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ナイトオブザナイト 10 謎の男

 今にも始まりそうな戦いの直前、指示を出す。


「ディジアさん、イリアさん、ダイアナ、頼んだ。俺はこの人を見張るよ」

「ええ、わかっています」

「やっと冒険者っぽくなってきたね!」

「やります」


 三人は俺が思う以上に嬉々として動き出した。

 暴れたかったってことか?

 それはちょっと過激だ。


「な、なんだあ!?」


 ドッゴーラ・デレスデンが俺の背後で行われているであろう戦闘を目の当たりにし、目を丸くしている。

 次いで聞こえるのは、男たちの悲鳴と物の壊れる音。


「おい! てめえらなにやってる!」


 ボスへの返事はなく、悲痛な叫びが聞こえるだけだ。


「動くな。黙って見ているといい」

「てめえ!」


 ドッゴーラ・デレスデンが俺をにらみつける。


「それとも、この距離でやりますか? あなたも魔法士なんでしょう? 腕に覚えがありそうだ」

「くっ……」


 テーブルを挟み、座ったままの姿勢で目を合わせる。

 彼の額には、一筋の汗が流れていた。


「余計な真似をすれば、撃つ」

「……」


 こいつは俺たちを侮りすぎた。それが敗因。

 それから十分とたたずして、三人が戻ってくる。

 男たちは全員が無残にも散らばる紙幣を下敷きにして、倒れていた。


 悪党のボスは目を見開き、口をひん曲げて、ただその場に固まっている。

 もはや残るはこの男一人。どんなに腕が良かったとしても突破などさせない。


「ありえねえ……こいつらだって、弱くねえはずだ」

「ラグナの魔法士ですからね」

「それなのに……まるで赤子の手を――」

「ひねるみたいに、ですか」

「……」


 ドッゴーラ・デレスデンは二の句を継げなかった。

 これで話をしやすくなったろう。


「では話の続きを。バックにいる者は誰か、教えてください」

「……それは」

「髪が乱れていますよ。それと、手も震えている。水でも飲んだほうがいい」


 彼は震える手でグラスを掴もうとし、やめた。


「……おれを殺す気か?」

「望んで悪党をしているんでしょ? いつ殺されてもいい覚悟はあるはず」

「クソッ! とんでもねえのが来やがった!」

「いまさら気づいても遅い」


 ドッゴーラ・デレスデンはがくりと肩を落とした。


「取引だ。おれは手を引く。ケツ持ちも教える。おれを殺すな」


 簡潔に望みを言ってくる。


「おまえのことは忘れる。金も好きなだけ持って行け。それで手を打たねえか」


 こうまですっぱりしていると、妙な気分になってくる。


「金はいらない。聞いたことを教えてくれればそれでいい」

「……そこのカウンターの棚に、リストがある。今回の件に投資してる連中の名前だ」

「ダイアナ、おねがい」

「うん」


 ダイアナにお願いして、紙の束を取ってきてもらう。

 内容を確認し、さすがに驚いた。


「こんなに?」


 載っているのは聞いたことのある貴族の家名ばかりだ。さっと見て三十以上。信じられない。


「ペナグラン家、ルイルブルク家、ダオード家……ストンデードにロックフレイ、サンドレントって言ったら六家に近い家柄だ」


 特に最後の三つなんかはテラグリエン家にかなり近しい貴族だったはず。


「てめえで聞いておいて後悔するんじゃねえぞ。おまえはそこに書かれてる家を全部敵に回すかもしれねえんだからな」


 それは別にどうでもいい。

 

「おれはなにも言わねえ。だが、結局は突き止められて、おまえは終わりだ」

「そうかもしれませんね」

「……真面目に聞けよ」

「終わりになるのはどちらなのか、やってみなければわからないでしょう」

「なっ……お、おまえ、頭おかしいのかよ……」


 ひどい言い草だ。


「もう一つ、聞きたい」

「……これ以上はなにも知らねえ」

「闇賭博のことはいい。それよりも、現段階で本戦に残っている選手の中で、おかしいのはいませんか?」

「おかしい……?」


 彼はじっと俺を見る。五秒前までの恐怖はなく、興味が勝っているようだった。


「たとえば、いくらなんでも強すぎる、とか、人間とは思えない、とか」

「いやそりゃおまえらが……」

「え?」


 聞き返すと、また恐怖の顔に戻った。


「待て! いまはなしだ!」

「で、心当たりはありませんか?」

「……そ、そうだな。本戦に出てるヤツはだいたいやべえが、人間じゃねえとまで思えるのは、そうはいねえ」

「何人かはいる?」


 ドッゴーラ・デレスデンはうなずいた。


「実際に見て強すぎると思ったのは……そうだな、テラグリエン家の三姉妹と、次男坊だ。噂には聞いてたが、予想以上だと思った」


 なるほど。外から見るとやっぱりそうなんだな。


「他には?」

「そりゃあ、マリウス・クロナグラだろう。少しも本気を出しちゃいねえんだから」


 順当な意見だ。

 

「『成人男子の部』ではどうです? 予選は?」

「あ、ああ……ボニファティウス・リオンズ。あれはもう人じゃねえよ。強すぎる」


 ボニファティウスさんの名前がここで出てきた。


「それともう一人……ラルス・ウルヴァン。招待選手らしいが、外の人間とは思えねえほどに強かったよ。底が見えねえっていうか、鳥肌が立つ感じだ」


 あの人か。本戦開始前に声をかけてきた魔法士だ。

 ランパートについては無駄足だったが、来て良かった。

 この後で合流するラナ達との話次第では、だいぶ絞られるかもしれない。


「他の会場は見てねえから、おれが言えるのはこれくらいだ」

「ええ、わかりました。それではすぐにこの街から離れてください。さようなら」


 その場を動けないドッゴーラ・デレスデンを残し、足早に去る。

 いちおう、闇賭博は潰せたし、よしとしようか。



 ★★★★★★



 ホテルへと無事帰還を果たし、みんなを待つ間、食事をとることにした。

 こっちに来てからというもの、なんだかんだでゆっくり食事ができていない。

 今夜こそは、と思ったが、結局そうはならなそうだった。


「戻ったよー。そっちどうだった?」

「おかえり、ラナ。そうだな。話し合いは食事をしながらにしようか」


 示し合わせたかのように、次々とメンバーたちが帰ってくる。

 それぞれが食べ物やお酒を持ちより、大人数での会食となってしまった。


「じゃあ俺から。まずは闇賭博を潰してきたんだけど――」

「あー、うん」

「まあ、そうなるわよね」


 みんな予想していたのだろうか。


「バックについている貴族たちの名前がわかったよ」

「暗黙の内だった、ということですね」

「予測の範囲内ではありますが、ひどいものです」


 クロードさんが手帳にペンを走らせながら、一言口にする。

 そうだな。ちょうどいいから書記でも頼もうか。


「クロードさん、書記をおねがいします」

「もちろんです。ハイマスター」


 今までだいたいミューズさんがやっていたような気がするから、今度からは彼が担当ということにしよう。


「そっちは正直、俺たちが追う件と関係があるとは思えない。悪党のボスは『狂い笑い』のことを知らなかったしね。ただ、選手について詳しいようだったから、いろいろ聞いてみた」


 聞いている以上に強いと感じた選手は、だいたいが優勝候補と言われる人たちだった。そして最後に名を口にしたのが、ラルス・ウルヴァン。


「あ、出てきた」

「まさか、だな」


 ラナとグレイメンさんがそろって声を出す。


「二人とも、どうしたんです?」

「うん、わたしたち、選手について調べてたんだけど」

「そのラルス・ウルヴァンという男についてだけは、なにもわからなかったんだ」


 そいつは聞き捨てならない話だ。


「他の人たちは身元がしっかりしてるっていうか、貴族だし、そんなに怪しいところはなかったよ」

「どこの招待選手かは公表されていないからね。それを知るには運営に問い合わせるしかないんだが、この時間じゃあね」


 グレイメンさんの言う通り、招待選手はどこの家からの推薦なのか、表向きは公表されない。知るには改めて運営に聞かなくてはならない。


「それでしたら、少し気になる話を聞きました」


 ここでアンヘル嬢が手を挙げた。


「続けてください」

「はい。ウチのお店の常連に、元子爵のおじいちゃんがいるのですが……」


 へえ。

 それはちょっと面白い。


「公国内の魔法士にすごく詳しくて、大会が始まってから毎日いらっしゃっては、誰が良い調子だ、とか、素質がすごい、とか嬉しそうに話すんです」

「そんな人がいるのですね」

「ええ。それで、今日も来たのでいろいろ聞いちゃいました」


 彼女はメモ片手にそのおじいさんの話を詳細に聞いたそうだ。

 店長さんからはだいぶ呆れられたようだが、俺が知りたい三十六人を全て聞いたらしい。なんて聞き上手なんだと思う。


「最後にその人……ラルス・ウルヴァンさんの話になりました。すると、マルセル様――あ、そのおじいちゃんの名前です」


 元子爵の名はマルセル・ノスケーというそう。聞いたことのある名だ。

 俺の記憶が確かなら、十一年前の大戦時、おじい様の幕僚の一人だったと思う。


「マルセル様は、ウルヴァン家のことを少し知っているようでした」

「ウルヴァン家?」


 あの人は自分のことを招待選手だと言っていたから、公国外の人間だ。

 有名なのかな。聞いたことないけど。


 妙に胸がざわつく。

 うなじの毛が逆立ったのは、きっと気のせいじゃないはずだ――

 

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