セブンスターズマジックバトル『ラプソディ』24 今回だけだよ?
息をつく暇もなく、『少年の部・ハイクラス』決勝戦が始まる。
相手はマリウス・クロナグラ。
ラグナ六家であるクロナグラ侯爵家の人間だ。
会ったのは何度目かな。
ドラグリアの地とモンスターウォーズで少し話した気がする。
おじい様相手でも物怖じしない、明るい少年だ。
加えて、最年少でラグナ最精鋭の部隊『十天魔』に選ばれた天才でもあるという。
俺にとっては同い年の親戚。おじい様の妃、つまり俺のおばあ様はクロナグラ家の女性だった。けっこう近い親戚にあたる。
バトルコートまで進み、マリウス君と対峙する。
紺色の髪をした少年は、楽しそうに笑みを浮かべ、俺を待っていた。
「来てくれたんだね」
「ええ」
会話できるくらいの距離まで近づく。
『十天魔』の凛々しいユニフォームをまとった小柄なマリウス君から、巨大な魔力がふくれあがった。
「キミ……シントでしょ?」
なんでバレた!?
「いえ、俺はアーニーズ・シントラ―です。そのような者ではありません」
「隠さなくていいよ。あの魔法、雰囲気、どう考えてもシントにしか見えないし」
「どなたかとお間違えです、クロナグラ卿」
「いやいや、そもそもアーニーズ・シントラ―だなんてさ、隠す気ゼロじゃん。バレバレじゃん」
なんだって?
そんなはずはない。おじい様や叔父上の偽名ならともかく、俺は名を変えた上に姓と入れ替えてる。
まさか、マリウス君は偽名を見破る天才なのか……?
「まあいいけどね。どっちにしろ戦えるんだからさ」
ずいぶんと好戦的だ。
「ボクは嬉しい。決勝の舞台でキミとやれるんだ。こんなの最高すぎる」
「そうですか」
「先々代さまは自分が負けたって言ってる。でも、そんなの誰も信じちゃいない。大公さまも引き分けって言ってたしね」
叔父上に聞いたのか。
ほんと、恐れ知らずだと思う。
「先々代さまも、ボニさんも、なんだかんだ理由をつけて、魔法戦をしてくれない。この大会だって、だめだ。本気で戦う相手がいないんだよ」
べらべらとよくしゃべる。
ハイにでもなっているのか?
「だからこれは……運命なんだと思う。ボクとキミは、この大舞台で戦うことになっていたんだよ」
本気で言っているのか?
なにを言いだすんだ。
「さあやろう! とびきりの魔法戦になる! キミはボクが待ち焦がれた存在なんだよ! ゴリッゴリのさあ! クソみたいにゾクゾクする戦いをしようよ!」
これが本性かもしれないんだけど、口が悪すぎる。
そんなに戦いが好きなのか。
おじい様もドラグリアで似たようなとこを言っていた。
死闘こそが魔法を進化させる、と。
俺は、戦いにも試合にも、価値なんて見出せない。
だけど、マリウス君を前にして変な気持ちになってきた。
「わかりましたよ、マリウス君。今回だけですからね?」
「~~~~~~~~~~~~!!」
なんって笑顔なんだ。
火をつけてしまったみたい。
『本日最後の試合ーーーーーーーーー! 少年の部・ハイクラス決勝戦がはーーーーーーーじまーーーーーーーるよーーーーーーーーーー!!』
会場もずいぶんと温まってる。
全体が揺れるようにうるさくて、何も聞こえなくなってきた。
『ラグナ公国史上でも指折りの天才! 最年少にして『十天魔』の強者! 次代のエースにしてクロナグラ家の最高傑作! それが――マリウス・クロナグラだーーーーーーーーーーー!』
マリウス君はもう周りの声など聞こえていないだろう。
俺を真っすぐに見て、構える。
『そぉぉぉぉぉぉしてぇぇぇぇぇぇ! 謎に包まれた少年んんんんんん! 素顔を見せない黒き死神ーーーーーーーーー! 先の準決勝ではあのローラント・テラグリエン選手を圧倒し! ここまでやってきたあああああああ! アーニーズ・シントラーーーーーーーーーーーー!!』
彼の強さは底知れない。
最初から全力でいく。
『それでは! 少年の部・ハイクラス決勝戦ーーーーー! はーーーじめーーーーーー!!』
実況と同時に試合が開始される。
「≪魔弾≫」
「≪アクアアロー≫!」
様子見なんて、しない。
どうやら思いは向こうも一緒のようだ。
魔力弾と水矢がぶつかり合う。
水魔法では最速の≪アクアアロー≫だが、速さはこちらが上だ。
『両者撃ちまくるっ! どこまで続くこの連射ーーーーーーーーーーー!』
『これで少年の部とは……今大会はレベルが高すぎますぞ!』
「≪アクアウォール≫!」
目くらましと防御を兼ねた水の壁がせり上がる。
さすがに≪魔弾≫では貫けないか。
「≪魔衝撃≫!」
今度は大きな魔力弾。≪アクアウォール≫ごとぶっ飛ばす。
派手な水しぶきをあげて散る水壁。
マリウス君はすでにそこにはいない。
「≪アクアラーーーーーンス≫!」
目にも止まらないスピードでスライドしつつ、水の槍を次々撃ってくる。
威力の高い≪アクアランス≫は喰らえない。
こちらもまた、回避に行う。
スライディングする要領で距離を詰め、衝撃波をお見舞いする。
「≪衝波≫」
「≪アクアシールド≫!」
素早い対応だ。衝撃と障壁がぶつかり、互いに消える。
「……≪アクアボール≫!」
「≪魔障壁≫!」
今度は逆だ。水球と障壁がぶつかり、相殺。
「もひとつ≪アクアボール≫!」
割と近い距離での攻防に移る。
矢継ぎ早に繰り出される≪アクアボール≫。
こちらは避けると同時に≪魔弾≫。
あちらもぬるりとした動作で魔力弾を避けながら、撃ち返してくる。
『なんて凄まじい攻防だーーーーーーーーーー! 互いに一歩も引かないっ!』
『信じられぬほどの技量ですな! 近い距離での撃ちあいは間近で魔法同士がぶつかった時、自爆の危険がおおいにある。しかし彼らはそれがない! 十代にして熟練の立ち回り! 素晴らしい!』
さて、これではらちが明かない。
変化を起こす必要がありそうだ。
右手と左手にそれぞれ違う魔法を準備する。
「≪鎌鼬之夜≫」
風の刃が詰め込まれた裂空の爆弾を放つ。
「……!?」
マリウス君は危険だと判断したのか、ぶ厚い障壁を張った。
≪鎌鼬之夜≫が炸裂し、≪アクアシールド≫をズタズタにする。
彼が反撃へ移ろうとする間に、もう一方の手を使い、追撃だ。
「≪地雷之天≫!」
「くっ!」
地を這う雷が、マリウス君の足元から天へ上る。
雷樹にも似た現象を、彼はギリギリで避け、大きく下がった。
今ので倒したと思ったが、身体能力が高い。身の軽さを活かしている。
『なんだあの魔法はーーーーーーーーーーーー! 見た事も聞いたこともないっ! どうなっているんだーーーーーーーーーーー!』
『今度は風! 雷、土、風、無属性と……どれほどの手数を持っているのか! 気になりますぞ!』
マリウス君は驚いたように、あるいは嬉しそうに、こちらを見ている。
「やっぱりだ! コレだよコレ! めっちゃ硬い! なにが硬いって、魔法士としての存在が硬いよ!」
魔法士としての存在が硬いって、どういうこと?
「ただのやり合いじゃボクが不利っ! この……緊迫! 今まで感じたことが、ない!!」
彼の目の色が変わったように見える。
魔力が嵐みたいに吹き荒れて、バトルコートを覆った。
「でも、それでも勝つのはボクさ! 行くよ!」
今までと雰囲気が明らかに違う。
「ボクの新しい切り札を紹介する! ≪アクアビット≫!!」
「なに?」
初めて聞く詠唱に眉をひそめる。
魔力が集中を開始。
マリウス君の周囲に五つの≪アクアボール≫が生成される。
「これはまさか」
わかる。
たしかめる必要もない。
五つの≪アクアボール≫はただの水球ではないのだ。
「気づいた?」
「ええ、それは俺の――」
黒蛇竜の盾と同じ、と言いかけて口をつむぐ。
「キミが盾を動かしていたのを見て、ピンときたんだ。実用までこぎつけるのは大変だったけど、できた」
「≪アクアボール≫を自在に動かせるのか」
「違う! これはもっと……ヤバイものさ!」
彼が手をかざすと同時に、五つの≪アクアビット≫が動き始めた。
俺を取り囲むかのように浮遊し、そして――
「っ!?」
直感、だった。
背筋に冷たいものが走り、即座に後転。
俺がいた空間を、≪アクアビット≫から射出された≪アクアアロー≫が撃つ。
「よくかわした! でも! 終わりだ!」
考える暇を与えないつもりか。
なんて魔法だ。
≪アクアビット≫は≪アクアボール≫なんかじゃなく、自在に宙を動く砲台。
彼の意思に応じて敵を取り囲み、殲滅するもの。
驚いたな。
不覚にも込み上げる楽しさで笑みができる。
「じゃあ俺も」
「はあ?」
「≪魔弾球≫」
勝負はまだこれからだ。
終わるのは、まだ早い――




