セブンスターズマジックバトル『ラプソディ』16 大貴族の長女
ローザリンデ・テラグリエンの放った言葉により、待機室に不穏な空気が生まれる。
アレハンドロ、呼ばれた男が距離を縮めるにつれ、緊張感が増した。
警備を担当しているはずの運営の男性もなにがなんだかわからない様子でこちらを見ている。
「アーニーズ、やる?」
「アリステラ、待った」
さすがにここでおっぱじめるのはよくない。理性的にいこう。
「俺の兜を取りたいなら、本家の許可を」
ピタリ、とアレハンドロの足が止まる。
ローザリンデ・テラグリエンは楽しそうに笑った。
「冗談よ、冗談。アレハンドロ、お水を持ってきてちょうだい」
「はい、お嬢さま」
ほんとに冗談かな。
「わたくしはローザリンデよ」
「知ってます。テラグリエン三姉妹は有名だそうですし」
「ねえ、あなた、どこの家の人間なの? 外からの招待ならグーレンベルク家の関係者かしら。それともメギストス家?」
いま上がった二つの家名は、帝国本国における魔法の大家だ。特にグーレンベルク家は叔母上が以前に嫁いでいたこともあり、ラグナとの縁は深い。
「関係はありません。一般人です」
「一般人が本家に招待されるわけないでしょう」
ごもっとも。
「まあいいわ。秘密主義ってことね。ますます気に入りましたわ」
「はあ」
「素顔の出来次第じゃ飼ってあげてもいいわよ」
飼うって、俺はペットかなにかか?
アイシアもそんなこと言ってたな。大貴族の長女ってのはそんなんばっかりかよ。
「そうねえ……そっちのエルフ娘に勝ったら、あなたの素顔を見せてちょうだい?」
なんでそうなる。
「準決勝の相手ではないでしょう」
「ええ。でも、わたくしが見るかぎり、その娘が勝ち上がってくる。それを潰してあげますわ」
俺の隣で闘気が溢れる。
アリステラの目が鋭くなり、魔力が尖りだした。
喧嘩なら買うけど? と暗に言っていた。
ローザリンデ・テラグリエンもまた、魔力を解き放つ。
すさまじいまでのぶ厚い魔力だ。
口だけじゃない。かなりの強者。
「お嬢さま、こちらを」
アレハンドロがグラスに継いだ水を手渡したことで、魔力は急激にしぼんでいった。
「アレハンドロ、マッサージ師を呼んでおいてちょうだい」
「私めがマッサージを――」
「あんたはへたくそなのよ。さっさと行ってきなさい。すぐに終わるんだから、待たせたら殺すわよ」
「はは!」
なんなんだよこのやりとり。待機室変えちゃダメかな。もうメンドーすぎてなにも言えない。
もう無視だ無視。付き合っていられんわ。
「アリステラ、調子はどう?」
「……問題ない。それよりもあいつ」
「ああ、恐ろしく強いと思う」
ローザリンデ・テラグリエンからは底知れない力を感じた。
『少女の部』のルイーサ・テラグリエンもそうだけど、テラグリエン家の教育ってすごいんだと思う。
そうしているうちに、『少女の部・ハイクラス』が終わる。
決勝に勝ち残ったのは、マルグリット・テラグリエンとエリーシェ・ザンダーズ。どちらもラグナ六家の少女だった。
「マルグリットったら、はしゃぎすぎよ」
ローザリンデ・テラグリエンがバトルコートにて勝利を喜ぶ妹に苦言を呈す。
テラグリエン家の三姉妹はそろって決勝進出だ。
「ねえ、アーニーズ・シントラー」
また話しかけてくる。
「無視しないでよ」
だってまた面倒なことを言うつもりだろうに。
「俺はあなたの弟さんと対戦することになってる。あまり言葉は交わさないほうがいいでしょう」
「それよ。ローラントのおバカに勝てると思う?」
微笑みをたたえながらの問いだ。
答える義務などない。
「見極めさせてもらうわよ、あなたの力をね」
「どうぞご勝手に。人のことよりご自分のことを考えたほうがいいのでは?」
「わたくしのほうはどうでもいいわ。どうせ勝つんだもの」
これは、アリステラに対する挑発ともとれる言葉だ。
「……やっぱりここでやる」
「あら? わたくしは構わないわよ?」
またか。
アリステラはやる気だ。対するローザリンデ・テラグリエンも構える。
互いの目が鋭くなり、一触即発の状態。
長身で鍛えられた肉体のローザリンデ・テラグリエンは素手でも強そう。
アリステラもまた喧嘩は強い。
あーあー、もうほんとやめてくれないかな。
俺だって我慢の限界なんだけど!
「ええい! ≪遮断障壁≫!」
「……!」
「なにこれ?」
二人を障壁で包み、その間を遮断。試合が始まるまでおとなしくしてもらう。
「へえ……面白いじゃない」
ローザリンデ・テラグリエンは俺の作った魔力の壁をごんごんと叩いた。
「魔力の檻、といったところかしら ますます気に入ったわ、アーニーズ・シントラー」
「おとなしくしていてください」
「おトイレに行きたくなったら、解いてくれるのよね?」
なんかズレてないか、この女性。
「もうすぐあなたは試合でしょう。始まる時に解きます」
「あらそう」
まったく、どうかしてる。
「……アーニーズ、止めなくていい」
「だめだめ。君は挑発に乗りすぎだから」
「……」
不満そう。でもだめだ。
ローザリンデ・テラグリエンは俺の方をじっと見て動かない。
障壁を張り続けること十分あまり。
ようやく試合の時間が来た。
「出番ね。また会いましょう、アーニーズ・シントラー。それと、生意気なエルフ娘ちゃん?」
「……ぶっ潰す」
障壁を解き、送り出す。
やっと解放されると思うと、ため息が出た。
「あいつ、上から言いすぎ。何歳なの?」
「たしか二十歳じゃなかったかな」
「わたしと同じ……ますます潰す」
ぎらついた目と尖った魔力。本気で怒ってる。
「まずは準決勝だ。準備運動でもしたほうがいい」
「わかってる」
彼女の怒りが良い方向に出ればいいけど、少し不安だな。
で、ローザリンデ・テラグリエンはというと、すぐに試合を終えた。
試合時間は三分くらいか。
やはり強い。とてつもなく。
大歓声の中、彼女は余裕の足取りで、西側出入り口へと向かう。
こちらへ戻って来ないのは、決勝戦では西側から入場となっているからだ。
そしてさっそくアリステラの出番が来る。
だいぶ熱くなってるみたいだけど、気合は十分だ。
「アリステラ、がんばってくれ」
「二分で終わらせる」
「熱くなりすぎないように」
「……そうする」
準決勝の相手は、考えるまでもなく強いはず。
ベストフォーにまで勝ち上がった猛者だから、二分で終わらせるのはさすがに無理だろう。
アリステラは闘牛のような迫力とともに、試合場へと踏み出す。
せっかくここまで来たんだし、決勝まで進んでほしいとは思う。
★★★★★★
五分後――
「……張り切りすぎた」
「うん、そうだね」
試合はアリステラが勝利。
なりふり構わぬ速戦をしかけ、対戦相手を倒した。
「三分かかった。悔しい」
「いや、じゅうぶんだと思う」
褒めたのに、きっ、とにらまれる。
「でも、さすがに防御を無視しすぎだ。けっこうやられたでしょ」
「……シャワー浴びてくる」
これには苦笑するしかない。
アリステラは待機室を出て行った。
ちなみに本会場の施設は整いまくっている。
選手専用のカフェはあるし、一般家庭ではまず見られない魔法式降水器――通称シャワーも完備。汗を流せるのだった。
「さて、次は俺か」
四十五分のインターバル後、『少年の部・ハイクラス』準決勝が始まる。
そろそろ待機室に行かないと。
「アーニーズ・シントラー選手」
「はい」
出ようとして、なぜか運営の男性に止められる。
「つい先ほど、通達があった。少年の部・ハイクラスの準決勝は他部門の決勝が終了してから行われることとなったそうだ」
「なんですって?」
どゆこと?
「待ってください。試合の間隔が短すぎませんか?」
準決勝二試合目が終わったら、次はもう決勝だよね?
しかし運営の男性は鼻で笑った。
勝てるとでも思っているのか、と顔が言ってる。
「さすがに休憩時間はあろう」
「しかし」
「すまないが、文句は上に頼む。私は通達をしているだけだしな」
「たしかに」
なんてことだ。
いったい誰がそんな変更を? ありえないんですけど。
「嫌がらせか? どうなってる」
急な変更とは、なにか理由があるのだろうか。
「まあいいけど」
となるとあまり時間がない。
わずかな休憩時間をはさみ、すぐに『少女の部』決勝が始まるだろう。
しかたない――と、そうつぶやきつつ、ヴィクトリアの元へと向かうのであった。




