手で頼むよ」


 リーアは逆に楽しそうだ。


「いやー、アリステラ姐さんじゃないけど、むしろいいんじゃない? ぶん殴り放題だし」

「ミューズさんたち事務方はアテナの後ろへ……って、アンヘル嬢は?」


 見ればアンヘル嬢がいない。


「さっきまでいたけどねえ。まっ、あの子はいないほうがいいさ」

「そうよ。あとで問題にされちゃうかもしれないし。それと、わたしたちのことは気にしないでいいわ。もうここまで来たんだもの。思う存分やっちゃいなさい」


 おお、ミューズさんの貫禄が頼もしすぎる。

 去年のホーライではあわあわしてたけど、今回は一味違うわけだ。


「相手はみんな魔法士だ。気をつけ――」

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 セリフの途中でヴィクトリアが雄叫びとともに突っ込んでいく。

 

「ヴィクトリア! あんたなにをして――」

「カサンドラ、いいんだ」

「シント」

「一番悔しいのは彼女だしね。それに」

「なにさ」

「君も闘気がすごい。とんでもない圧だ」


 俺の言葉を聞き、カサンドラは笑った。


「この国に来た時から気にくわなかったよ。あんたの故郷だから遠慮していただけさ」

「遠慮なんていらない。俺の帰るべき場所は……フォールンだ」

「ああ! それもわかってる! あんたたち! 祭りだよ! 全員……ブッ倒すさ!」


 カサンドラが、アリステラが、ラナが地を蹴って駆け出す。

 これぞ大喧嘩だ。

 俺もまた空へと飛翔するのだった。

 


 

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