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セブンスターズマジックバトル『ラプソディ』14 ちょっとうらやましい

 本戦の二回戦目の相手、ルーカス・オーレンドルフ選手は俺を知っていると宣言した。

 会ったことはないはずだが、もしや正体がバレているのか?


『ルーカス・オーレンドルフ選手! なにやらアーニーズ・シントラーを指さしているようだが! 早くも勝利宣言かーーーーーーーーー!』


 観客は大盛り上がりだ。


「すみません、会ったことありましたっけ」

「いいや、ないね!」


 ないんかい。


「君は素早さで勝負する魔法士だろう! 母上もそう言っていたし、僕もそう思う!」


 母上? 誰?


「僕の大好きな母上はマリア様に次ぐ女性魔法士! かつ大魔法士! 母上の言うことは正しいんだ!」


 いったいなんのことか、理解に苦しむ。

 そこで俺は気づいた。彼のずっと後ろの、西側出入り口付近で手を振る女性がいることに。

 やせ型の美しい、優しそうな婦人だ。


「速さ比べといこうじゃないか! アーニーズ・シントラー!」


 なんのこっちゃわからんが、とにかくもお母さんと仲が良いのはわかった。

 俺は母さんを亡くしているから、ちょっとだけ羨ましい。


『試合は開始前からヒートアッーーーーーーーーーープ!! はたして勝つのはどちらか! 見逃すなよオオオオオオオオ!』


 ルーカス・オーレンドルフ君は好戦的な笑みを浮かべたまま、開始位置につく。

 いまさっき、速さ比べとか言っていたから、敏捷性に自信があるんだろう。

 戦う前に手の内をさらしているんだけど、いいのかな。

 あるいは命のかかっていない試合だからこそ、か。


 俺は別に己の素早さに対して、自信があるわけじゃない。

 足に自信がある相手ならば、それを封じよう。


 審判の合図とともに、ルーカス君が腰を落とす。

 様子を見るためか、真っすぐではなく曲線を描くように走り出した。


 こちらはかがみこんで両手を地面に置き、魔法を発動。

 使うのは≪土之石陣(アースウォール)≫だ。


『なんだなんだあああああああ! これは! まさかの土魔法! し、しかも規模がでかいっ!! まるで迷路だあああああああ!』


 言う通り、≪土之石陣(アースウォール)≫で土壁を幾重にも張り、ルーカス君の周囲に迷路を作った。これで自慢の足は止まるだろう。


「な……なんだこれ! いきなり迷路!? こんなの……母上からも聞いてない!」


 壁越しに困惑の声が聞こえてくる。

 さて、どう出てくるか。


 馬鹿正直に迷路を進んでくれば、出口のところで狙い撃つ。

 止まったままなら、土壁ごと吹き飛ばす。

 さすがにやらないと思うけど、壁を跳んで越えるようなら詰みだ。


「こんなもの! 僕の魔法にかかれば! ≪ウインドボム≫!!」


 ≪ウインドボム≫ということは、風魔法か。

 しかし、破壊力に乏しい風属性では壁を壊すことなどできない。


 風属性は全属性の中でもっとも戦闘向きではないとされている。

 一撃の火力がどうしても出せないからだ。

 しかし一方で消費魔力がもっとも少ないため、継戦能力に優れるという面も持つ。


「さあ行くぞ! アーニーズ・シントラー!」


 彼は≪ウインドボム≫を利用した大跳躍でもって、壁を越えてくる。

 ……マジか。

 やらないと思ったけど、やりやがった。


 空中であまりにも無防備な姿をさらすルーカス君を見て、不覚にも一瞬呆気に取られてしまう。

 すぐに気を取り直し、魔法を発動。


「≪魔衝撃マショウゲキ≫」

「え、うそ!」


 大きな魔力弾を空中で避ける術はないはず。

 だが、彼は≪ウインドボム≫を自分の間近で炸裂させ、無理やり方向を変えた。

 たしかに爆風を生み出す≪ウインドボム≫ならばそれもできようが……


「うわーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 急激な方向転換により、勢いがつきすぎて、墜落。

 バトルコートへ落下し、そのまま倒れる。

 勝負ありだ。


『ルーカス・オーレンドルフ選手! 吹っ飛んだーーーーーーーー!! またしてもアーニーズ・シントラーが勝――』

「まだだ!」


 ルーカス君が決死の形相で立ち上がる。

 なんて悲壮な顔なんだ。


「僕はまだやれる! 絶対に優勝して……母上と結婚するんだあああああ!!」


 言葉がない。

 ラグナ公国って、親子で結婚できるんだっけ?

 そんなわけないよな。

 ちょっと危ないので、さっさと倒そう。


「≪発破エクスプロード≫」


 彼の足元を狙い、発破。

 魔力の炸裂が、ルーカス君を吹き飛ばした。

 

「うおあああああああああっ!」


 彼は派手に地面を転がり、動かなくなる。

 ぴくりとも動かないし、さすがに終わりだ。


『なんという無慈悲! 冷酷な一撃! いともたやすく行われるえげつない魔法に戦慄を禁じ得ないーーーーーーーーーーーー!!』


 実況の声にブーイングが重なる。

 

『勝者はアーニーズ・シントラー! 一回戦は雷! 今度は土属性! さらに無属性魔法をも操る黒き死神の爆誕だーーーーーーーーーーーーー!』


 もういいわ。なんとでも言ってくれ。

 西側出入り口からルーカス君のお母さんが、両手で口を押さえながら駆け寄ってくる。目じりのあたりで光るのは涙だった。

 俺はそれを見て、踵を返した。申し訳ないけど、まだ負けるわけにはいかない。

 

『少年の部・ハイクラス、ベストフォーが出揃った! 優勝候補筆頭マリウス・クロナグラ! マジックアカデミーの傑物けつぶつローラント・テラグリエン! 伏兵にして知恵者ベルノルト・バーチュ! そして恐ろしき黒ノ死神アーニーズ・シントラー! いったい誰が優勝の栄光を手にするのかあああああああ!』


 待機室に戻って、一息つく。

 体は疲れていないけど、圧がすごくて息苦しい。


「アーニーズ、やったな」


 ベルノルトさんは複雑そうな笑いを浮かべていた。


「しかし、さっきは雷、いまの戦いでは土属性か。どんな【才能】なんだ」


 俺はなんの【才能】も持っていない。


「いや、すまない。マナー違反だな」


 なんの【才能】も持っていないって言ったら、彼はどんな顔をするのだろうか。


「おめでとう、これで二人ともベストフォーだ」

「ええ」


 ベストフォーに進んでも、手がかりはなにも得られていない。

 会場の内外に怪しいところはないのだ。

 明日には四つの部門で準決勝及び決勝。明後日には大会が終わってしまう。


 この国に潜伏しているはずの男、『狂い笑い』の異名を持つ戦士ランパートの情報は、なにひとつなかった。

 公都モナークにいないのだろうか。

 やはり、危険を冒してでも探る他なさそうだ。


 俺の試合が消化されたことで、七星武界魔錬闘覇しちせいぶかいまれんとうはの六日目が終了。

 戻ったらさっそくミーティングといくか。



 ★★★★★★



 そして夕刻。

 ホテルに戻り、まずはひとっ風呂浴びさせてもらった。


 その後、再びフルフェイス兜を装着し、アーニーズ・シントラーへと戻る。

 ラグナにいる間は決して警戒を解かないと決めた。

 

 部屋を出て廊下に体を運ぶ。

 いまや会議場を化した共有スペースには、全員が集まっていた。


「アーニーズさん、ベストフォーおめでとうございます!」


 アミールは嬉しそうだ。


「ヴィクトリアさんにアリステラさんもですけど、ほんとうにすごい」

「ありがとう、アミール。けど、肝心なものがダメだ」

「本来の仕事、ですね」

「うん、そう」


 手がかりはいまのところ、見つけられていない。


「少しは喜んでもいいと思うけどねえ」

「てか、楽勝すぎててごたえがないんじゃないのー?」

「そんなことはないよ。みんな強いと思う。たぶん」


 みんな微妙な顔をする。なぜだ。


「内側から探るつもりだったけど、おもいのほか変化がないんだ。このまま慎重に行くべきかどうか、ちょっと迷ってる」

「シント、怪しいヒトに思い当たりはないのですか?」


 隣に立つディジアさんが心配そうに見つめてくる。

 少し考えてみよう。

 モンスターの力を取り込んだ魔法士が誰なのか。

 本戦にまで勝ち上がった選手は、みんな強い。判断するには材料が足りないんだ。


「全六部門のうち、現段階まで残っているのは、五部門のベストフォー二十人と、『成人男子の部』の十六人。計三十六人か」

「それくらいだったら、なんとかいけないかニャ?」

「そうそう。こっちだってそれなりに人数はいるんだもの」


 ミューズさんとクロエさんの意見。

 うん、なんとかいけそうかも。


「取材という形で情報を集められると思うよ」

「そうだね。フォールンから大会を取材に来た記者ってことにできそう」


 ウチの情報担当二人が言うなら、いけるだろう。

 記者なら大会選手を調査しても、なんら不思議はない。


「それでしたら、ウチのお客様に新聞記者の方がいますね」

「アンヘルさんはそちらを当たってもらっても?」

「はい! もっちろんです!」

「カサンドラ、アミール。それとクロードさんはアンヘルさんとおねがいします。ラナとグレイメンさんは人選をして、手分けして調査を」

「わかった」

「ああ、任せてくれ」


 まだ時間はある。やれることはやるべきだ。


「アーニーズさん、は、どうする、の?」

「ダイアナは俺と来てくれ。ディジアさんとイリアさんも」


 ちょっと行きたいところがある。ダイアナには眼になってもらおうか。


「アリステラとヴィクトリアは休んでほしい。明日は準決勝だからね」

「仲間外れにしないで」

「疲れてなんてないんだぞ」


 二人はやる気だ。

 しかたない。全員でやるか。

 

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