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セブンスターズマジックバトル『ラプソディ』26 おじい様の思惑

 突然のことに、誰もが戸惑っている。

 俺もそうだ。

 おじい様、なにを考えている?


 どよめきが止まらない中、今度は叔父上が実況席へ駆けつけ、おじい様に向かってなにかを言い始めた。


『父上! なにをお考えなのですか! どういうつもりなのか、話していただきますぞ!』


 めっちゃ声入ってる。みんなに聞こえているんですけど。


『大公よ、アーニーズ・シントラーはマリウスをもってしてなお、傷一つついておらぬ。このまま帰すわけにはいかぬだろうよ』


 なんだそれ。俺を始末でもするつもりか?

 しかし、俺の想いとは裏腹に、大歓声が出た。

 ひどい。俺はどこまでいっても悪役ってことなの?


『このままラグナ六家の魔法士をやられたまま帰すとなれば……構造を見直せねばならぬやもしれぬ』


 ん?

 いまとてつもないことを言ったな。

 それに、おじい様は変なクスリを決めたのかってくらい笑顔だ。


 挑発か?

 ラグナ六家を見直すだなんて、ありえないことだ。


 これは、なにかのメッセージ。

 裏がありそうだ。

 

 考えろ。おじい様の狙いは別にあるはず。

 いやまあたしかにドラグリアでのこともあるし、俺を使って遊んでいる可能性もなくはない。

 だが、間違いなく挑発だ。

 問題は、誰に対しての、ということ。


『しかし!』

『ラグナは最強の魔法士が統べる国。外に最強がいること遺憾の極み也』


 さらに盛り上がる会場。


『我こそはと思わん者……成人男子の部本戦に勝ち上がった勇士たちよ。アーニーズ・シントラーを倒した者には侯爵位を授けよう』


 うーわ。餌を撒きやがった。

 最高潮と思われた盛り上がりが、さらに高まる。


『父上ーーーーーーーーーーーーー! 今度という今度はーーーーーー!』


 ここで拡声魔導具が返され、叔父上を叫びが聞こえなくなった。


『あー、えーと……と、とんでもないことになりましたあああああああ! アーニーズ・シントラー! なんと成人男子の部に続けて出場! さすがに予想できないーーーーーーーーーー!!』

『二十四年ぶりの大会はとてつもないことになりましたな!』

『いやー、これはさすがに驚きの連続というか、開始前の【神格】お披露目! 招待選手の躍動と、アーニーズ・シントラーの優勝! 頭がおかしくなりそうですよ!』

『これだから七星武界魔錬闘覇しちせいぶかいまれんとうはは面白い!』

『その通りですね! それではみなさま! 本日はこれにて終了! また明日お会いしましょう!』


 歓声はやまなかった。

 俺は待機室に戻る。賞金をもらえるのは明日の閉会式だ。どのみちここへ来なくてはならないから、もうどうでもいい。


 待機室ではベルノルトさんが待っていてくれた。

 彼は半笑いの表情で、なにを言ったらいいかわからない様子だ。


「おめでとう、なのだが……どう声をかけたらいい?」

「普通でいいですよ」

「ほんと、常に変わらないな、君は」

「ありがとうございます」


 お礼を言うと、呆れられた。


「ものすごい決勝戦だった……見ているうちに、さっきまで泣いていた自分がどうでもよくなったよ」

「マリウス君はまずまず強かったです」


 魔法戦という意味では、おじい様、叔父上、叔母上の次くらいには強かったと思う。


「彼でまずまず……じゃあ僕はどの程度……いや、やめよう! うん! 考えれば考えるほど頭がおかしくなりそうだ」


 思わず苦笑してしまった。


「だが、やはり納得できないよ。マリウス・クロナグラを倒すほどの魔法なのに、【才能】がないだなんて」

「逆に考えてください。俺は八属性に加え、無属性も使えます。そんな【才能】があると思いますか?」


 ベルノルトさんは黙り込み、眼鏡の位置を直す。


「魔導王でさえも七属性……たしかにありえないことだ」


 魔導王というのは、俺のご先祖さまであるシンクロー・ラグナのことだ。

 直接名を呼ぶのは不敬だとされ、ラグナでは魔導王と口にされる。


「魔導王が七属性っていうのも怪しいですけどね」

「ちょっ……アーニーズ!?」


 彼は、俺のセリフが誰かに聞かれてないか、周りを見回した。

 大人に聞かれでもしたら、めっちゃ怒られると思う。


「はあ……君というヤツは。だが、そうだな。君の使う魔法はどれも知らないものばかり。少なくともラグナのものじゃない」

「その通りです」

「しかし……君から受ける印象はこの国で教育を受けた者のようにも思えるんだ」


 へえ。合ってる。十歳まではそうだった。ベルノルトさんはこの大会で知恵者と呼ばれるようになった。異名の通り、鋭い。


「どこで生まれ、どこで育ったとしても、俺は俺です」

「ああ、その通りだ。失礼した」


 お互いに笑い合う。


「一緒に食事でもどうだ? 魔法戦の考察をしたいのだが」

「喜んで」

「誘っておいてなんだが、疲れていないのか?」

「それはこっちのセリフですよ。あんなに吹っ飛ばされて、医務室に行ったほうがいいのでは?」

「……思い出したらマジで痛くなってきた」

「ほらやっぱり」


 泣きそうなベルノルトさんとともに、選手専用のカフェに行く。

 結局、夕方を過ぎるまで食事をしながら、魔法について語り合うのだった。



 ★★★★★★



 ホテルのロビーに戻ると、みんなそろって拍手で迎えてくれた。

 ウチのメンバーだけじゃなく、ホテルの従業員たちも、他のお客さんもだ。


「おめでとうございます、シントラー様。これはささやかですが、当ホテルからの贈り物でございます」


 支配人さんから、包みが渡される。


「いや、いいですよ」

「いいえ、あなたのおかげでしばらくはこのホテルもにぎわいましょう。あの方もお喜びになるはずです」


 あの方って、おじい様か。

 想像できない。


「やったわね、シン……じゃなかった。アーニーズさん」

「ていうか、結局圧勝だったニャ」

「シントだけ、ずるい」

「……次は優勝」


 ヴィクトリアとアリステラは悔しそう。


「ほんとすごかったです! アーニーズさんってとんでもないがとんでもないにかけられてて、なんかもう言葉がないです!」


 アンヘル嬢はおおはしゃぎだ。


「やりましたね、シント」

「やっぱり優勝じゃない。おめでとー!」


 ディジアさんとイリアさんが抱き着いてくる。

 まいったな。

 まだ終わりじゃないんだけど。


 いろいろとみんなから聞かれるも、あまり時間はない。

 準決勝での妨害者について聞きたいのだが。


「さあ、上に戻るよ! アーニーズは疲れてるのさ!」


 カサンドラの一声で、俺たちが宿泊する階に上がる。

 そう、本題はここからだ。


 貸し切りとなった階の共有スペースに陣取る。

 ラナ、グレイメンさんを中心に、妨害者を追いかけたダイアナ、アテナ、ディジアさんとイリアさんに話を聞くつもりだ。


「みんなありがとう。まずは聞きたいんだけど、ダイアナ、アテナ、そっちはどうだった?」

「マスターの指令通り、ほどほどに追跡を行ったと報告します」

「うん、アジト、わかった、よ」


 よし。成功だ。


「でもなんか怪しい場所だった」

「そうですね。昨夜に行ったところと似ていました」


 ディジアさんとイリアさんは空から追跡をし、場所を確定したのだという。

 場所は繁華街の一角。かなりでかい施設なのだそう。


「わたしたちも前進したよ?」

「ああ、偶然にも妨害者が逃げたっていう場所とぶちあたった」


 ラナとグレイメンさんには『狂い笑い』ランパートの手がかりをおねがいしていたのだ。

 

「ランパートに手がかりがまるでなかったから、攻める方向を変えたんだ」


 大会初日に目撃された冒険者風の怪しい人物を追ってみることにしたらしい。

 てっきり叔父上の変装した姿かと思ったが、違うのか?


「何か所かあったんだー。で、かなり怪しいかも」

「闇賭博関係だな」

「続けてください」


 かなり気になる話だ。


「賭け率の操作をした形跡があるんだ」

「なんですって?」


 グレイメンさんの話では、それぞれの部門で優勝候補が強すぎるため、胴元の儲けが少ないということ。

 で、そこへ現れたのがヴィクトリア、アリステラ、俺。


「決勝や準決勝では、人気が逆転していた。これは闇賭博に関わっていたヤツからの情報だから信ぴょう性が高い」

「まあちょっと聞き出すのに手間取ったけど」


 ラナとグレイメンさんの表情が怖い。なにしたんだ。

 二人の話を総合すると、当初は四つ部門――テラグリエン家の三姉妹プラスローラント君に人気が集中していた。が、準決勝や決勝では人気が逆転。そうして巨額の金を俺たちに賭けさせてからの、妨害による再逆転をしたってわけだ。


「それを裏で操っていたのは――」

「テラグリエン家、ですか」

「そうそう! 闇賭博を仕切ってるのはサンドレント家っていう話だけど」

「サンドレントはテラグリエンの言わば分家。関わってないわけがない」


 だよな。

 なにせ、妨害はテラグリエン家の人たちが出た試合だけで行われていたわけだし。


「ただし、証拠はない。だからおれたちは闇賭博が開催されているだろうアジトをいくつか探し出したんだ」

「でね、そこに『よく笑う男』がいるって話。名前まではわからなかったけど、見た人は冒険者っぽいって言ってたし、追う価値はあると思う」

「ここで『狂い笑い』も出てきたか」


 ついに来た。様々な要因が重なり、本質に近づきつつあるのを実感する。


「調べてたらダイアナたちと街でばったり。もうびっくりしたよー」


 みんなで掴んだ手がかりだから、逃すわけにはいかない。


「それともひとつ」

「もう一つ? ラナ、なにを掴んだんだ?」

「ラルス・ウルヴァンはテラグリエン家の招待だった」


 なんてこった。

 では今回の件に関係しているこってことか。


 ラルス・ウルヴァン、オーギュスト・ランフォーファー、闇賭博、饗団。その全ての中心にいるのは、テラグリエン家。

 やることは決まった。

 

「みんな、申し訳ないんだけど、夜にしかける」


 一気に緊張が増す。


「証拠をつかもう」


 全員がうなずいた。

 あと一歩だ。

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