ファミリアバース 26 家は無理ですか?
「……ふう」
もらった『冒険者ガイドライン』を閉じる。
気がつけば朝になっていた。
「この本、すごい。知りたかったことが全部書いてある」
読んでびっくりだった。
基本的な仕組みから、冒険者の歴史、生還するための必需品とか、とにかく細部までを網羅している。
「著者は誰なんだ? ものすごい冒険者なのかも」
会えないかな、なんて思う。
「大都会は違う。こんな本は出版されているなら、確かに冒険者があんなに多いのも当然だ」
冒険者は常に危険が伴う。相手は賞金首だったり、悪者だったり、モンスターだったり。それでなくとも採取や人探し、護衛の任務に就けば、危険と出くわす可能性があるのだ。
しかしこの冒険者ガイドラインがあれば、知識を得られ、危険を回避することもできる。素晴らしい本だと思った。
さっそくミューズさんに会おう。聞きたいことがある。
★★★★★★
再び冒険者庁へと赴く。
言われた通り、朝から長蛇の列で、途切れそうにない。これでは依頼を受けるのだけでへとへとだ。
十三番窓口にミューズさんはいた。
すぐに声をかける。
「……また来たの?」
「はい。聞きたいことがあって」
「その本にあるでしょう」
「ええ、その中で気になる点が」
意見を聞きたいのは二点だ。
「この本には、冒険者庁からの斡旋以外に依頼を受けられる方法が書いてありました。冒険者ギルドです」
「ええ、そうね」
「ギルドを創業したいのですが、可能ですか?」
彼女は机に突っ伏してしまった。
「あのね、確かにそれにはギルドの立て方は書いてないけど。それにいきなり創業ってさ。どこかのギルドに所属したいとかないわけ?」
名のあるギルドに認められて加入すればいいのかもしれないが、それではここに朝から並ぶのとあまり変わらない気がする。
「創るのは不可能なんですか?」
彼女はじっと俺を見る。
「まずは家。事務所にするから大きな家が必要よ。そしてもう一つは名声」
「名声?」
「そ。だって名前が売れてない冒険者なんて一般の人から見ればならず者と変わらない。そんなとこに誰が依頼を持っていくのよ」
なるほど。
話を聞いて納得した。
現在、フォールンで冒険者ギルドを経営しているのは、最低でもダイアモンド級以上の高ランクで、かつ名前が知られている人たち。
そういった有名どころには、冒険者庁からではなく、困りごとのある人たちが直接依頼を持っていく。
「お金を払う以上、安心できる人間に頼むのがいいでしょ。というか、ずれてるわよ。まずは家。つまりお金よ。いくら持ってるの?」
「五十万アーサルくらいですね」
ミューズさんが金額を聞いてビクッとした。
「け、けっこう持ってるのね……ちなみにどうして? 差支えがなければ教えてほしいんだけど」
「モンスター退治とかしましたし、あとは採取の依頼をこなしている途中で珍しい植物を見つけたんです」
ダレンガルトでの採取依頼で見つけた『マツノタケ』と『レドブルエの実』が高く売れたんだ。
「へえ……ビギナーズラックかしら。やるじゃない。それだったら手付金をいくらか出して、分割払いで家を借りれるかもね。不動産屋を探しなさい」
うん、やっぱり相談してよかった。可能性が出てきたぞ。
「もう一つは賞金首なんですけど」
「ああ……うん、まあね。ガイドラインにもあるしね」
ミューズさんの顔が渋くなった。
賞金首の討伐、または逮捕。冒険者庁を通さずにお金を稼げる方法だ。
以前にもやった。偶然だけど。
「ダメよ。危険すぎるわ。賞金がかけられてる人間なんて、極悪人だし、実際、賞金首ハンターは死亡率が高いの。やめなさい」
たしかにあのゴールガンって人は少し強かった。
賞金額がもっと高い人はめちゃくちゃ強いんだろう。
「どうしてもダメですか?」
「ダメ。それをやるなら許さない…………コホン、そうよね。わたしったら何言ってるのかしら。母親でも恋人でもないのに」
なんだ?
一人で照れてるけど。
「好きにすればいいわ」
話を終わった、とばかりにミューズさんは仕事に戻る。
ではさっそく家を探そう。
と、その前に気になる事を聞いてみた。
「この本って著者は誰なんですか? 名前が書かれてなくて」
「なんでよ」
「だってこの本、すごいですよ。知りたいことほとんど書いてあったし、いちいち納得できますし、うっかり朝まで読んでました」
「全部読んだの!?」
驚かれてしまった。
ぶ厚い本だから、一日で読むものじゃないのかも。
「あまりに面白かったので、つい」
「……そ、そう」
ミューズさんの顔が真っ赤だ。
「どうしました?」
「……それ、書いたのわたし」
危うく叫びそうになる。
「すごいじゃないですか! いや~ 十三番窓口に来て正解でしたよ!」
「ちょっと! 声が大きいわ!」
喜びすぎて、注目を集めてしまった。
「それじゃあ返しますね。ありがとうございました」
「いいわ。あなたが持ってて。また必要になるかもしれないでしょ」
「いいんですか!?」
嬉しすぎる。
気絶してしまいそう。
「ありがとうございます! また来ます!」
「ここは苦情受付よ。本来の仕事じゃないの!」
「じゃあ苦情を言いに来ます!」
「それはちょっと……」
などとやり取りをして、冒険者庁を去るのであった。
★★★★★★
喜びをかみしめたまま、家を求めて街を歩く。
不動産屋、とやらを探して、すぐに見つかったのだが――
「ああ? 家だと? ガキは帰んな!」
とか。
「あのねえ……家は高いの。子供に買えるわけないじゃない」
だの。
「冷やかしはごめんだね。おじさんは忙しいんだ。よそを当たって」
などと相手にされなかった。
十軒は回ったが、だいたい同じ反応だ。
ふざけていると思われているのだろうか。
本気なのだが。
転機が訪れたのは、十一軒目。
中心部からは離れた、古い町並みの中に、小さな不動産屋があった。
「ジュールズ不動産。格安賃貸。売り家あります。お気軽にご相談ください、か。今までのお店より入りやすいかも」
ガラ、と戸を開けて入る。
魔法の仕掛けで羽を回す扇風機の風がふわりと当たった。
まだ春だけどフォールンは暑いから、助かる。
「いらっしゃい!」
中年のおじさんと、奥には女性が座っている。
「アパートかい? お兄さん」
あ、ちゃんと話を聞いてくれそうだ。
「いえ、事務所兼家が欲しくて」
「ん? おまえさん……」
ちょっとにらまれた。また帰れって言われるかな。
「事務所……ってことは冒険者か。まあ、座って」
よかった。門前払いはされなかった。
「私はジュールズ。ここの社長だ。あっちは従業員のイヴァ。私の娘だよ」
「あ、はい。よろしくお願いします。ジュールズさん、イヴァさん」
「ちゃんと挨拶できるのか。うん、いいね」
挨拶ができない人間なんているのかな。
いるか。
悪党なんかはそうだな。
「で、家を探しているって?」
「はい」
「予算はどうだい?」
話が早い。すいすい進む。
「50万アーサル持ってます。これを手付にして分割払いができるかどうか聞きたいのですが」
ジュールズさんは驚いた様子で、娘のイヴァさんを見た。
「君はなんというか、変わってるねえ」
「なぜです?」
「失礼に聞こえたらすまないが、若いといろんなことにお金つかっちゃうし、君はまだ二十歳前だろ?」
苦笑いをしながらうなずく。
そうなのか。若い人は遊ぶんだな。すみません、なにも知らないんです。
「独り立ちしたいので」
「ふーむ。立派なものだ。ギルドを開業したいと?」
ぐいぐい来るな。言う前に聞かれてしまう。
嘘をつく必要はないので、素直に答えた。
「はい、その通りです」
「……そうか。大変だと思うけど、頑張りなさい」
「あ、はい」
「お父さん、商談」
「っと、すまんね、話が逸れた」
改めて物件の話になる。
事務所にできそうな家があるにはあるが、問題が起きているのだそうだ。
まずは見ないと始まらない。
さっそく案内してもらう。
その場所は、通称『古街』区画の、市場でにぎわう商業区から離れたところにあった。
しかし――
「コレが問題なんですね」
「ああ、そうなんだ」
柵で囲まれた、それなりに広い敷地は家が三、四軒建ちそう。中央にある建物はとても小さく、完全に一人用だ。
それはいいんだ。
問題は、がらの悪い人たちがたむろしているってこと。
「ここまで連れてきて申し訳ないんだが、困っていてね」
「彼らが占拠を?」
「話は聞かないし、通報してもすぐに逃げて、戻ってくる。ここから出て行かないんだ」
「冒険者を雇いました?」
「それはまだ。君が最初」
なるほどー。
妙に話が早いと思ったら、こういうことか。
「気を悪くしたかな?」
ジュールズさんの問いに、笑顔で答える。
「まさか。これって依頼ですよね?」
「そうだ。もし首尾よくいったらおまけさせてもらうよ」
この人、商売がうまいな。乗せられてしまった。
しかしフォールンでの初依頼となれば、しっかりやりたい。
「受けさせてもらいます」
大都市は面白い、と思った。
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