ナイトオブザナイト 6 料理勝負!
オーギュスト・ランフォーファーが口にした料理勝負という言葉。
正直に言って、理解しがたい。
「そんな勝負を受ける理由はないんだけど」
「では私を殺すといい。私は料理人で丸腰だ。戦う意思もない。君がそんな人間を殺す男ならば、それでいい。あの世に逝っても軽蔑し続けるだけだ」
にぃっと笑う。
あからさまな挑発。
「≪魔弾≫
「ぬうおあ!」
オーギュスト・ランフォーファーは超人的反射を見せ、首を曲げて魔力弾を避ける。
「ちょっ……私の話を聞いていたのか!?」
「あ、つい」
「戦わないと言っているだろう!」
めんどうだな。
しかし、戦う意思のないものを一方的に倒すというのも後味が悪いか。
「わかった。その勝負、受けよう」
「よーし!」
「けど、受けるには条件がある」
「いいだろう。聞かせてくれたまえ」
ただで受けるわけにはいかない。駆け引きといこう。
「おまえを見逃すつもりはない。勝敗の結果にかかわらず、話は聞かせてもらうぞ」
「話は、か。しかたあるまい。しかし、私が勝利した場合は捕まえず見逃してほしい」
「わかったよ。包丁も返そう」
「……! 大盤振る舞いだな」
オーギュスト・ランフォーファーはこれ以上ないというほどの笑みを浮かべた。
「だが、俺が勝った場合はおとなしく捕まれ」
「料理勝負で私が負けることなどありえないが、それでいい」
「勝負のルールは?」
「ここには多くの食材が準備してある。たいていのものを作れるだろう。制限時間は三十分。審査員はザッケルにやらせる」
「それではそちらに有利すぎる。アンヘル嬢も試食をおねがいします」
「わたし? いいですけど」
アンヘル嬢に話しかけるふりをして、ディジアさんとイリアさんにも顔を向けた。
うなずくと、二人はうなずき返す。
以心伝心ってやつだ。オーギュスト・ランフォーファーが途中で逃げようとしたら、彼女たちに止めてもらう。
「試食後の票が一対一で割れた場合は俺の勝ちにする」
「せこい提案だな」
「おまえは腕の立つ料理人だろう? 自信がないのか?」
「ふん……」
「それと、モンスター料理はなしだ」
「いまは食材がないのでな。モンスターは使えない」
異論はなさそうだ。
話は決まった。
でも俺、料理は特に得意ってわけじゃないんだけどね。しかし勝負を受けた以上、負けるつもりはない。
「シントのお料理、わたくしも食べたいです。果物を使ってください」
「わたしはお菓子がいいな」
「さすがに難易度が高すぎます。あとでいっぱい買うので、いまは我慢してください」
「わかりました」
「うーん、わかった」
二人とも、食い意地がはってないか。いったい誰に似たのか。
「ずいぶんな自信だな。君も実は料理人だったのか?」
「さてね。教える気はない」
ちょっとやり合ってから、調理を開始。
ザッケルさんとアンヘル嬢にはそこら辺にあった席についてもらう。
さて、なにを作ろうか。俺は料理人じゃないから本格的なものなんてできない。ミューズさんとカサンドラにいくつか教えてもらったくらいなんだよな。
得意料理もないし、少し迷う。
自分が食べたいものを作ればいいか。
「いま食べたいのは、アレだ」
仕事が夜まで長引いた時。あるいは野宿した時の夜。食べると疲れが吹き飛ぶ好物を思い浮かべた。
備え付けられた棚を見る。たしかにさまざまな食材が置いてあり、調味料もたくさんあった。問題はなさそうだ。
まずは肉。フライパンを使って焼く。使うのは豚肉。量はたっぷりだ。
他にはキャベツ。細かく切る。
タレは甘辛。何種類かのソースを混ぜて作り、フライパンの肉と混ぜ合わせた。
並行してパンを用意。
スライスして、魔法を使い、表面だけ焼く。
「おい! 魔法を使うな! それでも料理人か!」
オーギュスト・ランフォーファーが怒ってくる。
俺は料理人じゃなくて魔法士だ。魔法は使う。
それからパンに細かくしたキャベツを敷き、タレをたっぷりからめた肉を置く。マヨネーズをかけて、もう一枚で挟んだ。
完成だ。シンプルだけどめっちゃうまいサンドイッチ。
さっそく食べてみる。
「う……んめえええええええええええ!」
「なっ……自分で食べただと!? 君はバカなのか!?」
いやだって味を確かめないと。
とにかくうまい。疲れた体にはこれが一番だ。
オーギュスト・ランフォーファーがうるさいので、審査員の二人分を作る。
問題なく完成。
すぐあとにヤツの料理も完成する。
白い皿に乗せられたピンクの肉。動物ではなく、魚か。
緑や赤のソースがかけられていて、見た目も美しい。
「俺の方が先に完成したから、こっちから試食で構わないか?」
「構わんよ」
オーギュスト・ランフォーファーは余裕だ。俺の料理を見て鼻で笑う。
自身の腕に対する絶対的自信が垣間見える。
「そのような料理とも呼べぬもので、よくもまあ勝負を受けたものだ。君は素人だとよくわかったぞ」
「俺は別に自分を料理人だなんて言っていない。それに、料理人じゃないからといって、作ってはいけない法などないだろう」
「ああ、そうだ。しかし、やはり君は愚かだ。私はただの料理人ではない!」
ヤツは不敵な笑みを見せる。
「私の【才能】は『味視共感』! 一度口にしたものの性質を目で視ることができ、見たものは食べずとも味として感じることができる。常人の何倍もの味覚を持ち、本質を見抜く!」
味覚と視覚が融合しているとでもいうのか。
初めて会った時のことを思い出す。
こいつは俺たちのことを見て、味を感じていたのだ。
とてつもない【才能】だと思う。
「君に絶望を与えよう。せいぜいあがくといい。ふっふっふ……」
すでに勝ち誇っている。けれど勝負はやってみないとわからない。
「どうぞ。熱いので気をつけてください」
ザッケルさんとアンヘル嬢がごくりと息を呑んだ。
肉とソースのからまった香りが食欲を刺激する。
一口大に切り分けてあるから、食べやすいはず。
二人は一切れを口に運んで、咀嚼。
「こ、こりゃあ……うめえぞ!」
「パンは外がカリカリで、中はふっくらです! お肉もおいしい……それと食べやすい大きさですねー!」
食べる手が止まらないようだ。
やべ、また食べたくなってきた。
「タレがパンに沁み込んで……はあ……疲れが吹き飛ぶな」
「クドくなりそうな甘辛いタレをマヨネーズが中和してますー!」
評判は上々。おいしそうでなにより。
二人は用意した分を全部食べてくれた。
「私の番だな。君のその料理とも呼べぬものの味を、これで上書きしてやろうじゃないか」
オーギュスト・ランフォーファーが出したのは、魚料理だ。
「公都モナークの北を流れる美しくも雄大なベレヌ川で採れた極上のサーモンを使ったソテーだ。選別した糖度の高いトマトとバジルを合わせたソースをかけた。さあ、召し上がれ」
この香りはおそらくハーブの一種。食欲をそそる。
審査員の二人はおそるおそるソテーにナイフを入れる。
「なんの抵抗もなく切れた……」
「この香り、癖になりそうです」
あーん、と切り身を口に入れる。瞬間、二人は恍惚の表情を浮かべた。
「口の中でほぐれる……すげえな、こりゃ」
「お魚なのに、生臭くないですね。淡泊な味わいの身にこのソースが合いまくりですよ」
絶賛という感じだ。
見た目からして色鮮やか。素材も一流で、作った男の腕も一流。
スペシャルな料理だと、はたから見ても思う。
「後味もいい……すぐに二口目もほしくなるぜ」
「まるでお口の中に大自然の美しさが広がっていくような……」
オーギュスト・ランフォーファーがニヤリとする。
「そろそろどちらの料理が優れているか、結論を出してほしいのだがな」
二人は食べるのをやめた。
ザッケルさんはうなり出し、アンヘル嬢は斜め上に目をやって考えこむ。
それが意外だったのか、オーギュスト・ランフォーファーは舌打ちをした。
「わたしは……アーニーズさんのほうが」
「なにぃ!?」
「オーギュストの旦那、わりいけどおれもアーニーズさんのサンドイッチだ」
「ば……ばかぬぁ!! そんなわけ……」
俺の勝ちか。
なんとかなったな。
「オーギュスト・ランフォーファー、約束通りしゃべってもらうぞ」
「ま、待て! 納得がいかない! 私の料理は至高! そんな、そんなまかないのごとき場末のバーで出て来そうなものになど!」
まかないのなにが悪いのか、俺には理解できそうにない。
「理由を話せ! ザッケル! どう考えても私の料理が上だろう!」
「あ、いや、まあ、そうなんだけどよ。たしかに美味さで言ったら、旦那の方がはるかに上なんだが……」
「がつんときたのはアーニーズさんのほうですねー」
アンヘル嬢がにこやかに語った。
「お腹が空いていたし、食べやすかったし……」
「なんつうかさ、昔を思い出しちまった。若えころの、ぜんぜん金なんかなかったころだよ。シルバー級から何年も上がれなくて苦労しててよ。でもたまに入った大仕事のあとの、なんてことない料理の一口目ってのがマジでうめえんだ」
わかりすぎる。
ていうかザッケルさんって冒険者だったのか。
「旦那の料理はすげえよ。でもなあ……食べてるとどうしてもあんたの顔が浮かんでくる」
「ちょーっと自己主張が強いっていうか。でもすごくおいしかったです」
「な、なん……だと……」
オーギュスト・ランフォーファーは崩れ落ち、両膝をついた。
「負けを認めろ」
「……」
返事はない。
思いがけず料理勝負になったけど、勝つことができてほっとするのであった。




