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ナイトオブザナイト 9 これが本分

 食事に関しては各々自由ということにし、外へと出る。

 夜の街を調査して回るのは少々危険だけど、このままなにも得られないのは厳しいと思うのだった。


「それで、わたしたちはどこに行くのよ」


 連れて来たのはディジアさん、イリアさん、ダイアナの三人。


「いまから闇賭博の胴元に会おうと思います」

「?」

「??」


 グレイメンさんはいちおう調べてくれていたようで、アジトの場所は教わってる。

 公都モナークに巣食う裏社会の顔役に話を聞いてみようと思った。


「選手の勝敗を勝手に賭けとしているくらいだ。詳しいと思う」


 あるいは、潜伏中の『狂い笑い』ランパートについて、なにか噂を聞いているかもしれない。蛇の道は蛇という言葉もある。ダメで元々だ。


「ダイアナ、サナトゥスは?」

「問題ない、と思う」


 布でぐるぐる巻きにされた【神格】疑剣サナトゥスから妖しい魔力が漏れた。

 なんだか怒っているようにも見える。


「では行きましょう。三人とも、十分に気をつけて」


 闇賭博を行っている者のアジトは、繁華街の奥深くにある。

 ならず者の多い場所だ。簡単にはいかないだろう。

 それに、ただのならず者じゃない。おそらくは全員が魔法士。いつもとは相手が違いすぎるのだ。


 時刻は夕方から夜へ。

 腹が空くころだけど、食べるのは終わってからにしよう。


 七星武界魔錬闘覇によって街全体が活気づいている。

 ここ繁華街は、その恩恵をもっとも受けている場所に違いなかった。


 美しく舗装された道と、きらびやかな看板の建物。路上でさわぐ若者たちに、これから飲みに行くであろう集団。

 大会期間中に落とされる金の量はきっと想像もできないくらいの額だと思う。


 人の少ない路地を突き進み、目的の場所へと到着。

 大きな箱型の施設がそびえ立っている。


「ここか」

「ブッ潰すのですね?」

「やっちゃおう!」

「潰す、の?」


 三人の目がぎらついているようにも思える。

 いきなり物騒なことはしない。


「まずは話を聞かなくては。でも、襲ってくるようなら対処を」


 相手は悪党だし、油断はできない。

 

「門番の人がいるみたいですし、挨拶くらいはしましょうか」


 施設の前には三人の強面男が集まって会話をしていた。

 話しかけてみる。


「すみません。ここにドッゴーラ・デレスデン氏はおりますでしょうか」

「はあ?」

「いきなりなによ。つか、こいつなんなの」

「子どもに、女? で、怪しさが服を着てるようなヤツだあ?」


 怪しさが服を着てるようなヤツって、誰だ。まさか、俺か?


「ちょっと道に迷ってしまって。ドッゴーラ・デレスデン氏にどこへ行けばいいか聞きたいのですけれど」

「知らねえよ」

「そんなヤツいねえっつうの。帰れ、ボケ」


 簡単に合わせてくれるとは、思っていない。


「ほんとうにいないかどうか、確かめさせてもらってもいいでしょうか」

「……なんだって?」

「……おい、いい加減にしとけや。死にてえのか」

「なんのつもりだ? ああ?」


 三人の男は武器を携帯していない。間違いなく魔法士。

 殺気が充満していく。


「…………なんだ?」

「どした?」

「あ、いや……」


 一人の様子がおかしくなる。

 俺たちではない、別のところを見つめたまま動かない。


「母ちゃん……」

「なんだおい! どうし――」


 そしてもう一人も固まった。


「嘘だろ……な、なんで親父が……」


 二人はフラフラとした様子でどこかへと去った。


「え? おまえら、どうしたってんだ……なにを見て――ひっ!」


 最後の一人はその場で気絶。

 門番はいなくなってしまった。


「ダイアナ?」

「あ、うん。サナトゥスに、おねがいしたの」


 【神格】疑剣サナトゥスの力だということは、すぐにわかった。

 ゴーストを用いて、幻惑したんだろう。

 ずいぶんと使いこなしている。さすがだ。


 【神格】疑剣サナトゥスは記憶を引き出して、形作る。

 謎に包まれた能力の一端は、まさに神器と呼ぶにふさわしい。


「この倒れてるヒト、すんごい顔してるよ?」

「なにを見たのでしょう?」


 最初の二人はわかるが、三人目は恐怖の表情のまま、倒れている。


「この人が、いちばん、怖いって思ってるものを、ドアップで」


 ダイアナが身に着けているマジックゴーグルが妖しく光る。

 なんて恐ろしい能力なんだ。

 いったいこの男がなにを見てしまったのかは、聞かないことにしよう。



 ★★★★★★



 施設の中に入ると、そこは広い空間だった。さえぎる壁はなく、カウンターや設置されているテーブルや椅子の数を見る限りでは、酒場のようにも思える。


 二十人を超す男たちが酒を片手に金を勘定しているみたいだ。

 賭博で得た金なのは明らか。

 今回の件と関係があるかはわからないけど、あまりいい気分じゃないな。


「ダイアナ、この場所以外に誰かいそう?」

「いない、と思う。痕跡とか、ないです」


 伏兵はいないと判断していいだろう。

 ダイアナの眼はほんとうに頼りになるのだった。


「なんだあ……?」

「誰だ、おまえら」


 何人かが立ち上がり、ぶしつけな訪問者である俺たちを囲もうとする。


「ドッゴーラ・デレスデン氏に話を聞きたくて来ました。ここにいますよね?」

「……殺されてえのか?」

「しかも女子供だと? 舐めやがって」


 それ、さっきも聞いた。


「殺すにしても、話を聞いてからでもいいのでは? 別に急いではいないでしょう」

「なんだ、こいつ」

「気味わりいな。変なかっこうしやがって」


 男たちは露骨にドン引きだ。

 夜における隠密性に優れ、顔を完全に隠せるイカした装備だというのに、目が曇っているんじゃないか?


「おう、おまえら。待て」


 一番奥の席に座する男が、部下たちを制止する。

 帝国風紳士服をびしっと決めた中年が、興味深そうにこちらを見ていた。

 口ひげを整え、髪をオールバックに決めた油断ならぬ目つきの男だ。

 この人がドッゴーラ・デレスデンだろうか。


「おまえ、アーニーズ・シントラーだな? 出場選手の」

「ええ、そうです」

「なにをしに来たのかは知らねえが、度胸は買う。話を聞いてやろうじゃねえの」


 人の話を聞く度量はあるようだ。

 進み出て、対面に座る。俺の両脇にはディジアさんとイリアさん、後ろにはダイアナが立つ。


「俺のことをご存知のようですね」

「観戦できる試合は全部見てるからな。なにせ二十四年ぶりの七星武界魔錬闘覇だ。興味のない奴なんていねえ。いるとしたらそいつは頭のおかしいヤツだ」


 大会にぜんぜん興味のない俺へのあてつけだろうか。ひどい偏見だと思う。


「で、話ってのは?」

「この街に元冒険者の『狂い笑い』ランパートという男が潜伏しています。なにか噂を聞いていませんか?」

「はあ?」


 素の反応だった。見当違いかも。


「その男が闇賭博に関わってはいませんか?」

「……何の話だ?」


 やはり無駄足だったかな。

 じゃあ別の話を聞こう。


「闇賭博はあなたが仕切っているんでしょ? でも本家やラグナ六家は取り締まりに動いていない。つまり、バックについている者がいる。それは誰です?」

 

 聞くなり、ドッゴーラ・デレスデンは大きなため息をついた。


「あのなあ……それを聞かれて、言うとでも思うのか?」


 ずいぶんとこちらを侮った態度だ。

 

「誰の差し金で来た? 教えれば命までは取らねえよ」

「誰の差し金でもない。そちらこそ教えれば命までは取りませんよ」

「脅しか?」

「提案です。とても建設的な、ね」


 不穏な魔力が室内を覆い始める。俺たちを囲むようにして立つ男たちが殺気だった。


「本戦出場を果たした魔法士……けどよ、しょせんは17かそこらのガキだ。ここは甘っちょろい試合場じゃあねえ。調子に乗るのもいい加減にしておけ」


 そうなんだよな。俺たちが本来戦う場所は、こういったところなのだ。

 むしろ、命のかかっていない試合場にいるほうがおかしいわけで。


「たしかにそうなんだよなー。試合だとぜんぜん身が入らない」

「なに?」

「やっぱりこういうのがいい。ぶっ飛ばしてもまったく罪悪感のない相手だし」

「おまえ、なに言ってる」


 うんうん、そうだそうだ。

 別に俺がおかしいわけじゃなくて、こう、なんていうのか、試合場は緊張感が足りないのだ。


「不気味なガキめ。おい、おまえら、こいつらシメてやれ。捕まえて親から金をむしってやるからな」


 残念だけど、俺にはもう親がいない。むしられる金もない。


「宣戦布告、ということでいいですか?」

「おいおい、ずいぶんと難しい言葉を知ってるじゃねえか。お坊ちゃんよ」

「お褒めに預かり、恐縮です」

「褒めてねえよ……はあ……おまえ、なんにもわかってねえな」

「なにがですか?」


 ドッゴーラ・デレスデンは、俺の両脇に目を向けた。


「もう終わってんだよ。子ども連れて、なにをイキがってやがる」

「ああ、もしかして人質とでも?」

「いまさら気づいても遅いんだよ。余計な動きをすんじゃねえぞ」


 ディジアさんとイリアさんに危害を加えられたくなければ、動くなということか。


「やってみたらいい」

「なんだと?」

「試してみれば?」

「ちっ……おまえら、やれ」


 よろしい。

 では始めよう。

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