表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
540/576

ナイトオブザナイト 16 導きだされた結論

 解散してニ十分後――

 アミールがホテルのフロントに頼んでくれた食事をとりながら、アンヘル嬢の資料を拝見する。

 今回の件で得た情報と、大会の結果、出場選手などなど多くの事柄がまとめられていた。


 二人は俺をじっと見ている。ちょっとやりにくい。

 ディジアさんとイリアさんは、お菓子を食べてジュースを飲んだあとはすやすや眠っていた。


「情報は断片的だけど、みんな繋がってる」

「つながっている?」

「アーニーズさん、教えて」


 二人は真剣だ。

 メモ片手に、話の内容を一言も漏らさぬ構えだった。


「ええ、まずはオーギュスト・ランフォーファーなのですが、こいつは呼ばれて来た」

「そうですね。料理勝負のあとで言っていました」


 貴族に呼ばれ、料理をふるまうために来たのだ。

 作るのはもちろん、モンスター料理。

 モンスター料理を摂取した者は魔人と化す。鍛錬ではなく、外的要因による強化だと思う。


 邪悪な料理人を呼んだのは、テラグリエン家の当主アンドレアス。

 アンドレアスは己の子どもたちにモンスターの力を取り込ませ、大会の優勝を狙った。

 

 大会成績についての理由はたいした意味を持たない。おおかた、家から大会優勝者をたくさん出して、国内での発言権を増すとか、武威を示すだのそんなくだらない理由だろう。

 重要なのは、裏で動く闇賭博による金と、魔人化そのもの。


 『成人男子の部』において、招待選手ながらも本戦進出を果たしたラルス・ウルヴァンもまた、テラグリエン家の息がかかった人物と言える。

 当主の指示でモンスターの力を取り込んでいたとしても、なんら不思議はない。強化された能力で勝ち進んだとするのが妥当なところだ。


「饗団は果たしてなにを狙っているのでしょうか……」


 アミールは渋面を作り、うなっている。

 実はこれ、俺もそうだった。

 単純に【神格】をねらっているのなら、それは自殺行為。特におじい様を無駄に刺激すれば、返り討ちにあう未来しかないのだ。


 だが、ある可能性を考えた時、狙いがわかった。

 ありえない、とか、そんなことはないだろう、といった偏見や思い込みを外せば、違うものが見えてくる。


「みなさんの口にたびたび上がる『きょうだん』とはなんなのですか? 剣神教団?」

「ああ、そういえば言っていなかったですね」


 手短に説明する。

 先のモンスターウォーズを起こしたかもしれない可能性を話すと、彼女は目元を押さえた。


「え、えーと? あのー、頭がおかしくなりそうです」

「続きを聞いたらもっとそうなるかも」

「続き?」

「ええ、テラグリエン家はおそらく――」


 話して聞かすと、アミールとアンヘル嬢は飛び上がった。


「えーーーーーーーーーーーーーー!?」

「そ、そんな!? アーニーズさん……いえ、ハイマスター! そんなことが」

「静かに。みんなが起きる」


 二人は焦った様子で、口を押さえる。

 大声を出したことで、ディジアさんとイリアさんが起きてしまった。


「いまの声は」

「なんかすごい声だったけど」

「ディジアさん、イリアさん、お風呂に入って寝ましょう。俺も寝ます」

「はい、そうします」

「ねむーい」


 彼女たちは部屋に引き上げていった。

 これで残ったのは、俺とアミールとアンヘル嬢だけだ。


「でも、そんな大それたことを」

「そう考えると、しっくりくる……んだけど」


 どうしてもわからないことがあるんだ。

 それは、『狂い笑い』ランパートの存在だ。

 なにかしらの仕事をしに来たのは、間違いない。

 きっと重要な、決定的なものなんだと思う。


「結末は何パターンもある。だけど、モンスターウォーズの時みたいな後手を踏むのはもう嫌だ」

「それは、そうですけど」

「というかモンスターウォーズに参加していたんですか?」

「はい、アーニーズさんは総司令官を」


 アミールが言っちゃった。


「ソウシレイカン? へ? それってどういう……」

「全部終わったあとで教えます」


 一つには絞れないから、もっとも最悪な展開を防ぐことに集中だ。

 やつらがしかけてくるとしたら、一番効果的なタイミング。

 俺がもしも――ありえないことだが――饗団の長だとして、どうすれば簡単に奪えるかを考える。

 そこから逆算して、ラルス・ウルヴァン、ランパート、そしてテラグリエン家の人間達を役割に当てはめてみた。


「そして、おじい様の狙い」


 俺を『成人男子の部』へ無理やり出場させる理由。

 それら全てを総合した時に見える、恐ろしく最悪な光景。

 

「そもそも奴らが今回のために何年も前から計画していたとしたら、最初から詰んでいたのかも」

「え?」

「つ、詰み?」

「勝てない、ということです」


 はっきりと断言する。

 

「そんな」

「どうにかできないんですか?」


 どうにかはする。

 だから、俺たちはここにいるのだ。


「アドバンテージはあります。やつらは俺たちのことなど歯牙にもかけていない。たいした存在ではないと思われてる」


 それはおじい様がいるからだ。

 世界で最強の魔法士であり、引退後も名を轟かせ続ける偉大な男に誰の目も釘付け。意図したことではないだろうけど、それが俺たちにとって有利に働く。


「やつらはどんな手を使ってでも先々代を出し抜こうとする。それを横から突く」

「さすがはアーニーズさん……脱帽です」


 とはいえ、思った通りにはならないだろう。

 しかしそれは向こうも同じ。思い通りにはさせない。

 

「ということで、もう寝ましょう」

「待ってください。姉さんたちに話さなくていいんですか?」

「明日でいいよ。緊張して眠れなくなっても困るし」

「え……わたしもう眠れそうにないんですけど!」

「僕もです」


 それは自己責任ということでおねがいします。

 


 ★★★★★★

 


 そして、大会最終日の朝を迎えた。

 早起きして軽く運動し、試合に備える。


 みんなが起き出してきて、自然といつものように集まった。

 アミールとアンヘル嬢はとても眠そう。

 やっぱり寝られなかったようだ。


「アーニーズ、話し合いをするんだろ?」


 カサンドラの問いに、うなずく。


「今日が最後だ。これからやるべきことをいくつか話すから、よく聞いてほしい」


 一度深呼吸をしてから、話す。

 これまでに得た情報を元にした、これから起きるであろう出来事についてだ。


 話し終えたあと、誰もが言葉を失っていた。

 しかたのないことだ。


「ちょっ……と待って。それって、ほんとに? 絶対?」


 青ざめた顔で手を挙げたのはミューズさん。


「絶対ではありませんが、そうだと思います」

「……信じられない。大会の裏でそんなことが?」


 豪胆なアリステラでさえも、目を丸くしていた。


「なにも起きないなら、それでいい。勘違いですむ。だけど、そうはならない。饗団の悪辣さはみんなも知っているはずだ」


 【神格】にまつわる事件の陰には、決まって奴らがうごめいている。

 【神格】を饗団に渡してはならないと、そう思うんだ。


「いまからみんなにやってもらうことを話すよ。けれど、イレギュラーが起きる可能性は十二分にあるから、そこは臨機応変に頼んだ」


 ウチのメンバーは何度も死線をくぐり抜けてきた。やれるはずだ。

 で、俺たちがやることをいくつかのパターンに分けて話した。

 息を呑む音が聞こえる。


「ダイアナ、アテナ、君たちが鍵になる。みんなは二人を全力で守ってくれ」


 二人にはだいぶ負担をかけてしまう。それが心配だ。


「とんだ休暇になったわねえ……」

「去年よりもひどくない?」

「そう、思います」


 緊張が高まっている。

 しかし、俺の両隣にいるディジアさんとイリアさんは平然としていた。


「やるべきことは決まりました」

「うん、わたしたちならきっとやれるよ」


 その通りだ。

 

「やるしかないさ」

「姐さんの言う通りよ。モンスターウォーズよりひどいことなんてないんだし」


 リーアの言う事も間違っていない。

 絶望的な戦いを乗り越えたんだ。


「みんな、油断のないよう。それでは『Sword and Magic of Time』を始めるとしようか」


 全員が立ち上がり、力強くうなずくのであった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ