ファミリアバース 42 シント・アーナズ【スカウティング】 アリステラ
小さな採石場に集まる男たちの数は百人近く。
彼らは俺の言葉を聞いて、盛大に笑い始めた。
「ぎゃーはっはっは! 全部倒すってか? なーに言ってんだよおめえ!」
正確な人数は、九十五名。悪党が五十九名で、憲兵が三十六名。
違うな。もはや憲兵も悪党に成り下がっている。全員悪党でいい。
「アリステラ、俺が撹乱するから、一人ずつ減らして」
「……やる気?」
やる気もやる気。戦う力がみなぎってくる。
「農園を思い出すよ」
「あれはむちゃくちゃ」
ちょっと怒られた。
「だーかーら! さっきから無視しやがってぇ~! ぶっ殺せ!」
「おお!」
「行け! 行けえ!」
雄叫びを上げて、真正面から向かってくる。
「≪発破≫」
魔力の炸裂が彼らの足元から起きた。
これで十人は吹っ飛んだ。
「≪魔衝撃≫」
今度は巨大な魔力弾。さらに男たちが回転しつつ吹き飛ぶ。
「なっ、なんだあいつ……」
「魔法士だ! あのガキ! 魔法士だぞ!」
怯んだな。
足が止まった男たちの群れを、アリステラが突き崩す。
凄まじく早い剣が悪党たちの足を、肩を、腕を斬り、戦闘不能にさせる。
そしてさらに――
「≪ウィンドボム≫」
アリステラの手から風の球が発射。
彼女は魔法も使えるのか。俺とは違い【才能】があるんだな。
頼もしいかぎりだ。
風球が炸裂し、暴風を生む。喰らった男たちは、衝撃波でふっとんだ。
殺さないよう、威力を弱めに調整している。
これはかなりの技術。ますますメンバーに加えたい。
「≪魔弾≫! 次は≪衝波≫!」
「ぐわあああああ!」
「頭領! こいつは無理だ! こんなバカつええなんて聞いてねえ!」
悪党たちの数はすでに半分以下。士気も低い。
「ちいっ! 相手は二人だぞ! さっさと――」
「≪渦波之災≫」
地面に手をつけて、魔法を発動。
俺を中心に生成された大量の水が大波となって採石場を覆った。
「う……おわあああああああああ!」
「なんだってぇ~! なんでこんなとこでええええええ!」
悪党を綺麗さっぱり流す。
採石場は石を掘るために巨大な穴がある。そこへ流し込んでやろう。
「やめろおおおおおおおお!」
「なんなんだよこれはあああああああ!」
回転する渦の中で回る男たち。
これで罪が洗い流せるとは思わない。
ただ、苦しめられた人たちの分くらいは、痛みを知るがいい。
「……相変わらずむちゃくちゃ」
「そう?」
悪党は退治した。
終わりだ。
「証拠を回収しようよ」
「うん、わかってる」
彼女は採石場、ではなく、入り口のそばにあった大きな木の穴に手を突っ込んだ。
そこから出てきたのは、一枚の紙。
「手紙?」
「憲兵隊と悪党のやりとり。お金の流れ」
「解決だね」
ここに用はない。
採石場を去ろう、と言いかけた時、背後から荒い息遣いが聞こえた。
「はあっ……はあっ……ま、待てや……」
ずぶ濡れの眼帯男。悪党の頭領がそこにいた。
水の渦から抜け出してきたか。やるな。
「ナニモンなんだ……こっちは百人だぞ……」
「冒険者」
簡潔に答えると、眼帯男が頬を引きつらせる。
「くそが! てめえ……まさか、ゴールド級……いやプラチナ級か!? それともダイアモンド……」
「いや、ブロンズ級トリプルだけど」
「……は? う、うそついてんじゃねえぞこら!」
正直に答えたのに、疑われた。
もうなにを言っても無理だろう。
「ばかな……そんなばかな!」
「≪魔弾≫」
胸のど真ん中を撃ち抜く。
「ぐっほおおおおおおおお!?」
魔力弾をまともにくらった眼帯男は、後方に縦回転しながら飛び、地面に転がってもなお勢いは止まらなかった。
今度こそ終わり。
悪党は滅した。
★★★★★★
それからアリステラの協力者だった地元の冒険者を病院に運び、悪党たちを全て縛り上げて、俺たちはオイシュタットの町を出る。
通常ならアールブルクまで一日以上はかかるけど、跳べばすぐだ。
「アリステラ、俺の背に乗ってくれる?」
「なんで」
「空を跳んで行くんだ」
「……なに言ってるかわからない」
渋る彼女だったが、真剣に説明するとものすごく嫌そうな顔で乗っかった。
「じゃあ行こう」
足から魔法≪衝波≫を放ち、宙へ。
「……!」
「アリステラ、しっかり掴まらないと」
「むり! もうむり! あとで殴る! あと蹴る!」
風が気持ちいいと思うんだけどな。
アールブルクへはすぐだ。
着いて早々、彼女には怒られたが、問題はない。
それから間を空けず憲兵隊の詰め所にて報告をする。
「……えーと? なんだって?」
話を聞いたブルーノ男爵は、読みかけの書類を落とした。
「悪党は退治しました。悪事の証拠もここに」
「……あー、うん。すまねえな――っておい!」
「この前の賞金を受け取りたいのですが」
「わかったわかった。その前に話を聞かせろよ」
詳細に説明する。
ブルーノ男爵は机の上に突っ伏した。
「どうしました?」
「どうしたもこうしたもねえだろ……まあいい。証拠は預かる。身内の不祥事はきっちりケリつけるわ」
地域を統括する偉い人に報告してくれるそう。
さらに以前捕まえた悪人の賞金も受け取った。金額は500万アーサル。すごい額だ。
最後にフレデリカさんにも挨拶をして、外に出る。
「シント、ありがとう」
「どういたしまして」
「それで、話ってなに」
それが本題。忘れるわけない。
「フォールンでギルドを始めたんだ」
「……?」
首をかしげる彼女に、マスタープレートを見せる。
「え、これ作り物?」
「本物だ。なのでアリステラ。よかったらウチに来ない?」
彼女は、ぴん、と耳を立て、目をいっぱいに開いている。
返事はないが――
「シント、わたし、故郷に一度戻ったの」
「うん」
「あの子たち……みんな、ちゃんといた」
「よかった」
人さらいのアジトで見つけたあの子たちは、俺が魔法で故郷に送った。
無事を確信していたものの、こうして話を聞けたのは嬉しい。
「元気だった?」
「元気。シントに感謝してた」
また会いたいな。今度はもうさらわれないようにしているといいけど。
「今度もそう。借りは……返す」
「つまり、来てくれる?」
彼女はなんだか恥ずかしそうにうなずいた。
一人目のスカウトは成功だ。
アリステラはゴールド級の冒険者。実力は確かだし、相当な戦力になるだろう。
「よろしく、アリステラ」
「うん、よろしく」
「まだ始めたばかりで、事務所も作ってるところなんだ。だから、はい、これ」
「なに?」
渡したのは帝国紙幣で20万アーサル。
「……?」
「生活費。工事が終わるまでちょっとかかるからね。あ、でも俺の家はあるから、そこを使ってくれてかまわないよ」
「シント、ちゃんと説明」
しまった。浮かれすぎて急いでしまったようだ。
「今から君をフォールンに送る」
「ん?」
「俺はまだ用があるから先に行っててほしいんだ」
「普通に行く」
「それだと二週間近くかかる」
「そうだけど」
かなり渋々だったが、アリステラは承諾した。
「だいじょうぶ。あっちにミューズさんっていう髪がピンクで緑で茶色の女性がいるから、話を」
「それって人間なの?」
とまどう彼女の手を握る。移動させる場所は俺の家だから、額に触れる必要はない。
「シント、心の準備が」
「だいじょうぶ。先に行って待っててくれ。≪空間ノ移動≫」
「ちょっ――」
アリステラの姿が、ふっと消えた。魔法は成功だ。
「よし、次はダレンガルトに行こう」
こうして二度目のアールブルク訪問は終わったのだった。




