セブンスターズマジックバトル『ラプソディ』4 いかにもラグナな三人
いきなり現れた三人は、席に座る俺たちを上から見て笑う。
一方でベルノルトさんは彼らから目をそらし、うつむいたままだ。
親戚か、知人か、どちらにせよ友人ではないだろう。
「なあおい、なんとか言えよ。黒兜野郎」
特に言うことはない。
「マジかよ、ビビッて声も出ないとは」
三人は背が高く、そのうち二人はいかつい風貌だ。顔には少年らしさが残っているから、18歳くらいだろうか。
声と態度が大きいのは、魔法の腕に自信があるからだと思う。
溢れる魔力は、少年とは思えないほどに強い。
「まあまあ、僕たちは世代最強。マジックアカデミーの首席、次席、第三席だ。委縮するのもしかたない」
シュッとした顔の美男子が髪をかき上げながら、余裕の笑みを見せる。
この人が一番魔力量が多くて、三人の中では図抜けていた。
名前は知らないけど、どこの家出身かはわかる。
服に縫い付けられた紋章は動物の熊を模した意匠。
ラグナ六家テラグリエン侯爵家の人間だ。
「まずは名前くらい名乗ったらどうかな。俺はアーニーズ。君たちは?」
「はあ? てめえの名前なんぞ知るかよ」
「調子に乗ってんじゃねー」
いかつい二人が威嚇してくる。
「どこの家のもんだ?」
「それ次第じゃ名乗ってやってもいい」
家柄と名乗りになんの関係があるのか、いまひとつ理解できない。
「一般人だけど」
「……マジかこいつ」
「なんの【才能】か知らねえけど、よく来れたもんだなあ、おい」
残念。俺はなんの【才能】も持ってないから、そのセリフに意味はない。
と、ここで次の試合がアナウンスされた。
「おれか。行ってくるわ」
「足元すくわれんなよ」
「ばーか、本戦まで楽勝だろうが」
いかつい二人のうち一人が呼ばれて行く。
その後、何人かが同じく呼ばれていった。
「僕も行くよ。出番みたいだ」
「ええ、がんばってください」
ベルノルトさんも試合のようだ。
「けっ、雑魚同士が傷のなめ合いかよ。七星武界魔錬闘覇をなんだと思ってやがる」
「そう言うなよ。必死なのさ。はーはっはっは!」
なんだかよくわからないことを言いつつ、よくわからない二人は去っていった。
「すまん、アーニーズ。彼らは、その」
「気にしていません。それよりもベルノルトさん、分析が得意って言われてましたけど」
「あ、ああ、そうなんだ。そこまで強い【才能】じゃないから、前もって分析しないとうまくうかなくてさ。我ながら嫌になるよ」
「そうなのですか? すごいと思いますけど」
「すごい?」
「ええ、相手の強みを把握し、それをさせなければいいんですからね。そしてこっちの強みを活かせるように立ち回るには、分析が必須だ」
「!?」
先に情報がたくさんある時の仕事って、ほんとうに助かるんだよな。
戦闘だってそう。
「落ち着いて戦いましょう。相手をよく見て、嫌なことをする。すると敵は怒って魔法を乱す。その時が好機です」
「君はいったい……」
「185番! 試合が始まりますよ!」
「は、はい! 今行きます!」
ベルノルトさんは急かされ、慌てて席を立った。
どんな【才能】かは知らないけど、あんなにうつむいたままじゃきっと負ける。だから少しだけ話してみたのだ。
一人になったので、食事を再開する。
食べ終わると、力がみなぎってきた。
それからニ十分くらい、周囲を見てみる。
「特に異常はないか」
緊張している人たちがほとんどだ。
すみに座ってぶつぶつつぶやいていたり、テーブルを指でつつきリズムをとっていたりと様々だった。
この分じゃたいした手がかりは得られなそう。大会に出るべきではなかったかもしれない。
「ん? 試合が終わったのか?」
泣いてどこかへ走り去る少年と、喜びの表情をする少年が戻ってくる。
そして、次にベルノルトさんが戻ってきた。
顔を見ればわかる。勝ったのだろう。
「アーニーズ」
「ベルノルトさん、どうでした? 聞くまでもないようですが」
「勝ったよ。君のアドバイスのおかげだ」
「アドバイスなどではありません。もともとわかっていたことじゃないですか?」
彼はきっと、俺が言ったことなどわかっていたはずなのだ。
「いや、ありがとう」
「まだ一回戦です。そんなことを言うのはまだ早い」
「たしかに」
緊張がほぐれ、笑みを浮かべている。
「ところでさっきは聞きそびれたのですが、さっきのよくわからない三人組はなんなのですか?」
「よくわからないって……まあでもそうか。フォールンから来たならなにも知らないだろうさ」
ベルノルトさんが話してくれた。
いかつい少年一号がマジックアカデミーの三年生次席であるエグモント・ライヒェナウ。グンナー家の傍流。
いかつい少年二号は第三席のヨナタン・グロート。ザンダーズ家に連なる者。
そしてあの美少年が優勝候補でありアカデミーの首席、ラグナ六家テラグリエン家当主の次男、ローラント・テラグリエンだという。
彼らのでかすぎる自信と態度に合点がいく。名門の魔法エリートなのだ。
「少年の部・ハイクラスの本命は二人。マリウス・クロナグラとローラント・テラグリエンなんだ」
マリウス君が出ているんだな。彼は俺と同い年らしいし、とうぜんか。
ベルノルトさんは情報通で、だいぶ助かる。
それからさらにいろいろと有用な情報を聞き、時間を潰した。
「では次の試合です! 16番、256番、試合場まで!」
「俺の番がきたみたいです」
順番が回ってきた。
「君も頑張ってくれ。応援するよ」
「ええ」
待機部屋からも窓から観戦ができる。
お互いにうなずいてから、その場を離れるのだった。
★★★★★★
試合場に出て、ちょっと驚く。
予選だというのに、意外なほどにでかい。
数千人の観客が試合場を見下ろしていた。
予選は人数が多いから、ここでは八つのブロックが同時進行している。
戦闘のスペースは少し狭いけど、問題はないだろう。
「両者、前へ。これより予選を行う。名乗られよ」
審判の方が手を挙げて、進行。
前に進み、お、と声を出してしまった。
「相手はてめえかよ、黒兜」
いかつい少年二号の登場だ。
「グロート家が長子、ヨナタン。てめえを踏み台にする男だ。せいぜいあがけよ。瞬殺じゃつまらねえからなあ」
「アーニーズ・シントラーです。ヨナタン君、戦う前にべらべらしゃべらないほうがいい」
「ああん?」
フォールンのチンピラもかくやというものすごい怖い顔でにらんでくる。ほんとにコレ、十八歳なのか。
「ごほん! 両者、集中しなさい」
審判の方に怒られてしまった。
「では……確認だ。素手や武器での攻撃は禁止。行われた場合は失格とする。相手を死に至らしめた場合も同様に失格。故意であったと発覚すれば罪に問われる。魔導具の使用もいっさいを認めない。いいか?」
うなずく。
ヨナタン君は説明の間にも俺をにらみつけている。そこはちゃんと聞こうよ、と言いたい。
「戦闘不能状態と判断されるか、降参するかで決着となる。それでは両者、構え!」
やっと始まる。
「尋常に、始め!」
「≪サンダーランス≫!」
合図と同時にいきなりの高火力魔法。
殺す気なのかな。
「≪衝波≫」
障壁では間に合わないと判断し、至近距離で雷をかき消す。
「は……? シールド……だと?」
障壁じゃない。消した。
「くっ……! 守りには自信があるみてえだなあ! だが!」
さらなる魔法の発射体勢。しかしもう遅い。
「≪魔弾≫」
掲げた腕を撃ち抜く。
「い……っでえ!」
彼の腕が跳ねあがり、姿勢が崩れた。
ではもう一度。
「≪魔弾≫」
今度は右ひざを撃つ。
ヨナタン君は崩れ落ち、悲痛すぎる叫びとともにひざを押さえてもがいた。
「ああああ足があ! 逆に曲がっ――」
演技かもしれない痛がりに警戒しつつ、距離を詰める。
目の前まで進み、魔法を発動。
「≪衝波≫」
「がふんっ!?」
彼は膝を押さえた姿勢のまま、地面にめり込んだ。
もう意識はない。魔法戦は終わりだ。
「審判さん、終わりましたよ」
「……ああ、そのようだな」
審判さんは神妙な顔で俺を見る。
「すさまじい早業。しかも……無属性か」
「そんなところです」
「おっと、すまない。まずは勝ち名乗りだ。勝者! アーニーズ・シントラー! 二回戦進出だ。おめでとう」
「ありがとうございます」
試合場に背を向けて、去る。
すれ違いで救護班が走っていった。
手加減はしたから、たいしたケガはないだろう。
ともあれ一回戦突破だ。




