ファミリアバース 44 シント・アーナズ【スカウティング】 アミール
宙を跳んで、加速を開始。
だいぶ操作にも慣れて、かかる時間は短縮されている。
足に加えて手からも≪衝波≫を放つことで、一気に空を割いてフォールンにたどり着いた。
門のそばで静かにひっそりと降りて、体を伸ばす。
「やっと戻った。こうして見るとフォールンってやっぱり大きい」
大門をくぐる。これから家へと戻る前に寄りたいところがあった。
目的地はフォールン外縁部の『新市街』。
会いたい人はアクトー子爵の鉱山でともに戦ったカサンドラさんだ。
『撃槍』の異名を持つゴールド級冒険者カサンドラさんは、きっと頼りになるはず。メンバーに加わってほしい人だった。
「ここが新市街?」
整理されていない道に、はみ出した建物は変わった形で増築されている。
人もたくさんいて、自宅がある古街に比べて騒がしく思えた。
カサンドラさんは新市街に住んでるって言ってたけど、見つけられるだろうか。
周囲を見回しながら歩く。今まで見たことのない、雑多な場所だ。
むやみに探してもしかたがないので、道行く人に聞いてみた。
「カサンドラ? 知らねえよ」
「急いでんだ。邪魔すんな」
「さあね、聞いたことないな。それよりも金貸してくんね?」
十人くらいに聞いてみたけど、要約するとこの三つに絞られる返答だった。
ダメだな。話を聞いてくれる気すらなさそう。
さらに聞き続けると、ようやく情報を得た。
「ああ、知ってる。こっちに来な。案内するぞ」
「ありがとうございます!」
剣を腰に差した戦士風の男性がにこやかにそう言ってくれたのだ。
「カサンドラさんの知り合いなんですか?」
「ああ、そうなんだ。あいつ、この奥に住んでる。おれとは幼馴染さ」
なるほど。
これは助かった。
男性のあとについて歩く。彼は家と家の間にある狭い道に入り、どんどん奥に進んで行く。
しかし同時に妙な気配がする。
何人かが、俺たちの後ろにぴったりとついてきているのがわかった。
「あの」
「なんだ? もう少しだぞ」
「それはいいのですが、後ろの方たちはお知り合いですか?」
「……ちっ!」
舌打ちされた。
「おい! 気づかれてんじゃあねえか」
彼は俺の背後に声をかける。
すると、彼と同じような服装の戦士がぞろぞろと追いついてきた。
「いや、けっこう離れていたんだがな」
「言い訳すんな。でもいいか。ここなら人はいねえし」
うん?
囲まれたんだが。
「カサンドラさんのお知り合いなんですよね?」
「記憶にねえな」
もしかして騙された?
なんてことだ。知らない人にほいほいついていくものじゃないな。
「それなら用はない。戻らせてもらう」
帰ろうとしたところ、道をふさがれる。
「おっと、そうはいかねえ」
「へっへっへ……おまえ、田舎もんだろ? ここへは初めて来たんだよな?」
それは事実だが、答える義務はない。
「なあ、金くれよ。お坊ちゃん」
なに?
俺を坊ちゃんと呼ぶということは、ラグナ家の人間か?
「けっこういい服着てんじゃん。金あるんだろ?」
違った。この人たちはブルーノ男爵からいただいた服を見て、俺に金があると思ったらしい。
自分で言うのもなんだけど、ないよ? 無駄に使えるものは一切ない。
「いいだろう? ちょいと貸してくれよぉ」
「すぐ返す。な?」
剣を抜いて、こちらに向けてくる。
お金を借りる態度じゃない。
「お金はない。あと人に剣を向けるのはよくないからやめよう」
「はあ? 痛い目に遭いてえのか?」
「言っておくが、おれたちはつええぞ? なんせワルダ一家の――」
「≪魔弾≫」
魔力の弾を放つ。狙ったのは――剣だ。
カキン、と良い音がして男の一人が持つ長剣は折れた。
「なに!」
「魔法士!? くそっ!」
男たちは魔法を見るとすぐに逃げる。素早い動きで壁をよじのぼり、民家の屋根を伝っていった。
素直に感心する。逃げ足は相当に速い。
「追いかけてもいいけど、やめよう」
カサンドラさんと会いたいだけだから、放っておく。
で、続けて彼女を探したわけなのだけれど――
「なあ、兄ちゃん、金寄こせよ」
「≪魔弾≫」
とか。
「調子に乗ってんじゃねえぞ田舎もんが!」
「≪衝波≫」
だったり。
「死にたくなかったら金くれよ、なあ?」
「≪発破≫」
などと、会う人会う人が、かなりの高確率で金を要求してくる。
どうなっているんだ。謎すぎる。
だいたい撃破してきたが、このままじゃキリがない。
出直そうか、などと考えていた時、ようやく光明が見えた気がした。
道の先で、知っている顔を見つける。
カサンドラさんの弟であるアミール君だ。
しかし様子がおかしい。彼は悪そうな男たちにどこかへ連れていかれている。
急いであとを追うと、アミール君は四人の男たちに囲まれていた。
「なあ、いいだろ?」
「頼むよ。紹介してくれよ」
紹介? なんの話だろう?
足を止めて、物陰に身を潜める。金を要求されているわけではなさそうだ。
「おまえの姉貴、冒険者やめたんだろ? じゃあいいじゃねえか」
「他の女も誘ってくれるように頼んでくれ」
アミール君はおっとりした風に、男たちを見上げた。
「うーん、でも」
「礼はするぜ? それにおれとおまえの姉貴が付き合ったらおまえは義理の弟みてえなもんじゃん」
「あ、それはないです。姉さんはメンクイなので、無理かと」
「はああああああ?」
アミール君、けっこう言うな。
これは助けた方がよさそうだ。
「待った。彼を解放するんだ」
「なんだ、てめえ」
男たちがこちらを向いた隙に、アミール君が囲みを抜けて俺のところに来る。
素早いし、なかなか良い判断だ。
「シントさん、また会えました」
「うん、俺も会いたかったよ」
挨拶をかわしていると、男たちがすごんでくる。
「なんなんだてめえはよ!」
「いま大事な話してんだ。どっか行け。それとも殴られてえのかよ」」
こういう人たちってだいたい同じこと言うな。
「アミール君、彼らは?」
「さあ……?」
可愛らしい仕草で首をかしげるアミール君。
関係者じゃないなら、もういいだろう。
「ふざけやがって……ぶっ殺してやるよ!」
「痛い目みせてやらあ」
男たちが襲いかかってくる。
いきなりだな。
しかたない、応戦だ。
「≪衝波≫」
「ほんげえええええええ!」
「いやああああああああ!」
まとめて吹き飛ばす。
彼らは突き抜ける衝撃に耐えられず、気絶した。
「す、すごい」
「アミール君、怪我はない?」
「はい、僕は平気です。シントさん、今のは魔法ですか?」
「うん、そうだよ」
無事でよかった。それに、やっとカサンドラさんと会えそう。
「お姉さんに話があるのだけれど」
「それでしたら家に来てください。助けてくれたお礼もしたいですし」
やっぱりこの子はしっかりしてるな。俺よりも年下なのに、偉いと思う。