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セブンスターズマジックバトル『ラプソディ』20 成人女子の部・決勝

 『少女の部・ハイクラス』の優勝者はマルグリット・テラグリエンとなった。

 タンカで運ばれて行くエリーシェ・ザンダーズとは対照的に、テラグリエン三姉妹の次女は喜びを全開にし、大はしゃぎといった様子。

 

 会場からは惜しみない拍手が送られ、勝者を称えていた。

 マルグリット・テラグリエンはたしかに強いんだけど、エリーシェ・ザンダーズの方が上手だったように思える。


 だが、あの一瞬、なにかが起こった。

 

「あれはなんだったんだ」


 アリステラに目を向ける。

 彼女は魔法戦を前にして深く集中し、呼吸を整えていた。


 インターバルは三十分。きっと長いようで短いはず。

 浮かんだ疑問を押し込み、無駄な会話はしないようにする。

 始まりの時を待つ間、考えをめぐらした。


 ヴィクトリアの時も、エリーシェ・ザンダーズの時も、()()()が起こったのは間違いない。

 どちらも相手はテラグリエン家の魔法士だ。

 それと、肌の変色。人を超えたかのような魔力と耐久力。

 重要な共通点に思える。


「そろそろか」


 次第に外の観客席が騒がしくなってきた。

 『成人女子の部』決勝が始まろうとしているのだ。


『成人女子の部! 決勝戦んんんんんんん!! いよいよだああああああ! テラグリエン家が三部門制覇になるのか! あるいは招待選手が一矢報いるのか! かぁぁぁぁぁつもぉぉぉぉぉぉぉく!』


 だいぶ盛り上がっている。

 今大会ははたから見れば大成功と思えるほど、盛況だ。


『さあさあ! 東より現れたるはああああ! 可憐なるエルフ族の魔法士! 巷では『魔剣姫』と呼ばれる凄腕だあああああ! その名は! アリステラ・フィオーネ・シルフガルダ選手ーーーーーーー!』

『いまのところ三つの属性を操っておりますからな! 激レアな『才能』を持つ女傑ですぞ!』


 アリステラはラグナ公国民からも人気だ。

 けっこう歓声がすごい。


「そしてええええええ! 西から降臨せしはあああああ! 本命中の本命! かのマリア・ラグナ様にも比肩しうるとの名声を得た我が国最強の女性魔法士ぃぃぃぃぃぃぃ! ローザリンデ・テラグリエン選手ーーーーーー!』」


 爆音とも思える大歓声。耳が痛い。

 すでにして王者の貫禄をただよわせ、入場。

 歩み寄り、アリステラと目を合わせる。

 とうぜん、話は聞かせてもらう。

 ≪地獄耳ヘルズイヤー≫を発動し、聴覚を強化する。


「ほうら、やっぱりここまで来た」

「……」


 獰猛な笑み。

 

「どこまでやれるか、魅せてちょうだい?」

「……黙って。潰す」

「ふっ」


 俺の見立てだと、魔力や腕力はあちらが上。

 しかし、素早さと手数ではアリステラに分があるだろう。

 両者は距離を空け、構える。


「では両者……はじめっ!」


 合図をしたのは、あのデキる審判さんだ。


「≪アクアボール≫!」

「≪アースブロック≫」


 魔法がぶつかりあい、弾ける。

 水と土が戦う場合、わずかに土が有利だと言われているのだが、アリステラは負けてない。


「≪アースパイク≫!」

「へえ?」


 彼女は土魔法に切り替え、撃ち放つ。

 広範囲を呑み込むいくつもの土杭が足元から出現し、ローザリンデ・テラグリエンを襲う。


「土はこっちが専門家よ!」


 アリステラの≪アースパイク≫は大技。発動までの間に少しばかりの隙が生じていた。

 ローザリンデ・テラグリエンは≪アースシールド≫を周囲にめぐらせ、防御。


「お返しね! ≪アースパイク≫!」

「……!?」


 反撃は同じ魔法だった。

 アリステラは土杭の間を縫うように避け、距離を詰める。

 

「≪ウインドボム≫!」


 爆風を生み、吹き飛ばそうという作戦。

 風魔法で土属性の強固な守りを突き崩すのは難しい。

 しかしこれは次の一手につなぐためのものだ。


「≪アクアランス≫!」

「≪アースピラー≫!」


 破壊力の高い≪アクアランス≫をくらうのはまずいと判断したか、瞬時に土柱を出現させる。

 互いに一歩も引かない。

 だが、ローザリンデ・テラグリエンは守りに回り、初手以外攻撃を行っていないのだ。


 底知れない嫌な予感。

 そしてその予感は、すぐに的中する。


「やるわね……だったらこれはどう?」


 莫大な魔力の嵐がバトルコートを覆う。

 なにをする気なのか、予想ができない。


 ローザリンデ・テラグリエンは大きく跳躍し、伸ばした腕を下ろす。

 途端に≪アースブロック≫がアリステラの四方から発動。


 信じられないことをする。

 これはいつかおじい様が見せた魔法の超速連射法を応用したもの。

 すぐに拡散する魔力をその場にとどめ、術式をばらまく。術式は魔法士自身から離れれば離れるほど、維持するのが難しくなるはずだ。

 高難度技術を二つ重ねた、言わば超・高難度の魔法術式構築か。恐れ入った。


『なんだこれはあああああああああ! どうなっている!』

『なんと素晴らしい技術! 言わば遠隔魔法奏えんかくまほうそう! これほどのものが見られるとは!』

 

 こんな技術モノを見せられては、興奮しない魔法士などいるわけがない。

 

「さあ、まだまだ行くわよ!」

「くっ……」


 アリステラは最初の二発をかわしたが、残りはくらってしまった。

 受けたらまずい部分は避けたけど、ダメージが大きい。


「≪アースクラッシング≫!」

「≪ウインド……ボム≫!」


 まさに反射的思考。

 ローザリンデ・テラグリエンが放った石飛礫いしつぶてに対し、側方に風の爆弾を打ち込むことで強引な移動を敢行。


 ごろごろと地面を転がるもすぐに態勢を立て直し、反撃を始める。

 ≪アクアピラー≫による水柱から、≪ウインドボム≫にてバランスを乱し、≪ウインドカッター≫につなげる。

 息もつかせぬ連撃はシールドを張る暇さえ与えない。


 形勢は逆転しつつある。

 しかし、ただで終わるローザリンデ・テラグリエンではないだろう。


 彼女は守りを捨て、片手で強引に≪ウインドカッター≫を振り払った。

 腕から血しぶきが舞う。


「≪アースブロック≫よ」


 土属性の基本となる魔法が連続で撃ちだされる。

 これで詰みだ。

 アリステラはすでにそれを読んでいた。


「なんですって!?」


 土塊が当たったアリステラの姿が、ばしゃ、と崩れる。

 水の上級魔法≪アクアダブル≫。

 やられたのは分身だ。


「くっ……!」


 いまさら気づいても、遅い。

 ローザリンデ・テラグリエンが振り向いた先には、決め技である≪アクアラッシュ≫を構えたアリステラの姿が。


 だが、しかし――


「……っ!?」


 アリステラの動きが止まる。

 片目を左手で押さえ、発動中の魔法が消失した。

 なにが起こった?


「≪アース……フォールズ≫!!」


 一瞬の隙だった。

 ローザリンデ・テラグリエンが作り出したのは、空に浮かぶ岩塊。

 これはかなり中途半端な魔法だ。精度もなにもない。自重でただ落ちるだけの塊だろう。


 なんとか避けたアリステラの元へ、追撃がなされる。

 一発の≪アースブロック≫が、みぞおちに命中。

 あれでは呼吸ができない。

 終わりだ。


『アリステラ・フィオーネ・シルフガルダ選手ダーーーーーーーーーウン! 最後の最後で力が抜けたか! ローザリンデ・テラグリエン選手の逆転ーーーーーーーーー!!』

『……ふむ』

『シルフガルダ選手立てない! 戦闘不能だーーーーーーーーー!』


 審判が腕を交差させて、試合をストップ。

 アリステラの負けとなってしまった。

 俺はすぐさまバトルコートに駆け寄り、アリステラの様子を見る。


「アリステラ」

「……最悪」


 彼女は四つん這いの状態で、地面に拳を叩きつけた。

 

『勝者! ローザリンデ・テラグリエン選手! テラグリエン家が三部門を制覇だーーーーーーーーーー!』


 勝者を称える大きな歓声。

 

「アリステラ、戻ろう」

「……」


 肩を貸し、バトルコートに背を向ける。


「予想以上だったわよ? エルフ娘ちゃん?」


 後ろから声をかけてきたのは、ローザリンデ・テラグリエンだった。


「でも、わたくしの勝ちだわ。約束通り、あなたの素顔を見せてもらうわよ。アーニーズ・シントラー」

「いいですよ。大会が終わった後でね」

「楽しみにしておくわ」


 いまは相手にしている時間がない。

 あの時、決着がつく直前になにがあったのか、聞かなければ。


 選手待機室に戻り、アリステラをソファーに座らせる。

 水をグラスに注いで、手渡した。

 意識ははっきりしているし、大きなケガはない。

 ただ、すごく痛そうだ。


「……やられた」

「ほぼ勝ちの展開だったよ。でも……あの時、なにがあったんだ?」

「わからない。急に目が見えなくなった」


 目が見えなくなった?


「魔法?」

「たぶん、違う」


 ではなんだ? なにが起きたんだ?


「どこか別のところから、目を焼かれたと思う……クソっ!!」


 滅多に言わない言葉を吐きながら、ソファーを派手に殴る。

 悔しさに顔をにじませ、怒りが満ちていた。

 

 あの時、アリステラは西側観客席の壁近くに、ローザリンデ・テラグリエンを追い詰めていた。

 仮定の話はしたくない。したくないけど――妨害がなければ勝利していたのはアリステラだったろう。


「妨害工作、か」

「ほんとムカつく。インチキ」


 その通りだ。

 思えば、先の試合での妙な出来事も、妨害と思われる。

 そして、妨害が起きたのは全てテラグリエン三姉妹が出ていた試合だ。

 そうとなれば、俺がすべきことは――


「戻ろう。シスター・セレーネに治癒をしてもらって……」

「いい。少しここで休む」

「一人にしたくないんだけど」

「やめて。子どもじゃない」


 一人にしてくれってところか。


「わかった」


 アリステラもヴィクトリアもあと一歩だった。

 

「……なんかちょっと、変な気分だ」


 自分でも言い様にない感情が込み上げてくる。


「いや、まずは確かめないと」


 足早にその場を去り、()()()()()()()()()()()()()()

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