セブンスターズマジックバトル『ラプソディ』13 黒き稲妻
眼前に立つ対戦選手、オスバルト・モンテラント君の身長は俺よりも高い。おそらく190センチはあるだろう。本戦ともなると、やはり迫力が違う。
「へい、おたく、なにもの?」
陽気に尋ねてきた。
さっき紹介されたばかりだし、答えるのは面倒だから何も言わない。
「悪いけど、踏み台になってもらうよ。招待選手がここまで来れたんだ。もういいだろ?」
そりゃそうかもね。でもまだ手がかりをつかんでないから、棄権ができない。
選手として会場の内側を観察できるというのは、かなりのアドバンテージなのだ。
「おれは最強の魔法士を目指してる。十天魔にどうしても入りたい。そのためには優勝しなくちゃいけないんだ。わかる?」
ああ、わかる。
だけど、この話は俺にとってなんの関係もないこと。
「派手にやらせていただくよ。せいぜい踊ってくれ。そのほうがパフォーマンスになるからな」
どうやら、俺のことはダンス相手にしか思っていないようだ。
「なんだよ。緊張して声も出ないか」
彼は両手を軽く広げて、ため息をしながら開始位置につく。
オスバルト君はだいぶ自分に自信があるのだと思う。
いったいどんな魔法を使うかは未知数だし、どうしようかな。
『いよいよ始まります! 一回戦最終試合! 名勝負となるか! はたまたモンテラント選手のワンサイドゲームになるのか! 要注目ぅ!!』
審判が右手を挙げる。
オスバルト君が構えた。
さて、どう攻める。
強そうだし、なにをされるかわからないから、その前に終わらせるのがいいか。
「……始めい!」
振り下ろされる審判の右腕。
同時に俺は足裏からの≪飛衝≫を限定発動。
ほぼノータイムで距離を詰める。
「……え?」
オスバルト君は呆気にとられつつも反射的に腕をかかげた。もう遅い。
「≪漆黒之迅雷≫」
速さに特化した黒き雷を手から発射。
「あびゃびゅびゃびゃ!?」
全身に雷を浴びたオスバルト君の巨体が崩れ落ちる。
しまった。威力を上げすぎたかな。死んでない……よね?
ふしゅー、と煙を上げて白目をむく彼の胸はちゃんと上下してる。
一発で無力化したかったから、威力を高めにしたのだが、あやうく殺してしまうところだったかも。
『……えーと……な、なにが起こったんだーーーーーーーーー! 一瞬の出来事! オスバルト選手が倒れているうううううううううううう!!』
どよめきが生じる。
『これは……アーニーズ選手の勝利……でいいのでしょうか? なにが起きたのか、誰か教えてえええええええええええ!!』
教えてもなにも、距離を詰めて魔法で倒しただけ。
『んん? 審判団に動きが見られますね。これは……どうしたのでしょうか。なにやら不穏な空気を感じますが――』
審判の制服を来た男性が五人、俺と倒れているオスバルト君のところにやってくる。
一人は知ってる顔だ。俺の時の予選やヴィクトリアの試合を審判してた人だと思う。
「アーニーズ選手、いまのいったい」
「どうやって倒した?」
魔法なのですが。
「この距離は……微妙だ。素手での間合いではない」
「しかし、魔法にしては早すぎる」
そう言われましても、魔法です。
「なにも見えなかった」
「まさか、暗器では?」
ですから、魔法です。
もう戻りたいんだけど、帰してくれそうにない。
だが、ただ一人俺をじっと見て、口を開かない審判がいた。
知ってる顔の審判さんは、軽く手を挙げる。
「我らでは理解しがたいものだ。審判長、ここは一つ、先々代さまに裁可を仰いではいかがか」
「う、うむ」
この人、やっぱりデキる審判だ。言い方は悪いが、一番すごい人に判断を投げようとしている。
俺としてはそのほうが手っ取り早くて助かりますわ。
審判長、と呼ばれた中年の男性が小走りで実況席へと向かう。
そこから本家席に座するおじい様の元へと伝令が走り、内容が伝えられた。
おじい様はあいかわらずの泰然とした様子で実況席へと進み、拡声の魔導具を掴み取った。
『ジンク・ラグナである。先刻の攻防についての審議ということだが、魔法戦を取り仕切る者としての見解を述べようかのう』
おじい様がしゃべりだすと、会場に静寂が訪れた。全員があの人の言葉に傾聴している。
『アーニーズ・シントラーが使った魔法は、雷。おそらくは速さに特化したもの。名付けるのならば『漆黒の迅雷』といったところか」
おー、と感嘆の声が各所から聞こえた。
『かの者の魔法が見えなかった魔法士は精進が足りぬということ。ゆめゆめ修練を怠るな』
いつものセリフで締め、おじい様は席に戻った。
異論をはさむ者は誰もいない。
『さすがは我が国の先々代にして最強の魔法士ジンク様! 完全に見抜かれておりましたあああああ! なーるほど! 常人の目には捉えられぬほどの雷! まさに死神! 恐怖の黒漢だーーーーーーーーー!』
今度は死神ときたか。あと黒漢ってなんだよ。
『とにもかくにもアーニーズ・シントラー選手の勝利! なんなんだこいつはあああああああああ!!』
ここでようやく歓声が上がった。俺に、ではなく実況の絶叫じみたセリフに対してだろうと思う。
半ばブーイングの混じる声を背に、俺は待機室へと戻るのだった。
「アーニーズ……なんだか、その、なんて言ったらいいか。す、すごい声援だったな」
出迎えてくれたベルノルトさんは、引きつった笑いを浮かべていた。
「声援じゃなくてブーイングですよ」
「あ、いや、すまない。余計なことを言った」
彼は気を遣ってくれているようだ。
「ともあれおめでとう。圧勝とは思わなかったよ。僕にはなにをしたのか、まったく見えなかったし」
「簡単に見えてしまったら、使える武器にはなりません。速さのみに特化した魔法ですので」
「速さのみに特化、か。うーん、素晴らしいものだ」
ベルノルトさんはしきりにうなずいている。
「ここからベストエイトです。ベルノルトさん、入念に準備をしたほうがいいですよ」
「ああ、わかっているさ」
彼は即座に表情を変え、緊張を高めた。戦いを前にして高揚しているのがわかる。
ベストエイトから上は真の強者ばかりだろう。
勝てるかどうかは、彼の心次第だと思う。
★★★★★★
『決まったーーーーーーーーーーー! ベルノルト・バーチュ選手の≪ファイアアロー≫が雨あられ! 凄まじい連射!! 息をつかせぬ展開を超越したのはああああああ! 伏兵だったああああああああ!!』
バトルコートで行われた二回戦第二試合で勝利したのは、ベルノルトさんだ。
相手もかなりの強さだったが、見事に勝利。
『正直に行ってノーマークだったこの少年! ベストフォーに名乗りを上げたぞーーーーーーーーー!』
俺の時とは違うちゃんとした大歓声が会場を揺るがし、熱気を充満させる。
喜びに打ち震えるベルノルトさんは、しばらくの間その場を動かなかった。
ほんとうにすごいと思う。
彼我の戦力差を的確に分析し、穴を突く。そしてここぞという時にたたみかけた。素晴らしい試合だったと心から言える。
帰って来た彼は、感動で言葉も出ないようだった。
それどころか、涙ぐんでさえいる。
「信じられないよ、ほんとうに、ほんとうにここまで来られるなんて」
「やりましたね」
「ああ! だが……次の相手は、あのマリウス・クロナグラだ。まず勝てる相手じゃない」
「それでも、やるのでしょう?」
「もちろんだ。全力でぶつかるさ」
マリウス君とは一度だけほんの少し戦ったし、モンスターウォーズでも実力の一端を見ている。
本戦の試合も見たけど、たしかに強い。とてつもなく。
しかし、つけ入る隙がないわけじゃない。
「君の方はどうだ?」
「俺?」
「君だってここまで来たんだ。やるんだろう?」
なんて答えようか。
迷っていると、再び歓声が会場方面から聞こえてきた。
「もう決まったのか。勝ったのは……ローラント先輩だな」
ローラント・テラグリエン。マリウス君と並ぶ優勝候補だ。
「もう出番かー。食事をしたかったのですが」
「まだ食う気!?」
今日はそんなに食べてない。
「ちょっと行ってきます」
「あ、ああ……応援しているぞ」
存外、ベルノルトさんから応援されるのも悪くない。彼は俺が一般人と知っても差別しないから、まともな人だと思う。
軽く準備運動をしている内に、呼ばれた。
一回戦と同じく普通に入場。
またしてもブーイングが聞こえる。
なんで俺だけこんなに扱いがひどいんだ。
『さあーーーーーーー! やってきたぞ破壊者! 大会をぶち壊さんとする悪逆非道の超悪童! 漆黒の稲妻ことアーニーズ・シントラーだああああああ!』
俺が悪童だって? それじゃまるでヴィクトリアみたいだ。
もしかして俺は、悪役なのか? そうなのか?
『対するはあああああああああ! 国立マジックアカデミー二年生次席に就く俊才! ルーカス・オーレンドルフ選手の入場!』
やってきたのは、自信に満ちた笑みを浮かべながら俺を指さす細身の少年だった。
切りそろえた前髪がいかにも貴族の子息らしい。
端正な顔立ちに目を爛々と輝かせている。
「アーニーズ・シントラー! 僕は君をわかっている!」
第一声がそれだった。
この人、もしかして俺が誰かを知っている?
まずいな。
いきなり出鼻をくじかれそうだ。




