ファミリアバース 46 始まりの時
「じゃあ自己紹介からお願いします」
部屋の真ん中に置いたテーブルの向こうに並ぶのは、俺がスカウトしたギルドメンバーだ。
ミューズさん、アリステラ、ラナ、カサンドラさんにアミール君。
俺を入れて総勢六人が冒険者ギルド『Sword and Magic of Time』の創立メンバーとなる。
カサンドラさんとアミール君をメンバーに加えてすぐ、俺たちはこうして家に集まっていた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「なんだか空気がアレだね、姉さん」
どういうことだ。
かろうじて喋ったのはアミール君だけ。
あれ?
なにか間違いでも犯したのだろうか。
「ギルドマスター、ちょーっといいかしら」
「なんでしょう、ミューズさん」
「あのね、突然アリステラとラナを送ってきて、いきなり『自己紹介、どぞ』はないわよ」
そんなことを言いつつも、彼女はアリステラとラナの名前をもう呼んでいる。
問題はなさそう。ふふふ。
「いや、なんか娘を見守る父親みたいな微笑みされても」
「そうですか?」
嬉しいものは嬉しいから、しょうがないと思う。
「わかりました。ちょっと急いでいることですし、俺の方から。まずはピンクと緑と茶色の髪をしているのがミューズさん。ギルド内のことは彼女に仕切っていただこうかと」
「え、ええ。よろしくお願いね」
「次は、銀髪なのがアリステラ。ゴールド級冒険者で、剣と魔法を使いこなします。足も速いし、いろいろと頼りになると思います」
「……よろしく」
ほう、とカサンドラさんから感嘆が漏れた。
「明るい茶髪なのがラナ。主に情報収集を担当。元・一流のスパイですし、聞けばなんでもわかるかと」
「シント、ハードル上げないで? でもみんなよろしく!」
ちょっとだけ笑いが起こる。
「灰色の髪をしているのがカサンドラさん。ゴールド級冒険者で、『撃槍』っていう異名がある人です。すごく強いので、頼りにさせてもらいます」
「シント、あんたはギルドマスターなんだから、あたしにさんづけはいらないよ。そこまで歳も離れてないからね、呼び捨てにしな」
「じゃあ、カサンドラ、改めてよろしく」
「ああ、よろしく頼むさ、みんな」
そして最後はアミール君だ。
「深い灰色の髪をしてるのがアミール君。カサンドラの弟さんです。彼にはミューズさんのサポートをしてもらいたく」
「はい。みなさんよろしくおねがいします。それにしてもシントさん、僕らを髪の色で区別してません?」
「説明しやすいんだよ」
「いやいや……あ、僕も呼び捨てでいいですから」
うなずいて、紹介は終わった。
ここからは初仕事の話になる。
「いきなりですみませんが、これから初仕事の話をします」
「はあ?」
「……シント、説明」
「どゆこと?」
ミューズさん、アリステラ、ラナにはまだ話していない。
新市街に巣食うワルダ一家という悪党の殲滅。
説明をしたのだが、三人は言葉をなくしたようだった。
「はいはーい! ギルドマスター? なに言ってるのかしら?」
「初仕事ですね」
「うん、そうね。それはわかったわ。わたしが言いたいのは、なんでいきなり超危険な仕事かってことよ!」
「なんかすみません。でも良い機会だと思って」
「良い機会じゃないわよ! だめ!」
「どうしても?」
じっと見つめながらお願いしてみた。
「……うっ、まるで捨てられた子犬のような目だわ」
「ミューズ、いいじゃないか。ギルドマスターがやりたいって言ってるんだ」
「シントに甘いわよ、カサンドラさん」
「カサンドラと呼んでおくれ」
彼女たちの雰囲気は悪くない。すぐに仲良くなりそうだ。
「俺はどうせなら一番を目指したいと思っています。今回の件、成功すれば収入的にも評判的にもいいと思いますし……それに」
「それに、なに?」
「困っている人がいるのなら、助ける」
言い切ると、みんな目を見張った。
「先に行っておきたいんですが、俺のギルドがするのは悪党退治とか人助け。それが冒険者、でしょ?」
ここに来るまで、いろいろなものを見てきた。
だから、こうする。
「だね!」
「……それには賛成」
「あたしもそれでいいさ」
ミューズさんはため息一つついて、しょうがないなあ、と言った。
なんだかんだで嬉しそうだ。
「で? これからどうするわけ? まさかすぐに突入なんて言わないでよね」
「はい。突入は最後です。こちらには大した情報がない。だから、ラナ、お願いできる?」
「うん、いいよ。ワルダ一家を探ればいいんだよね?」
「そう。構成人数、アジト、その他いろいろ」
「まっかせて!」
頼もしい返事がきた。
大仕事になるかもしれない。しかし、前進あるのみだ。
★★★★★★
そして一日と半が過ぎる。
再び全員に集まってもらった。
「ラナ、お願い」
「うん、これを見て」
テーブルの上に広げられたのは街の地図。新市街区域限定のものだ。
「ワルダ一家のアジトは三つ。新市街にある倉庫を根城にしてるみたい」
彼女が指したのは新市街のもっとも奥だった。憲兵はおろか、普通の人もいかないような、暗がりだ。
「構成員は末端を合わせて212名。一部を除いたほとんどが三つのアジトに分散していて、比率は三、二、五。半数が親玉のところでたむろってる」
ラナが持ってきた情報を聞いて、みんながうなり声を上げた。
一日半でここまで掴むとは思わなかったから、俺もすごく驚いたな。
そして彼女は四枚の似顔絵をテーブルの上に置く。
「主だった幹部は二人。賞金額100万アーサルの『皮剥ぎ職人』ことダンガズ。倉庫に武器を集めてる。切れ味の鋭いナイフと包丁で戦うんだって」
「クソ野郎だね」
「……カサンドラ、知ってるの?」
「噂は聞いてる。拷問好きの最悪なヤツさ」
カサンドラが吐き捨てるように言う。
これ、モヒカンだっけ? 変わった髪型の男ダンガズは極悪な人物らしい。
「もう一人は『邪魔導』ユーテラ。魔法士で、ワルダ一家の頭脳って言われてるみたい。賭博場を仕切っていて、賞金額は200万アーサル。かなりの使い手」
魔法士がいるのか。
「そしてボスのワルダ。賞金額400万アーサル。やってない犯罪は脱税だけ」
税金は納めているのか。不思議な悪党だな。
三人の賞金合計は700万アーサル。
六年分くらいの生活費だ。
フォールンについてから金額がインフレしてる。
「でも、最後のはほんとにヤバいかも」
「まだいるのかい?」
「うん、こいつ、用心棒だって。偽名だと思うけど、名前はフレイム。神剣のレプリカ持ち」
「……レプリカ」
アリステラがつぶやく。
ここにきて噂に聞くレプリカか。
絶大な力を持つ【神格】を模して作られたのが『レプリカ』だ。今は失われた古代の技術によって、人の手で生まれしもの。
「かけられた賞金は――1000万アーサル」
「1000万!? 100万の間違いじゃないの!?」
ミューズさんが椅子から転げ落ちそうになる。
「超高額賞金首だわ……やっぱり危険すぎる」
そんなにすごいのか。
フレイム、という男の似顔絵は、顔に炎の入れ墨があり、眼光も鋭い。
しかし、レプリカ持ちならなおさら放っておけなかった。街の人がなにをされるかわかったものじゃないな。
「いや、やろう」
「ギルドマスター、いえ、シント、本気?」
「うん、ミューズさんに心配をかけるのは心苦しいのだけれど」
「……そこまで言うなら、勝算はあるのよね?」
ある。
俺はみんなの力を信じているし、ある種の確信を持っている。
ここに俺たちが集まったのは偶然の結果かもしれない。
ただ思う。
一人じゃない。
それが大きな力になるのだと。