表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/517

シント・アーナズ【タイムスペイス】10 邪剣侵食

 俺は目を開き、壁に寄りかかって座るモイーズさんの元へと歩み寄る。

 彼に手にはすでに力がなく、ぶるぶると震えるのみだ。


「決着はつきました。終わりです」

「……どうやらそのようだな」


 降参とは思えない。俺を見上げるモイーズさんの目は、まだなにも諦めていなかった。


「邪剣の使い手を倒したという話……ほんとうだったようだ」

「ええ、そうです」

「とどめを刺さないのか?」

「あなたはティール侯爵の元へ連れて行く。そこで釈明でもしたらいい」

「……」

「それとも、ギリアン・モイーズという存在そのものも嘘?」

「いいや。ギリアン・モイーズは間違いなく私だよ。侯爵とは少年時代からの付き合いだし、実際に父の商会の籍もある」


 社会に溶け込んでいるのだな。


「聞きたいことがある。ラハルル・オブシダン氏は殺したのですか?」

「殺した」


 想像していた最悪のケースだ。


「彼は饗団を裏切った。土壇場になって【神格】を手にすべきではないと、怖気づいたんだよ」


 だからって殺すことはないだろう。

 饗団は人の命をなんだと思っている。


「嘘に嘘を重ねて、結局はこうなった。初めから普通に遺跡調査をすればいいだろうに」

「言ったろう? 事情があるのさ」

「それはどんな?」


 モイーズさんは口を閉じた。


「帰りましょう。話は下山したあとだ」

「我々を生かして帰すつもりなのか?」

「俺への依頼は護衛と救助だ。全員を下山までさせるのが仕事。あなたもシクステも連れ帰る」


 彼は驚きの顔になり、そして笑った。馬鹿にしたような笑みではない。


「恐れ入ったよ。プロだな」

「そのつもりです」


 モイーズさんは目を閉じ、深く呼吸をする。


「まさか……【コンバート】がこんなにも短時間で破られるとは」

「あなたの力は脅威でした。誘導し分断、そこで一気に叩くつもりだったんですけどね」

「なぜわかった?」

「あなたが正体を現した時、後ろの壁が隠し入り口になるのを見た。おそらくは庭園の土と、石壁を入れ替えていたんでしょう。さすがに壁と土を入れ替えるなんて、いくらなんでも物事を無視しすぎだ。しかも魔力を用いずになど、可能なはずがない」


 疑惑は戦いの途中で確信に変わる。


「視界を入れ替えられた時も、あくまで見えるものだけが変えられて、体自体が入れ替わったわけじゃないとわかった。つまり、ひどく歪んだ、しかも高精度のぺてんだと気づいたんです」


 あとは簡単だ。

 こちらも引き出しの中から有用な魔法を選択し、使う。


「なるほどな……完全に負けたよ」

「いいかげん、話は終わりにしましょう」

「いいや、まだだ」


 なにか切り札でもあるというのか。

 警戒を最大限に引き上げる。少しでも妙な動きをしたら、撃つ。


「少しばかり、昔の話をさせてもらおう」

「昔?」

「私はね、中途で饗団へと参加した。そして邪剣を与えられ、序列十二位……トゥエルとなった」


 なにが言いたいんだ。


「教団の最精鋭たる『番号士ヌメレオン』に選ばれる者は、幼少から素質を見出され、隔離されて徹底的に訓練を施される。力を持たない生き物は、人間であっても死んで当然。そう教育をされてな」


 邪剣の戦士たちが持つ残虐な気質は、それが原因か。


「しかし私は違う。成人してから加わった私は、本来であれば『番号士ヌメレオン』にはなれない」

「それは【才能】のおかげですか?」

「まさか。【コンバート】はたいしたものじゃない」


 すごいと思うけどな。


「ではなぜ?」

「私が……邪剣と相性が良かったからさ」


 なんだって?


「君はあまりにも強すぎる。饗団にとって最大の障害となるだろう。今ここで倒さねばならない相手だ」

「なにをするつもりだ?」

「コレを一度でも使えば……私は二度と人間には戻れない。だが、それだけの価値がある」


 モイーズさんの呼吸へ呼応するかのように、邪剣が明滅しだした。

 背中に悪寒が走る。


「君との会話をこれ以上楽しめないのは残念だが……しかたあるまい。こうなっては、刺し違えてでも倒す」

「なにをするつもりかは知らないが、やめるんだ」


 さっきから冷や汗が止まらない。

 モイーズさんはいったいなにをするつもりなんだ。


「最後だ……邪剣、侵食」


 言葉が唱えれらた瞬間、かたわらの邪剣が動き出して、モイーズさんの肉体に沈み込む。


「ぐううううオオオオオオオオオオオ!」


 邪剣はみるみるうちに彼の中へ吸い込まれ、劇的な変化をもたらした。

 魔法を構えたまま、後ろへと下がる。

 目の前の出来事から、顔をそらせない。


「そんなばかな! モンスターに……なったのか!」


 モイーズさんの肉体は、ごき、ごきと不吉な音を立てて変貌を遂げた。

 人の形を捨て、四足方向の怪物となる。


 長く伸びた細長い手足と、丸まった巨大な尾。

 顔の半分ほどもある眼はぎょろぎょろと八方へせわしなく動く。

 半開きの口には、赤黒い舌が見え隠れしていた。


「カメレオン」


 思わず口にした生物の名は、南方に住むという変わった爬虫類。

 しかし、図鑑で見たものとはサイズが違いすぎるし、細部が異なる。

 体中からトゲを生やし、手足には鋭いかぎ爪があった。


「シント!」

「助けにきたよ!」


 ここでディジアさんとイリアさんがやってくる。

 他のみんなもだ。

 饗団の戦士達を全て倒したのだろう。

 しかし、来るべきではなかった。


「みんなこの部屋に入るな! 戻れ!」


 彼らは俺が叫んだ理由を遅れて理解する。

 巨大なモンスターと化したモイーズさんを見て言葉を失った。


「マスター、これはなにが」

「アテナ、説明はあとだ」

「モンスターを確認しました。緊急手順に従い、空間移動を開始します」


 アテナが空間の力を使おうとする。

 俺は彼女を止めた。


「だめだ」

「マスター、なぜです」

「ヤツを外に出したら、近くの村や町を襲う。この中で倒すしかない」


 ヤツが【インビジブル】をまだ使えるとしたら、外へ出せば発見は困難を極めるだろう。

 そうなればどれだけの被害が出るかは想像に難くない。


「みんなは戻れ。下山するんだ」

「ま、まて! あなたはアレと戦うおつもりか!?」


 エルラーグ卿の声が裏返っている。


「話している暇はない! さっさと行くんだ!」

「シントの言う通りです」

「そうそう、みんなは早くここを出て」


 ディジアさんとイリアさんが俺の隣に並んだ。


「ここまで来て帰れとは言いませんね?」

「一緒にやるわ。こんなやつ、外になんか出せないし」


 二人にも避難してほしいと思う。

 だけど、ともに戦うことが嬉しいと感じるのも確かだ。

 

「アテナ、【神格】を回収して山を出て欲しい」

「ですが」

「ここは俺たちに任せるんだ」

「わかりました。マスター、ご武運を」

「ああ」


 アテナが床を蹴り、凄まじいスピードで駆ける。

 彼女の動きに反応して、怪物ががぱりと口を開けた。そこから飛び出したのは長くて太い舌だ。

 彼女を絡めとるつもりだろうが、そうはさせない。

 

真空之刃バキウブレイド!」


 大きな眼がうごめき、風の刃を見ている。

 その場から大きく跳び、天井へと張り付いた。


「ひいいいいいい! な、なんだコレはあああ!」


 ドレスラー氏が悲鳴を上げて来た道を戻った。

 こういう時は逆に助かる。続けてホミング氏が彼のあとを追いかけた。

 

「ダリさんとミヒャエルさんは彼らの護衛を。自分の仕事をまっとうしてください」

「あ、ああ」

「頼む!」


 二人は自分が足手まといだとわかっているのだ。

 しかし、ベルディアさんとエルラーグ卿は戸惑いながらも引こうとしない。


「お二人も早く退避を」

「おれは引けない。ガラルの戦士だ」

「それはこちらも同じ」


 言っても聞かないか。ならばともに戦おう。


「なにをしてくるかわからない。気をつけて!」


 これが最後の戦いになるだろう。

 モイーズさんは自ら人間をやめた。

 それがほんとうに、残念でならない――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ