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ファミリアバース 43 シント・アーナズ【スカウティング】 ゼロセブン

 二日ほどの時間をかけて、くだものの町ダレンガルトに着いた。

 ラグナ家の秘密部隊、そしてガラルホルン家の公女アイシアと戦ってから少ししかたっていないのに、遠い昔のことだと感じてしまう。


「変わらないな。ここは」


 さっそく目的の場所に向かう。

 スーナさんの果樹園だ。


 元・帝国の工作員であるゼロセブンことウィリアムさんを誘うつもり。

 かなり変わった人だけど、一緒に戦ったことで高い実力を持っていることは知ってる。


 心地よい緑の匂いを感じながら、果樹園に足を踏み入れる。

 えんとつから煙が出ているので、誰かがいるのがわかった。


「すみません」


 中にいたのは老婦人のスーナさん。

 突然の訪問だが、彼女はにこやかに出迎えてくれた。

 この様子だと問題はなさそう。ガラルホルン家が実は戻って来た、という可能性もあったし。

 

「アーナズさん、いらっしゃい」

「はい、突然申し訳ありません」

「いいのよ。座ってちょうだい。お茶を淹れるわ」

「あ、お構いなく。ウィリアムさんはいますか?」

「あの子なら果樹園にいるわ」


 毎度毎度お茶をいただくのは申し訳ないので、ウィリアムさんのところに行く。

 彼は果樹園でリンゴの世話をしていた。


「ウィリアムさん」

「ん? まさか少年か? なぜここにいる。フォールンに行ったんだろう。不思議な話だ」


 相変わらずだ。しかも前と同じでマスクにマフラーを身に着け、顔のほとんどを隠している。

 ようやく俺は気づいた。彼のスタイルは工作員だからではなく、()だったのだ。

 

「いえ、フォールンには行きました。それでお願いがあるのですけれど」

「ふむ。なんでも言ってくれ。しかし金はない。それ以外で頼む」


 やっぱり掴みづらい人だ。


「つい最近、冒険者ギルドを開業しまして。メンバーを探しているんです」

「ほう…………ってギルド!? なぜだ?」

「質問が広すぎてどこから答えたらいいかわかりませんけど、いろいろあって創立しました」


 彼は呆気に取られていた。


「だいぶ金が必要だろう」

「出資者がお金を」

「家はあるのか? 借りているのか? それとも一軒家か?」


 質問の多さには苦笑するしかない。


「一つずつ答えます。家は購入しました。借りてはいません。一軒家です。小さいですけど」

「なるほどな、少年。君なら納得だ」


 アールブルクでもそうだったけど、俺がどういう風に思われているのか、気になる。


「おれをメンバーに加えたいということか」

「はい。ウィリアムさんが来てくれれば心強いです」

「そうだろう。だが断る」

「へ?」


 加わる流れのように思えたが、断られた。ウィリアムさん風に言うなら、ひどい話だ。


「なにも嫌だから断ったのではないぞ、少年。実は母ちゃんが腰を痛めていてな。しばらくはここを離れられない」


 そうだったか。

 それはいけない。ウィリアムさんはここにいるべきだ。


「いえ、俺の方こそ無理を言ってすみませんでした。親孝行をしてあげてください。俺は両親が亡くなっているので、余計にそう思います」

「……少年。心をえぐることは言わなくていい」


 妙にしんみりしてしまった。


「とはいえ、だ。せっかく来てくれたんだ。娘が戻るまで待っていろ」

「はい。ラナに会ってから戻ります」


 ラナはウィリアムさんの娘。以前、この町で出会い、一緒に【神格】探しの冒険をした。

 彼女はウィリアムさんと同等、いや、もしかしたらそれ以上の秘密工作員であり、自称『一流のスパイ』である。


「そういえばラナはなにを?」

「あいつには町の果樹園。もちろんここ以外だが、調査を頼んだ。収穫量や人員、給料、利益。つまりはライバル調査、だな」


 すごい、と素直に思う。


「ウチのリンゴが美味いとは言っても、規模は小さい。情報を元に広げようと思った。そういうことだ」


 話を聞くにつけて、ますますメンバーに加えたくなった。

 だが、事情が事情だ。諦めるしかない。


 そこへラナが戻って来る。


「あーーーーーー! シント! なんでここにいるの!」

「ラナ、久しぶり……でもないな。一週間ぶり」

「うん! 久しぶり!」


 彼女も相変わらず元気だ。

 くりくりとした目で俺を見る。足取りは軽快で、身の軽さがわかった。


「娘よ、情報は?」

「ここにあるよ! それよりもシント! フォールンに行ったんじゃないの?」


 ウィリアムさんと同じように説明をする。


「ギルドマスターなんてすごい! ……すごいの?」


 それは俺にもわからない。ただ言えることがあるとすれば、これからの活動次第だろうと思う。


「ギルドマスターは言ってみれば所長、あるいは社長。すごい話だ」

「じゃあすごいじゃん!」


 ウィリアムさんは喜んでいるラナを見ている。

 そして、なにかを思いついたようだった。


「少年、おれの娘はかなりの人材だぞ」

「はい」

「どうだ? おれではなく、ラナをスカウトしたらいい」


 いいの?

 俺に異論はない。とてもありがたい。

 

「え? なにそれ?」

「少年はギルドメンバーを募集している。冒険者の仕事はなにも戦闘だけではない。情報収集も非常に重要なもの。だろ? 少年」

「もちろんです。ラナ、よければウチに来ない? 来てくれたら嬉しい」

「うん! あ、でも……」


 彼女は急にしぼんだ。


「おまえはもう十七歳で、大人だ。それに母ちゃんのことなら心配するな。おれがいるし、フォールンとダレンガルトはそこまで遠くない。すぐに帰れるさ」

 

 父親のフォローがあったことで、ラナははしゃいで飛び跳ねた。

 それにしてもラナって十七歳だったのか。てっきり年下だとばかり。


「行くよ! わたし! フォールンで冒険者になるー!」


 これで二人目だ。スカウトは順調。ラナはギルドにとって重要なメンバーになるだろう。


「おばあちゃんに言ってくるね」

「ああ」


 びゅーんと走っていくラナ。ほんとうに元気で、こっちも力をもらったみたいになる。


「少年、娘を頼む。しかし泣かせたら許さん。あと、もしもギルドが潰れそうになったら連絡しろよ。娘を貧乏にさせるわけにはいかんからな」

「心に刻んでおきます」


 ウィリアムさんの言葉は重い。雇うからにはしっかりしないといけないな。


 ラナはスーナさんと一緒に戻って来た。

 彼女は俺にカゴいっぱいのリンゴを渡してきて、微笑む。


「孫をよろしくおねがいね、アーナズさん」

「もちろんです。むしろ俺の方こそお世話になりそう」

「ふふ、面白い縁ねえ」

「はい、面白い縁です」


 こうしてラナがメンバーに加わった。さっそくフォールンで待機してもらおうと思う。


「ラナ、これを」

「なに? お金? くれるの?」


 渡したのは帝国紙幣一万アーサルを二十枚。20万アーサルだ。


「うん、それは当面の生活費。事務所の工事は終わってないから、まだ少し時間がかかるんだ」

「やったー! お小遣いだ!」


 生活費なんだけど、まあいいか。


「向こうにミューズさんっていう女性がいる。髪がピンクで緑で茶色の人。彼女に話を聞いてほしい」

「えっ……? それって人間なの?」


 アリステラと同じ反応だ。


「じゃあ今から魔法でフォールンに送るよ」

「シント? どゆこと?」


 彼女の手を握る。


「一瞬で移動できるんだけど、いいかな?」

「うそ! そんなのありえないよ! でもやる!」


 つい小さく笑ってしまった。


「では……≪空間ノ移動(ジャンプ)≫」


 ふっ、とラナの姿は消えた。

 魔法は正常に発動。彼女はいま、フォールンにいる。


「少年……?」

「アーナズさん、あなた、魔法使いなのね」

「そうなんです」

「いやいや、待て待て。ラナはどこに?」

「俺の家兼事務所に送りました。俺も行きます」

「またいらっしゃい」

「ありがとうございます、スーナさん」

「母ちゃん、普通にありえないだろ。なんで動じないんだ」


 ウィリアムさんの反応を見ていたかったが、みんな待っている。

 ここからならフォールンまで時間はかからない。行こう。


「それではまたお会いしましょう」


 別れを告げて、宙へ。

 スカウトしたい人はあと一人いる。


 また会うのが楽しみだ。

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