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ナイトオブザナイト 4 釣果は上々

 大会は三日目が終了し、予選は全て終了。

 各部門のトップ16が決まったことで、街中は大盛り上がりだ。


 ウチのメンバーは、俺を含めて全員が予選を突破し、本戦出場を決めた。

 アリステラとヴィクトリアの実力には驚かされている。そこまで苦戦もしなかったそうだが、普通じゃ考えられないことのはず。


 七星武界魔錬闘覇しちせいぶかいまれんとうはの歴史上、招待選手が本戦まで勝ち上がったことはほとんどない。

 それほどに公国の中と外では、魔法士のレベルが違うのだ。

 ゆえにアリステラとヴィクトリアの本戦出場はとんでもないことだった。


 とはいえ、俺たちの目的は勝つことじゃなく、探ること。

 二日前に目撃された怪しい冒険者風の男については、意外な進展があった。


 叔父上――カール大公がローブにフード姿というどこからどう見ても怪しいかっこうで、一人でいたのだ。

 もしかしたらカサンドラとグレイメンさんが見た男というのは、あの人だったのかもしれない。

 まったく、大公たる人がなにをしているのか。お遊びもほどほどにしてほしいものだ。


 いまはカフェで時間を潰しているところ。

 ディジアさんとイリアさんはケーキを夢中で食べている。

 他のメンバーにはそれぞれ情報収集を頼んでいて、夜にそれを共有する予定となっていた。


「そろそろ行きますか」

「ええ、行きましょう」

「そうだね」


 時間は夕方。

 一昨日約束したアダマン製の包丁の件を追う。

 包丁を求める人物が誰なのか、判明するはずだ。


 向かうのは繁華街のはじっこにある鍛冶屋。

 二人には少女姿になってもらい、戦闘にも対応できるようにする。


「そういえばシント、あまり嬉しそうにしていませんね」

「というと?」


 歩きながらディジアさんが聞いてくる。


「ヴィクトリアは飛び跳ねていました」

「めっちゃ嬉しそうだったよ?」


 本戦出場について聞きたいようだ。

 嬉しくないわけじゃないけど、そこがメインではないから、飛び跳ねたりはしないな。


「アリステラもみんなに隠れて笑ってました」

「なんか変だった」


 彼女は人の前じゃあまり感情を見せないから、そうなるだろうね。

 

「前も言いましたが俺は途中で棄権するつもりですし」

「そうですか……」

「やっぱりそうなのね」


 なんて悲しそうな顔だ。

 でも、優先すべきは仕事。

 有力な手がかりを得れば、そっちに集中したい。


 店の前に到着し、さっそく中へ入ろうとしたのだが、少しばかり雰囲気がおかしいことに気づく。

 何人か、冒険者風の軽鎧を身に着けた男たちが店の周囲にいるのだ。

 普通に会話しているようにも見えるが、何度か俺たちに視線を向けた気がする。

 表向き武器は持っていないようだから、魔法士か、あるいは短剣などを隠し持っているか、気になるところだ。


「ディジアさん、イリアさん、油断せずに」


 声をかけてから入店。

 そこに待っていたのは鍛冶屋の店主と、もう一人。三十代半ばくらいの男性だ。


「おー、来たか。待ってたぜ」


 店主の応対は普通で、怪しいところはない。

 

「君がアダマン製の包丁を所持しているそうだね。初めまして。おれはザッケルっていうもんだ」

「アーニーズ・シントラーです」

「ディジア、と申します」

「わたしはイリアだよ!」

「あ、ああ、元気な嬢ちゃんだなあ」


 ザッケルさんという人は、額に大量の汗をかいている。

 まあ、なんていうか、()()()()()()()()()()()


 この人と俺は、一度会っている。

 そんなに昔のことじゃない。四カ月くらい前だったかな。ウチのギルド新本部になる前の邸宅を不法占拠していた人だ。


「ところであんた、そのかっこうでここまで来たのかい?」

「なにか問題でも?」

「黒兜に黒マント、服も真っ黒ときたらさ」


 目立ちすぎる、とでも言いたいのだろうか。

 

「気にしないでください。それよりもどうしたのですか? 顔色がよくないですよ」


 彼はおびえているようだ。俺、まだなにもしてないけど。


「いや、まあその、おれはだいじょうぶだ。さっそくで悪いんだが、包丁を見せてくれないか?」

「ええ、もちろんです」


 ≪次元ノ断裂(ディメンション)≫で作り出した穴からかばんを取り出す。


「ちょっ……なんだいまの!?」

「おいおい……とんでもねえ魔法だなあ」


 返事はしない。

 カウンターの上にカバンを広げ、見せる。

 それを確認したザッケルさんは、顔が真っ青になった。


「これは……あんた、こいつをどこで」

「どこでって、地下室ですよ。()()()()()()()()()()()、ね」

「なっ!? ま、ま、まさか……」

「どうしました? ザッケルさん」

「あんた、あの時の――」


 ザッケルさんがなにかを言いかけた時、鍛冶屋の入り口が乱暴に開かれた。


「ザッケルさんよお! いつまでやってんだ」

「おせえよ。さっさと奪いとりゃいいだろうが」


 店の周りをうろついてた連中だ。

 

「おい! なんだてめえら!」

「うるせえ! じじいはすっこんでろ!」


 店主が止めようとするも、殴られてしまう。

 入って来たのは五人。屈強な体格をした男たちだった。


「ディジアさん、イリアさん、おねがいします」

「このようなひどいヒトたちに遠慮は無用でしょう。≪闇弾ダークショット≫」

「いきなり来て殴るなんて。≪デューテ≫」


 闇の魔力弾と光剣が飛び、二人がノックダウン。


「くっそ! やっちまった! おい! だめだ! かなう相手じゃねえ!」


 ザッケルさんが悲痛な叫びを出す。

 しかし、残った男たちは少女二人にしてやられたことで顔を真っ赤にし、怒り狂っている。


「ふざけんなよガキが! ぶっころ――」

「≪魔弾マダン≫」

「ぐががっ!」


 ぶっころ……なんだって? 口が悪いぞ。 

 魔力弾で顔面を撃ち、一人を倒す。

 次の瞬間には残り二人が倒される。ディジアさんとイリアさんの早業だ。


「おっと、ザッケルさん。逃げようとしても無駄ですよ」

「ひいっ!」


 彼は裏口から逃げようとしていた。

 肩を掴み、止めると両膝をついて拝み始める。


「待て! 待ってくれ! 人質がいる!」

「人質?」


 なんの話なのか、わからない。

 ウチのメンバーを拉致したとでもいうつもりか?


「なんの話?」

「あんた、飲み屋の女に探らせてたんだろ? あの子は捕まってる」


 なんてことだ。

 アンヘル嬢のことだな。

 関わるなと言ったのに、好奇心が止まらなかったと見える。


「そこまでされたら、こっちとしては全力で潰さなくてはいけなくなる。それをおわかりで?」

「待ってくれ! まだ話は途中だ!」

「シント、聞く必要はありません」

「卑怯だよ。やっちゃおう」

「ええ、二人の言うとおりですね」

「だから待てって! おれを人質にして交換すればいいだろ!」


 魔法を発射寸前で止める。


「つまり、案内すると?」

「そうだよ……まさかあんたが出てくるとは思いもしねえ。死にたくねえんだ、おれは」


 ザッケルさんは全身が汗でびしょびしょだ。


「オーギュスト・ランフォーファーはこの近くにいるのですね」

「ああ、そうだ。ただ、オーギュストの旦那は外に出れねえから、おれが助手をやってる」


 やっと掴んだぞ。オーギュスト・ランフォーファー、ぜったいに逃さない。


「どうして公国に?」

「どうしてって、料理だよ、料理」

「それだけじゃないでしょう」

「いや、ほんとうにそれだけだ。どっかの大貴族の依頼であの人はここに来た」


 どっかの大貴族?

 これは重要な情報に思える。


「あなたは饗団の人間?」

「あんなやべえ連中といっしょにしないでくれ。少しも関わりたくねえよ」

「でも、オーギュスト・ランフォーファーは饗団の人間ですよね?」

「違う」


 違うのか。しかし、脱走を手引きしたのは饗団の人間だろう。

 少なくともおじい様はそう考えていた。


「脱走を助けたのはあなたですか?」

「それも違う。手引きしたのは饗団だよ」


 どういう構造だ? 誰と誰がつながっている?

 

「大貴族とは?」

「そこまでは知らねえ。ていうか知ったらそれだけで殺されかねねえ」

「それはそうですね。だとすると直接聞くしかないようだ」


 振り向き、店主に憲兵隊への通報をおねがいする。

 ザッケルさんは包丁を買う資金を持っていたので、それを弁償に当てさせた。

 

「さあ、案内を。嘘をついたら今度は……」

「今度は……なにを」


 彼はごくりと息をのむ。

 どこに移動させるのが効果的か少し考え、思いついた。


「先々代ジンク・ラグナの元へ瞬間移動させます」

「あえ?」

「きっと歓迎してくれますよ。【神格】神火アグニでね」

「ほ、ほんとうにたのむ……それはマジでやめてくれ……命だけは」

「では本気で案内をおねがいしますよ」


 ザッケルさんは言葉なくうなずくのみだった。

 さて、行こうか。

 地獄の料理人の待つ場所へと――

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