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セブンスターズマジックバトル『パッション』4 決勝開始の鐘の音

 準決勝第一試合はボニファティウスさんとフェシス・シュバインシュタイガーという魔法士の対戦となった。

 試合を見たいところだが、それはやめておく。

 選手専用カフェに行き、ペンと紙をいただいて、手紙を書くことにした。

 

 たいした内容じゃない。

 ちょっと筆を走らせて、完成。

 四つ折りにして小さくし、懐にしまう。

 これは後で使うかもしれないものだ。


 待機室に戻る途中でまた怪しい軍人を見つけて狩る。

 これまで倒した男たちはなにも喋らず自害しようとするから全員異次元の穴に収納してある。


 饗団の人間にはもはや慣れたもの。

 どうせこちらにとって有用な情報など持ってないんだから、聞くだけ時間の無駄だ。


 あとは『いつ』ということだが、それも見当がついている。

 そもそもはなから勝ち目の薄い戦いだったことに気づいた時、おのずとやることは決まったのだ。

 いつ『その時』が来てもいいように、心の準備だけはしておく。


『決まったァーーーーーーーーーーーーーーーー! ボニファティウス・リオンズ選手! 瞬殺! 瞬殺だーーーーーーーーーーーーー!』


 もう終わったか。

 結局、試合は見られなかった。


 そろそろ出番がくる。

 俺の相手は、ラルス・ウルヴァン。

 どこか憎めない、変わった人だ。


 彼がほんとうに饗団の人間なのかは、これからわかる。

 だから、全力でやらせてもらおうか。

 

『まさに優勝候補筆頭! 新世代最強にもっとも近い魔法士だーーーーー!』

『彼は先々代様の元で多くの経験を積んでいると聞きますからな! 先のモンスターウォーズでも大活躍だったとか! まったく、公国の未来は明るいですぞ!』


 もう優勝が決まったみたいな話になっている。

 けど、それはもうさせない。

 ボニファティウスさんが優勝ではだめだ。

 ましてやウルヴァンさんなんかは一番優勝させてはいけないと思う。


『さああああああ! 注目の一戦が近づいてきたぞおおおおおおおお! 招待選手ながらここまで上がってきた二人! アーニーズ・シントラー対ラルス・ウルヴァン選手ーーーーーーーーー! まずはああああああああ! アーニーズ・シントラーの入場だーーーーーーーーーーー!』


 またしてもブーイングか。

 そろそろ少しくらいは応援してくれてもいいんじゃない?


『黒き死神! 夜を支配する闇の魔導! 黒のマントをなびかせてーーーーー! いまここに! 降! 臨!』


 いくらなんでも大げさにすぎないか。

 ウチのメンバーはきっと観客席で笑っているんだろうな。


 小さくため息をつきつつ、バトルコートへと入る。

 ここまでくるとさすがに緊張が増してきた。


『西側より入場の男はああああああああああ! まったく底の見えない曲者! 公国外からやってきたもう一人の死神! ラルス・ウルヴァンーーーーーーーーーーーーーーーーー!』


 ウルヴァンさんにもブーイングか。ラグナの人間ってのはどこまで外の魔法士が嫌いなんだ。

 でもおかしくなーい?

 ヴィクトリアやアリステラはけっこう応援されていたような。

 男限定で厳しいってこと?


『さああああ! 入場だーーーーー! ラルス・ウルヴァン選手ーーーーーーーーーーーー!』


 ウルヴァンさんはまだ来ない。


『えーと……ラルス・ウルヴァン選手の入場! 出でよ! 猛き魔法士!』


 マジで来ないな。

 どうしたんだ。


『ラルス・ウルヴァン選手が姿を見せません! これはどういうことなんでしょうか』

『ふーむ。まさかの棄権ではないでしょうな』


 ウルヴァンさんが棄権だって?

 そんな風には思えなかったが。


『どうしたことでしょう! あ、ここで運営より伝達が来ました!』


 一拍置いて、実況が伝達の内容を告げる。


『なんとなんとおおおおお! ラルス・ウルヴァン選手棄権! 棄権するとの意思を表明ーーーーーーーーー! これによりアーニーズ・シントラーが決勝進出だーーーーーーーーーーー!』


 会場を揺るがしかねない大ブーイングが起こる。

 俺だってびっくりだ。

 

『なにがあったのでしょうか? 怪我を負っていたようには見えませんでしたが……』

『ラルス・ウルヴァン選手は魔法戦を楽しんでいたようにも思えましたからな。ふむ……』


 実況と解説、特にマルセル・ノスケー元子爵の声が暗い。

 アンヘル嬢の話では、あのおじいちゃんの家とウルヴァン家には関りがあったそうだし、納得はいってなさそう。


 ここにきてウルヴァンさんの棄権とは。

 まったく、思い通りにはなってくれないらしい。

 力を温存したまま決勝に臨めるのはいいのだけれど、それが逆に怖さを感じてしまうのだ。


 とにかくもいったん待機室へと戻る。

 誰もいないから、一息つけるだろう。


 観客席はどよめきがおさまらないでいる。

 こちらの予定は大きく縮まった。いや、縮められた。

 

「…………ふぅーーーーーーー」


 大きく深呼吸をする。気持ちを切り替えないといけない。

 まずは決勝。

 相手はおそらくラグナ最強格の使い手。

 おじい様や叔父上、叔母上はどういう魔法を使うのか、ある程度は知っていたから、やれた。


 しかしボニファティウスさんは未知の相手だから、俺が負けることだって十分にあり得る。

 乱れそうになる呼吸を整えて、バトルコートへと向かった。

 ちょっと早いけど、いいだろう。


 あっちも戦いをすぐに終わらせたから、試合をしたいはずだ。

 案の定、ボニファティウスさんは姿を見せた。


『おーーーーーーーーーっと! まだ開始ではないというのに! 両者! 示し合わせたかのように相対するーーーーーーーーー!』

『若者らしい気概! 血が騒ぐといったところでしょうな!』


 ボニファティウスさんは柔和な笑みを浮かべて、俺の目の前まで歩み寄る。

 右手を差し出してきた。

 なにもしないのは失礼かと思い、握り返す。


『シェイクハンドだ! なんと紳士的! さすがはボニファティウス・リオンズ選手! 公国の模範たるを示したーーーーーーーーーー!』


 実況の声に応じ、観客の女性たちが大声援を送る。


「すごい人気ですね」

「困ったものです。もちろん、嬉しくないわけではないのですが」


 ボニファティウスさんは俺の手を離そうとしない。

 貴公子然とした端正なマスクからは想像だにしない握力だ。

 やる気か?

 こちらも握り返す。


「シント君、僕は君と魔法戦をしたかった」


 笑顔を崩さない。

 しかし、俺たちの手は血管が浮かび上がり、破裂しそうな勢いだ。


「モンスターウォーズは……ほんとうに絶望的な戦いだった。生き延びれたら僕は君に魔法戦を挑もうと思っていたんです」


 そういえば彼と作戦について話したあと、なにかを言いかけてたな。

 これがその続きか。


「こんな形で僕は戦いたくなかった」

「そうなのですか?」

「ええ、こんな試合では、君は本気など出さない。そうでしょう?」


 つい昨日まではそうだった。

 だけど、いまは違う。

 

「いえ、火が点きました」

「意外ですね」

「俺も自分のことが意外に思いますよ。試合になどなんの価値もないと考えていました。けど、そうじゃないとわかった」


 ここでボニファティウスさんは手を離した。


「なるほど。なぜそう思うのか、ぜひ聞きたい」

「試合の直前ですけど」

「たしかにそうです。周りの声が少しばかりうるさいですね」


 ボニファティウスさんは軽く手を挙げた。

 そして。


「≪ミュート≫」

「!!」


 魔法の発動。次の瞬間には音が消える。

 とても静かだ。


「僕は静寂が好きです。新しい朝の、ちょっと空気が冷えている時が一番だ」

「同感です」


 早朝に魔法の訓練をすることが多いから、気持ちはわかる。


「改めて理由を聞きたい。教えてほしい」

「ラグナでは魔法の【才能】が絶対で、それが覆ることはほとんどない」

「ええ、それがラグナです」

「でも、試合を見ていて思いました。【才能】だけでは説明できないものがあるとね」

「シント君、それは?」


 全部を言語化できるとは思えない。

 ただ熱くなった。

 それを俺は認める。

 胸がときめいたんだ。


「一言で表現するなら、想い、ってことかも」

「シント君も感情的になることがあるのですね」


 呆れられるかと思ったが、そうではないらしい。

 今度は逆に聞いてみる。


「ボニファティウスさんは? 試合にはなにも価値がないと?」

「そんなことはありませんが、さほど興味もないと告白しましょう」


 どこか冷めた口調だ。


「ただ僕も……あるいは感情的な人間かもしれません」


 一転、言葉が熱を帯びる。


「実は、先々代様の跡を継ぎたいんです」

「大公になりたい?」

「いえ、肩書などはどうでもいいことです。あの方の精神を受け継ぎたいと、切に願っている」


 精神的後継、といったところか。


「そのためには、君を、倒さなくては」


 どうやらこれが本音みたい。


「俺の事なんて、放っておけばいいのに」

「それはできません。先々代様を倒した魔法士が外にいることを僕は認めない」


 ボニファティウスさんからとてつもない熱を感じる。

 

「君を倒す。それがいまの、僕の目標」


 まっすぐに見つめてくる真紅の瞳に揺らぎはない。

 この熱いまなざし。

 目をそらすことは、できそうになかった。


「始めましょう。最後の試合を」

「ええ、やりましょうか」


 いよいよ七星武界魔錬闘覇最終試合が始まる――

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