セブンスターズマジックバトル『ラプソディ』12 黄金世代
『少年の部・ハイクラス』は16歳から18歳の男子が集う部門。
七星武界魔錬闘覇においては『成人男子の部』に次ぐ注目部門とされている。
それはなぜか。
魔法士には人生の中で三度、成長期があるとされているからだ。
一度目は11歳から13歳までの期間。魔法が使えるようになって、体も成長し、一気に魔力量が伸びる。
二度目は16歳から19歳までの間。体が出来上がり、人格が定まって、魔法をより深く理解できるようになるからだと言われている。
そして最後の成長期は22歳から25歳くらいまで。自分の能力を把握し、さらに魔法に対する深度が高まるからだという。
三つの『黄金時間』をおろそかにした魔法士は大成しない。これはずっと昔から言われていることだった。
『少年の部・ハイクラス』は二度目の成長期を迎えた魔法士たちの戦いであり、公国内の人間たちがみな注目している。
俺は大窓のそばに立ち、今から試合をする二人を見る。
一人はベルノルトさん。
そして相対するのはエグモント・ライヒェナウ。国立マジックアカデミーの次席という実力者だ。
≪地獄耳≫の魔法を用い、聴覚を強化。
申し訳ないけど、会話を聞かせてもらおう。
「ベルノルトぉ……まさかてめえがここまで来るとはな」
「……」
「ビビってんのか?」
あいかわらず下に見ての発言。
たしかに魔力量だけで見るなら、エグモント君の方が数段上かも。
「てめえはアカデミーに戻ったら下僕扱いだ。調子に乗った罰だぜ」
エグモント君が邪悪な笑みを浮かべる。
試合前に言葉で圧をかけ、魔法を乱す算段か。褒められたやり方ではないが、それはアリだ。
魔法の強さは精神の強さ。心が揺らげば、敗北につながってしまう。
「先輩。僕はせいいっぱい戦うだけです。余計な感情はいらない」
「あ?」
ベルノルトさんは揺らいでいなかった。
「あなたは目標でもある。胸を貸してもらいますよ」
「……ちっ。言うだけなら誰でもできるからな」
試合前の舌戦は引き分けといったところか。
ただ一つ言えるのは、予選前のベルノルトさんとは別人だということ。
両者は距離をとり、にらみ合う。
審判の合図とともに、魔法戦は開始された。
初手はやはりエグモント君だ。
≪ファイアアロー≫から≪ファイアボール≫につなぎ、最後は≪ファイアランス≫。ラグナの十八番であり、完成されたコンビネーション。
対するベルノルトさんは≪ファイアアロー≫を横に跳んで避け、≪ファイアボール≫をかがんでやり過ごす。
発動までに若干のタメがある≪ファイアランス≫に対し、≪ファイアボール≫をかぶせる。
「ぐお……!」
エグモント君の間近で≪ファイアボール≫と≪ファイアランス≫がぶつかり、爆発炎上。彼らの間に炎と煙が充満する。
「ふざけんなよ雑魚が! ≪ファイアアロー≫だこらあ!」
ベルノルトさんがいるであろう空間に炎の矢をばらまく。
しかしベルノルトさんは冷静だ。
彼はすでにエグモント君の真横に回り込み、お返しの≪ファイアアロー≫。
五発放たれた火矢のうち、二発が当たる。
威力はさほどでもないが、有利は取った。
「ちょこまかとーーーーーーーーーー!」
エグモント君が作り出した≪ファイアボール≫は大きさがすさまじかった。
制御を捨てた目くらましか。
狙いは当てることじゃなく、牽制。
ベルノルトさんは三歩下がりつつ、≪ファイアシールド≫を展開。≪ファイアボール≫はもちろん当たらないけど、炎が視界をふさぐ。
その間にエグモント君が距離を取った。
いかつい見た目と頭の悪そうな言動とは裏腹に、なかなか狡猾だ。
「そんなものですか、先輩」
「な、なに?」
「ぜんぜん当たりませんけど」
「てめっ――!」
あからさまな挑発だった。
エグモント君は顔を真っ赤にして、魔法の発動体勢。
炎の槍を作り出し、握る。
「≪ファイアジャベリン≫!!」
その魔法は以前に見た。グンナー家の嫡男であるフォルカーさんが使ってたヤツだ。
エグモント君はグンナー家の関係者だという話だし、使えるんだな。
いかつい体がばねのように伸びて、炎の槍が投擲される。
喰らえば必倒。
しかし、俺が見たフォルカーさんのものとは違い、隙がでかすぎる。
ベルノルトさんは待ってましたとばかりに前へ飛び込み、≪ファイアジャベリン≫を紙一重でくぐり抜け、≪ファイアアロー≫から≪ファイアボール≫につなぐ。
今度は彼が十八番のコンビネーション、と思いきや。
「≪ファイアガイザー≫!!」
とどめが≪ファイアランス≫ではなく、別の魔法だった。
これも見覚えがある。ビッグウッド山での戦いでエルラーグ卿が見せたものだ。
「なっ……! 下だとぉ!」
≪ファイアランス≫が来ると思っていただろうエグモント君は反応が遅れた。
足元から吹き上がる炎の炸裂。
しかし、エグモント君はそれをぎりぎりでかわす。
詰みだ。
それすらも読み切っていたベルノルトさんは、避けた先へ落ち着いて狙いすました≪ファイアボール≫を撃ち放つ。
「バカなぁぁぁぁぁぁぁぁ! おれがこんな――っ!?」
派手な爆発とともに、エグモント君が吹っ飛ぶ。障壁も間に合わなかったから、さすがに終わりだろう。
「ハァッ……ハァッ……」
ベルノルトさんの荒い息遣いが聞こえる。かなりの消耗だ。
エグモント君は立てなかった。
倒れたまま、動かない。息はしているようだから死んではいないようだな。
「やった……やったぞ!」
ベルノルトさんが突き上げた右腕と同時に、勝ち名乗りが与えられる。
勝者は下馬評を覆したベルノルトさんとなった。
素晴らしい戦いに、会場から大きな拍手が送られる。
俺もつられて拍手だ。
魔力量も、単発火力も、明らかにエグモント君が上だった。
しかしベルノルトさんはそれを覆したのだ。
待機室に戻った彼は、喜びを隠しきれない様子だった。
ずいぶんと鼻息が荒い。
「やりましたね」
「ああ! うまくいったよ! 君に言われたことを自分なりにやってみたんだ!」
「最後まで読み切ったんでしょう?」
「不思議な感覚だったよ。あんなの、初めての体験だ」
エグモント君はどっしりと構え、火力で押すタイプだった。それをあらかじめ分析していたベルノルトさんは立ち回りを重視することに腐心し、常に有利を取ったのだ。
そして最後の、十八番のコンビネーションに見せかけた≪ファイアガイザー≫。エグモント君がかわすと予想し、とどめを刺すまで気を抜かなかった。
完勝、である。
「こんなに嬉しいことはないよ。まさか僕がベストエイトだなんて……」
「おめでとうございます」
「次は君の番だ。いっしょに上まで行こう」
「ほどほどにがんばりますよ」
大会で勝つことが真の目的ではない。
手がかりを掴んだ時点で、俺は棄権だ。
「緊張という言葉を知らないのか、君は」
呆れた様子のベルノルトさん。
命をかけた戦いでもあるまいし、緊張などしない。
それから次々と試合が進み、ようやく俺の番となった。
相手はたしか、モンテラント家の魔法士。期待の若手という話だ。
「がんばれ、アーニーズ」
「はい。そうします」
ベルノルトさんと一言交わし、バトルコートへと歩み出る。
とたん、耳をつんざくほどの大歓声が聞こえた。
さすがは本戦だ。予選の時とは違うし、ヴィクトリアのセコンドについていた時ともぜんぜん違う。
『トップエイトを決める最後の試合が始まるぞーーーーーーーーーー! 東より現るは謎の魔法士! 全身黒のいでたちをした真っ黒黒助! アーニーズ・シントラーだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
真っ黒黒助? なんじゃそりゃ?
『先日はヴィクトリア・ドラグリア選手のセコンド! そして今日は本戦へと進んできた暗黒の刺客! いったいどんな魔法を見せてくれるのかああああ!』
暗黒の刺客だって? ひどくないか。
実況の煽りへ呼応するように、会場からは大ブーイングだ。
ますますひどい。なんでこんな扱いなんだ。
『兜で隠された素顔が気になるううううううううう! きっととてつもない不細工か、美少年に違いなーーーーーーーーーーーい!』
今度は笑いが起きた。
観客は、兜を脱げ、だの、顔を見せろ、とか好き勝手言ってる。
これじゃまるで会場全体が敵だな。
『対するは我が公国において常に優秀な【才能】を輩出する名門! ラグナ六家に次ぐ大家! モンテラント伯爵家が長子! オスバルト選手の入場だあ!』
雰囲気が一気に変わる。
大声援を背にやってきたのは、大柄な男子だった。
『16歳にして本戦進出! 次代のアカデミー主席と目される男! 面構えはすでにして一流! 早く戦いが見たいぞおおおおおおおおおお!』
たしかに16歳とは思えない老け顔。太くて立派なもみあげに、野生の獣を思わせる風貌。
油断ならない相手だろう。
オスバルト・モンテラントはにぃっと笑い、俺を見るのであった――




