表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/708

ファミリアバース 32 絶望の暴君

 仮面男爵の奇行で、俺たちは包囲された。

 集まった戦士たちはここにいるだけで50人くらいだ。


「なあ! ここがどこだかわかってんだよな!」

「どこの間者か知らねえが、間抜けにもほどがあるんじゃねえか?」


 ごもっとも。まさに間抜けにも敵中孤立である。


「私は仮面男爵(マスクバロン)。そしてこちらは冒険者シント。今からここを家宅捜索させてもらおう」

「はあ? なーに言ってんだこのアホは?」

「冒険者様ねえ……おい坊主、等級は?」


 男たちは余裕だ。二人対五十人。数で言えば圧倒的な差。


「ブロンズ級トリプル」


 素直に答えたのだが、全員に笑われてしまった。


「ぎゃはは! 二人で来たからどんなに高ランクかと思いきや、まさか!」

「ブロンズ級て! ねえ、バカなの? おバカさんなの?」


 ブロンズ級への偏見を感じるな。


「シント少年、笑われているぞ。なにか言い返したらどうだ?」

「元はと言えばマスクバロンのせいでしょうが」


 彼はふいっと顔をそらして、ごまかす。

 ため息ついてもいーい?


 でもせっかくだから言わせてもらおう。

 声に魔力を乗せた拡声魔法を使い、多くの人に言葉を届ける。


「みなさん、今からここを潰します。できるだけ遠くに避難してください。その後は街から離れるか、憲兵隊に保護を」


 働く人たちがざわざわしてきた。

 もちろん、戦士たちはもっとだ。怒りをみなぎらせ、武器を抜く。


「おいおい……あんまし調子に乗るなよ」

「しゃあねえな。殺すか」


 ひりひりとした緊張感が漂ってきた。


「マスクバロン、策はありますか?」

「ないよ。だが、このような者たちに苦戦はすまい」


 仮面男爵はこともなげに言う。

 苦戦するかどうかはやってみないとわからないだろう。


「じゃあ好きにやらせてもらいます」

「ああ、そうしたまえ」


 ニッと笑って、彼は剣を抜いた。

 そして俺は魔法の発動に入る。


「≪魔衝撃(マショウゲキ)≫」


 特大の魔法弾を撃つ。

 

「あ?」

「え?」


 先頭にいた二人。俺たちに話しかけてきた男たちが盛大に吹っ飛んだ。


「おわあああああああああ!」

「ぎゃあああああああああ!」


 呆気にとられる戦士たちに向かって、さらに撃つ。

 ≪魔弾(マダン)≫の連打から、≪衝波(ショウハ)≫で態勢を崩し、再び≪魔衝撃(マショウゲキ)≫で畳む。


 彼らは叫び声を上げ、夜の空に消えた。

 このまま全員吹き飛ばしてやろう。


「これでは私の出番がないな」

「マスクバロンも戦ってください!」


 信じられないな、この人は。


「≪発破(エクスプロード)≫」


 魔力の炸裂。

 最後に残った戦士が、鉱山の奥の森に消えた。


 これで50人は倒した。しかしまだいるはずだ。

 案の定、増援が来た。


「ぞろぞろと来たな。シント少年、まだやれるか?」

「ええ、だいじょうぶです」


 一気に片をつける。

 そう思い、広範囲をカバーする魔法の準備に入った。


「待ちな!」


 始まろうとしていた第二ラウンドが止まる。

 戦士たちを割って出てきたのは、とても大柄な女性だ。


 露出している部分の筋肉は見事に引き締まっている。遠くからだと細身に見えるのは、無駄な肉が一切ないからだろう。

 身長は俺よりも少し高くて、180センチはありそうだ。

 長く伸ばしたグレーの髪を結いあげて、ポニーテールにしているのは、戦いの時に髪が邪魔とならないようにしているからだと思う。


「女オーガ……」

「女オーガのお出ましだぜ!」


 女オーガ? 

 オーガとは確か、モンスターの名前だよな?


 凄まじい巨体を持ち、素手で大木をへし折ったり、拳で岩を砕くという怪物だ。


「おう! 女オーガさんよ! 頼むぜ!」

「あんたなら間違いねえや!」


 盛り上がってるけど、それはないな。

 女性に対してつけるあだ名じゃないだろう。

 あのガラルホルン家の姉妹とかにそんなこと言ったら、一瞬で真っ二つにされてるところだ。


「そこの坊や、やるじゃないか」

「あなたは?」

「カサンドラ。なんのつもりか知らないけど、出て行っておくれよ」


 持っているのは、槍だ。穂先が陽光を受けて鋭く光る。


「いえ、ここは悪事によって成立しているから、見逃せません。あなたもそれに加担しているのですか?」

「……そうさ」


 独特の雰囲気を漂わせている女性は、重苦しい口調だった。

 この人は強いな。さっきまでの戦士とは格が違う。

 

「やるのは坊やかい? それともそっちの仮面かい?」

「シント少年、私は女性が苦手だ。頼む」


 俺だって別に得意ってわけじゃない。

 ただ、やらざるを得ないか。


 しかしその時だ。

 予想を超える事態が起きた。


 最初は本――俺が懐に持つ古書が、もぞもぞと動き出す。

 今まで深い眠りについたようなおとなしさだったのに、暴れ出した。


「なん――」

「うおっ!」


 次は地震。

 突如として大きな揺れが鉱山を襲う。

 

 なにが起こっているんだ。

 古書は急に暴れ出すし、こんな大きな揺れは味わったことがない。 


「これは……まずいぞ、シント少年」


 悲鳴が各所で起こる。

 俺たちも、鉱山の戦士達も、立っているのがやっとだった。


 そして――


『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』


 耳をつんざく、とはこのことか。

 聞くだけで臓腑を握り潰されそうな絶叫がこだまする。


 鉱山の中から土砂を噴き上げて現れたモノ。

 ドラゴンかと見間違えるほどの異様な姿。


「な、なんだいあれは!」


 バカな。

 こんなところになぜ。


「絶望の暴君」


 思わず伝説となったモンスターの名を口にする。


 俺の仕事は極悪人の逮捕だったはずなんだが、どうしてこうなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ