セブンスターズマジックバトル『パッション』2 笑顔の裏
会場が大歓声に包まれる。
まさかとは思ったけれど、領域型魔法を使うとは。
『なんだこれはーーーーーーーーーー! 信じられない! エギル・イナズァ選手! 領域を作り上げたーーーーーーーーーー!』
『つい先ごろ先々代様が論文を公表したばかり! もうモノにしているとは、驚きですな!』
おじい様、そんなことをしていたのか。
自分で作り上げた魔法の理論を発表するだなんて、考えもしなかった。
「終わりだ。おれの、勝ちだな」
エギルさんは荒く息をしている。
先ほどの≪サンダーボール≫に続き、今度は領域型魔法。かなり消耗しているはず。
「おれは……マリウスほどの【才能】もなければ、ボニさんほどの頭脳もない。だが! 領域型魔法を誰よりも早くモノにした!」
彼の顔が狂気じみたものをにじませる。
「頼みの魔力球は領域の外だ! さあ、どうする! アーニーズ・シントラーーーーーーーーー!」
「ではこちらも」
「……なに?」
≪魔弾球≫が外に弾かれたのは好都合すぎる。
九つの魔力球を動かし、エギルさんの領域を囲む形で配置した。
「させるかぁっ! ≪サンダーーーーーフォーーーーール≫!」
領域の天井から何百もの雷が降り注ぐ。
「≪魔弾世界≫」
全ての雷がぎりぎりのところで消失。
領域の上書きは成功した。
「……は? な、なにが……」
「領域同士を展開した場合、強い方に上書きされるんです。先々代の論文にはなかったのですか?」
「嘘だ……夢?」
「夢ではありません」
「だが……どうやってこんな、わずかな間に」
≪魔弾球≫に領域の構築を肩代わりさせることで、発動までの時間を大幅に短縮できる。
展開できるだけの魔力はすでに各球へ込めているから、イメージと詠唱だけで問題なく発動した。
「エギルさん、さようなら。≪万魔弾≫」
右腕を掲げ、二本の指を向けて、発射。
彼を取り巻く半球形の領域全てから放たれるのは万を超す魔力弾だ。
「ず……っおおおおおおおおおおおおおおおお! ≪サンダーシーーーーー』
障壁の詠唱は途中で切れる。
威力を最低限に抑えた魔力弾その全てがエギルさんに降りかかった。
対象が戦闘不能となったことで≪魔弾世界≫は解除される。
試合終了だ。
『……………………』
『ドレダール殿、実況をしないといけませんぞ?』
『……ハッ!? す、す、すみませーーーーーん! なにが起こったのかさっぱりでしてえええええええええええええ!』
『いまのは、エギル・イナズァ選手の領域型魔法をアーニーズ・シントラー選手が上書きしたように見えましたぞ!』
『う……上書きっ! 上書きって……なに?』
観客席はどよめいている。
ウチのメンバーだけは声援を送ってくれた。
『と、とにかく! 決着ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! アーニーズ・シントラーはもはや止められないーーーーーーーーー!』
ざわめきが収まらない中、待機室に戻った。
試合を見ていたであろう選手たちは、俺が入ると道を空けてくれる。
そんな中、ラルス・ウルヴァンだけは拍手で迎えてくれた。
「やるね! あんた、最高だ。さいっこうにクールだぜ!」
「クール?」
「ああ、おれんとこの地元じゃそう言うのさ」
ふむ。方言?
「順当に行けば準決勝で当たる。楽しみになってきたなー!」
めっちゃ楽しそう。
他の選手はじりじりと下がっているのに、この人だけは別だ。
「相手は猛者ばかりです。気が早いのでは?」
「優勝を目指してるって言ったろ? 全部勝つつもりで来たんだ。早いも遅いもないさ」
見た目の割に子どもっぽいっていうか、やはり変な人だと思う。
「もしそうなったら全力で頼むわ」
「ええ、わかりました」
調子が狂うな。
まあいい。ウルヴァンさんの試合もきっちり見させてもらおうか。
★★★★★★
『成人男子の部』が次々と消化されていく。
本戦に残った選手は、やはり驚くべき強者ばかりだ。
全員が火力、身体能力、経験のレベルが高く、隙は少ない。
中でも特筆すべきはボニファティウスさんだ。
なんの魔法を使っているのか、試合を見てもわからない。
無属性には見えるけど、少しも本気を出していないので、実力の底を図れなかった。
そしてそれは、ウルヴァンさんも同じだ。
土属性魔法士なのはわかるのだが、一回戦は≪アースブロック≫しか使用していない。
同時に本気を見せていないから、こっちもどれだけ強いのか推測できなかった。
俺も一回戦を戦った。
おじい様のせいで飛び入り参加したから、俺だけ試合数が多い。
嫌がらせかとも思う。
一回戦の相手はエギルさんほどの使い手ではなかった。
先の試合で使った≪魔弾世界≫を警戒しているんだろうけど、動きが硬すぎる。
隙をついて眉間に≪魔弾≫を打ち込み、勝利。
で、次の二回戦なのだけれど――
『さああああああ! アーニーズ・シントラーの進撃はここで止まるのかああああああ! 西側よりいでたるはああああああ! ラグナ六家エルラーグ侯爵家の長子にしてモンスターウォーズの英雄! バルドル・エルラーグ選手だーーーーーーーーーーーー』
相手はエルラーグ卿だった。
『かの戦では五千の魔法士を率い! 怪物どもを屠りまくった将軍! 優勝候補の登場だーーーーーーーーーーー!』
俺の前に立ったエルラーグ卿は頭を抱えていた。
「やめてくれーー! 恥ずかしいぞ! うむ!」
なんだか調子が悪そうだ。
「アーニーズ・シントラー……いや、弟よ……」
「俺はあなたの弟ではありませんが」
「いいのだ……わかっている。ここへはなにか理由があって来たのだろう?」
「なんのことですか?」
「……ああ、なんてことだ。こんなところで……」
うなりまくっているエルラーグ卿をあざ笑うかのように、試合が開始された。
「こうなってはやるだけのこと! 勢いだけが我が信条ーーーーー!」
勢いだけって。
自覚あったのかい。
でもさすがはエルラーグ卿だ。
≪ファイアボール≫を連打。一つ一つが速く、正確で、強い。
炎球を縫うようにして避け、距離を詰める。
全ての属性、全ての魔法の中でもっとも優れたバランスを有する≪ファイアボール≫だが、かわせないスピードではない。
「≪ファイアガイザー≫!!」
ここで彼の十八番が出た。
俺が到達するだろう点を予測し、魔法を置いたのだ。
大きく踏み込み、身をひねりつつ強行突破。
炎の噴出がかすったものの、至近の距離で見つめ合う。
「しまっ――」
「≪魔衝発破≫!!」
対人間用ブッ飛ばし魔法を炸裂させた。
水平に飛んでいくエルラーグ卿は、西側出入り口の中に消える。
よし。これで終わりだ。
エルラーグ卿には申し訳ないけれど、準決勝に進出した。
『バルドル・エルラーグ選手でさえも止められないーーーーーーーー! なんという強さかーーーーーーーーーーーー!』
『ふぉーっふぉっふぉ! ふぉーふぉっふぉっふぉ!!』
『マルセル様が笑うことしかできなくなったーーーーーーーーーーー! しかしそれも無理はありませんんんんんん! 試合時間はわずか三分にも満たないッ! これでは時間が余ってしまうーーーーーーーーーー』
なんかよくわかんない実況だな。
時間に余裕ができるのはいいことだ。
食事をとる時間ができた。
選手待機室へと戻る。
ウルヴァンさんはまたしても楽しそうにしていた。
「底が見えねえな。いくつの属性が使えるんだ?」
いきなりの質問だ。
「秘密です」
「そう言わずにさ。招待選手同士じゃねーの」
「だめです」
「ケチだな」
ウルヴァンさんは口をとがらせている。
なんのつもりだ。
「でも、おれにはわかるぜ。あんたは魔法が大好きだ、ってことをな」
「……たしかにそうですね」
そんなことを人に言われるのは、初めてのことだ。
「おれもそうさ。魔法は使えば使うほど、考えれば考えるほど可能性が広がっていく」
魔法の可能性は無限大。
ディジアさんに教わった言葉だ。
ますますやりにくいな。
俺はどうしてもこの人を敵に思えない。
あるいはほんとうに敵ではない?
いいや、希望的観測はなしだ。すでにどう動くのかは決めている。
「さーて、おれの番だ。準決勝で会おうぜ」
「武運を祈っています」
「ありがとよ」
ニコリと笑って、彼はバトルコートへ赴いた。
その笑顔の裏にはなにか隠されているのだろうか。
それとも――




