セブンスターズマジックバトル『パッション』1 最終日が始まる
大会最終日。
今日で全部終わる。
会議を行っていたおかげで、会場入りするのが遅れてしまった。
すでに『成人男子の部』選手待機室には、強者の雰囲気をバリバリに漂わせる魔法士たちがそろっている。
ボニファティウスさん、エギルさん、エルラーグ卿といった顔を知っている人たちはここにいない。
西側の待機室にいるんだろう。
俺の対戦相手はまだ不明。
十六人がきっちり決まったトーナメントに割り込むのだから、正直むちゃくちゃだ。
俺以外の多くの人間から非難めいた視線を感じるのは、そのせいだと思う。
「よう、アーニーズ・シントラ―」
陽気な様子で声をかけてきたのは、なんとラルス・ウルヴァンだった。
こちらから探りを入れる手間が省けた。
「ウルヴァンさん」
「えらいことになったな」
「まったくです」
フルフェイス兜ごしに観察してみる。
特に変な感じはしない。
「まあでも、あんたの試合を見てたが、まず強い。少年の部じゃ反則級だ」
そう言われましても。まだ十七歳ですし。
「だから、先々代さまの褒美ってのも、うなずけるってこと。で、おれも嬉しいってことだ」
「嬉しい?」
「一人じゃ肩身がせめーのよ。ここにいるおれたち以外はみんな貴族だし、じろじろ見られるのよなー」
てか声がでかい。丸聞こえである。
ラルス・ウルヴァンは肩身がせまいなどとは無縁のように、笑顔だ。
わざと言ってるな、これ。
「そう言えば、ウルヴァンさんはどこからの招待なのですか?」
「お? 気になるぅ?」
「ええ、まあ」
「テラグリエン家さ。おれの母さんが伝手を持っててな」
普通にしゃべってくれる。
怪しさは微塵も感じない。
テラグリエン家の関係者でありながら、今回の件とは無関係なのか?
「あんたは本家枠だろ?」
「もう知っていましたか」
「新聞に出てたぜ。先々代さまの隠し玉じゃあないかって」
そんなことになってたの?
どうでもいいことではあるが。
「あんたの魔法、ほんとにやべーって思ったよ。今も毛が逆立ってる。ほら」
腕をまくって見せてくる。
毛なんてないんですけど。
「ああ、そういえば昨日剃ったんだった。腕毛とかすね毛とか」
「なんで?」
「いや、ほら、わかるだろ。大勢の目にさらされるわけだし。毛深くてキモイとか言われたくないしさ」
なにを気にしてるんだ。
この人、変だ。かなり変だと思う。
もしもこれで饗団の息がかかった人間だとしたら、そうとうな策士で演技派だ。
「アーニーズ・シントラー! アーニーズ・シントラ―はいるか!」
運営の男性がやってきて、大声を出す。
もはや選手もつけられないくらいには、悪役となってしまった。
「ここにいます」
「うむ、対戦相手が決まった。これから十分後、開幕戦だ」
いきなりか。
「もはや勝てるとは思わんことだ。先々代さまの覚えがいいからと言って――」
「あーん?」
セリフの途中で割り込んだのはウルヴァンさんだった。
ものすごい目つきをして、息もかかるくらいの至近距離で、にらみつける。
何事かと他の選手たちがざわついた。
魔力を高める魔法士さえいる。
「予選にすら出ねえ腰抜けがなに言ってんだよ。これ以上くっだらねえこと言うつもりならおれが相手になってやるけどな。あ?」
「うっ……」
男性は尻もちをつきそうになるのをこらえ、そそくさを去っていった。
「一言多いんだよ。ったく」
「ありがとうございます。年季の入ったチンピラぶりでしたね」
「おうよ……って、褒めてないよね?」
存外、楽しい人のようだ。
だが、それでも油断などしない。
「おれは育ちがクソ悪いからなー。そこは大目に見てくれよ」
「俺も似たようなものなので、平気です」
「やっぱりな。なーんか他人の気がしないんだよ」
ウルヴァンさんは、年の頃でいったら二十代前半。ミューズさんやクロエさん、アニャさんとかクロードさんと同い年くらいだろうか。
そんなに歳は離れてないんだけど、兄貴って感じだ。
「とにかく、がんばれよ」
「ええ、そちらも」
もう始まるのだ。
そもそも最初の相手って、誰だ。さっきの男性はスケジュールだけ言ってどこかに行ってしまった。
「行くか」
観客席の歓声がここまで聞こえてきた。
そろそろだな。
待機室からバトルコートへ。
昨日の今日でここにまた立つだなんて、思いもしなかった。
ブーイングもまだ混じってる。
『来ましたーーーーーーーーーー! 黒き死神! アーニーズ・シントラ―だーーーーーーーーー!』
『ふぉーっふぉっふぉ! 今日も見られるとは思いもせんでしたな。先々代様に感謝せねば!』
『最終日も私、ドレダールの実況と、マルセル様の解説でお送りしたしまーーーーーーーす!』
『よろしくお頼み申す!』
『まーーーずは第一試合! いきなりの死神登場! そして相手はーーーーーあの十天魔が一人ーーーーー! エギル・イナズァ選手となったーーーー!』
『いきなりの頂上決戦やもしれませんな! 興奮が止まりませんぞ!』
そうなの?
エギルさんが相手か。
彼とは顔を合わせたことはあるけど、会話はしたことがない。
『雷魔法においては我が国でも一、二を争うとの実力を持っていると言われていますエギル・イナズァ選手! ボニファティウス・リオンズ選手に次ぐ優勝候補の登場だーーーーーーーー!』
西側出入り口から颯爽と現れる。
十天魔の人間しか着られない白を基調とした軍服を身にまとい、周囲に雷を跳ねさせた。
短く刈り込んだ髪と精悍な顔つき。
特別大柄でもないのに、大きく見える。
「おれが最初の相手だ、アーニーズ・シントラー」
「よろしくおねがいします」
「あんたの相手を志願させてもらったよ」
「そうでしたか」
にぃっと彼は笑った。
「マリウスをやった魔法士なら、相手にとって不足なしだ。そうだろ、シント公子」
うーん、なんでわかる?
「俺はそのような者ではありません」
「まっ、いいさ。誰が相手でも倒すってことにはかわりない」
いいこと言う。
俺もそう思う。
『それではあああああああああああ! 大会最終日ッ! 成人男子の部! 一瞬たりとも見逃すなよおおおおおおおおおお!』
エギル・イナズァは雷魔法の使い手だという。
と、くれば速さには自信があるだろう。
雷魔法は中距離を得意とし、魔力消費も基本八属性の中では少ない方だ。
タメも小さいから、こういった試合では間合いが重要になる。
始まりの合図と同時に、エギルさんは距離を少し詰めてきた。
しかし、魔法は撃たない。
なにかを狙ってるようだ。
俺はあえて動かないことにした。
密かに≪自動障壁≫を発動しつつ、腕を掲げる。
「≪サンダーボルト≫!」
右手と左手で交互に撃ってくる。
撃つたびに距離を調整し、雷が拡散しない絶妙な位置からのものだ。
一連の動作だけで、凄まじい魔法士だとわかる。
この距離と位置関係では、俺が不利。
『なんという連打! アーニーズ・シントラーもこれはたまらないーーーーーー!!』
『反撃の暇を与えない連続発動ですぞ!』
たしかに厄介だと思う。
『アーニーズ・シントラー選手はいくつもの属性を操る! 手札を使わせない策できたようですな!』
こうも連射されては、なかなか反撃をする暇がない。
ならば、一瞬を狙おう。
≪自動障壁≫は防御力が弱く、燃費も良くない。
けれど、両手が空くという素晴らしい利点を持つ。
右手の指先を向け、左手で右手首をがっちりと固定。腰を落とす。
「なにをする気だ……? ≪サンダークラッシュ≫!」
目くらましも兼ねた範囲攻撃魔法。
≪自動障壁≫が途切れる。
しかし、エギルさんは中位の魔法を使ったため、一度呼吸を整えた。
そこを一点集中。
「≪魔弾≫……」
狙いすました一撃が、吸い込まれるようにエギルさんの眉間へと迫る。
「――っっ!」
彼は強引に首をねじり、避けた。
魔力弾はこめかみ近くをえぐるようにして、後ろへと飛んでいく。
体勢を崩した彼を見て、すかさず別の魔法を使う。
「≪魔弾球≫」
「ちっ!」
本命はこれ。
発動する時間が欲しかった。
『キターーーーーーーーーーーーーー! 対マリウス・クロナグラ選手でも使用した恐るべき魔法ーーーーーーーーーーーー!』
『わずかな隙をついて発動まで持ち込んだわけですな!』
今度はこっちの番だ。
≪魔弾≫を魔力球めがけて連射。
≪響魔弾≫の数は二十。エギルさんは最初の一つ、二つ、三つと避け、四つ目と五つ目も回避し、しかし六つ目でくらった。
「ぐうううおおおおおおおお! ≪サンダーーーースパーーーーーークゥ≫!」
数少ない近距離での魔法を発動してくる。
己を中心に雷を放射して、≪魔弾球≫ごと消すつもりか。
急ぎ、魔力球を散開させ、≪響魔弾≫を停止。
さすがにやる。
「ふーーーーーー……まったく、マジでどうなってやがる」
雰囲気が変わった。
「やっぱまともにやりあったんじゃ、勝てないか」
「切り札がありそうですね」
「ああ、そうだ」
「発動する前に仕留める」
魔法の発射態勢に移る。
エギルさんは大きく後ろに跳んで下がった。
『エギル・イナズァ選手! 下がったーーーーーー! それを追うアーニーズ・シントラー! はたして――』
『ほう! あれは――』
エギルさんの両手から、雷の球が生み出される。その数は三つだ。
上級の雷魔法≪サンダーボール≫。
球状態を保つのすら難しいとされる魔法を、しかも三つ。これが切り札なのか。
≪魔弾≫を使い、≪サンダーボール≫を撃つ。
一発では破壊できないから、続けて発動。
三つの≪サンダーボール≫は消失した。
「さすがの腕ですね。≪サンダーボール≫が三つとは」
「あんなのはただの陽動さ」
「なんですって?」
「もう遅い! ≪サンダーーーーー! スペーーーース≫!!」
なんということだ。
やられた。
エギルさんと俺を包み込む雷の結界が展開されるのだった。




