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セブンスターズマジックバトル『ラプソディ』7 もう一人の招待選手

 本戦会場のバトルコートに各部門の選手たちが整然と並ぶ。

 全員が出そろったことで、これからまた開会式と同様に叔父上やおじい様のスピーチが始まる予定だ。


 実況係の男性が叔父上に拡声の魔導具を渡し、本戦前の挨拶が始まった。

 内容は開会式の時とそう変わらないし、聞く必要はなさそう。


 それよりも気にしているのは、選手たちの挙動だった。

 この中にモンスターの力を取り込んだ人間がいるはずなのだ。

 いまのところ、特に変わった様子はないけれど、少しも油断はできない。


 そしてふと隣の列に目をやると、『成人男子の部』に出場する選手と目が合う。

 剽悍な顔つきの、おそらくは二十代前半だろう男性。土色の髪の横を小さく三つ編みにして、人懐っこい笑みを浮かべていた。


「よう、君がアーニーズ・シントラー、だろ?」

「ええ。初めまして」


 みんながピリピリしてる中、普通に声をかけてくる。

 

「おれはラルス。ラルス・ウルヴァンだ」


 ラルス・ウルヴァン。

 そう名乗った男性は、一度話を切って、前を向く。

 そして、叔父上のスピーチが終わり、観客席がうるさくなってからまた話しかけてきた。


「君は招待選手だよな?」

「そうですが」

「おれもさ。よろしくな」

「ええ、よろしくおねがいします」


 成人男子の部で招待選手か。だとすると、そうとうな魔法士。

 七星武界魔錬闘覇しちせいぶかいまれんとうはの歴史において、招待選手が本戦まで進出したことは、ほとんどない。ましてやメインの競技である成人男子の部は、ただの一度もなかったはずだ。


「招待選手で本戦に残ったのはたったの四人。男子じゃあおれたち二人だけ。なんか妙に親近感があってさ。急に話しかけて悪いと思うが」

「そんなことありませんよ」

「そうかい」


 物腰は柔らかい。けれど感じる魔力は尖っていて、底知れない。

 何者なんだろうか。

 この人もおじい様が招待した?

 あの人の諜報組織『マーリン』の一員という可能性もあるか。


「おれは史上初の招待選手優勝を目指してる。君もそうなんだろ?」

「優勝?」


 無謀というか、なんというか。

 俺は優勝などどうでもいい。


「ここまで来れただけでも御の字ですよ」

「謙遜すんなよ。予選の戦いぶりを見たが、そうとうな腕だ。やる気なんじゃないのか?」


 チェック済みとは、恐れ入った。逆に俺はこの人のことを何も知らない。


「まあ、応援するぜ? お互い、やってやろうや」

「そうですね。そうしましょう」


 気のいい人だな。ラグナの外の人だからか、高慢さは感じない。

 この国の人間、特に魔法士は自分の魔法に自信を持ち、魔法を使えない人間に対してはとにかく上から目線だ。

 正直、まともだと感じたのはボニファティウスさんくらい。あとはだいたい全部めんどくさい。


 やがて、スピーチが全て終わり、本戦開始が近づいてきた。

 選手全員が引き上げて、それぞれの待機部屋に戻る。

 今日は『幼年の部』と『少年の部』及び『少女の部』を準々決勝まで行うから、俺の出番はなし。


 ベルノルトさんと別れの挨拶をしてから、『幼年の部』の待機室へと向かう。

 これからディジアさんとイリアさんの出番となるから、俺がセコンドにつく。


 中に入ると、たくさんの子どもたちに加え、いっしょに来た親たちもいた。

 みんな貴族だから身なりがよく、親同士で雑談をしているようだ。


 ここに集うのは9歳から12歳までのちび魔法士たち。晴れ舞台だから子どもたちはみな色彩の鮮やかな衣装を身にまとっている。


「テイラー夫妻、すみません。少し遅れました」

「お、ハイマス」

「だいじょうぶよ。まあ、ちょっと肩身が狭かったけど」


 夫妻にはディジアさんとイリアさんを連れてきてくれるようおねがいした。


「ディジアさん、イリアさん、そろそろですが、問題はありませんか?」

「全員、倒します」

「いっぱいいるけど、すぐにかたづけるわ」


 うーん? なにかおかしいぞ。ルールを理解していないのかもしれない。

 『幼年の部』は50人ほどの子どもたちが東西に分かれて魔法を撃ちあうというもの。

 勝敗はいちおうあるけど、『幼年の部』は言わば余興。ちびっこ魔法士たちがわちゃわちゃやるのを眺めて楽しむものだ。


「二人とも、気合は十分ですね。だけど実力差がありすぎますから手加減をおねがいします」

「たしかに。子どもばかりです」

「わかったよ。手加減しちゃう」

「普通にやったらまず勝ちだもんな……」

「ディジア、イリア、がんばって」


 アニャさんが声をかけると、二人はうなずいた。彼女はよく二人の面倒を見てくれて、いつも助かっているのだ。


 開始まではあと十五分ほど。たあいのない会話をしていると入り口のところがざわざわし始める。


「おお! マリア様!」

「マリア様がいらっしゃいましたわ!」

「なんとわざわざ……」

「ははー」


 集まった夫婦たちが深々と礼をする。子どもたちもだ。

 やってきたのは叔母のマリア・ラグナだった。お供の女性魔法士を二人連れて、軽く両手を挙げる。


「いいのよ。普通にしてちょうだい。みなさん、今日は子どもたちの晴れ舞台なのですから、しっかりと応援してあげて」


 彼女は先ごろ、ラグナ公国の公人として女性魔法士協会の会長に就任したと聞く。

 同時に低年齢層を育成するプロジェクトにも関わっていると新聞で読んだ。ここへ来たとしてもなんら不思議はない。


 とりあえず顔は隠しているし、声も名も変えているからバレはしないだろう。


「みんながんばるのよ? 見ていますからね?」


 叔母上は人気があるようで、子どもたちはぜんぜん怖がってない。

 いっせいに口をそろえて、『はい、マリア様』と元気に返事をした。微笑ましいものだ。


「いい返事ですわ……………………って、え?」


 彼女の目がディジアさんとイリアさんを発見した。


「は? ちょっと、なんでここに……」


 反応がおかしくないか? 二人に招待状を送ったのは叔母上のはずだ。


「お久しぶりです。マリア様」

「ご機嫌麗しゅう」

「え、ええ……アニャとダグマよね? なんで」


 叔母上はウチのギルドにけっこう出入りしていたから、テイラー夫妻とは面識がある。というかアニャさんは一緒に酒を飲んでた。


「それと……その、黒づくめ。まさか……」


 ものすっごい疑問の目を向けられた。


「シン――」

「アーニーズ・シントラーです。マリア・ラグナ様。誰かと間違っていますよ」

「まだなにも言ってないじゃない」

「言いかけました」


 先手を打つ。彼女は目を白黒させて混乱中だ。


「マリア、また会えましたね」

「おっはよー!」

「ディジア、イリア、どうしたというの? どうしてここに」

「マリアに呼ばれました」

「しょうたいじょうもらったし」

「はい?」


 話が噛み合わないな。


「ちょーっとあっちに来てくれる?」

「はあ」


 腕をがっしりと掴まれて、広い部屋のすみに連行されてしまった。

 

「なんのつもりなの? しかもどうしたのよ、そのかっこう」

「なんのつもりもなにも、俺は二人のセコンドですけど」

「待って、あなたまさか、出場してないわよね?」


 してる。でもなにも言わない。


「教えてちょうだい。あなたがここにいるってことは……」

「なにを言っているですか? 俺はそもそもあなたとは初対面なのですが」

「……」


 叔母上はじっと俺を見て、なにかを考えこんでいる。

 髪型や服装や化粧をバリバリに決めた叔母上は、以前会った時とは違い、これでもかと輝いている。これで三十代半ばだというのだから、恐ろしい。

 

「いいえ、ふざけるのはなしよ。ただ大会に出ているだなんて信じられませんわ。公国に戻らないとあれだけ言っていたのだもの」

「ふざけてはいません。俺から言えることはなにもない」

「なんですって?」

「どうしても知りたいなら、先々代に聞いてくださいよ」


 めんどうなのは全部おじい様に投げる。叔父上もそうだけど、今回の件に関わらせるのは、手間が増えるだけだ。


「お父さま、ですって? ちょっと――」

「あ、そろそろ始まりますね。マリア・ラグナ様はお忙しいでしょうし、持ち場に戻られるべきかと」

「ぐっ……」


 ついに本戦開始だ。

 子どもたちが審判に連れられて、バトルコートに入場する。

 俺はこの場所から見物といこうか。

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