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問題発生?

 納税と更新が終わってからの一週間はとにかく忙しかった。

 新たに結成したギルド連合についての準備、手続き、その他諸々に追われた。

 特に俺とミューズさんは方々を駆けまわることになり、連日寝る間もないほど。


 まずは行ったのは新しい看板の発注……と思いきや、そうではない。

 アマゾネスの事務所は繁華街にあって、それなりだったので問題はないが、アクアウインドはまだギルドを立ち上げたばかり。拠点は市街地ど真ん中のアパートの一室だった。

 それとジョルジオのバーバリアンズは、アークスからフォールンへ引っ越し。

 

 これらの件はジュールズ不動産の社長にかなり協力してもらって解決。

 アクアウインド、バーバリアンズともに新しい事務所を借りることになったのだが、ウチが保証人になることで問題なくクリア。

 その後に看板を発注した。


 それと同時にグレイメンさんの娘さん二人にはウチで研修してもらい、仕事を覚えてもらう。

 長女サーヤさんと次女のマーカさんはどちらも明るくて面白い人たちだった。

 これも特に問題はない。うまくやれそうだ。


 今回のギルド連合は、後から聞いた話だとだいぶ話題になったらしい。

 女傑集団として知られ、バリバリの武闘派である『アマゾネス』が新たにAランクへ昇格したギルドと連合を組む。

 この話題は新聞や雑誌にも取り上げられて、記者が取材に来たほどだ。

 

 ウチの連合には一流とされるダイアモンド級以上の冒険者が七人いる。

 さらに言えばダイアモンド級一歩手前の冒険者も数人いるわけで、かなりの実力者揃いになった。

 

 なんとか全ての準備を終えて、ギルド連合は稼働を開始。

 やっと一日目を終えて、ようやく一息ついているところだった。


「さすがに疲れましたね」

「……」

「……」


 ミューズさんとクロエさんはぐったり。

 その横では新しく加わったグレイメン姉妹が書類を確認していた。


「サーヤさん、マーカさん、今日はもう終わりにしましょう」

「あ、いえ、ギルドマスター、もう少しやらせてほしいのです」

「うん、おねがいします」

「しかしですね、入ってすぐ修羅場でしたし」


 予想以上に忙しかったため、二人には新人だというのに無理をさせた。


「あんたたち、休むのも仕事のうちさ」


 と、カサンドラがコーヒーやお茶を淹れてくれた。


「ありがとう。ほとんど留守でごめん」

「構わないさ」


 彼女にはいつも俺がいない間のマスター代行をしてもらっている。

 今回は特に忙しかったはずだから、頭が上がらない。

 

「グイネヴィア姐さんたちも喜んでたねえ。いつもとは違う仕事が来るってさ。事務仕事も肩代わりしたから張り切ってたし」

「それはよかった」


 アクアウインド、バーバリアンズの新事務所にもさっそく依頼が来たとの報告を受けている。ウチはウチでいつも通りだし、油断は禁物だが連合して正解だったと言えるかもしれない。


「やあ、お疲れ」

「グレイメンさん、お疲れさまです」

「お疲れさね」

「サーヤ、マーカ、迎えに来たよ」


 バーバリアンズを監修していたグレイメンさんは、二人を迎えに来たようだった。


「お父さん、わたしたちもう子どもではないです」

「まだ終わってないし」


 娘たちの様子に父はなんとも言えない表情となった。


「バーバリアンズの方はどうでした?」

「ジョルジオ君、だいぶ気合いが入っていたよ。少し変わったかもね」


 環境を変えたことで心境に影響があったのだと思う。

 つい最近までは、ギザギザ、や、トゲトゲ、といった空気をまとっていたが、フォールンに越してからは、強さ、がにじみ出ている気がした。


 ちなみにカタリナちゃんはドクターハデスの医院に通うこととなり、いちおうの落ち着きを見た。

 声が出ないという症状が治るかどうかはわからない。

 だけど彼らは一歩踏み出したのだ。


「シント、ちょっといいかい?」


 ここでカサンドラが居住まいを正した。

 雰囲気からいって、ただならぬ様子だ。


「ちょっと問題があるのさ」

「問題?」


 俺に思い当たることはない。

 問題、と聞きミューズさんがぐったり状態から身を起こした。


「アマゾネスは繁華街、アクアウインドは四番街、バーバリアンズは五番街だろ? ウチは古街だからね。連絡が取りづらいんだよ」


 たしかにそうだ。

 今回の連合で大都市フォールンの広い範囲に窓口が広がった。

 

「利便性が薄いってことか」

「広がったのはいいことさ。だけどその分、連携が薄くなったんじゃないかねえ」


 うかつだったな。

 完全に抜けていた。

 俺は魔法ですぐに移動できるが、他のメンバーはそうじゃない。


「わたしも思ったわ。人生で一番走ったかも。三分で息が上がったわよ」


 たしかにミューズさんが全力で走る姿なんて初めて見た。


「通信石はさすがに無理か」

「シント君、それは口にしちゃだめなやつだ」


 グレイメンさんからのツッコミはとうぜん。

 遠く離れた二つの場所で会話ができる『通信石』という魔導具は、使用、入手、入手しようとする行為すら重罪である。

 反乱に使われることを防ぐためだというが、ほんとうの理由は知らない。


「となると」


 ちょっと考えてみる。

 相談事があった場合、他のギルドは古街に来ざるをえないわけだから、その距離を縮めればいい。

 ぼんやりと浮かんだイメージを形にするべく、壁に飾った街の地図を取り、カウンターに広げた。


「なにをする気だい?」


 気になるようで、みんな覗き込んでくる。

 

「アマゾネス……アクアウインド、バーバリアンズ、そしてウチ」


 該当する場所にグラスを置いた。

 ミューズさんからペンを借りて、線を引いてみる。


「これは?」

「シント、どうしたのよ」

「反応しないニャ。なに言っても無理ニャ」

「すごい集中力です」


 なにやら言われているが、いまは返事をしない。

 各ギルドを線で結び、円を作る。

 それからまた対角を何本か結び、ちょっとした模様が出来上がった。


「あー、そうね。中心を作りたかったってこと?」

「はい、そうです」


 対角に結んだ全ての線が交わる場所を指さす。


「ミューズさん、ギルドの蓄えは?」


 彼女は俺の問いに対し、笑みを浮かべた。


「一億五百万四千十二アーサルよ」

「足りるかな?」


 俺たちのやりとりにカサンドラが激しく反応する。


「ちょっと待った! ウチってそんなに蓄えがあったのかい!?」

「ええ、みんなが頑張った成果よ。納税はもう済ませてあるから、ほぼ全部使えるお金ね」


 ギルドを立ち上げてから一年半。その成果の一つだ。


「場所はここら辺がいい」


 指を置いた場所は、フォールンでもっとも人がにぎわう商業区の一角だ。


「結局、なんなんだい?」


 首をかしげるカサンドラに向かって言う。


「ここに本部施設を置こうかなと」

「……!?」

「なるほど。ギルド連合の本部ってわけか」

「まあ、そうなるわよね」


 ミューズさんとグレイメンさんがしきりにうなずいている。


「はじっことはいえ、いちおうは商業区の大通りに面してる。ここからなら各ギルドからも遠くない」


 問題があるとすれば、それは良い物件があるのかどうか。そして購入する場合の価格だ。

 

「本気なのかい?」

「そうだね。みんなはどう?」

「アイデア自体は賛成だわ。ただ、フォールンの商業区って世界で二番目に地価が高いの。いくらお金がかかるか……」

「それに、都合よくシント君の思い描く物件が見つからない可能性もあるからね。あてはないんだろう?」


 この二人はさすがだ。俺が考えていることを見抜いた。


「カサンドラは?」

「……」


 眉をひそめている。

 怒っているのかな?

 なんか震えているけど。


「あたしら……あたしとアミールにしたら、憧れだったさ。手が届かないはずのねえ」


 彼女は目をつむり、胸に手を当てた。


「新市街出身のあたしらが……商業区にだって? 夢じゃないんだろうね」

「気持ちはわかるわ。わたしんちもこのギルドで働く前までは……超がつく貧乏だったし」


 なんだか妙にしんみりしている。

 商業区に進出するということは、それほどまでにすごいことなんだろう。


「あてはないですし、お金も足りないかもしれません。ですが、やるだけやってみましょう」


 またしばらくは忙しさが続くようだった。

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