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シント・アーナズ【タイムスペイス】7 作戦開始

 ディジアさんとイリアさんの魔法により、破壊された天井の瓦礫が戦士たちに降りかかる。

 邪剣の戦士たちはさすがと言うべきか、瓦礫を避けて、身を伏せた。

 しかし、それ以外の者たちの何割かは逃げ遅れ、破片をもろに受ける。


 反魔法術はたしかに魔法の天敵だろう。

 ただ弱点がないわけではない。

 魔力によって生まれたものではない物体。たとえば石や木片などは反魔法術の影響を受けることが少ないのだ。


「今度はこちらの番だ! エルラーグ卿!」

「承知!」


 彼はバリケードから飛び出し、≪ファイアボール≫を発射。

 火球が誰もいないところへ飛んで、壁に当たり消える。


「大外れじゃないか! バカめ!」


 体勢を戻したシクステが邪剣を構え、床を蹴ろうとする。

 いいや、ハズレじゃない。

 天然のマジックジャミングがかかったこの地は魔法が乱れる。

 エルラーグ卿は最初の一発で、コントロールを調整したのだ。


「≪ファイアボール≫!」


 左右へ火球を二連発。

 狙いは、しかけておいた爆薬だ。


 着弾し、燃え上がる爆薬は爆発を引き起こした。

 衝撃はもとより、ついでに炸裂する石や木片が戦士たちを叩きのめす。

 これでまた何割かが倒れる。

 残ったやつらには総攻撃をかけてやろう。


 俺とディジアさんとイリアさんとエルラーグ卿が放つ魔法。

 ダリさんとミヒャエルさんのボウガン。

 ドレスラー氏とホミング氏は投石だ。

 

「応戦しろ! こちらも矢を使うんだ!」

「あんたたち! バリケードを使いなさい!」


 指示が飛んで残った戦士たちはバラバラに展開する。

 しかしながら、それはこちらの読み通りである。


 俺たちが遠距離攻撃をしかけるかたわらで、密かに移動していたベルディアさんが敵の小隊を襲った。


「ふっ!」


 長剣と手斧が饗団の戦士たちを薙ぎ倒す。

 彼はガラル公国の戦士。実力に疑う余地はなかった。


「くそが! 小細工を!」

「ベルディアさん! 下がって!」


 しかけてきたシクステに向かって≪魔弾マダン≫を放ち、牽制。そのすきにベルディアさんが後退。


「ちいっ!」

「シクステ! 体勢を立て直すんだ! まだこちらが有利!」


 モイーズさんの言うことは間違っていない。

 百人いたうちの半数以上は倒した。だがこちらは九人しかおらず、数の差はまだまだ圧倒的なのだ。


 ここからは慎重にやる。

 俺は邪剣の戦士三人に集中。彼らを縫い留め、好きには動けないよう押さえる。


 守りはアテナに任せ、他のメンバーには反魔法の杖を持つ者たちを倒してもらう。


 作戦が功を奏し、敵の数が徐々に減る。

 ディジアさんとイリアさんの魔法がおおいに活躍した。

 少女姿となった二人が躍動し、確実に一人ずつ仕留めている。

 

 感動する。

 彼女たちは毎日のように練習をし、頑張っていた。

 涙が出そうだ。


「ラグナの力! 思い知らせてやるぞ!」


 エルラーグ卿も素晴らしい。

 ≪ファイアアロー≫から≪ファイアボール≫。そして≪ファイアランス≫というラグナお決まりの連続発動が饗団の戦士を次々と倒している。

 全ての魔法が高い精度で発動し、乱れが少ない。

 やはりかなりの実力者だ。


「ディジアさん、イリアさん、俺たちも」

「ええ」

「うん! ≪フラン≫! 行って!」


 今度は≪フラン≫!?

 さっきからなんなんだ。


 とにかく、息の合った魔法がいっせいに発動。

 なす術もなく倒れる敵兵たち。

 頼みの反魔法はもう使えない。使えばまた同じことをされるとわかっているのだ。

 

「こんのおおおおおおお! アタシの部下たちをををををををを!」


 部下の数が十人を切り、それを目の当たりにしたセブンティーンが飛び出してくる。

 こちら側の飛び道具をかいくぐり強引に近づいてきた。

 邪剣を持つ上級の戦士だけあって、簡単には止められそうにない。


「そろそろか。アテナ」

「はい、マスター」


 ()()()()()()()()()()()()


 突っ込んでくるセブンティーンに向かって、アテナが障壁を展開。

 しかしそれは破られる。


「マスター、これではまずいです。下がりましょう」


 彼女のセリフ、かなり棒読みだったけど、とりあえずは予定通り。

 俺たちは下がったことで、セブンティーンとその部下たちは勢いを増した。


「俺は【神格】を取りに行く! みんなはここを!」

「おねがいします。マスター。彼らが行く前に」


 ことさら大きな声でやりとりをすると、露骨に顔色を変える者がいた。


「トゥエル! あいつ、逃げる気だ!」


 機会をうかがっていたシクステが前に出ようとする。

 モイーズさんはじっと俺たちを見て、動かない。


 さあ、乗っかってくれるかな?

 

「死になさい!」


 怒りに燃える女、セブンティーンの猛攻が始まる。

 それを受け止めたのは、イリアさんの剣魔法だった。

 光の剣が邪剣とぶつかり火花を散らす。


「行って、シント」

「ここはわたくしたちに任せなさい」

「待ってください。それは」


 作戦とは違う。

 

「だいじょうぶですよ」

「へーきへーき」


 だめだ。心配ですでに吐きそう。

 

「行け、弟よ。私が二人を補佐する」

「エルラーグ卿まで」

「おれもだ。こいつらは全員、潰す。ガラルの戦士に名にかけてな」

「ベルディアさん」


 心強いは心強いのだけれど、無理だ。ディジアさんとイリアさんに傷一つでもついたら――


「――!」


 二人が俺を見る。彼女たちの瞳には覚悟があった。強い意思も。

 まさに断腸の想い。心配で心配で心配で心配でたまらないけど、任せる。


 泣きそうになりながら、床を蹴って広間から出た。

 背後から聞こえるのはシクステの声だ。


「【神格】は僕らのものだ! 行かせないよ!」

「しかたあるまい! 行くぞ! セブンティーン!」

「うるさいわね! アタシはここのやつらを殺すわ!」


 俺を追いかけてきたのは、モイーズさんとシクステの二人だ。

 みんなにはあらかじめ、わざと道を空けるよう指示してある。

 彼らはそのさりげない誘導に気がつかず、こちらへやってきた。


「待て! シント!」


 返事などしない。

 角を曲がり、走る。

 庭園の部屋に入り、中央で止まった。


 モイーズさんとシクステがすぐに追いついてくる。

 分断は成功だった。


「追い詰めた。【神格】のところに案内してくれよ、なあ」

「アーナズさん、あなたは【神格】を見たのか?」

「ええ、ありましたよ、【神格】」


 二人はニヤリと口元を歪ませる。


「神機クロノスと魔空ウラヌス。ここから先に安置されています」

「なんと!」

「二つもかよ! これで位が上がるね!」


 喜ぶのはまだ早い。


「案内すれば殺さないでやるよ。さっさと僕たちを連れて行け」

「アーナズさん、たしかにあなたの策は見事だったが……最後に失敗した。我らに追いつかれたんだ。従った方が身のためだろう」


 彼らはなにもわかっていない。


「逆ですよ。あなたは誘導されたんだ。モイーズさん」

「なに?」

「あなたの持つ力だけが未知数だから、ここなら戦いやすいかなって」

「……」


 庭園は広くて明るい。ここなら魔法を思う存分撃てる。


「はあ? ふざけんなよ?」

「待て、シクステ。この余裕、気に食わん。まさか【神格】の所有者になったのではないだろうな」

「いいえ、誰も所有者にはなっていません」


 疑わしい視線を送ってくる。しかし、ほんとうのことだ。


「それよりもモイーズさん。あなたの力がなんなのか、教えてほしい。【コンバート】と【インビジブル】です」

「教えるわけがない」

「まあ、そうですね」


 自慢げにべらべら話してくれると助かったのだが、そうはいかなかったようだ。


「とはいえ、だいたいの予想はついています。今からはじめるのは確認作業だ」

「邪剣を二つも相手に確認作業だと? アーナズさん……呆れるしかないぞ」

「モイーズさん、あなたは脅威だ。ここで叩く」


 と、ここでシクステから身も凍る殺意が噴き出した。


「おい、さっきからなんなんだ。僕は無視か? ああ?」


 彼の邪剣装甲は蜂。つまりは虫だ。虫だけに無視しよう。


「俺の後ろに奥への入り口がある。見えますか?」

「ああ、そうだな」


 アテナが開いてくれた隠し扉だ。

 なにが言いたいのか、わかってくれただろう。


「くっ……! てめえええええ! 僕を無視するなああああ!」


 怒りで顔を歪ませたシクステが剣を手に迫る。


「シクステ! 待て!」


 モイーズさんの制止はきかなかった。

 戦いの始まりだ。

 


 

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