表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
528/576

セブンスターズマジックバトル『ラプソディ』19 まさかはやはりだった

 ヴィクトリアを観客席にいるみんなのところへ預けたあと、少しばかり言葉を交わし、会場内へと戻る。

 ちょっと行きたいところができた。

 向かう場所は医務室だ。


 観客席とは違い、静かな廊下を進む。人もまばらだから、邪魔をされることもない。

 医務室には五つのベッドがあり、使われているのは一つだけ。

 ヴィクトリアに殴られた審判が寝かされていた。


「おや? 君は」

「ああ、審判の方」


 誰かと思えば、俺の予選などを担当していたデキる審判の方だった。

 さっきはいなかったけど、どこにいたんだろう。


「またお会いしましたね」

「そうだな。君はなぜここに?」

「この人に聞きたいことがあって来たのですが」

「まあ無理だな。見事にノックダウンされている」


 殴られた審判の顔は腫れあがり、苦しげにうめき声を上げていた。


「あなたはどうしてここに? さっきはバトルコートにいないようでしたが」

「さっきの試合……本来なら私が審判を務める予定だったのだ。だが、急に交代を命じられてな」


 どういうこと?


「ずっと審判をやり通しだったこともあって、少し休めと言われた。だから観客席で見ていたのだが――」


 納得のいかないジャッジが行われ、ヴィクトリアの反則負けという事態にまでつながった。


「殴るのはよくないが、どうにも判定が厳しすぎたように思う。早すぎるレフェリーストップのわけを聞きにきたのだがな」

「たしかに殴ったのはよくなかったけど、この人は幸運でしたよ」

「幸運?」

「ええ。ウチのヴィクトリアが本気で殴ったら、この人の首から上が吹っ飛んでますし。さすがに手加減したみたいです」

「……そ、そうか」


 それはいいとして、審判の人はまだ意識を取り戻していない。

 これじゃなにも聞けないんだけど――


「あれは?」

「あれ、とは?」


 寝ている審判の人のポケットが膨らんでいるように見えた。

 なんだろう。気になる。


「君! なにを!」


 制止の声を無視して、ポケットをまさぐった。

 中に入っていたものを取り出す。

 黒い筒状のなにか。半壊していて、中身があらわになっている。きらりと光る青白い鉱石だ。


「これ、魔晶石かな?」

「なんだと?」


 魔晶石ってことは、魔導具。

 すぐ隣にいる審判さんに聞いてみる。


「審判の方はこれをみんな持っているのですか?」

「いや……」

「魔導具にも見えますが」

「たしかにな。だが、こうも壊れていては」


 言う通りだ。魔力を込めても、反応はない。

 ヴィクトリアに殴られた衝撃で、コレも破壊されたか。


「君はいったい、なにを」

「ああ、いえ。ウチのヴィクトリアが言うには、不正があったようで」

「不正?」


 ざっと経緯を話す。

 審判の方は怒りもせずに考えこんでいる。


「急な審判の変更……早すぎるレフェリーストップ……いきなりつまずいた選手に怪しい魔導具らしき物体、か。証拠にはならないが……」

「そうですね」

「抗議するか?」

「無駄です。仮に不正があったとしても彼女は審判を殴った。反則負けは覆らない」

「それはそうだが」


 限りなく黒に近いグレーってことだな。

 加えて、ルイーサ・テラグリエンが見せた一瞬の変化。

 ヴィクトリアの魔法を喰らい続けても倒れない耐久力。

 いまの試合、いろいろと起こりすぎている。


「この魔導具らしきものはこちらで調べてみよう。構わないか?」

「ええ、おねがいします。だけど、気をつけてください」

「ああ、わかっている。もしもこれが運営をも巻き込んだものなら――」


 始末されるかもしれない。

 大げさに聞こえるかもだけど、可能性はある。


 やっぱりこの審判、ちゃんとした人だ。

 アンヘル嬢とか、ベルノルトさんとかもそう。この出会いに感謝せねば。


「というか君は出番を控えているんだろう。急いだ方がいいと思うが」

「ごもっとも。では」

「ああ、健闘を祈るよ」


 なにかを掴めそうな感覚とともに、医務室を出るのだった――



 ★★★★★★



 次に向かったのは、アリステラのところだ。

 『成人女子の部』東側待機室に、彼女はいた。

 準備運動をしていたようで、熱い魔力がただよっている。


「……また来た」

「ああ、セコンドに就くよ」

「ヴィクトリア、様子は?」

「そうとうへこんでた」

「……そう」


 いつもは、あとで説教、と続くのだが、彼女はそれを言わなかった。

 

「アリステラ、もしかしたら妨害があるかもしれない」

「……どういうこと?」


 ヴィクトリアから聞いた話と、ついさっき医務室であった出来事を話す。


「キレそう」


 めっちゃ怒ってる。

 まずいぞ。アリステラも審判を殴りそうだ。


「試合中は気をつけてほしい。それと、ローザリンデ・テラグリエンにも」

「なんの話?」

「まだ可能性の話なんだけど、ルイーサ・テラグリエンはモンスターの力を取り込んでいるかもしれない。だとしたら、君の相手も」

「……!」


 俺の考える最悪の予想は、テラグリエン家がオーギュスト・ランフォーファーとつながっていた、ということ。

 ヤツは以前、俺と戦った時、筋肉が強化され、肌が変色した。

 ルイーサ・テラグリエンが一瞬だけ見せた変化は、それによく似ているのだ。


「まだ証拠はない。勘違いかもしれない。だけど、どうにも気になるんだ」

「棄権しろなんて、言わないで」


 まさかだ。

 むしろローザリンデ・テラグリエンがモンスターの力を取り込んでいるのなら、化けの皮をはがす。


「いいや、思い切りやってくれ。もしもの時は、俺も加勢する」


 証拠さえあれば、大会などどうでもいい。

 だが、アリステラは首を振る。


「加勢はいらない。わたしがやる」


 そうとう気合いが入っている。


「ヴィクトリアは勝ってた。でも、あれが不正だとしたら、許せない。絶対に、やってやる」


 気合以上に、果てしない怒りを感じた。

 妹分をやられたんだ。気持ちはわかる。


「ああ、頼む」


 なにが起きたとしてもいいように心構えだけはしっかりしておこう。



 ★★★★★★



 大会は滞りなく進み、『少年の部』決勝が終了。

 優勝者はラグナ六家グンナー侯爵家当主の甥。

 ドラグリアの地で戦ったフォルカー・グンナーの従弟いとこに当たる少年が『少年の部』の栄えある優勝者となった。


 どの部門もベストフォーに残ったのは、ほとんどがラグナ六家の子弟か、それに近しい家柄の人物ばかり。

 例外はヴィクトリアとアリステラ、そして例の男ラルス・ウルヴァンだけだろう。


 これから始まるのは、『少女の部・ハイクラス』の決勝。

 テラグリエン三姉妹の次女、マルグリット・テラグリエン対同じくラグナ六家ザンダーズ侯爵家の長女エリーシェ・ザンダーズの魔法戦となる。


 注目の一戦だ。

 テラグリエン三姉妹はモンスターの力を取り込んでいるかもしれない。

 一挙一刀足も見逃さない構えで、戦いの開始を待つ。


 やがて、バトルコートに両者が出揃う。

 長身で均整のとれた肉体をしているのが、マルグリット・テラグリエン。鼻が高くて足がすごく長い。改めて見ると、かなり強そう。


 対するエリーシェ・ザンダーズは、どちらかというと細身で、無駄な筋肉のないすらりとした印象。しかし、足取りは軽やかで敏捷性に優れているだろうことがわかった。

 聞けば彼女はあのヘルマン・ザンダーズ卿の、歳の離れた妹なのだそう。

 なんとなく顔が似ているのは、兄妹だからか。


 戦いはすぐに始まる。

 家柄の特徴がそのままなら、土魔法と雷魔法のぶつかりあいになるはずだ。


 先手はマルグリット・テラグリエン。石飛礫いしつぶてを作り出し、放つ。扱いの難しい≪アースクラッシング≫を見事に使いこなしている。


 エリーシェ・ザンダーズは目を細め、少しだけ腰を落とした。

 次の瞬間、その場から消える。

 速い。とてつもなく。


 マルグリット・テラグリエンはそのスピードについていけない。

 周囲を回るようにして動き、≪サンダーボルト≫から≪サンダーショック≫を浴びせる。


 『少女の部・ハイクラス』はほとんど見ていなかったんだけど、テラグリエン三姉妹の他にもう一人、とんでもないのがいたようだ。


 もちろんマルグリット・テラグリエンも激しく応戦するが、当たらない。

 これは、モノが違う。

 なにか秘密がありそうだけど、なんだろう。


「足?」


 二本の足が雷をまとっているようにも見える。

 

「速さだけなら、君やラナと同等か」

「わたしはもっと速い」


 隣でともに観戦しているアリステラが憮然として言い放った。

 苦笑しつつ、観戦に集中。


 エリーシェ・ザンダーズは有効打を積み重ね、相手を翻弄している。このまま勝つかもしれない。


 しかしここで魔法戦に変化が訪れた。

 マルグリット・テラグリエンは障壁を張りつつ、魔力を膨張させる。


 これもまたすごい。

 ≪アースピラー≫を用いた避雷針とでもいうのか。

 バトルコートに数十本もの土柱が出現。

 マルグリット・テラグリエンは柱の影に隠れる。


「弾避けだな」


 考えたものだ。

 だが、妙手に見えるそれは、諸刃の剣だろう。

 弾避けにできるのは、彼女だけじゃない。

 エリーシェ・ザンダーズは即座に状況を理解し、対戦相手の作った土柱を逆に利用した。


 柱から柱へと圧倒的なスピードで移動し、姿をつかませない。

 マルグリット・テラグリエンは追い詰められた。

 エリーシェ・ザンダーズの雷を何度もくらい、崩れかける。


「ものすごい耐久力だな」

「タフなヤツ」


 アリステラは呆れているようだった。

 マルグリット・テラグリエンはまるで足が地面とつながっているかのように、その場から動かない。


 ……

 …………

 ………………


 タフとはいっても、限度があるだろう。

 それに、肌の色が変わっていないか? 絶対におかしいんだけど。


 焦れたエリーシェ・ザンダーズは決めにかかった。

 魔力をたぎらせ、上級の雷魔法≪サンダーボール≫を放とうとする。

 だが、魔法は発動せず、なぜか彼女は態勢を崩した。


「なんだ?」


 ぎょっとしたような、そんな感じだ。

 左手で顔をおさえているようにも見える。

 マルグリット・テラグリエンはそれを見逃さなかった。


 特大の≪アースブロック≫がエリーシェ・ザンダーズを襲う。

 避けきれなかった彼女は土塊を受けて、吹き飛ぶ。

 これはさすがに立てない。勝負ありだ。


 だけど、なんだったんだ?

 まさか、ヴィクトリアの時みたいな妨害か?


「次はわたしの番」

「ああ、準備をしたほうがいい」


 アリステラは気づいていない。

 さっきのは、なんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ