セブンスターズマジックバトル『パッション』3 やれることはやろう
『成人男子の部』本戦二回戦が進む中、俺は待機室を出て観客席に向かった。
いろいろとやっておくことがあるからだ。
バトルコートではウルヴァンさんの試合が行われている。
みんなそこに目が釘付けだから、見つからずに行動できるというもの。
≪光迷彩≫の魔法を使用し、周囲に姿を溶け込ませた。
ここは魔法士の国だから違和感を覚える人もいるだろうが、明確に気づくものはいないはずだ。
案の定、気づかれてはいない。
そのまま最前列近くにまで移動し、ラグナ六家の人々が陣取る貴族席を見た。
腕を組み、表情も変えず鎮座する男に注目する。
昨日は変装のつもりなのか、一般人じみた服装だったが、いまは官服を身に着け、真紅のマントを着けている。
縫い付けられた紋章は、テラグリエン家のもの。
やはり昨日の男は、テラグリエン家の当主アンドレアスその人だ。
ここにいるのは確認した。
次は会場内に戻る。
事前の調べでは、会場内に仮設の警備本部があり、そこに目的の人物がいるはずなのだ。
≪光迷彩≫を維持したまま、廊下の端を進む。
途中、多くの運営、あるいは軍人らしき男たちとすれ違った。
だいぶものものしい雰囲気だ。
場所はそう時間をかけずに発見できた。
開け放たれたままの入り口付近には誰もいない。みな出払っているようだ。
≪光迷彩≫を解除し、中をのぞいてみる。
机に座る眼鏡の男性。凛々しい軍服に身を包み、肩に付けられた紋章は炎と天秤。ラグナ六家アルラグナル侯爵家の家紋だった。
髪をオールバックにし、いかにも切れ者を思わせる風貌の彼は、フリット・アルラグナル卿。
今大会の警備主任をしていると聞いた。
「いつもすまないね、フロレンティーナ」
「いいの。あなたは頑張っているのだから、これくらいは」
もう一人いるな。
綺麗な金髪の女性だ。外用のドレスを着ていて、ほのかな花の香りがする、
「しかし、弁当など君自らが作らなくとも。料理人もいるのだから」
「あら? わたくしの腕を疑っているの?」
「まさか! いつだって美味だし、食べていると幸せが込み上げてくる」
「まあ」
なんだこの空気。
すさまじく入りづらいぞ。
「今日も遅くなるの?」
「まだわからないが、大会は今日で終わりだから、明日からはゆっくりできると思うよ」
アルラグナル卿が柔らかい笑みを浮かべている。
前に会った時は笑顔など少しもしなかったから、意外だ。
「ではお帰りをお待ちしておりますわ」
「ああ、帰り道は気をつけて」
「平気ですわ。大会に出ていたら本戦くらいにはいけるんだから」
「そうだな」
と、女性が振り返り、部屋を出ようとする。
そこでばったりでくわした。
「あなた、お客様が来ていらっしゃいますわよ」
「客?」
お互いに一礼し、すれ違う。
彼女は少しだけ微笑んでいた。
「君は……まさか、アーニーズ・シントラーか」
「お久しぶりです。アルラグナル卿」
「久しぶり……?」
かなり警戒している。
突然訪ねたのだからとうぜんか。
「中に入っても?」
「それはできない。君は試合を控えた選手だ。仮にただの世間話だとしても、不正を疑われるようなことがあってはならない」
そうそう、この感じ。
前に話した時とおんなじだ。
「そう言わずに。魔法戦をした仲ではありませんか」
「魔法戦、だと?」
「ほら、一年半くらい前にフォールンの地下遺跡で」
「………………!?」
思い出してくれたようだ。
「な、なぜ君が!」
「中に入ってもいいですよね?」
時間がないから、入らせてもらう。
「さすがに驚いた。シント君、なのか?」
「いえ、ここではアーニーズ・シントラーです。お間違えのないよう」
「なにを言っているのか、わからないのだが」
「気にしないでください。それよりも、さっきのご婦人は奥さんですか?」
「あ、ああ……つい先ごろ、結婚した」
「それはそれは、おめでとうございます」
「いや、それはいい。いったいどういうことなんだ」
仲がすごく良さそうだった。
新婚なんだな。しかしその幸せも、今日次第ではどうなるか。
「あなたは今大会の警備主任だそうですね。聞きたいことがあります」
「……?」
「警備は万全ですか?」
「なにを言いたいのかは知らないが、万全だと自信をもって言おう」
そこはさすがだ。
だが、ほんとうに聞きたいのはそれじゃない。
「軍人も多いように見受けられましたが」
「その通り。二十四年ぶりの大会だからね。なにが起きてもいいように増援が派遣されたのだ」
予想通りの解答だった。
「私も聞きたい。君は……曲がりなりにも大公家の出身。大会には出られないはずだ。変装までして、どういうつもりかな」
「仕事」
一言で簡潔の答えたのだが、にらまれる。
「それと、俺はラグナの人間じゃない。ルール違反じゃないですよ」
「物は言い様だ。認めるわけにはいかない」
お堅い人なのはイメージ通りだけど、そんなことはどうでもいいんだ。
「抗議はあとで聞きます。それよりも、増援とはどこからのですか?」
「悪いが機密だ。部外者に教えることはしない」
「わかりました。それは結構です。それでしたら、増援に来た全ての兵士たちを解任し、本来の持ち場に戻してください。本会場を警備するのは、あなたの配下だけでおねがいします」
いきなりの提案に、アルラグナル卿は口を閉ざした。
俺の言葉になんの意味があるのか、考えているようだ。
「理由は?」
「言えません。いまはまだ」
「今は、か。しかし、なにも聞かずに動かすことはできないな」
でしょうね。
「アルラグナル卿、やっておいて損はない、とだけ言っておきます」
「なに?」
それだけ言って、去る。
アルラグナル卿は俺を引き留めようとしなかった。
これからなにが起きるのか、話しても信じないだろう。
「ここから忙しくなるかも」
まずは会場内だな。
本戦はそろそろベストフォーが出揃うだろうし、急がないと。
★★★★★★
「あ、いたいた」
会場の廊下を歩く軍人を見つけた。数は三人。どこの家の者かを表す紋章は付いていない。
いちおう、他に誰かいないかを確認してみる。
よし、いないな。
「こんにちわ」
「……なんだ?」
「ん……アーニーズ・シントラーか?」
疑惑に満ちた目を向けられた。別にあいさつをするくらい、普通だろうに。
「あなたたちはどこの軍人さんですか? テラグリエン家? それとも、アルラグナル家?」
「なんの話だ」
「貴様になんの関係がある」
「それとも、饗団の人?」
「……!」
「おい」
顔色が変わる。
そんな露骨に反応したんじゃ、だめだろう。
三人が魔法の発動体勢に入るよりも早く≪魔衝拳≫を発動。
一瞬で間を詰め、みぞおち、首筋、肘打ちで三人を昏倒させた。
そのあと、すぐに≪次元ノ断裂≫の魔法で作った穴へ放り込む。
まずは三人。
どれだけここに入り込んでいるかはわからないけど、全部片づけさせてもらおうか。
★★★★★★
ということで会場内を全て回り、怪しげな軍服の男たちを全部倒した。
だいたい五十人くらいだったとは思う。
多少は状況がマシになるだろう。
だが、敵はもっといるはずだ。どこに隠れているのやら。
『さ~! そろそろ準決勝のお時間となりました! ついにここまで来ましたね! マルセル様!』
『長かった大会もようやく大詰めですぞ! 数々の名勝負があり、勝者と敗者が生まれた! そして今日、真の魔法士が決まるというわけですな!』
『ベストフォーに進出した選手は四人ともが恐るべき使い手! 優勝候補筆頭であり十天魔の筆頭! 若手最強の名をほしいままにするボニファティウス・リオンズ選手! ここまでの激戦を制し、勝利を積み重ねてきた俊才フェシス・シュバインシュタイガー選手! 招待選手でありながらも凄まじい実力を見せ、危なげなく進んできた謎の男ラルス・ウルヴァン選手! そして……少年の部・ハイクラスを圧倒的なまでの力で破壊し! 優勝をかっさらった死神! アーニーズ・シントラー! ほんとうの驚くことばかりですね!』
『そうですな! まさかまさかの招待選手が二人もベストフォーに進出! 今までにない出来事ですぞ!』
もう始まるのか。
少し緊張してきた。
でも、すでに火は点いてしまったのだ。
後戻りはできない。
依頼を遂行するために全力でやる。




