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セブンスターズマジックバトル『ラプソディ』21 手がかりを掴む

 真っすぐに向かったのは、女性選手用の医務室だ。

 まだいるかはわからないけど、行ってみる。


 廊下を限界の速さで歩き、目的の場所を見つけた。

 扉をノックすると、返事が来る。


「どなた?」


 出てきたのは、二十歳くらいの女性だ。

 来ている服は試合用のものではない。


「エリーシェ・ザンダーズ嬢に話があってきました」

「……」


 その女性は露骨に嫌な顔をした。


「ぶしつけな方ですね。お嬢さまはいま、休んでおられます。お引き取りを」

「三分でいい。どうしても聞きたいことがある」

「あなた、アーニーズ・シントラー選手よね? ダメよ。怪しすぎる」


 なぜだ。


「ルシラさん、いいのよ。通してあげて」


 中から声がかけられる。


「お嬢さま、しかし」

「その人、アーニーズ・シントラーでしょう? 話くらい、いいわ」

「……」


 ルシラさん、と呼ばれた女性は俺をきつくにらみながらも、通してくれた。

 ベッドに座るエリーシェ・ザンダーズ嬢は、そこそこ元気そうだ。


「初めまして。アーニーズ・シントラーです」

「ええ、知っていますわ」


 さすがに表情は暗い。


「それで、話とはなんでしょう? 負けた感想でも聞きにきたのかしら」


 自嘲気味のセリフだ。


「試合はあなたが圧倒していましたよ。足を活かした電撃的戦術。熟達した魔法の腕。状況判断も素早いし、負ける要素はなかった」

「そう? でも……やられちゃったし」


 ちょっと元気が戻ったな。


「いいえ、試合が決まる直前、あなたは不自然に態勢を崩した。あの時、なにがあったのですか?」

「……」


 これが本題だ。

 アリステラの時と酷似した状況でなにがあったのか、知りたい。


「わからないのですわ。急に、まるで強烈な光でも見たみたいに、目が」


 同じだ。


「魔法での攻撃ではない?」

「ええ、そうなのです。最初は太陽を見てしまったからだと思ったのだけれど」


 それは違う。

 まだお昼を少し過ぎたところだ。太陽はほぼ真上にあった。

 

 普通に光が発せられたのなら、誰かが気づく。

 となると、その正体は細く鋭い、一直線の光。

 そしておそらくは、魔導具。


「なんにせよ、負けは負け。ザンダーズ家も地に墜ちたって、言われちゃう」

「そんなことはないと思いますが」

「お兄様も重傷を負って療養中ですし……わたしが頑張ろうとしたのだけど」


 しまった。

 ザンダーズ卿をやったのは、俺だ。

 話題を変えなくては。


「それにしても見事でした。足に雷をまとわせていたのは新魔法ですね?」

「え、わかりましたの?」

「すごいと思いましたよ」

「あ……でもそれって、わたしの足をずっと見てたってこと……?」


 エリーシェ・ザンダーズは頬を少し赤らめている。

 話題を変えたのに、今度は別の意味でまずいことになりそうだ。

 後ろでルシラさんが、ごほん、と咳ばらいをした。


「すみません。話をありがとうございます。それでは」

「待って。話をした代わりじゃないけれど、素顔を見せてくださらない?」


 いいや、それはできない。今は。


「大会が終わったあとならいいですよ」

「ほんと? 約束ですわよ?」

「ええ、お大事に」


 なんか居づらくなってきたので、そそくさと医務室を出る。

 次に向かったのは、観客席だ。

 ウチのメンバーがいるところまで、走る。


「シン……じゃなかった。アーニーズさん? どうしたのよ」

「ミューズさん、みんな、ちょっといい?」

「というかあんた、もうすぐ試合じゃないのかい?」


 だいじょうぶ。まだ少しは時間がある。えーと、あと五分くらい?


「聞いてくれ。急ぎ、やってほしいことがある……って、ラナは?」

「グレイメンさんと情報収集に出てるわよ」

「アリステラ姐さんはだいじょうぶなの?」

「リーア、彼女なら問題ないよ。めちゃくちゃ悔しがってたけどね」


 ああ……とみんな彼女の様子を思い浮かべているようだ。

 

「ごめん、時間がないから短く説明するよ」


 ヴィクトリア、エリーシェ・ザンダーズ、アリステラの試合で起こったことと、俺の推理を話して聞かせた。


「嘘……不正?」

「ひどいニャ」

「ろくでもないことをしますわね」


 クロエさんとメリアムさんがだいぶ怒っている。


「俺の準決勝の相手はローラント・テラグリエンだ。予想が正しければまた同じことが起きる」


 全員が息を呑む。


「シント、わたくしたちはなにをすれば?」

「言って」


 ディジアさんとイリアさんは、俺が言いたいことをわかっている。


「不正を行っている者は、位置関係から見て、観客席にいる」


 西側の、おそらくは出入り口の直上だ。


「俺はわざとその位置について、あえて行わせようと思う」

「!?」

「さすがに危険なんじゃ」


 来るとわかっていれば、大きな問題はない。


「試合中、俺が合図したら、そいつに向かって走ってほしい」

「ンーフ、現行犯逮捕をするのだと推察します」

「いや、逃がしてほしい」

「どういうことですか?」


 アミールの問いはもっともだ。


「ダイアナ、アテナ、君たちは怪しい人間がいたら捕まえるふりをして、ほどほどに追いかけてくれ。ディジアさんとイリアさんは空からおねがいします」

「なるほど、あの時と同じですね」

「食い逃げのヒトたちだね!」


 以前、同じ方法で食い逃げ犯のアジトを突き止めた。それをやる。


『いよいよ始まるぞーーーーーーーーーー! 本日のメイン競技! 少年の部・ハイクラスだーーーーーーーー!』


 おっと、もう時間か。


「ミスは許されない。やっと手がかりをつかめるかもしれないんだ」

『さあああああ! 西側から入場の美男子はああああああ! 優勝候補でありアカデミーの首席! 天才とも呼ばれるぅぅぅぅぅローラント・テラグリエンーーーーーーーーー!!』

「俺は妨害を受けやすい位置で戦い、光魔法で合図をする。俺の視線の先に、そいつはいるだろう」

『そぉぉぉぉぉしてぇぇぇぇぇぇ! ヤツが来るぅぅぅぅぅぅぅ! 我が国の誇る魔法士たちを蹴散らしてきた漆黒の死神ぃぃぃぃぃ! アーニーズ・シントラー!』


 またしても大ブーイングだ。うるさいな。


「ちょっ……もう始まるってぇ!」

「話してる場合じゃ」

「いいよ。すぐに行けるし」

「さすがです! シン……じゃなかった! アーニーズさん!」

「タイミングを見逃さないように頼むよ」


 少しばかり賭けの要素が大きいけど、やらずにはいられない。


『おーーーーーーーーっと! アーニーズ・シントラー選手が出てこないぞーーーーーーー! 恐れをなしたか! 黒き死神!』


 さんざんな言われようだな。

 まあいい。行くか。


「じゃあおねがい」


 それだけ言って、≪飛衝マジックフライ≫を発動。

 観客席からバトルコートへ舞い降りる。


『なん……という登場だ! 跳んできたあああああああああああああ!』

『まさかとは思いますが、飛翔の魔法ですかな!』


 さらにブーイング。俺がなにをしたって言うんだ。


「君……ふざけているのか?」


 眼前に立つローラント・テラグリエンが頬をぴくぴくさせている。


「派手な登場でかっこうつけても勝敗に影響なんかないぞ!」

「ただ跳んできただけです。別に特別なことはしてない」

「……舐めた口を」


 美形の顔面が歪む。

 なんか怒ってるな。


「ヨナタンはしばらく歩けないくらいの重傷だ。どんな手を使ったかは知らないけど……同じ目にあわせよう」

「足を狙うと? ありがとうございます。狙いを教えてくれて」

「なっ……貴様ぁ!」


 お礼を言っただけなのに、さらに怒られた。なんなの?


『なんだなんだーーーーーーーー! 試合前から熱い火花が散っているようにも見えるぞーーーーーーー!』

『面白くなりそうですわい! ふぉーふぉっふぉ!』


 ローラント・テラグリエンのことは、どうだっていいと思う。

 けど、なんでかな。

 ほんの少しだけ、自分の心が乱れているようにも思う。

 

「死なない程度に痛めつけてやるよ」


 ローラント君はそんなセリフを言って、距離を空けた。

 お優しいことだ。殺さないでくれるらしい。


 俺にとって試合など、ほんとはどうでもいいはず。

 でも、どうしてだろう。

 胸の奥底で、自分ではよくわからないものが渦巻いてる。


『それではああああああああ! 少年の部・ハイクラス準決勝第一試合いいいいいいい! はああああじめええええええ!』


 歓声とブーイングが入り混じる中、試合が始まるのであった――

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