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セブンスターズマジックバトル『ラプソディ』9 ヴィクトリアの進撃

 『少女の部』本戦が開始。いきなりヴィクトリアの出番だ。

 今度も大窓から観戦する。


 大歓声に包まれる中、鐘の音とともに魔法戦が始まる。

 ヴィクトリアの相手はヘルツォーク家の令嬢とのことだが、はたしてどんな魔法を使うのか。


「≪サンダーボルト≫!」


 ヘルツォーク嬢は雷魔法の使い手だった。

 最速の魔法で先手を取ろうとの判断は正しい。

 だが、ヴィクトリアはその場から動かず、手を振るって≪サンダーボルト≫を弾いた。


『なんだなんだああああああ! 素手で弾いたっ!?』


 いいや、違う。よく見るとヴィクトリアの腕は薄く魔力で覆われているのだ。

 練習通り。しかも弾速がすさまじいはずの≪サンダーボルト≫を見切っている。


「くっ! ≪サンダーボルト≫! ≪サンダーボルト≫!」


 相手の二連射。撃ったあとに位置を変える。いい作戦だけど、ちょっと遅い。

 ヴィクトリアはなんなく弾速がすさまじいはずの≪サンダーボルト≫を避けて、移動。

 ヘルツォーク嬢の移動先を予見し、そこへ≪ファイアメガシュート≫を撃った。


「きゃあああああああ!!」


 尾を引く大火球が炸裂。見た目とは裏腹に威力は抑えてある。しかし、受けた衝撃によりヘルツォーク嬢は吹っ飛んでバトルコートを転がった。

 完全に気絶。勝負ありだ。


「勝者! ヴィクトリア・ドラグリア!」

「やったんだぞ!」


 右腕を高くつき上げる。

 しかし、会場はしーんと沈黙していた。


『すさまじい速さ! 火力! これは……これはあああああああああ!』


 どよめきが生じ、少しずつ伝播していく。

 どうだ。驚いただろう。

 ラグナの出身じゃなくても、強い魔法士はいるんだよ。


『圧倒的! 圧倒的な強さ! ヴィクトリア・ドラグリア! すばら――ん? どうしたのでしょうか? なにやら……誰かが審判に詰め寄っていますね』


 ここからでも見えた。

 西側の出入り口から現れた中年の男性が血相を変えて審判に食ってかかっている。

 俺も出るしかないか。


 急ぎ、バトルコートへと向かう。

 ヴィクトリアの隣に立ち、話を聞いてみた。


「おかしいだろう! ウチの娘が……こんな簡単にやられるはずが!」

「伯爵閣下。落ち着いてください」

「ふざけるなよ! こんな……この娘は十五歳ではないだろうが!」


 なんだそのいちゃもん。

 ヴィクトリアはたしかに十五歳だ。見た目は大人に見えるかもだけど。


「どう見ても二十歳は超えておるはずだ! 不正だぞこれは!」


 立派なヒゲと身なりの中年貴族がこちらを指さして怒鳴る。

 

「すみません、ウチのヴィクトリアがなにか?」

「なんだね君は」

「彼女のセコンドです」

「ほら見ろ! こんな怪しいかっこうの男だぞ! 絶対におかしい!」


 ひどくない? けっこうイケてるはずだ。この伯爵は怒りのあまり目が曇っている。


「ヴィクトリア、ライセンスを」

「わかったぞ」


 彼女はめんどくさそうにゆったりとした袖の中から冒険者ライセンスを取り出した。

 審判がそれを見て、うなずく。


「……ヴィクトリア・ドラグリア。『ドラグリア出身』『465年生まれ。十五歳』とありますな」

「なっ……い、いや待て! そんなものいくらでも偽造が――」

「冒険者ライセンスは我が国の魔導具技術が使用されているため、偽造はできません」


 審判さんがびしりと言う。

 よく見たらこの審判の人、俺が試合をした時の人だ。


「だったらぁ! おまえが賄賂をもらっているんだろう!」


 もうメチャクチャだな。

 口をはさませてもらおうか。


「ウチのヴィクトリアは先々代の招待状で、ここへ来ました。疑うならば先々代に確認をとってください」

「な……なに……?」


 おじい様のことを持ち出すと、急に黙る。あの人を利用するのは少し癪だけど、こんな輩にいちいち構ってはいられない。審判さんも大変だろうし。


「まずは気絶した娘さんのところに行くのが先でしょう。親なんですから」

「う……」


 伯爵はがくりとその場に膝をついた。

 話は終わりだ。

 ヴィクトリアとともに待機室へ帰還した。


『どうやら物言いがついたようですが、解決したようです。これにて第一試合終了! 勝者はヴィクトリア・ドラグリア!』


 拍手はまばらだった。

 観客席が困惑しているのは間違いない。


「なんかあのおっさん変だった」

「負けると思ってなかったみたいだね」


 ウチのメンバー以外は、誰もがそう思っていただろう。

 この部屋も同じ。

 西側に集まった選手たちが、ヴィクトリアへ興味深げに視線を送っている。


「二回戦もがんばれ」

「うん!」


 しかし、まさかあんな物言いがあるとは考えていなかった。

 このまま勝ち進めば妨害があるかもしれない。

 気をつけていこう。



 ★★★★★★



 それから予定通り『少女の部』本戦が進み、一回戦が全て終了した。

 勝ち残った八人はみな十五歳以下だが、かなりの魔法士だと思う。

 特に第二ブロック通過のルイーサ・テラグリエンは恐ろしく強かった。


 テラグリエン家らしく土属性魔法の使い手。十五歳ながら練度は高く、すでにして一流。

 そして人気もすごかった。バトルコートに出たとたん、応援団からの大声援が飛んだのだ。


 『少女の部』はヴィクトリアとルイーサ・テラグリエンの二強となるだろう。

 順調に行けば決勝で戦うこととなる。


 いったん『少年の部』の一回戦をはさむため、体を休めることができた。

 ヴィクトリアは意外なほど静かだ。

 ルイーサ・テラグリエンの試合を見たあとから、集中を始めたのだった。


 同い年の強者を見たことで刺激になったのだと思う。

 とても良い傾向だ。ウチのギルドにはヴィクトリアと同い年の人間がいないから、余計気にしている。


 無駄に話しかけたりはせず、時を待つ。

 やはり予選とはまるで違う雰囲気だ。会話もなく、研ぎ澄まされた魔力が室内を覆っている。


「ヴィクトリア・ドラグリア選手。準備を」


 二回戦が始まるのか。

 立ち上がる彼女に声をかける。


「油断しないように」

「わかってるんだぞ」


 気負いはないようだ。よし、行ってこい。


 バトルコートにて『少女の部』本戦の準決勝進出者を決める戦いが開始されようとしている。

 ヴィクトリアの相手は、ラグナ六家の一つ、グンナー家と関りが深いファイエル家の長女だ。

 線の細い体とブラウンの長髪。おとなしそうな見た目とは裏腹に危険な雰囲気をまとう。

 侮れない。トップ8ともなると、もはや強者しかいないということか。


 魔法戦が合図とともに始まった。

 お互いの位置を変え、様子見の構え。

 そして、同時に撃ち放つ。


「≪ファイアボール≫ですわ!」

「≪ファイアメガシュート≫!」


 炎同士がぶつかり合い、燃え上がる。歓声も大きくなった。

 相手選手は走りながら、≪ファイアボール≫を次々撃ち続ける。連射が速い。

 ヴィクトリアの≪ファイアメガシュート≫はタメが大きいから、後手に回っていた。


「……≪ファイアメガボール≫だぞ」


 む。

 戦い方を変えたな。

 ヴィクトリアの周囲を五つの火球が旋回する。


 またしても観客のどよめき。15歳で五つもの火球を維持し、漂わせることができる魔法士は、おそらくいない。


 彼女は≪ファイアメガボール≫をコントロールしつつ、放った。

 火球が相手方の周囲に着弾し、派手に炎上する。

 五つの火球は、全て当たらなかった。


 ファイエル家の長女は、安心したのか、笑みを見せる。

 その顔はまだ早い。

 ヴィクトリアは相手が手数に優れると判断し、目くらましと進路の強制を行ったのだ。


 わざと外したことに気づかない少女は、腕を振り払って爆煙を散らし、反撃に移ろうとした。

 しかし、そこにヴィクトリアはもういない。


「ど、どこに……?」

「後ろだぞ。≪シャアアアアアアアアアア≫!!」


 出た。≪シャアアアアアアアアアアウトメガダウン≫だ。

 声だけで衝撃波を作り出し、敵を無力化する魔法。

 背後の至近距離から受けたファイエル家の長女は、白目をむいて気絶する。

 勝負あった。危なげなく二回戦突破である。


「いまのって……なにをしたのかしら」

「魔法を使ったのは間違いないとは思うけど」


 ここ待機室で順番を待つ女子たちのざわめきが聞こえてくる。

 初見で≪シャアアアアアアアアアアウトメガダウン≫を看破するのは、難しいと思う。


 ヴィクトリアが勝ち名乗りを受け、戻ろうとした。が、しかし、またもや相手側入り口から身なりを整えた体格の良い中年が走ってきて、審判に詰め寄っている。


「またか。行くしかないな」


 今度はどんないちゃもんなのか、気になる。

 急いで審判の元へと駆け寄った。


「今のはおかしいであろうが! 魔法ではなく後ろから殴り倒したのではないのか!」


 なるほど。≪シャアアアアアアアアアアウトメガダウン≫がなんなのか、理解できなかった様子だ。


「いえ、ファイエル子爵。ヴィクトリア・ドラグリア選手は衝撃波のような魔法を用い、触れずに倒しました。ルール違反は特に見当たらない」


 その通り。この審判さん、デキる人だと思う。


「いいや! 私は見ていたぞ! 背後から目にも止まらぬ手刀で打ったに違いあるまい!」


 なに言ってんだ。ちゃんと見ていればわかったはず。


「すみません、ちょっといいですか?」

「なんだね君は! 怪しいかっこうをしおって!」


 俺のかっこうにまで言いがかりとは、呆れたものだ。この姿のどこが怪しいのか、逆に聞きたい。


「ウチのヴィクトリアは魔法でのみ戦いました。見ていればわかるはず。ラグナの子爵ともあろう方が、魔法を見逃したのですか?」

「ぬぐっ……だが! あのような魔法――」


 そこまで言うのなら、()()()()()()()()()()()


「ヴィクトリア、せっかくだし体験させてあげたらいい」

「このおっさんに使えばいいのか?」

「な、なに?」


 子爵は目が点になった。


「さあ、子爵。障壁を張ってください。生身で受けたら大けがしますし」

「いや……待て。どういうつもりで――」

「いいから。早く」


 ファイエル子爵は急な話に戸惑いつつも、少し離れて障壁を張る。


「≪シャアアアアアアアアアア≫!!」

「ぬ……おあああーーーーーーーーーーー!!」


 ≪シャアアアアアアアアアアウトメガダウン≫炸裂。子爵は障壁を割られ、吹っ飛んでごろごろ転がり、気絶した。


「これでおわかりでしょう」

「聞こえていないと思うがな……しかたない。改めて、勝者、ヴィクトリア・ドラグリア選手!!」


 審判さんの声が響く。

 よし、これで完全に終わりだ。


 でも、会場がしーんとしている。

 別に変なことはしていないんだけど。

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