ファミリアバース 32 絶望の暴君
仮面男爵の奇行で、俺たちは包囲された。
集まった戦士たちはここにいるだけで50人くらいだ。
「なあ! ここがどこだかわかってんだよな!」
「どこの間者か知らねえが、間抜けにもほどがあるんじゃねえか?」
ごもっとも。まさに間抜けにも敵中孤立である。
「私は仮面男爵。そしてこちらは冒険者シント。今からここを家宅捜索させてもらおう」
「はあ? なーに言ってんだこのアホは?」
「冒険者様ねえ……おい坊主、等級は?」
男たちは余裕だ。二人対五十人。数で言えば圧倒的な差。
「ブロンズ級トリプル」
素直に答えたのだが、全員に笑われてしまった。
「ぎゃはは! 二人で来たからどんなに高ランクかと思いきや、まさか!」
「ブロンズ級て! ねえ、バカなの? おバカさんなの?」
ブロンズ級への偏見を感じるな。
「シント少年、笑われているぞ。なにか言い返したらどうだ?」
「元はと言えばマスクバロンのせいでしょうが」
彼はふいっと顔をそらして、ごまかす。
ため息ついてもいーい?
でもせっかくだから言わせてもらおう。
声に魔力を乗せた拡声魔法を使い、多くの人に言葉を届ける。
「みなさん、今からここを潰します。できるだけ遠くに避難してください。その後は街から離れるか、憲兵隊に保護を」
働く人たちがざわざわしてきた。
もちろん、戦士たちはもっとだ。怒りをみなぎらせ、武器を抜く。
「おいおい……あんまし調子に乗るなよ」
「しゃあねえな。殺すか」
ひりひりとした緊張感が漂ってきた。
「マスクバロン、策はありますか?」
「ないよ。だが、このような者たちに苦戦はすまい」
仮面男爵はこともなげに言う。
苦戦するかどうかはやってみないとわからないだろう。
「じゃあ好きにやらせてもらいます」
「ああ、そうしたまえ」
ニッと笑って、彼は剣を抜いた。
そして俺は魔法の発動に入る。
「≪魔衝撃≫」
特大の魔法弾を撃つ。
「あ?」
「え?」
先頭にいた二人。俺たちに話しかけてきた男たちが盛大に吹っ飛んだ。
「おわあああああああああ!」
「ぎゃあああああああああ!」
呆気にとられる戦士たちに向かって、さらに撃つ。
≪魔弾≫の連打から、≪衝波≫で態勢を崩し、再び≪魔衝撃≫で畳む。
彼らは叫び声を上げ、夜の空に消えた。
このまま全員吹き飛ばしてやろう。
「これでは私の出番がないな」
「マスクバロンも戦ってください!」
信じられないな、この人は。
「≪発破≫」
魔力の炸裂。
最後に残った戦士が、鉱山の奥の森に消えた。
これで50人は倒した。しかしまだいるはずだ。
案の定、増援が来た。
「ぞろぞろと来たな。シント少年、まだやれるか?」
「ええ、だいじょうぶです」
一気に片をつける。
そう思い、広範囲をカバーする魔法の準備に入った。
「待ちな!」
始まろうとしていた第二ラウンドが止まる。
戦士たちを割って出てきたのは、とても大柄な女性だ。
露出している部分の筋肉は見事に引き締まっている。遠くからだと細身に見えるのは、無駄な肉が一切ないからだろう。
身長は俺よりも少し高くて、180センチはありそうだ。
長く伸ばしたグレーの髪を結いあげて、ポニーテールにしているのは、戦いの時に髪が邪魔とならないようにしているからだと思う。
「女オーガ……」
「女オーガのお出ましだぜ!」
女オーガ?
オーガとは確か、モンスターの名前だよな?
凄まじい巨体を持ち、素手で大木をへし折ったり、拳で岩を砕くという怪物だ。
「おう! 女オーガさんよ! 頼むぜ!」
「あんたなら間違いねえや!」
盛り上がってるけど、それはないな。
女性に対してつけるあだ名じゃないだろう。
あのガラルホルン家の姉妹とかにそんなこと言ったら、一瞬で真っ二つにされてるところだ。
「そこの坊や、やるじゃないか」
「あなたは?」
「カサンドラ。なんのつもりか知らないけど、出て行っておくれよ」
持っているのは、槍だ。穂先が陽光を受けて鋭く光る。
「いえ、ここは悪事によって成立しているから、見逃せません。あなたもそれに加担しているのですか?」
「……そうさ」
独特の雰囲気を漂わせている女性は、重苦しい口調だった。
この人は強いな。さっきまでの戦士とは格が違う。
「やるのは坊やかい? それともそっちの仮面かい?」
「シント少年、私は女性が苦手だ。頼む」
俺だって別に得意ってわけじゃない。
ただ、やらざるを得ないか。
しかしその時だ。
予想を超える事態が起きた。
最初は本――俺が懐に持つ古書が、もぞもぞと動き出す。
今まで深い眠りについたようなおとなしさだったのに、暴れ出した。
「なん――」
「うおっ!」
次は地震。
突如として大きな揺れが鉱山を襲う。
なにが起こっているんだ。
古書は急に暴れ出すし、こんな大きな揺れは味わったことがない。
「これは……まずいぞ、シント少年」
悲鳴が各所で起こる。
俺たちも、鉱山の戦士達も、立っているのがやっとだった。
そして――
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
耳をつんざく、とはこのことか。
聞くだけで臓腑を握り潰されそうな絶叫がこだまする。
鉱山の中から土砂を噴き上げて現れたモノ。
ドラゴンかと見間違えるほどの異様な姿。
「な、なんだいあれは!」
バカな。
こんなところになぜ。
「絶望の暴君」
思わず伝説となったモンスターの名を口にする。
俺の仕事は極悪人の逮捕だったはずなんだが、どうしてこうなった。




