ファミリアバース 47 最強のブロンズ級・Ⅰ まずは奇襲
明かりに照らされる大きな建造物。
新市街の奥まった場所にある倉庫を前に、俺は一度立ち止まった。
ラナの情報では、ここに『邪魔導』という異名を持つ賞金首がいるはずだ。
「≪透視≫」
透視の魔法で倉庫の中を見る。
壁の向こう側には、おおよそ六十人の悪徒がいた。
その他に武装していない人間が同じくらいいる。
彼らは客だ。
ここは賭博場だという話だから、みんなカードを手に、テーブルを囲んでいるのがわかった。
「二人とも、準備はいい?」
横に並ぶアリステラとカサンドラに声をかける。
「もちろんさ」
「……問題ない」
彼女たちはさすがゴールド級冒険者だけあって、緊張していない。
むしろ魔力がたかぶっているくらいだった。
「狙いはワルダ一家の幹部で頭脳役、ユーテラ。二階にいるのがそうだと思う」
上階で酒を飲みながらくつろぐ男。黒いローブを身に纏い、彼らの中では一番魔力が大きい。
「シント、ちょっと聞いていいかい?」
カサンドラが尋ねてくる。
「なんで見える?」
「シントは目が良い」
俺の代わりにアリステラが答える。
そういえばマールの農園に行った時、彼女にも同じことを聞かれたな。
「限度があるだろうに。魔法かい?」
「うん、そう。透視できるんだ。ただ使い過ぎると目がめっちゃ痛くなる」
「はー……あんたはなんでもできるんだね」
それは買い被りだ。なんでもできるのなら、ラグナ家を出ることもなかった。
「魔法士は俺が引き受けるから、手筈通りに頼む」
「……うん」
「任せな」
みんなで考えた作戦を実行する時だ。
術式を構築。そして発動。
「≪発破≫!」
属性のない純粋な魔力の炸裂が、倉庫の二階、ユーテラのいる部屋だけを吹き飛ばす。
魔力の揺らぎを感じ取ったユーテラらしき人物はとっさに障壁で身を守り、外に飛び降りた。
悪人とはいえ、異名を持つ魔法士だ。これだけで倒せるなんて思っていない。
炸裂により、賭博場が騒然とする。
奇襲の第一段階は成功。
次は――
「行くよ! アリステラ!」
「了解」
二人が倉庫内に斬りこむ。
圧倒的な数の差は、奇襲によって補う。
ユーテラ以外に注意するべき敵はいない。予想外のことが起こらない限りは彼女たちがやってくれるだろう。
そして俺は賞金首を狙う。
黒いローブの男が、倉庫の外に降り立ち、こちらに気がついた。
「なにが起こった……貴様は、誰だ?」
ひょろりとした目の細い男が、聞きながら魔法を発動する。
空を切り裂いて飛ぶ風の刃は≪ウインドカッター≫。
「≪魔障壁≫」
風の刃を障壁で防ぐ。
霧散したウインドカッターは、辺りに魔力の残滓を漂わせた。
「あなたがユーテラ?」
「……こちらの質問に答えてもらおう。貴様は誰だ、と聞いている」
彼は名乗らなかった。お返しというわけではないが、こちらは名乗ろう。
「シント・アーナズ。冒険者。賞金首を退治にしにきたんだ」
「……魔法士か」
「ええ、あなたもでしょ?」
返事はない。代わりにユーテラの魔力が高まる。
お互いの腕が動いたのは同時だった。
「≪ウインドカッター≫!」
「≪真空之刃≫」
風には風を。
途中でぶつかり合う魔法の風。
ユーテラの放った≪ウインドカッター≫が切り裂かれ、こちらの風刃が彼を襲う。
「くっ! ≪ウインドシールド≫!」
彼はぎりぎりで障壁を展開したが――
「なにっ!?」
≪真空之刃≫がユーテラの障壁を寸断。彼の頬をかすって、背後の残骸をバラバラにした。
「な、なんだ!? 障壁が斬られただと!?」
魔力の練りが甘い。
「なんだ貴様……今の魔法はなんだ?」
「小手調べだ。あなたの実力はわかったので、ケリをつける」
「なん……だと」
再び≪ウインドカッター≫を撃ってくる。
もう遅い。
「≪魔弾≫」
魔力弾が≪ウインドカッター≫を弾き、ユーテラの腕に当たった。
骨の折れる音が聞こえ、彼はうめき声を上げる。
しかし、さすが異名を持つ魔法士だ。痛みをこらえながら、左手で魔法の発射体勢に入っている。
「≪魔弾≫」
挙げた腕を撃ち抜く。
両手を使用不能にされたユーテラは、肩を落として膝をついた。
「速すぎる……どうなっているんだ……」
「最後に魔法を練習したのはいつ?」
「……な、なに?」
「練習をしないから、魔力の練りは甘いし、発動までが遅いんだ。俺が速いんじゃない。あなたが遅すぎるだけ」
「おれが……遅い? はは……」
泣きそうになりながら乾いた笑いを見せるユーテラに向かって≪衝波≫。
衝撃波が彼を真上にブッ飛ばして、魔法戦は終了。
「悪事なんかしないで、魔法の練習すればいいのに」
今度は倉庫の方に目を向けた。
男の叫び声が聞こえて、やがて静かになる。
あっちも終わったか。
少ししてアリステラとカサンドラが出てきた。
怪我はないみたいだし、返り血すらかぶっていない。
「シント、こっちは終わったさね」
「そっちは?」
「おつかれさま。こっちも終わってるよ」
倉庫内には六十人くらいの悪徒がいたはずだけど、もう倒したのか。
強いとは思っていたけど、さらに評価を改めよう。
彼女たちは相当やる。
「あっちは雑魚ばかり」
「まあ、肩慣らしにはなったさ」
予想以上の戦果だと思う。
賞金首ユーテラを≪次元ノ断裂≫で作った穴に放り込み、回収。再起不能になった男たちも全部穴に入れる。
誰もいなくなった賭博場を魔法で破壊し、仕事を完了した。
しかし、思ったより早く終わったな。
どうしようか。
「シント、なに考えてるの?」
「嫌な予感がするんだけどね」
嫌な予感? いえ、良い予感です。
「もう一つのアジトも潰しておこう」
「人使いが、荒い」
「いいさ。やろうじゃないか」
作戦変更。
一日ずつ力を削いでいき、追い詰める手筈だったけど、今日で敵の両翼をもいでやる。
「やるからには徹底的に。二度と戦いたくないと思わせるように」
小さい時、おじい様に教わった言葉だ。
次の標的は『皮剥ぎ職人』ダンガズ。
俺たちは互いにうなずいて、ワルダ一家のアジトに向かう。




