セブンスターズマジックバトル『ラプソディ』3 食事は大事
最後に特大のサプライズが起きた本会場は開会式が終わろうとしているにも関わらず、騒ぎは収まらなかった。
優勝賞品がまさか【神格】だなんて、誰も予想できなかっただろう。
「えらいことになりましたわね」
メリアムさんは苦笑いだ。彼女の隣には目を輝かせているミリアちゃんがいる。
「はは、なんかすごい」
「そうね。すごいわねえ」
ミリアちゃんは半年ほど前の大仕事のあと、【神格】神馬ザンザスの所有者となった。
ここには多くの【神格】の所有者が集っているから、きっとなにかを感じているはずだ。
「それにしても【神格】だなんて。ジンク様も前もって言ってくれればいいのに」
ミューズさんがため息まじりに言う。
「まったくです。まあ、情報の漏洩を警戒したのでしょうが」
最後まで隠しておくのがいいことなのか、悪いことなのか、いまの段階ではなにも言えない。
「よく手に入れられたものだ」
【神格】神風エルウィンは魔法系の【神格】であり、風属性。
所持していたとある貴族が亡くなったあとは、所在がわからなくなっていたはずだが、発見していたようだ。
大きなざわめきとどよめきの中で開会式が終了となる。
これから予選開始だ。
「混み合う前に出ましょう。予選会場まで移動したほうがいい」
「そうね。そうしましょう」
「いやでもすごい開会式だったわねー。わたし魔法士じゃないけど出たくなってきたわ」
血が騒ぐ、というやつかな。
リーアは戦うことが好きみたいだし、高揚しているようだ。
まずは本会場の外に出る。
予選会場は何個かに分かれているため、俺とアリステラとヴィクトリアは別行動となるのだった。
みんなを集めて、マップを広げる。観光客用に作られた大会の地図はとてもわかりやすい。
「ミューズさんたちはどうしますか?」
「うーん、わたしはシン……じゃなかった。アーニーズさんのところかなー」
「あたしはヴィクトリアにつくさ。なにするか心配だからねえ」
「カサンドラ、ひどいんだぞ」
カサンドラがついていくなら、そっちは問題ない。
「わたしはアリステラのセコンドにつくよ」
「わたしもそうしますぅ」
「あ、わたしも、そうしたい、です」
ラナ、アイリーン、ダイアナはアリステラの応援だ。
「わたくしはシントと」
「わたしもー!」
「僕もそうしたいです」
「じゃあ、わたしもハイマスのところで」
ディジアさんとイリアさん、アミール、リーアは俺のところか。
「ダグマ、どうする?」
「ハイマスの魔法戦ってのを見たいな」
テイラー夫妻もこっちだ。ディジアさんとイリアさんを見てくれるし、安心できる。
「とりあえず今日は自由行動でいいと思う。ただ、気になる情報があったらあとで教えてほしい」
全部の会場を見回るのもいいし、他のところを見てもいい。情報収取については夜がメインだから、いまは気張る時じゃない。
「じゃあアリステラ、ヴィクトリア、がんばってくれ」
「わかった。そっちも」
「ぜーったい優勝するんだぞ!」
「ヴィクトリア! まだ予選さ!」
カサンドラはさっそく彼女の気を引き締めている。
それにしてもヴィクトリアは気合いが入りまくりだ。
「カサンドラ、ルールもろもろの確認をヴィクトリアに頼んだ」
「任せな」
たぶん、というか絶対ルールを確認していないはず。
ヴィクトリアはすでにして群を抜く魔法士だし、負けるとしたらルール違反によるものだけだろう。そこは気をつけないと。
そうして各人が思い思いの方向に散っていった。
フォールンを出てから三日がたち、ようやく始まるのだ。
「では行きましょうか」
ミューズさんにディジアさんとイリアさん、アミール、リーア、テイラー夫妻を引き連れて予選会場に向かう。
シスター・セレーネは剣神教団の教会に行くそうだ。なにか変わった話が聞けるかもとのこと。アテナもそれについていった。
グレイメンさん一家とクロエさん、メリアムさん親子、クロードさんは三つの会場を順に回ると言っていた。
休暇なのに、みんな仕事のことをちゃんと考えている。頭が上がらない思いだし、頼れる仲間だとしみじみ思った。
★★★★★★
俺が出場する『少年の部・ハイクラス』の予選会場は二つあり、本会場からそう遠くない場所にある。
道の途中途中に建てられた案内盤に従って進めばいいから、迷うことはない。
みんなと会話をしながら、会場へはすぐに着く。
「さっきみたいにヒトがいっぱいいるわけじゃないのね」
イリアさんの言うとおり、そこまでたくさんではない。
一番人気はメインの競技である『成人男子の部』だろうから、しかたのないことだ。
「じゃあ俺は選手待機場に行きますので」
「ええ、がんばってね」
「応援してますから」
「まあ、優勝はハイマスでしょ。賭けられないのかしら」
「それはいいわね」
「だな。鉄板だぜ」
しょうがない人達だな。
昔は公式の賭け事になっていたそうだけど、いまはどうなんだろう。
「あなたの魔法、また見せてくださいね」
「うん、がんばってね、シント」
「ほどほどにがんばります」
ディジアさんとイリアさんは俺の魔法なんていつも見ている気がするのだが。
みんなと別れて、選手用の入り口から中へ。
受付ではフルフェイス兜のせいで怪しまれたけど、本家からの招待状を見せると仰天して通してくれた。
おおげさな反応だ。だが、いちいち止められていては面倒だから、おおいに助かる。
選手の待機場所は大部屋だ。飲み物や食べ物は無料で提供されるという神サービス。
すでに百人近い魔法士たちがいて、戦いが始まるのを待っているのだった。
受付で渡された選手プレートの番号は256番。一番最後だと思う。
今回の予選は256人が16のブロックに分かれ、トーナメントで戦うことになっている。予選を勝ち抜いた者は晴れて本戦に出場できるのだ。
俺は予選16番ブロックの十六人目。
今日は二回戦までを消化し、二日後に準決勝から再開される。
二つに分かれた会場のうち、ここは予選第9ブロックから16ブロックで戦う128人が集まるのだった。
「みんな同じ世代なのか」
集まっている男性魔法士たちは、全員が俺とだいたい同じ歳だ。
高い魔力を持つ少年が何人かいて、手強そうだった。
対戦表を見るかぎりでは、俺の出番はまだ先だ。
腹ごしらえをしつつ、待とうと思う。
試合前だから、腹五分目にしておこう。
五分目だから五人前を両手に持ち、空いたテーブルに置いて、食す。
うん、うまい。タダメシ、いいね。
食べている間に、予選開始のアナウンスがなされ、選手が何人か呼ばれた。
開始時間ぴったりで、順調に進んでいるようだ。
「君、ずいぶん食べるんだな……試合前だというのに」
隣に座る眼鏡をかけた少年が物珍しそうに話しかけてくる。
とりあえず口に入れたものを呑み込んでから、あいさつをした。
「アーニーズです。選手番号256」
「僕はベルノルト・バーチュ。選手番号は185だ。よろしく」
「ええ、よろしく」
「しかしその口元はどうなっているんだ。開いたように見えたが……」
「ええ、開くんです」
いろいろと聞いたところ、ベルノルトさんはエルラーグ家の傍流、バーチュ男爵家の長男なのだそう。
エルラーグ卿の親戚ということだ。
そういえばエルラーグ卿はどうしているかな。名簿を見るかぎりでは、『成人男子の部』に参加しているはずだ。
「君も六家の関係者か? どこの家なんだ?」
六家の関係者なのはその通りかも。俺のおばあ様はクロナグラ家の出身だし。
でも俺はラグナと無関係だ。もう縁はない。
「いえ、一般人です。フォールンから来ました」
「フォールン? つまり、招待選手か」
「ええ、いちおう本家枠です」
「なんだって!?」
眼鏡がずり落ちそうになっている。
「じゃあ君は――」
「おい、ベルノルトぉ」
「おまえも出んのかよ。分析しかできねえヤツがなんのつもりだ?」
大柄な少年が三人、俺たちのすぐそばにやってきた。
貴族がする人を見下した目つきと笑み。ひどく見覚えのあるものだ。
「って、なんだこいつ。今からフル装備かよ。必死すぎ」
「弱いから緊張しているんだろう。顔を隠してもわかるさ。ビビッているのがな」
今度は俺か。
こういう輩を相手にすると、ラグナへ来たのだという実感がわいてくる。
彼らはあの三兄弟――ユリス、マール、イングヴァルに通ずる雰囲気を持っているのだ。
なんのつもりか知らないけど、ちょっとだけ話を聞こうか。




