セブンスターズマジックバトル『ラプソディ』15 今日が大一番
七星武界魔錬闘覇は七日目に入る。
『少女の部』『少年の部』『少女の部・ハイクラス』『成人女子の部』『少年の部・ハイクラス』の準決勝からが行われ、なんと五部門で優勝者が決まる。
『少女の部』ではヴィクトリアが、『成人女子の部』でアリステラが戦い、俺は『少年の部・ハイクラス』に引き続き出る。
手が空いているメンバーたちには、ここまで残った選手の情報を再度集めてもらう。
ラナとグレイメンさんには饗団の戦士『狂い笑い』ランパートを追ってもらうようおねがいした。
大会は残り二日間。
つかめそうでつかめない手がかりを、必ずつかんでみせる。
★★★★★★
『少女の部』の準決勝が始まろうとしていた。
これから順に準決勝を消化していき、その後は五連続で決勝が行われる。
これは出場選手が連戦にならないよう配慮されたものだ。
さっそくウチのヴィクトリアの出番となったわけだが、彼女の様子を見るかぎり、緊張は見られない。
「ヴィクトリア、調子はどう?」
「余裕なんだぞ」
聞くまでもなかったか。
にぎやかだった待機室も、いまはセコンドについている俺とヴィクトリア、そしてもう一人とその付き人だけだ。
西側の待機室には優勝候補と目される『ルイーサ・テラグリエン』がいる。
実力で見れば、間違いなく決勝まで上がってくるだろう。
「さあ、行ってこい」
「うん」
大観衆が待つバトルコートへ、ヴィクトリアを送り出す。
西側からも選手が出てきて、歓声が大きくなった。
『いよいよ始まる準決勝!! ついにここまでキターーーーーーーーーー!』
実況の人もあいかわらずだ。ずっと同じ人だし、毎日のようにあんな大声を出している。すごい人かもしれない。
『今日と明日で各世代の最強が決まるっ! みな盛り上げてけよーーーーー!』
呼応して上がる大歓声。待機室が揺れた。
『さあ! ここで解説をしていただく偉大な魔法士のご登場だ! 各準決勝及び成人男子の部では解説がつくことになっております! かの高名なマルセル・ノスケー様に来てもらったぞおおおおおおおおおおお!!』
マルセル・ノスケーって、アンヘル嬢が言っていた人だったよね?
魔法士に詳しいというなら、たしかに解説役をするにはうってつけだ。
『マルセル様、本日はよろしくおねがいします』
『こちらこそ、よろしくおねがいしますぞ。張り切って解説をさせていただきましょうかな!』
白髪の元気なおじいちゃんだ。
『まずは少女の部準決勝! アリーセ・アーべライン選手対ヴィクトリア・ドラグリア選手だーーーーーーーーーーーーー!!』
『アーべライン選手は古くから続く家の子女。火属性魔法には一家言ある、由緒ある家柄の魔法士ですな。対するドラグリア選手は未知の魔法を使う猛者。のっけから面白くなりそうですわい』
『いったいどのような展開が予想されますでしょうか、マルセル様』
『アーべライン選手は攻守においてセンスが抜群。万能の選手。一方でドラグリア選手は圧倒的な攻撃力を誇る。初手を制するのが鍵ですぞ!』
おお、ちゃんとした解説だ。聞きごたえがある。
マルセル・ノスケー元子爵は、かなりの人物だと思う。
『さあさあ! ここまで勝ち上がってきた素晴らしい二人! どちらが勝つのか予想不可能! いってみよーーーーーーーーーー!』
実況の言葉に合わせて、準決勝第一試合が開始される。
『さっそくしかけたああああああああ! ドラグリア選手が駆ける駆ける! 対してアーべライン選手の≪ファイアウォール≫! さらには≪ファイアアロー≫の連打! 寄せ付けな――にぃぃぃぃぃぃぃ!?」
『なんと! 炎の壁をものともしないとは!』
ヴィクトリアは前傾姿勢になり、腕を前面に交差させて、炎の壁を真正面から突破。
まったく、なんて無茶を。
しかし、予想外の行動にアーべライン選手は混乱した。
『至近距離かーらーのー! 大火球が炸裂ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! アーべライン選手が吹っ飛んだーーーーーーーーー!!』
『会心の一撃! これはもう立てんですわい!』
試合開始から三分あまり。
圧勝だ。
『アーべライン選手、戦闘不能! 勝者は……ヴィクトリア・ドラグリア選手! 決勝進出だーーーーーーーーーーー!』
ヴィクトリアが拳を天に突き上げる。同時にびっくりするほどの大歓声が出た。
最初なんてぜんぜん声が少なかったのに、観客の心を掴んだとみえる。
本戦からこっち、全て圧勝だった。
誰もがヴィクトリアの強さに酔いしれている。
戻って来た彼女は、満足そうな顔だった。
疲労もいっさいない。
「やったんだぞ」
「最短距離で突破か。火傷とかしてない?」
「ちょっと熱かった」
おもいきりが良すぎる。でも、それが超速で勝利をもたらした。
炎の壁を肉体の頑丈さのみで突破するなど、魔法士のセオリーにはない。
頑強さを誇るガラル公国の戦士だって、あんな無茶はしないだろう。
そんなことができるのは、ティール侯爵くらいではなかろうか。
「とにかくおめでとう。決勝まで休むんだ」
「ん? 休む必要なんてないんだぞ。いますぐ決勝に出たい」
「ものには順序があるから、出番はもっと後だ」
物足りなかったのかな。
でも我慢だ。
「次はルイーサ・テラグリエンが出てくる。ちゃんと観察するように」
「かんさつは苦手なんだぞ」
やれやれだ。
★★★★★★
『少女の部』準決勝第二試合はすぐに始まる。
有名だというテラグリエン三姉妹の末っ子、ルイーサ・テラグリエンが出てきた。
対するはラグナ六家アルラグナル侯爵家の傍流、ライングル家の女の子だ。
勝負は簡単に終わった。
ルイーサ・テラグリエンの土属性魔法は攻守に威力を発揮し、余裕の勝利だ。
かなり強い。
まだまだ底が見えないし、魔力量がとてつもなかった。
アレで十五歳とは、恐れ入る。
おそらくはヴィクトリアと同等。
どちらが勝つか、予想ができないほどだ。
「……あいつ、強いんだぞ」
「ああ、かなりのものだ」
隣に立つヴィクトリアも、ルイーサ・テラグリエンの実力を感じ取っている。
「でも、シントの方が強いんだぞ」
「なんの話だ?」
「わたしはいつかシントに勝つんだ」
俺が目標だとでも?
そう言われるのは嬉しいんだけど、さすがに照れがすぎる。
「ヴィクトリア、それは違う」
「え?」
「俺はアーニーズ・シントラーだ。シントじゃない」
「……」
照れ隠しで言ったつもりが、ものすっごい呆れた目を向けられてしまった。
それから『少年の部』の二試合を一緒に見て、別れを告げる。
待機室を出て向かったのはアリステラのところだ。
カーブした会場裏側の廊下を歩いて行くと、人だかりができている。
ちょうど、俺が入りたい入り口の前だ。
どの選手待機室にも扉がないから、中がよく見えるのだが――
「こら! 君たちは観客席に戻りなさい!」
運営の人間を示す腕章をつけた男性が集団をしかりつけている。
「一目見るくらいならいいだろー!」
「ローザリンデさまーーーーー!」
応援団、だろうか。
俺が近づくと、騒ぎがぴたりと止まった。
「げっ……あれって」
「死神……」
応援団は冷めた様子で、どこかに散っていく。
なんなんだ、いったい。
運営の男性に許可をもらい、待機室内へと入った。
「アリステラ」
「アーニーズ、来なくていいって言った」
「いやいや、セコンドにつくよ」
彼女は尖った耳をぴくぴくさせながら、言う。
続けて調子について聞こうとしたところ、背後から話しかけられた。
「あなた、アーニーズ・シントラーよねえ?」
振り向くと、そこには長身の美女がいる。動きやすいスポーティなかっこうで、けっこう露出が多い。目のやり場に困ってしまう。
明るいブラウンの髪は、右サイドがねじり編みされていて、まるで伝説の女戦士を思わせるような、きりりとした風貌だった。
「はい、そうです。初めまして」
「その兜、とってちょうだいよ」
いきなりなんだ。
「素顔が見たいの。ねえ、いいでしょ」
初対面でこれか。なんのつもりだ?
「アレハンドロ、手伝ってあげて」
「はい、お嬢さま」
付き人らしき、立派な風体の若者がこちらへにじり寄る。
ごめん、マジでため息をついていいでしょうか?




