セブンスターズマジックバトル『ラプソディ』10 六日目の開始
『少女の部』二回戦までが終了し、これで俺たちの出番は終了だ。
ディジアさんとイリアさんの活躍が見られたし、ヴィクトリアも準々決勝進出。
三人とも楽しんでくれただろう。
一方で、それ以外のところでは怪しいところがなかった。
なにかしらの手がかりが欲しいところだが、焦ってもしかたない。
そして夜。
ホテルに引き上げた俺は各メンバーと合流し、情報のすり合わせを行う。
最上階の共有スペースにて、ほとんどのメンバーが顔をそろえている。
いないのは、ヴィクトリアだ。たぶんもう寝ているんだろうから、そっとしておくことにした。
「ところでアリステラ、休まなくていいの?」
彼女は明日試合だから、休んでほしいのだけれど。
「……別に。それ言うならシン……アーニーズも同じ」
「俺はいいよ。どうせ棄権するつもりなんだし」
俺も明日から本戦なんだけど、どうでもいいんだ。
「アンヘル嬢もいいのですか? 仕事があるんじゃ」
「わたし、少しお休みをもらったんです。一か月くらい休んでなかったので、ママが休めって」
そーなの? どんだけ働きものなんだ。
「あ、でもママは別に人使いは荒くないですよ。わたしがお客様と話すのが好きなだけですから」
「でも少しは休まないとだめですよ」
体は一つしかないわけだし、壊したら元も子もないだろう。
だが、なぜか妙な空気が流れる。それと、疑問の視線もだ。
「ハイマスが言うことじゃ……」
「ウチのマスターはまあ……」
などとよくわからないつぶやきが聞こえてきた。
なんの話だろうか。まあいい。進めよう。
「ラナ、グレイメンさん、そちらはどうでした?」
「たいした話は聞けなかったかなー」
二人には公都モナークにいる情報屋へ聞き込みに行ってもらっていたのだ。
「強いて言うなら、闇賭博、だろうね」
「闇賭博?」
「こういった催しには付きものさ。大会の勝敗をギャンブルにするんだよ」
グレイメンさんの説明では、今回の大会を裏で賭博にしている人たちがいるそうだ。
裏社会の大物が胴元になり、試合を使って賭博にしているってことだな。
「俺たちの仕事と関係はなさそうだけど」
本家に黙ってそんなことしてたら、潰されるのではなかろうか。
いちおうは心にとどめておこう。
「他にはなにかありました?」
そこで手を挙げたのは、クロードさんだった。
「ハイマスター、少し気になることがありまして」
「続きを」
「はい。警備が多すぎると思います」
意外な角度からの意見だった。
「憲兵に加え、軍人まで動員されていました。少しばかり物々しすぎますね」
ガラルの元軍人であるクロードさんならではの着眼点だろう。
「これだけの規模の大会です。より多くの人員を使っているのでは?」
「僕も初めはそう考えていました。ですが、本戦が開始された今日からかなりの人数が投入されています」
なにかを警戒しているのか?
あるいは……もし、もしもだ。最悪の可能性を考えた場合、とてつもないことになる。
「この件についてはどう思う?」
俺の問いに対し、カサンドラが挙手をしたので、続きをうながす。
「軍に探りを入れるのは、さすがに難しいんじゃないかい?」
「その通りだ。今回は表だって動くことはできないから、慎重にやらないと」
だが、調査は必要かも。
モンスターウォーズの時みたいな後手は踏みたくない。
「まだ足りない。明日も引き続きおねがいするよ」
今日は解散にしよう。
大会はまだ続くのだ。情報を集めつつ、暗躍している輩がボロを出すのを待つしかない。
★★★★★★
七星武界魔錬闘覇は六日目を迎えた。
今日はアリステラが出る『成人女子の部』と俺が出場する『少年の部・ハイクラス』の本戦が行われる。
昨日のヴィクトリアが見せた快進撃はさっそく話題となり、新聞にでかでかと載っていた。おじい様の推薦枠ということも明らかになり、優勝の一番手と目されるようになっている。
早めに本会場へと入り、時を待つ。
先に『少女の部・ハイクラス』と『成人女子の部』をやるから、それまでは出番がない。
なので、選手専用のカフェにて食事をとっているところだ。
「うーん、うまい」
ここは飲み物も食べ物も選手は全てフリー。食べ放題飲み放題ってわけ。
ラグナの料理はどちらかといえば味が濃く、食べ応えがあった。
「アーニーズ……こんなに食べては、試合に響くのでは?」
ベルノルトさんのツッコミは何度目だろうか。
そういえば彼とはずいぶんといっしょにいる。これも縁ってやつか。
「ベルノルトさんは食べないのですか?」
「僕はちょっと……」
食べないと力が出ないと思う。
「アーニーズ、君は昨日、ヴィクトリア・ドラグリアのセコンドについていたようだが、知り合いなのか?」
「ええ、仲間です」
「やはりそうだったか」
二回もいちゃもんをつけられてバトルコートに入ったから、目立ってしまった。
話していると、会場が一瞬揺れたような気がした。
おそらく、『少女の部・ハイクラス』の二回戦が終了したんだろう。
「すごい声援だ。ここまで聞こえてくる」
「ああ、たぶんマルグリット嬢が勝ったんだと思う」
「その人は強いのですか?」
「そりゃあ強いさ。テラグリエン三姉妹は有名だからね」
そんなのがいるの?
まるでガラルの子たちみたいだ。
「ルイーサ、マルグリット、ローザリンデの三姉妹。みんな美人で、とてつもない【才能】を持ってる」
「テラグリエンってことは、ローラント・テラグリエン君の?」
「あの人を君づけか……まあ、そうなんだが」
テラグリエン侯爵家当主には五人の子どもがいるという。
長男はすでに二十歳を過ぎていて、侯爵家の跡取りとして働いているようだ。
長女であるローザリンデは『成人女子の部』に出場。とうぜんのように本戦へ進出。
次男ローラントは『少年の部・ハイクラス』、次女マルグリットは『少女の部・ハイクラス』。で、昨日見た三女ルイーサは『少女の部』だ。
「全員が本戦出場で、優勝候補。侯爵閣下もさぞ鼻が高いだろうね」
「そうでしたか」
テラグリエン家当主のアンドレアス・テラグリエンのことは、記録でしか知らない。
十一年前の大戦では、土属性魔法士の工作部隊を率いて砦や道の建設を行い、多大な功績を挙げたと聞く。
父さんと同年代で、まだ40代の現役バリバリなはずだ。
「次は『成人女子の部』が始まる。僕らも待機室に行ったほうがいい」
「そうしましょう。アリステラの試合も見たいし」
「ん?」
「ああ、俺の仲間がもう一人、出るんです」
「え……?」
怪訝な顔つきのベルノルトさんとともに、待機室へ。
『少年の部・ハイクラス』本戦に出る八人がそろう。
もう八人は逆側の西待機室にいるから、エグモント君やローラント君、マリウス君とは顔を合わせなかった。
バトルコートがよく見える大窓の最前列に立ち、試合を見ることにする。
ベルノルトさんも隣に立った。
『成人女子の部』は十九歳以上の女性魔法士が戦う。
最初に出てきた二人は色鮮やかなドレス風の衣装を身にまとい、まさに晴れ姿といった様子。
魔法戦はすぐに始まる。
炎と雷が乱れ飛び、会場のボルテージが一気に上昇した。
「すごいな。さすがは成人の部だ」
ベルノルトさんが感嘆を漏らす。
「炎魔法の使い手はかなりのレベルですね」
「ああ、あの人はバルフレイ家の令嬢だよ」
「お知り合いで?」
「知り合いではないが、僕の本家筋に当たるエルラーグ家の時期当主と婚約している方だ」
ん? つまり、エルラーグ卿の婚約者ってこと?
マジかよ。あの人、婚約者なんていたのか。
「バルドル様はモンスターウォーズでも活躍したそうだし、見習いたいものだ」
まあ、そうだけど。でもあの人、戦の前夜は吐きそうになってたけどね。
「さすがに強い。もう勝った」
バルフレイ家の女性は終始有利にことを運び、勝利。
会場はだいぶ盛り上がっている。
そして次はアリステラの出番だ。
新調した軽鎧に身を包んだ色の薄い金髪と尖った耳はよく目立つ。
ラグナにおいては異質。
誰もが珍しそうに彼女を見ている。
「あれが君の仲間? エルフの女性、なのか」
「そうですよ」
ベルノルトさんが、可憐だ、とつぶやいたのを俺は聞き逃さなかった。
さあ、見せつけてくれ。
ウチのエースの力を。




