ナイトオブザナイト 12 カジノへ潜入せよ
大会の本戦で大きく進んだ。
おじい様からの依頼は『饗団の企みを突き止めること』『饗団と接触しているラグナの人間が誰かを知る』ことだ。
饗団とつながっているのは、高い確率でラグナ六家テラグリエン侯爵家。
証拠を挙げれば一つクリア。
だが、俺は別のことを考えている。
それは、テラグリエン家そのものが饗団の一員ではないか、ということだ。
饗団がなにを目論んでいるかはわからない。
知らなければならないことが、まだあるように思う。
ラナとグレイメンさんが突き止めた怪しい男たちのアジトは三か所。
テーブルの上に買ってきてもらった公都モナークの地図を広げ、確認する。
「試合を妨害していた男が逃げ込んだのはここだ」
印をつける。
「もう二つはここと、ここ。どんな施設かは?」
「酒場みたい。一番大きいのは、怪しいのが逃げ込んだところだねー」
「聞いた話じゃ、小さなカジノも併設しているってさ」
ラナとグレイメンさんはそこまで掴んでいる。
頼んで正解だった。
「人選はどうするのさ」
カサンドラに聞かれ、少し考えてみる。
できれば同時にしかけるのがいい。
「カサンドラはここ、アリステラはこっち。で、俺は一番大きな施設に行ってみるよ」
異論はなさそうだ。
「人選については任せたいところだけど、考えがある」
今回は『狂い笑いランパート』の所在を突き止めることも目的だ。
いる、という確証はないものの、でくわした場合のことも考慮に入れないといけない。
「カサンドラにはアイリーンとダイアナ、ヴィクトリアにアニャさん。アリステラにはリーア、アテナ、シスター・セレーネ」
バランス重視だ。
「ダグマさん、グレイメンさん、クロードさん、そしてアミールは俺と」
「……!? は、はい!」
アミールは跳び上がって驚いた。
「ミューズさん、クロエさん、メリアムさん、サーヤさん、マーカさんはミリアちゃんとお留守番です」
「ここは任せて」
「酒用意して待ってるニャ」
あとは――
「わたくしたちは?」
「るすばんなんて言わないでね」
「二人はどこに行きたいですか?」
二人は即答する。
「シントとともに」
「わたしもー!」
まあ、その方がいいか。
「あのー、わたしはどうすれば」
「アンヘル嬢も留守番です」
「でも」
「今回はどうしても荒事になる。連れてはいけない。ですが、やってほしいことがあります」
これまで得た情報をまとめてほしいと思った。
「明日にはもう最終日だ。じっくりと考えたいので、情報をまとめてください」
「わかりました! でも次は連れていってください!」
約束はできないけど、善処しよう。
「ちょっと待って」
ここでアニャさんが手を挙げる。
「どうしました?」
「この人選……ハイマスのところって男ばかりね」
うん?
「さすがにないとは思うけど」
「あ、そうね。ちょっと怪しいっていうか。行く先は繁華街なわけだし」
ミューズさんまでなにを言いだすんだ。
「えっちなお店に行くつもりじゃ……」
「その可能性大ニャ」
え。
そんなわけないでしょ!
仕事だから! 仕事!
というかディジアさんとイリアさんがいるんだから、それはないでしょうよ。
「ダグマ?」
「なんでおれに聞く!? 先導するのはハイマスだって!」
「ハイマスターがそのようなところに行くとしても、僕にはいい経験になるでしょう」
「……真面目な顔して変態なこと言ってるニャ」
「クロエさん、僕はあくまでも好奇心で言っています」
「まあまあ、成り行きでそうなったとしても、しかたないと思うよ」
「お父さん、サイテーです」
「さいってー」
緊張感が、ない。
だけど、気合が入り過ぎて空回りすることもなさそう。
ほどよい力の入り具合だと思う。
「踏み込むのは、午後八時。今から一時間半後だ。できれば同時に頼む」
全員がうなずく。
行動開始だ。
★★★★★★
繁華街の奥にでかでかとたたずむ施設。
妨害者が逃げ込んだという建物の前に、俺たちはいた。
でっかい光る看板には、『エスプラネス』と旧帝国語で綴られていた。
「ずいぶんとにぎわっていますね」
「ですが、同時に鋭い雰囲気を持つ者が多いようです」
「まあ、あまり行くのがおすすめされる場所ではないかな」
グレイメンさんの情報では、カタギの少ない場所らしい。
「要はチンピラや悪党をカモる場所ってことだね」
ここにいても始まらないから、行ってみる。
ディジアさんとイリアさんには本と剣になってもらい、アミールには≪光迷彩≫をかけた。
さすがに十八歳未満は出入りができなそうだし、これでいい。
え? 俺もまだ十七歳だって?
だいじょうぶ。そのための変装だ。
「おい、待ちな」
門番に止められた。
屈強な肉体を持つ、色黒の男だ。
「おめえ……まさか」
まだ十七歳って、バレたのかしら。
「アーニーズ・シントラーだよな! 頼む! サインくれ!」
へ?
「いやマジで痛快っつうの? 貴族どもをバッタバッタと……しかもラグナ六家の魔法士までよー! ようこそ! 兄弟!」
めっちゃ握手された。しかたないのでペンを受け取り、ハンカチーフにサインする。
背後ではメンバーたちが笑いを噛み殺している。恥ずかしい。
すんなりと中に通されてしまい、なんだか拍子抜けだ。
(シント、あのヒトはいったい)
(シントのきょうだい、なの?)
ディジアさんとイリアさんは不思議そうだ。
「あれはカンゲキしすぎて、俺を兄弟と間違ったようです」
(変なヒトですね)
(うん、おかしいよ)
そうだね、おかしいね。
「ハイマスター、まずはなにを?」
「ここへ逃げ込んだ人物を探します。フードとローブを身に着けた冒険者風の男を探してください。それと、『よく笑う男』を見かけたら教えてほしい。」
中は広いし、人も多い。いくつものテーブルには男たちが座り、カードゲームをしているようだ。
他にも、見た事のない遊戯が繰り広げられている。
とうぜんのようにバーが併設されており、ほのかにお酒の香りが鼻につく。
「奥の方が盛り上がってますね」
歓声が聞こえた。男たちの熱を帯びた声だ。
「アミール、魔法を解くよ。俺たちから離れないように」
「もちろんです」
≪光迷彩≫を解除。アミールが姿を現す。これだけ人がいれば問題はないだろう。
(シント、わたくしたちも)
(もう子どもじゃないし)
「いいえ、二人にはいざという時に出てもらいます」
彼女たちは切り札だ。不満そうだけど、言うことを聞いてくれた。
「奥に行ってみよう」
店内を進み、すれ違いざまに受ける視線を無視して歩く。
天井まで伸びる四角形の鉄網の中で、半裸の男たちが殴り合っていた。
「ここでも賭け試合だねえ」
鉄網に張り付いて、チケット片手に叫ぶ客たち。
見上げると、そこには二階席があり、身なりの良い人々がグラスを傾けつつ声援を送っている。
「グレイメンさん、これは合法なのですか?」
「どうだろうか……うん、たぶん合法。ぎりぎり、かな」
彼が指を差した方向に、受付カウンターがあった。
「あそこにでかでかとプレートがあるだろ? 国家公認の酒場ってことだね」
「公認なんですね。たしかに素手での闘技場なんてラグナじゃ認められないし、まずは酒場でってことなのかな」
「ご名答。先に酒場で認可をとってから、中でいろいろやるのさ。帝国でもガラルでも似たようなものだよ」
これは良い情報だ。繁華街の仕組みが少しわかった気がする。
鉄網に近づこうとした時、さらに歓声が大きくなった。
殴り合いの勝負がついたんだろう。
「ハイマスター! あの人物は!」
鉄網のリング内にいる男を見て、クロードさんが驚く。俺もだ。
「ハイマス、知り合いか?」
ダグマさんの問いにうなずいた。
「前に話した、トライアド山ででくわした男ですね」
「おいおい、当たりかよ」
そう、当たりだ。記憶がたしかなら、闘技場の真ん中でつまらなそうにしている半裸の男は『ダンダース』。
「彼は『狂い笑い』ランパートの副官です」
「ついに来たか」
「ちょっと出来過ぎな気もしますけど」
さらに驚きは続く。
二階席からバカ笑いが聞こえて来た。
「おー! ダンダース君! やるよねえ!」
出た。『狂い笑い』ランパートだ。
ここに潜んでいたか。
「みんな、心の準備を」
「やるのか?」
「いつでもいけます。むしろあの男を二度は逃がさない」
クロードさんはダンダースを追い詰めたけど最後に逃げられたから悔しいんだろう。
「ハイマス、弓と矢を頼む」
みんなの武器は俺が預かっている。でも、いまはよくない。
「いえ、素手でおねがいします」
「ん?」
「ハイマスター?」
みんなが見つめる中、俺は受付カウンターに行き、金を勘定してる男に声をかけた。
「なーに? って、あんた、なにその兜」
「ここでは殴り合いに出る選手を募集しているのではないですか?」
「まあ、そうだけど……」
じろじろ見てくる。
「でもねえ、ここは漢と漢のガチンコ。あんた、魔法士でしょお?」
「俺はそうです。でも、戦うのは後ろの三人ですね」
「へ?」
「ええと、ハイマスター?」
「そう来たか」
受付の男はダグマさん、グレイメンさん、クロードさんを見て、うふふ、と笑みを浮かべた。
「イイカラダしてるじゃなーい。たくましいわねえ……三人とも細いように見えて、引き絞られてるわあ」
「では」
「ええ、いいわよお」
よし。これでいい。
でも、後ろの三人の視線が後頭部に突き刺さるのであった。




