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セブンスターズマジックバトル『パッション』6 大会の決着

「それはいったい……なんの魔法なんだ!」


 驚きに満ちた顔のまま、ボニファティウスさんは下がった。

 それは悪手だ。もう遅い。


 地を蹴ってから、彼の背後までは一瞬。

 至近距離から≪衝破ショウハ≫を打ち込む。


「なあっ!」


 吹き飛んだボニファティウスさんは空中で態勢を立て直し、綺麗に着地。

 すぐさま≪クラップ≫を撃とうとするも、俺はもうそこにいない。


「ど……どこに!」


 すでの真横への移動を終わらせている。

 続けて≪衝破≫。

 衝撃波は彼の全身を撃ち叩き、バトルコートへ転がす。


「ぐうおああああああああああ!」


 彼はまだ倒れない。決死の表情で立ち上がりながら≪クラップ≫を連打し、俺を近づけさせない。


「なんということだ! そんな……()()()()()()()()()()だって!?」


 ≪魔錬体マジックボディ鎧魔導アーマードブースト≫をもう見抜いたか。

 しかし、いまさらだ。


「信じられない……身体能力が跳ねあがっている!」


 それも合ってる。

 

「降参しますか?」

「……まさか。そんなものを見せられては……僕も全てを出すしか、ない!」


 ボニファティウスさんの全身から衝撃波が繰り出される。

 

『今度はなんだーーーーーーーーーーーーーーー! まさに一進一退の攻防は佳境を迎えておりました! アーニーズ・シントラーがよもや勝利というところでボニファティウス・リオンズ選手がなにかを撃とうとしているーーーーー!』


 ≪ミュート≫は解除されたようだな。

 周りの音が入ってきた。


「いきますよ! シント君! ≪サウンドワールド≫!!」


 彼を中心として、魔力による領域が生まれる。

 やはりボニファティウスさんも領域型魔法を会得していたか。

 

「僕の最大の一撃! ≪フィナーレ≫!!」


 全方位からの振動魔法。まともにくらえば四分五裂。

 だけど――


「効かない……ですって?」


 俺の新しい切り札、≪魔錬体マジックボディ鎧魔導アーマードブースト≫は魔力が続く限り破壊は不可能。

 ただし、消費が激しく、いまの俺では五分と持たない。

 とはいえ、実戦での五分はそうとう長いわけで。


「終わりにしましょう。≪魔衝烈覇マショウレツハ≫!」


 右腕一本に魔力を集中させる。


「≪断界爪牙ダンカイソウガ≫!!」


 大きく勢いをつけて、目の前の空間に拳を叩きつけた。

 魔力をともなった拳が空間そのものを揺るがし、領域型魔法≪サウンドワールド≫を破壊。


 ガラガラと奏でられる破壊の音は、まるで楽曲。

 そして、撃ち放たれた巨大な魔力はボニファティウスさんをも巻き込み、派手に吹き飛ばした。


「ぐがはっ!?」


 壁に背中を強打した彼は、ずるずると崩れ落ちる。

 

『決まったーーーーーーーーーーーーーー! しかぁし! この一連の攻防! マルセル様! これはいったい!』

『おそらくではありますがな! ボニファティウス・リオンズ選手は領域型魔法を発動したのですぞ! ですが! アーニーズ・シントラー選手はそれを! あろうことか殴って破壊! 信じられませんわい! 興奮が止まらぬっ!』

『殴って破壊っ!? バァカな! 領域型魔法は最先端なのに!』


 俺はまだ魔法を解除しない。

 ボニファティウスさんの目は、まだ死んでいないのだ。

 彼は壁に背を預けて、立ち上がった。


「ハアッ……ハアッ……」

「ボニファティウスさん、まだやれます?」

「もち……ろんです。僕はまだ、負けない……」


 無理だな。

 これ以上続けては、いま負った怪我が重くなる。

 それはちょっとよくない。

 

「まさか……殴って領域を破壊するだなんて……」

「領域型魔法は攻撃の完成形。回避は不可能だ。一度発動されてしまっては、打つ手が限られる」

「でも、君は……破った。上書き以外の方法で……」

「いいえ、ある意味上書きです」

「え……?」


 俺はモンスターウォーズにまつわる出来事の中で、ヴィクトリアの魔法を見た。それが始まり。

 彼女は魔法をその身にまとい、とんでもない力を発揮していた。

 ただ魔法をまとうだけなら、すでに≪魔衝拳マショウケン≫がある。

 だから、もっと先を考えてみた。


「結論は、領域型魔法をまとうこと。それが≪魔錬体マジックボディ鎧魔導アーマードブースト≫」

「……」


 あ、説明している間にボニファティウスさんは気絶してしまった。

 もっと魔法について話したかったのだけれど。

 

 しかしこの人は、ほんとうに強かった。

 危うく負けるところだったと思う。

 その実力は【神格】の所有者並みだと言っておこう。


『……つ、ついに……ついに決まったァァァァァァァァァァ! 優勝者は……アーニーズ・シントラーだーーーーーーーーーーーーーー!』

『まさしく名勝負でしたな! この場所にいられたことは僥倖! 眼福とはこのことですわい!』

『当初は互角。次いでアーニーズ・シントラーがリード。そこからボニファティウス・リオンズ選手の逆転! しかし! 本気を出したアーニーズ・シントラーがひっくり返し……と、信じられない出来事の連続!』

『決勝の大舞台にふさわしい、最高の試合となった! ありがとうですぞ!』

『いやー……招待選手が優勝などどうかとは思いましたが……アーニーズ・シントラーは強い! 史上初の二部門優勝! 誰もなしえなかった快挙です!』

『快挙にふさわしい実力の持ち主に相違ないですな! わしもあと二十若ければ、指南をおねがいしていたところですぞ!』


 歓声はない。

 ただざわめきだけが聞こえる。

 もはや観客はどうでもいい。

 今からが本番だ。


 実況と解説がなされる中、ボニファティウスさんがタンカで運ばれていく。

 急いで引き留め、試合前に書いた手紙を意識のない彼の懐に忍ばせた。

 医療班には変な顔されたけど、気にはしない。


 仕込みは終わった。

 これから閉会式が始まるから、俺は引き上げるとしようか。


『さあ、これから表彰式に移ります! が、その前に成人男子の部の優勝者へ先々代様からお声をいただくことになっておりますので、みなさまご清聴ねがいます!』


 なんだって? 

 そんな予定あったか?

 すっげー嫌な予感するんですけど。


『それでは我が国の先々代大公であらせられるジンク・ラグナ様より、お言葉をちょうだいいたしましょう』


 本家専用席を見る。

 おじい様と、隣に叔母上がいた。

 どうしてか叔父上はいない。トイレにでも行っているのだろうか。


 おじい様は立ち上がり、拡声の魔導具を手に話を始めた。

 上空の魔法窓にでかでかと映し出されるジンク・ラグナの顔は、にこやかだ。

 いや、にかやかというよりは、邪悪な笑みに見える。


『ジンク・ラグナである』


 会場が静まり返った。


『まったく……見せつけてくれるものよ。領域型魔法を新たな方法で破りおったか』


 はいはい。お褒めにあずかり恐縮です。


『見事であった! アーニーズ・シントラーよ! おまえには褒美として賞金に加え、【神格】神風エルウィンを授ける』


 まばらな拍手だ。

 観客席の人々は、まず間違いなく魔法系【神格】を国外に出さなければならないことに、不満を感じているはず。


『アーニーズ・シントラー! その兜を取れい! わしにその勇士たる面を見せよ!』


 ハア?

 なに言ってんのよ。


七星武界魔錬闘覇しちせいぶかいまれんとうは二部門を制した最強の魔法士よ。誰もが素顔を知りたがっておる! 拝ませてやれい!』


 おいおい。

 なんのつもりだ?


『それとも、素顔を見せられぬわけでもあるのか? ん?』


 しつこい。

 というかふざけてる。

 ここで俺の正体を暴いて、どうするつもりだ?


 おじい様の言葉に乗っかって、観客席から野次が飛んだ。

 兜を脱げ、だの、素顔を見せやがれ、と叫んでいた。


『どうした、アーニーズ・シントラー。早く脱げい!』


 ため息をつきたくなるな。

 おじい様の隣にいる叔母上がなにかをしゃべりかけているけど、おじい様は取り合おうとしない。

 瞬く間に会場は『ぬーげ、ぬーげ』の大合唱となった。


「しかたないか」


 兜に手をかける。


『ついに素顔が明らかになるううううううううううううううう! 新世代最強の魔法士の尊顔! ごはいけーーーーーーーーーーーーーーん!』


 最後までうるさい実況だ。

 俺がここで素顔をさらせば、シント・ラグナであると気づく人間もいるだろう。

 あーあ、まんまとやられた。

 いまさら脱ぐのをやめることはできない。

 俺の冒険者人生も終わりかも。


 なんてね。


 そんなことはないんだな。

 兜を脱いで、顔をだしてみた。

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